猛炎の将との戦いの次の日。
朝から出かける準備をしている。
キリト達との約束は夕方なので、それまで時間がある。
なので香蓮と共にある場所に向かうことなった。
「メモ帳は持った…カメラもある。あとは…」
「ナオ。準備できた。いつでもいけるよ」
「分かった。俺も…大丈夫。行こう」
準備も完了したので、香蓮と共に家を出る。
今から向かうのは、春から香蓮と住む家。
場所は香蓮の姉夫婦が住んでいつ場所で、ここから電車で15分程で行ける場所にある。
「そういえば、お父さんも来てるって。おじさん達と話をしたいとかで」
「おぅ。となると早めに終わらせないと。それと母さんが家具をリストアップして欲しいって。大学合格祝いで買ってくれる」
「そっか。あとでお礼言わないと。ちなみに家賃はお父さんが出してくれるって」
「なんか申し訳ないな…なら食費は俺が出すよ。バイト代も結構あるし、全部やってもらうのは申し訳ない」
出来る限りは俺と香蓮の二人でやっていきたい。
お金に関しては、親父達の仕事を手伝うことで入ってくるから、上手にやりくりすればいい。
何から何まで出してもらうのは申し訳ないが、甘えれる所は甘えよう。
「そうだ…昨日は大変だったみたいだね?強い奴と戦ったって、木綿季から聞いたよ」
「ユージーン将軍だね。ちょっと面倒な武器を装備してるから少し疲れた。攻撃よけ続けて相手の攻撃を読むのは結構しんどい」
あれがグラムじゃなかったらもっと楽な戦いになったと思う。
それもVRMMOならではだと思うが、やっぱりあのエセリアルシフトはちょっとやりすぎな気がする。
「面倒な武器かぁ…でもナオの剣もそうだよね?」
「まぁ…条件付きだけどね。出番もあまりないし」
一日一回使えるか分からないエクストラスキル。
発動すればすごい力を発揮するが、使用後はクールダウンもあるし、使いどころはかなり限られてくる。
現に入手してから一度もあのスキルを使ってないし。
「解放の剣か。誰を解放するのかな?」
「ALOに囚われている可能性のあるプレイヤー?」
「どうだろうね。本当にいるか分からないし」
だけど本当にいる可能性がある。
先日、親父がキリトと話をしたとき、あることを言っていた。
それはSAOサーバーの維持をレクト社が引き継いでいた事。
それをキリトが須郷から聞き、その時に結婚の話を聞いたとか。
俺が重村教授から結婚の話を聞いたのと同じ時期で、その後にキリトが親父の元に訪ねて来たらしい。
「…(となると、あの時立てた仮説は当たっていつ可能性があるけど、実際に見てみないと。だから……)」
「ナオ。到着したよ。降りないと」
「…あぁ。そうだな」
目的の駅に到着したので電車を降りる。
地図を参考に目的地まで進んでいくと、大きなマンションの前に到着する。
香蓮の姉から聞いてはいたが、めっちゃ大きいなぁ…家賃ヤバくね?
「ここにお姉さん住んでいるんだ」
「うん。ちょっと待っててね」
香蓮はインターホンを押し、誰かと話した後、扉が開く。
今では一般的に普及しているセキュリティ型か。
なら声をかけたのはお姉さん…だよね。
流石に香蓮パパじゃないと思うけど……。
「じゃあ入ろう」
「おぅ」
マンションの中に入り、香蓮の後を付いていくと、マンションの5階にある部屋の前に到着する。
場所的には下の方だから、部屋の大きさはそれなり…ってところかな。
それはまぁいいとして、案内役の人どこにいるんだろ?
「えっと、カギは空いているから、入っても大丈夫だよ」
「え?案内役は?」
「いないよ。もう契約してるらしいし、中でお父さん待ってるから」
「そういうことね…(さっき話していたのはおじさんか……)」
というか契約済みですか…間取りとかいろいろ事前に知りたかったけど、見てからでも大丈夫か。
ひとまず香蓮が入った後に俺も入ると、リビングで親父達とお茶を飲んで談笑している香蓮パパが待っていたので、声をかけよう。
「どうもおじさん。おはよう」
「やぁ直人君。久しぶりだね」
「えぇ。香蓮の合格祝い以来ですね。お元気そうで」
「君も元気そうでよかった。それでどうだい?この部屋は?」
香蓮パパに聞かれて周りを見る。
リビングはかなり広いし、台所と直通してるから行き来しやすい。
個室も4つほどあったしお風呂もある。
ちょっと二人で住むにはかなり広い気がする。
「二人で住むにはかなり広いよねナオ?」
「うん。個室は寝室含めて3つあれば十分だと思うけど」
「何で4つなんだろう?」
少し考えてみるが、思いあたることは無い。
物置?とも考えてみたが、だとするとなぜ部屋なのが分からない。
他にもいろんな視点で考えたがやっぱり思い当たらず、気づけば香蓮と顔を合わせていた。
「……分からん」
「私は…なんとなく分かった気がする。多分……」
香蓮は親父達の方を見る。
俺も視線を向けると、母さんが両手を合わせて、ニコッと微笑む。
隣の父さんは無表情でコーヒーを飲んでいるのを見ると、どうやらこの二人が関係していそうだ。
えっと…二人が関係していて部屋が多いってことは……あぁそういうことか。
「木綿季かぁ…そろそろ退院だったな。すっかり忘れてた」
「そういうこと。申し訳ないけど、平日だけ一緒にいて欲しくて」
「どうか頼めないかな?」
「それは……」
俺の一存では決められないので、香蓮に視線を送ると、彼女は小さく頷いた。
香蓮がいいと言うなら、木綿季も一緒に住む前提で話を進めよう。
部屋の場所から何が必要か。
色々と話をしないと。
「分かった。じゃあ香蓮。木綿季と話をしながら決めよう」
「うん。なら私は木綿季と部屋の場所決めるから、ナオは家具とかお願い」
「了解。父さんたちはちょっと待ってて」
香蓮と分担して必要なことを決めていく。
まず台所だが、冷蔵庫や炊飯器等は揃っている。
食器類も…大丈夫か。
衣服はクローゼットがあるから大丈夫だけど、一応衣替え用のケースはいるか。
あとは…机とテーブルか。
「テーブルは三人一緒にご飯食べれる大きさにして。机はで出来れば多機能の方がいい。となると…」
タブレットを開いてピックアップしていく。
その途中で香蓮が来て、どの部屋を選んだか聞き、広さを聞いた上で、香蓮にどの机がいいか聞く。
大きすぎず小さすぎず。
そして組み立てしやすいものを選ぶ。
「あと本棚とかもあった方がいいかな。木綿季はかなり読書家だし」
「それにレポートとかを纏めるのに、参考書とか研究資料を参考にするから必要か」
「うん。だからナオの部屋は一番広いところにしてる」
「ん。じゃあ大きさは……」
天井ギリギリの高さは…危ないな。
なら俺と香蓮が取れる高さの物をにしよう。
他に必要な物は、住んでから決めよう。
「これぐらいかな。あとは?」
「大丈夫。おばさんに伝えに行こう」
タブレットに打ち込んでから母さんの携帯に送って戻ると、香蓮パパとの話が終わっていて、すでに香蓮パパは仕事に戻っていた。
相変わらずの人だと思いつつ、携帯に送ったリストを確認してもらう。
リストを見た両親は、二つ返事でオッケーと言い、配送日が決まったら連絡してもらうことになった。
「さて…これからどうしようか香蓮」
「うーん。特にやることは無いし……。おじさん達はこれから予定ありますか?」
「ALOでキリト君たちと会うまで予定はないかな」
「暇ってやつね。仕事も殆ど雪葉と倉橋君がやってくれてるから」
「……暇か」
今思えば両親が暇な事なんてあっただろうか?
昔から仕事ばかりしていたし、休んでいることだってほとんどなかった気がする。
そう考えると、ある意味SAO事件は我が家を変えたのか。
「んじゃ一足早いけどALOに行く?親父と勝負してみたい。どう?」
「…構わないよ。僕としてももう少しあの世界を知っておきたいからね」
「よし決まり。持ってきててよかった」
鞄の中からアミュスフィアを取り出すと、親父達も身を笑みをながらアミュスフィアを取り出した。
親父達も、今日は香蓮パパと話をしてからこの場所でログインする予定だったらしい。
「香蓮。夜までには戻るから。それからご飯食べに行こう」
「うん。木綿季とお話ししながら待ってる。その…頑張って」
「ん。頑張ってくる」
香蓮の頭を優しく撫でて頬にキスをしてからALOにログインし、宿の前で待っていると、遠くでリーファとキリトが歩いているのがチラッと見えた。
準備でもしに行ったか、リーファが案内しているのか。
流石に世界樹に挑みに行った…わけではないか。
「待たせたねユキト」
「待ってないよ父さん。じゃあ近くの広場に行こう。母さんは?」
「私も行こうかしら。色々と見て回りたいし」
「了解」
アルンの街並みを見ながら説明し、あまりプレイヤーのいない広場に移動する。
ここなら暴れても問題ないだろう。
広場の中央で光焔の剣を構えると、親父も大盾と片手斧を構える。
「……これは」
「どうかしたかい?」
全く隙の無い構え。
盾の位置も斧の位置も完璧に近い。
アレを崩すのはかなり難しいと思う。
ユージーン将軍なんか目じゃないぞ。
「来ないのならこちらから行かせてもらおう」
盾で身を守りながら突進してくる。
その盾を受け止めると、親父は盾で剣を受け流して体勢を崩してくるが、一歩踏み込んでぐっと堪える。
「ふんっ!」
体を回転させて斬り上げるが、親父は難なく受け止めながら斧を振り下ろす。
斧のリーチを見切って3歩下がって回避し、前に出ようとするが、己が地面ギリギリで止まり、手首が僅かに動いた。
「まずい―――」
再度後ろに下がるが、急激に振り上げられた斧を完全に回避は出来ず、斧の先が胴体を捉え、体力がそこそこ減らされる。
「っとと。何てことしてくるんだよ」
「斧だからって、剣と同じことが出来ないとは限らない…。現実世界の身体能力が反映されるこの世界では、こういうことも出来るって事だ」
「成程…でもそれが出来るのは親父の筋力値と器用値が高いから…それとリアルでの技もある」
「そうだ。さぁユキト。僕がSAOで築いた技が上か、君がALOで磨いた技が上か…勝負だね」
「上等だ。流星の剣を見せてやるよ」
光焔の剣を両手で持ち、刀身を後ろに向けて構える。
親父は構えを少し低くして攻撃に備えた。
なら…正面から吹っ飛ばしてやる。
「行くぞ!」
「来い!」
剣を持つ力を強め、全力で地面を蹴り最速で親父との間合いを一気に詰める。
親父は…動かない。
盾で正面から受け止めるつもりだ。
「吹き飛べ!」
「―――!」
全力で光焔の剣を振り下ろし、親父は真正面から盾で受け止める。
剣と盾が衝突し、強烈な音と衝撃破が周囲に響き渡った。
そのまま互いに押して押されてが続き、中々決着が付かない。
「っぅ!硬いな!」
「それは君にも言えることだ!SAOでもここまで強烈な一撃は受けたことないよ!」
「そうかい!」
一歩踏み出して前に出ようとするが、親父も一歩踏み出してきて止めてくる。
成程、力比べで決着付けようってか。
でも…なんでこんな真似を…いや、考えるのはやめよう。
せっかく正面から受け止めてくるなら、全力で打ち破るのみ。
「もう…一歩!」
「っ―――!」
体勢を低くして一歩前に踏み込む。
親父の体勢が少し浮き、硬く感じていた盾が少し軽くなる。
そのまま剣を押し込み、親父の体の重心を少しずつ上げていく。
そうなると、構えも自然に浮き上がり、込めれる力も少なくなっていく。
「ぐっ…(まずい。このままでは……)」
「抜け―――る!」
親父の上体がやや後ろに下がった瞬間に、力を全部込めて光焔の剣を振りぬいて、親父の盾を弾き飛ばす。
大きく体勢が崩れた親父は、そのまま尻もちをついた。
「ふぅ……勝負ありかな?」
「…そうだね。僕の負けかな」
大きく息を吐いて武器を収める親父。
俺は右手を出すと、親父は俺の手を掴んだのでゆっくりと引っ張り上げると、母さんが嬉しそうな顔で近づいてきた。
「いいわね。親子のぶつかり合いは」
「ただの力比べだけど…やっぱ流石だよ父さん」
「いやいや。ユキトも流石だよ。小さな体を上手く使った戦い方…学べることが多かった」
「ならいいけど……」
学べることがあったか俺は分からないが、親父の満足そうな顔を見ると、何か得るものはあったのだろう。
だけどやっぱり気になるな。
何で正面から受け止めたのだろうか?
「ユキ。このまま世界樹まで案内してくれる?」
「いいよ。こっち」
世界樹の根本まで二人を連れていくと、その前にキリトとリーファがいて、声をかけようとしたが、リーファが慌ててログアウトする。
その前に居たキリトは、驚いた表情をしていた。
何かあったみたいだか、様子を見る限り、かなり厄介そうだ。
「何かあったのかキリト君?」
「あ…ユキト…さん。先生も」
声をかけたが元気がない。
さて…どうしたものか。
踏み込んで聞いてもいいが、デリカシーが無いとか言われたくないし。
かといってこのまま放置ってのも宜しくないだろう。
「リーファと何かあったのか?」
「その…リーファが妹だったみたいなんだ。全然分からなくて。スグも気付いてなかったみたいで」
「……そうか。あの子の言ってた兄は君の事か。血の繋がらない兄がいるのは聞いてたよ。SAOに囚われてるって。でもなんで今まで分からなかったんだ?彼女には事情を話していんだろ?」
「それは……」
「……話してなかったのか。なら直ぐに戻るんだ。そして正面からきちんと話して、彼女の思いを聞くんだ。それに…ぶつからないと伝わらない事があるから」
「……!そうだな。話ししてみるよ」
少し元気が出たのか、表情か少し明るくなり、親父達に会釈してログアウトするキリト。
うん、あの様子なら心配いらないだろう。
明日には仲直りしているはずだ。
「へぇ…ユキも言うようになったね。ユウの受け売りでしょ」
「そうだよ。それより今日はここまでだ。明日にしよう」
「分かった。明日は仕事があるから少し遅くなると思う」
「了解。無茶しないように。んじゃ」
親父達と別れてログアウトした。