今日はとてもいい天気だ。
現実世界も仮想世界も。
絶好のクエスト攻略日和である。
なので、キリトとの約束の時間に世界樹の前へと来ていた。
彼がリーファと話をして終わる頃の時間に。
「さて…話は終わっているのかな?」
周りを見渡してどこにいつか探していると、世界樹の扉の前で話をしている三人を見つける。
キリトとリーファとレコンの三人。
仲良さそうに話をしているのを見ると、話が上手くいったようだ。
「大丈夫そうだなキリト君」
「あ。ユキトさん!」
「えぇ!?白い流星!?」
「そんなに驚くなよ……」
過剰な反応を見せるレコンだが、まぁいいだろう。
それよりも、これからどうするかだが、キリトに聞くと、丁度世界樹攻略の作戦を組んでいたらしい。
リーファがレコンと魔法支援をし、キリトが前衛で一点突破…確かにキリトの熟練度なら可能だろう。
「だけど前衛が足りないな。俺も付き合うから何とか道を作ろう」
「いいのか?貴方が来る必要は…」
「俺も用事があるんだよ世界樹に。君はアスナの事を考えればいい。内部の事は俺に任せるんだ。で…一つそこのピクシーに聞きたい事があるけど、聞いていい?」
「もちろん構わない。ユイ」
「……(やっぱ同じ名前か)」
キリトが着ている胸ポケットから黒髪の小さな女の子が姿を現す。
名前について聞きたいが、それはまた今度にして、知りたいことを聞こう。
それは、ALOが何をもとにされて作られたか。
世界観とかではなく、ゲームの基盤―――どんなシステムや、どのような制御をしているかを。
「俺の予想だと、SAOをコピーか一部を転用していると考えている。パクったと言ってもいい。大雑把でもいいから教えてくれないか?」
「はい。大体はユキトさんの予想通りです。ただ、少しバージョンが古くて」
「コピーして流用だな。となると君のアクセス権は程々ぐらい?」
「はい。広域のマップへのアクセスとディファレンシャルぐらいです」
「成程…アクセス…ね」
ならあの扉の奥にも行ける可能性があるのか。
中に入りさえすればこっちの物。
SAOを転用したなら、宝の持ち腐れだったあのアカウントで干渉出来る可能性もある。
コンソールさえ見つければ、何とでもなりそうだ。
「ありがとうユイ。良し…行こうかみんな。クエスト受注するから少し待ってて」
扉の前に立ちクエストを受注していると、後ろからキリトが声をかけてくる。
一体何かと思っていると、彼の口から予想外の言葉が出てくる。
「何で手を貸してくれるんだ?先生なら分かるけど貴方には関係のない事だろう?」
「…関係ないことないさ。師匠の不始末は弟子が片付けないとね」
「……(茅場の言っていたことは本当だったのか……)」
「これでいい。開くぞ」
扉が開き、俺たちは中に入る。
円柱のようなフィールド。
周りにはエネミーが出てくる穴。
そして大量のエネミーが待ち構えている。
「行くぞ皆!」
キリトが勢いよく飛びあがり、エネミーに斬りかかる。
それをリーファとレコンが魔法で支援。
さて…俺も行きますか。
愛剣を抜刀し、キリトと一定をの距離を保ちながらエネミーを斬っていく。
「リーファ達と一定の距離を保てよ。前に出過ぎるな!」
「分かってる!」
そういったキリトだが、少し前に出過ぎている。
気持ちが前に出るのはいい事だが、もう少し抑えて欲しい。
まぁ…あぁいうやつは嫌いじゃないが!
「にしても数が多い―――とぉっ!?」
死角からの槍を回転しながらかわしつつ一刀両断し、接近してくるエネミーを倒していくが、数が多く減らないし、むしろ増えていっている。
あの時よりも圧倒的に多い。
このままだと物量で押されるぞ。
「くっ…キリがない」
ジワジワと体力が減っていく。
イエローゾーン手前でリーファが回復してくれるが、頼りっぱなしというわけにもいかない。
どこかできっかけを作らないと。
「一発逆転は嫌いなんだが―――っち!」
エネミーが三体同時に襲ってくる。
一撃で武器を弾いてから纏めて倒すが、その後ろから無数の矢が降り注ぐ。
その弓を、急所に当たる物だけを斬り、その他は無視する。
紙耐久だか、そこ防具でカバーするしかない。
「ユキトさん!いったん下がって!」
「リーファ…?ってレコン!?」
レコンが大量のエネミーに呪文を唱えながら近づいてく。
あの呪文は…自爆か!?
「ちょっと待てレコン!そこまで―――あ…遅かった」
止めようとしたがすでに遅く、彼は白炎に包まれ、大量のエネミーを巻き沿いにして自爆する。
デスペナルティ結構やばいはずなのに…勇気あるじゃないか。
「でもこれで道は……ダメか」
道が一瞬開いたが、すぐにエネミーが塞ぐ。
アレでダメだと俺達に打つ手がない。
あと出来るのは……いや、あのスキルはまだとっておきたい。
「(それにチャージがまだ80しかない。使用可能になるまで後…)はっ!」
頭を回すが、エネミーの数が多くてそれどころではない。
せめて分散されないように立ち回りたいが、それも難しい。
あの時は二人で行けたから、四人でも行けると思っていたが現実はそううまくいかないか。
「ユキトさん後ろ!」
「ちぃっ!」
背後から強襲してくるエネミーを斬ると、その後に四方から同時に襲ってくる。
数は10体ほどで、近くにいたエネミーに剣を振り下ろすが、回避して抱き着いて拘束し、それから囲んでいたエネミーが、拘束しているエネミー事、俺を倒そうとしてくる。
「ヤバイ―――」
と思った瞬間。
俺の前に大きな影が現れて、正面から襲ってくるエネミーの攻撃を防ぐ。
さらに、後ろから複数の弓矢が通り抜け、周りのエネミーと、拘束していたエネミーの頭を撃ち抜いた。
「ふぅ…何とか間に合ったわね」
「遅くなってすまなかった皆」
「父さんに…母さん」
大きな影は親父で、エネミーを撃ち抜いたのは母さん。
他にもアリシャとサクヤが率いるケットシ―とシルフの軍隊が次々と入ってくる。
「さぁ、反撃開始だユキト」
「後ろは任せなさい」
「…あぁ。任せた」
親父の背中を踏み台にして前に出る。
迫ってくるエネミーを薙ぎ倒して進み続ける。
キリトの方もアリシャ達が支援しているからかなり楽そうだ。
それは俺も同じで、死角は母さんが撃ち抜き、親父が的確に俺と母さんの盾になってくれる。
「キリト君。上まで後もう少し。そろそろ一点突破を仕掛けるぞ」
「分かった」
一点突破の準備をするキリト。
それを見たリーファが自身の刀を投げ、受け取ったキリトは自分の剣と一緒に、エネミーの中心を突破する。
その後を付いていき、最上部にある扉に降りる。
「ここから内部に入れる。行けそうかユイ?」
「少し待ってください」
扉に触れて調べるユイだが、すぐに険しい顔になる。
その理由は、この扉はそもそもプレイヤーには開けれないもので、何をどうしても開けれないらしい。
ユイのAIとしての能力でも不可能だそうだ。
「やっぱりか。ユイの力に賭けたんだが」
「やっぱりって知っていたのか?」
「そうだ。一度ここまで来たことがある。くそ須郷さんめ。面倒なことを。やっぱりハッキングしてコードを調べるべきだったか」
「コードって…。そうだユイ!これならどうだ!?」
キリトは一枚のカードキーを取り出す。
一体いつの間にと思っていると、ユイがカードキーを調べ、カードキーのコードを転写することで入れると言った。
直ぐに実行してもらい、俺達は世界樹内部に移動。
移動先は廊下だった。
「ここは……」
「廊下だな。ここからは別行動。頑張ってアスナを助けな」
「あぁ。また後で」
キリトと別れて廊下を進む。
世界樹のどの部分か分からない以上、勘で進むしかない。
せめて扉があればいいんだが、それも見当たらない。
「一体何処に…ん?あれは……」
ピクシー位の大きさの光が目の前に現れる。
その光は俺の前まで来て、周りをくるくる回った後、真っ直ぐ飛んでいく。
気になったので後をついていくと、光は大きな扉の前で止まった。
「扉……開くか?」
扉に触れるが開く気配はない。
鍵とかも探すが見当たらず、どうしようか考えていると、光が扉に触れて解錠した。
「えぇ……怖い」
と思わず声に出してしまう。
それにしてとこの光は何だろう?
扉を開けたり、道を案内してくれたり……もしかしてユイのようなAIか?
気になるが一旦頭の片隅に置いておこう。
どうやら味方のようだし、今は少し手も早く目当ての場所に行かないと。
扉に触れると自動で開いたので、警戒しながら中に入ると、部屋中には、沢山の脳がデジタル化されて表示されていた。
数は200…いやもう少しあるか。
今だ目覚めないSAOプレイヤーに近い数だ。
「酷いことを……。直ぐに解放しないと。コンソールは……」
コンソールの場所を探すが見当たらない。
もっと置くの方にあるのかと思って進もうとすると、再び光が俺の周りを回り、奥に進んでいく。
その後ろを、周囲を警戒しながら進もうとしたとき、いきなり体が地面に吸い寄せられ、身動きが取れなくなる。
全身に重石のような物が乗せられているような感じだ。
「これ…は……」
立ち上がることが出来ずうつ伏せになる。
先に行った光が慌てて戻ってきて、俺の周りをくるくると回る。
どうにかしようと思っているみたいだが、打つ手がない様子。
すると、光が何かに気付き、コートの胸ポケットに隠れた。
何があったのか周りに気を巡らせると、目の前に気持ちの悪いピンクのナメクジが現れる。
「やれやれ。妙なアクセスを検知して来てみれば、何でプレイヤーがいるんだ?」
「……アンタ、須郷さんの知り合いか?」
「須郷ちゃんの事を知ってるのかお前?」
「親父の後輩だから。よく知ってるよ」
「親父って……あ。お前あれか、雪風さんのところの息子か。となると……」
ナメクジ野郎はメニューを開いて何かを操作する。
とても嫌な予感を感じていると、ピンクのナメクジがもう一体現れる。
こちらも須郷さんの知り合いみたいだ。
「何て言ってた?」
「上が終わったら連れて来いだってよ。色々知ってるから有効利用するって。それまでは好きにしていいってさ」
「そうか。ま、俺にそんな趣味はないが、少し静かにしてもらうか」
目の前にいるナメクジ野郎…ややこしいのでナメクジAにしておこう。
彼は体から触手を生やし、先端を鋭利な刃物にして、俺の四肢に突き刺してくる。
強烈な痛みが全身を駆け巡り、あまりの痛みで大きな声をあげてしまった。
「いたたたたたた!痛い!超痛い!」
「え?痛いって…あ。マジか」
「何がマジなの!?」
「いや…ペインアブソーバーが1になってるからよお前さん。きっと須郷ちゃんの仕業だな」
「んだとっ!?正気かあのおっさん!?」
そんなことをしたら現実世界でも影響が出てくる。
痛覚が一生感じ続ける体になるか、中々痛みが消えず、苦しみ事になる。
だから基本的に、4か5辺りに設定しているはずだ。
「くぅ…やりすぎだろ…くそっ」
万事休す…か。
諦めないと必死になるが、心は折れかけている。
やっぱり、上位権限を持っている奴らの前では無力なのか?
いや…そんなことは無いはずだ。
現にシステムの枠を超えたやつがいる。
なら俺は…今まで築いてきた知識で乗り越えて見える。
「確か昔…先生と…あ(待てよ。そういえばアレってまだ帰ってきてないよな)」
ふと昔を思い出す。
SAOのβテストが終わったとき、茅場先生に見せた自信作。
確かあの時は……。
『どうよ先生!ユイとストレアを参考にして作った高性能AIは』
『いきなりどうしたんだい?AIの作成は、お手の物だろう?』
『それは医療機器に使用する奴で、今回は超高性能の自信作。自分で考えて行動し、日々進化していく』
『ほぅ。それは面白そうだね。見せてくれるかい?』
『もちろんいいよ。ただし、お願いを聞いてくれたらね』
『…いいよ。君の願いを聞こう』
そうだ、あの時に見せたあの子。
あの茅場先生が珍しく興味を持って、色々と聞いてきたのを覚えている。
そのお礼に願いを叶えると約束してくれてそのまま預けたきりだ。
最後に名前を教えて欲しいって言われたっけ。
何で今まで忘れていたんだろう?
ー思い出したようだね直人君。
「あ……」
とても懐かしい声。
この場所で聞こえるはずのない声が聞こえてくる。
最初に思ったのは疑問だが、あの人の最後を考えると、あり得ないことではないのかもしれない。
ーやっと君に返せるよ。待たせて済まない。あとは…名前を呼ぶだけだ。
「名前…そうかこの子は―――」
胸ポケットの隠れたこの光の正体が分かった。
おのれ茅場先生め!やってくれるじゃないか!
昔っから色々やってくれた人だけど、今回だけは心の底から感謝するよ!
「"エイ!"この一帯の管理者権限をヒースクリフに変更だ!上は黒の剣士が何とかする!」
「は?いきなりな何を―――!?」
「っ―――!?」
俺が発した言葉を理解出来ないナメクジ達だが、すぐに顔色が変わる。
彼らの体が淡く光り、目に見えるように変化したからだ。
加えて四肢を拘束していた触手も砕け散り、体にのしかかっていた重石も消える。
「うっしゃ!これで動ける!」
直ぐに飛び起きて愛剣を手に取りナメクジ達に斬りかかると、彼らは直ぐに後ろに退避した。
「っう!何で動けるんだ!?それに、何で俺たちが通常アバターになっている!?」
「因果応報って奴だ。そうだろエイ?」
胸ポケットを叩くと、中から銀髪のピクシーが姿を現す。
彼女はしてやったりといった顔を浮かべると、こちらに振り向き、笑みを浮かべながら言った。
「その通り。さぁ…反撃開始と行こうか。