ーさぁ…反撃開始と行こうか、マスター。
エイが反撃開始を宣言してから肩に座る。
落ちないように伝えてから光焔の剣を構え、戦闘態勢に移行。
須郷さんの部下…ナメクジ共は慌ててメニューを開いて何かをしようとしていたが、何も起きなかった。
「何でログアウト出来ないんだ!?」
「しかも俺達のアバターが普通のプレイヤーを同じになっているだと!?」
おぅ…どこぞのデスゲームと同じ状況じゃないか。
肩に座っているエイに視線を向けると、小さく首を横に振った。
となると、アレは彼女の仕業でないということか。
「ふふ……余程君が虐められていたのが嫌だったのかな?」
「おっそろし……」
あの人ってここまで怒る人だっけ…。
あまり感情を出さない人だから、いまいちよく分からない。
分かっている事といえば、頻繁に凛子姐さんを怒らせていた事だろうか。
俺もその事では大分言ったっけ。
いい加減にしてほしいって。
「どうする?この場を凌ぐには」
「それは…あれしかないだろう」
ナメクジ達は肩に座っているエイに視線を向ける。
確かにこの場を乗り切るには彼女の力が必要だと思うが、そうはいかない。
なぜなら、彼らはここで斬られる運命だから。
「こいよ。エイが目当てなら奪ってみな」
「そうさせてもらうさ。だが…お前は一度俺たちの前で倒れてる。それを忘れるなよ」
「そういうわけだ。やらせてもらう」
ナメクジの体から10本の触手が放たれるが、動きは至って単純なもので、紙一重で回避しながら斬り伏せていく。
斬った瞬間から触手が再生し、さっきより強固なものになるが、光焔の剣の相手ではなく、バターのように斬っていく。
「なんだあの剣は!?」
「しかも小さいから当たらん!」
「それは誉め言葉だね」
これもまたVRMMOならではであるし、自分の体を最大限に活用して戦うのは当たり前だ。
基本中の基本である。
それを見越して戦闘を行うものなのだが、それをしないのは彼らの経験不足だ。
「それじゃ…一気に行くか」
強く踏み込み最大速度で走る。
残像でも出るんじゃないかと思うほどのスピードで一気にナメクジどもの間合いに入った。
「なっ―――」
「嘘だろ―――」
これには彼らも驚きを隠せておらず、大きな隙が生まれる。
その隙を逃すことなく、光焔の剣のエクストラスキル・解放の剣を発動する。
それにより、光焔の剣から放出している粒子がより一層放たれ、剣全体を覆う。
「喰らえ。インフィニティ・ブレイドッッ!」
剣を振り下ろし、二体纏めて消し飛ばす。
マジックポイントとチャージが全てなくなり、放出されていた粒子も殆どなくなった
解放の剣を発動すると使用可能になる特殊スキル。
マジックポイントと、スキル発動に必要なパワーチャージをすべて消費することで広範囲に防御力無視のダメージを与えられる一撃必殺。
使用するとしばらくクールダウンがあるが、それを踏まえても恐ろしいスキルである。
「よし…あとは現実世界で須郷さんを捕まえて…」
「その前に皆の開放だ。コンソールはこっちにある」
エイが肩から降りて奥に進み、その後を付いていくと、大きな立方体が空中に浮いていた。
その前には見覚えある石柱があり、エイはそれに触れるとキーボードが現れる。
俺は操作して囚われた人達のログアウト処理を行った。
「これでいいかな。あとは自動で処理してくれる。さて……」
俺の目的は果たしたわけだが、やることはもう一つある。
そう、エイの事だ。
正体は分かっているが、どうしてここにいるのかが分からない。
その理由を俺は彼女に聞かないといけない。
「エイ。君は俺が三年前に構築したAIであってる?」
「あぁ。君の両親をサポートするために作られたAIだ。それを君が茅場昌彦に渡し、形を与えた」
「じゃあ何でここにいる?」
「……それは簡単だ。彼が君に返す前にSAOが稼働した。その結果、私はカーディナルシステム内でSAO内部を見ていた。そしてゲームがクリアされ、生き残った人が元の世界に戻るの見ていたが、一部が別の世界と繋がったのに気付き、私はこの世界に来た」
成程……待って。
システム内でSAO内部を見守っていたって?
すなわちあの人は、エイをシステムに組み込んだって事か?
ちょっと待てぃ。
見せるのは許したが、システムに組み込むのは許していないぞ。
おのれ茅場先生、やりやがったな。
「あの人は…相変わらずだな。会うことがあれば文句言ってやる」
「ふふ……その権利ぐらいはあると思う。さて…私は生まれた場所の戻るよ。そこから本来の役目を果たそうと思う。だから…なるべく早く起こしてほしい」
「分かった。じゃあまた後で」
「あぁ。では君をログアウトする。上にいる彼も…大丈夫そうだ。彼らはユイに任せよう。では…また」
エイはログアウトの処理をし、俺は現実世界に戻ってくる。
アミュスフィアを外して最初に見たのは、香蓮の顔だった。
どうやら膝枕をされているようだ。
「あ。お帰りナオ。どうだった?」
「うまくいった。思いがけない出会いもあったけど。父さんたちは?」
「さっき戻ってきて出かける準備してる。どこに行くの?」
「須郷さんを捕まえに行く。その前に……」
机に置いてあるパソコンの電源を付け、あるプログラムを起動させると、画面に銀髪の女性…エイのアバター姿を現す。
以前は声だけだったが今回は姿がある。
それを見ると、茅場先生は本当に約束を果たしてくれたと思い、嬉しくなった。
あの人のやったことは許されないけど。
『起動を確認。各システム異常無し。おはようマスター、香蓮』
「……え?も、もしかしてのナオ。この子って」
「あぁ。エイだよ。三年前に構築したAI。ALOであったのはこの子なんだ。助けてくれて」
「そうなんだ…ってなんでALOにいるの?」
香蓮の疑問ももっともだが、それは後で答えよう。
ひとまずエイのサブデータを親父の会社と母さんの研究室に転送し、俺のアミュスフィアにも保存する。
これで現実世界でも仮想世界でも会えるようになる。
細かい処理はエイに任せよう。
「あとやることはあるか?」
『今のところは無い。他は私が対応しておこう。すでに君に家族にメッセージも送ってある。それと例のカメラとも接続済みだ』
「ということは、このパソコンと繋がっている端末全てにサブを転送済みか」
『そうだ。何かあればこちらで随時処理をし、連絡をする。マスター達も何かあればすぐに連絡をしてほしい。当然だが出来ることは何でもやらせてもらう』
「もちろん。頼りにしている。ひとまず今日は新しい環境に慣れて欲しい。行くところあるから」
『了解だ。気を付けて。君なら心配いらないと思うが念のためだ』
念を押してからエイの姿が消える。
パソコンを閉じてから香蓮に『もう少し待っていて欲しい』と伝えてリビングに行くと、親父と母さんはすでに準備が終わっていて、いつでもいける様子だった。
「準備はいい?」
「いつでも行ける。菊岡さんは?」
「既に連絡済みだ。僕達の方か早い」
「分かった。行こう」
鞄を持って家を出ようとしたときに、香蓮が後ろから抱き締めてくる。
一体何事かと思っていると、彼女の腕の力が一層強くなった。
「怒ったらダメだから」
「分かってるよ。怒らないって。キレる事もないから大丈夫」
「本当?」
「本当。だから待ってて」
香蓮の方を向き、軽くキスをしてから頭を撫でる。
心配いらないからと、伝えるように。
すると香蓮は、小さく微笑んでから頬にキスをして離れる。
俺は再度、彼女の頭を撫でてから『行ってきます』といい、親父が運転する車に乗って須郷さんがいるであろう場所に向かう。
「場所はアスナちゃんが入院してる場所よ。埼玉県にあるわ」
「流石母さんのネットワーク。急いで父さん。ただ安全運転で」
「分かっている。バカ運転はしないさ」
制限速度ギリギリてかつ最短ルートでその場所に向かう。
その道中で菊岡さんにメールを送り、捕えた後の対処等を連絡し合っている間に、ある病院の近くに車が止まる。
「ここだ直人。逃げ道は僕達で塞いでおく」
「悪いけど須郷くんは任せるわ。怪我だけはしないで」
「分かってる。父さん達も気を付けて」
車から降りて須郷さんを探すが見当たらない。
時刻は既に19時を過ぎているし雪も降っている。
早く探さないと、逃げられるし、キリトの身に何があるか分からない。
人間は追い詰められると何するか分からないからね。
「何処に…ん?足跡?」
足跡が二つあるのを見つける。
まだ新しいものだったので後を辿ると、駐車場に辿り着く。
周りを見渡すと、止まってあった車の前で、須郷さんがナイフでキリトを突き刺そうとしている所が目に入った。
「しねぇぇぇぇぇ!!」
「させるかよ!」
ナイフがキリトの顔に当たるギリギリの所で、須郷さんの手首を掴んで止める。
いきなり現れた第三者に驚きを隠せない二人だが、須郷さんは俺の顔を見るなり罵声を浴びせてくる。
「貴様!!何でこんなところいる!?」
「アンタがこれ以上罪を重ねないようにだ。逃げ場はない。諦めろ」
「黙れ!!邪魔をするな!」
「ーーーっと!!」
強引に腕を振る郷さん。
手首を離して後ろに避けるが、ナイフの刃先が左頬を切り裂き、焼けたようか痛みが走って、鮮血が散る。
それを見た須郷さんは、口角吊り上げながらナイフを向けてくる。
「いい顔が台無しだなぁ?でも邪魔をしたお前が悪いんだぜ?」
「……はぁ。救えないな。もう」
出来ることなら穏便に済ませたいが、そう上手くは行かないようだ。
それに、彼はナイフをもっいるわけだし、やりすぎない限りは正当防衛だ。
多少痛い目を見てもらうのは仕方がない。
「キリト君。早くアスナの所に行くんだ。須郷さんは俺が捕まえておくから」
「……まさか。いや、分かった。その……ありがとう」
お礼を言ってから病院に向けて走るキリト。
さて…これで須郷さんの相手を出来る。
出来れば対話で何とかしたいが…あの顔を見ると無理だな。
「何でお前もアイツも邪魔をするんだよ?お陰で手間がかかるじゃないか」
「……」
ふらふらしながらゆっくりと近づいてくる。
時折ナイフの先を見せつつ、狂気に満ちた顔と浮かべながら殺気を放って。
「悪いが死んでもらうよ。知った者は全員」
「……やってみなよ。来い」
ゆっくりと構える。
今更ナイフを持った相手にビビるほど軟な男じゃないし、あぁいう相手の仕方を心得ている。
ガキの頃からじっちゃんに叩きこまれているから。
「はっ。随分と余裕だなぁ…じゃあ死んでくれ」
ナイフを強く握って接近してくる須郷さん。
そのままの勢いで左胸にナイフを突き刺そうとしてくるが、それより先に手刀でナイフを叩き落してから、一本背負いで地面に叩きつけてから拘束する。
「な、何っ!?」
「残念。相手が悪い」
「ぐっ…このぉっ!」
藻掻いて脱出しようと試みているが、完璧に固め技が決まっているので、素人が抜け出せるわけがなく、ただ時間が過ぎていく。
一分ほど経つと菊岡さんとその部下が来たので、部下に須郷さんを渡す。
最後に『おのれぇぇぇぇ!』と叫んでいたのを見ると、諦めが相当悪い人だと思ってしまった。
「ありがとう直人君。流石は大将のお孫さんだね」
「あれぐらい容易いよ。ガキの頃に腐るほど叩き込まれたから」
「はは…相変わらずだね。今度顔でも見に行こうかな」
「行って殺されてこい」
ついでにその性格も矯正してもらったらいい。
きっといい薬になるだろう。
「さて…あとの事は任せて欲しい。君への慰謝料等はこちらで対応しておこう」
「そうしてくれ。あと出来れば大事にしないで欲しい」
「分かっているよ。本当にありがとう。気を付けてね」
「はいはい」
とっとと行けと手で合図しながら見送る。
さて…俺も帰るとしますか。
頬の傷も超痛いし、これは何針か縫わないといけないな。
あぁ…帰ったら香蓮に超怒られそうだ。
(ともあれ…これでSAOは本当の意味で終わりかな。一応弟子としての務めは果たせただろう。後は…)
どっかにいる茅場先生を見つけて一発殴る。
それが最終目標になりそうだ。
必ず…追いついて見せる。
「帰ろ。あまり長居するものではないし」
最後に病院の方を見てから、車へと戻るのであった。