須郷さんが逮捕されてから4か月経った。
季節は春となり、年度が替わって新しい生活が始まる。
俺は香蓮と、平日に泊まりに来る木綿季と一緒に過ごしながら、大学生活に励みながら親父の仕事を手伝っている。
エイの協力もあり、昔ほど忙しくなく、家族で一緒に過ごす時間が増え、最近では、ザ・シードによって新しく作られた仮想世界の一つである、ガンゲイル・オンラインというゲームに親父がハマり、一家でコンバートして遊んでいるほど。
もちろんALOでも家族で会う機会はあるが、大体はキリト達と一緒に居ることが多い。
その理由は親父と母さんがデータを初期化して一から始めることになり、熟練度上げ等を手伝うことになったから(何でかキリトも初期化したらしい)。
そういうわけで、日々忙しくも楽しい生活を送っている中、あるニュースが入ってきた。
それはALOでアインクラッドが実装されるということ。
ALOの運営は民間企業に委託されたのと、また茅場先生がキリトに託したザ・シードによるものらしい。
アインクラッドの中はSAOと同じだが、ボスは全く違うらしく。しかも体力ゲージが表示されない鬼畜使用だとか。
おかげで実装前なのに大盛り上がりで、中でも、その話で親父がクラインと酒を飲んで酔い潰れたのを母さんが雷を落としたのは今にも覚えている。
俺も正直嬉しいし、時間が合えばキリト達と攻略するのも楽しいだろう。
それは、SAO内部をカーディナルシステムから見ていたエイも同じだった。
『まさかALOにアインクラッドが実装されるとはね。とても嬉しいよ』
「そうだな。しかもエイはピクシー兼プレイヤーな訳だし。いつの間にアカウントを作ったのやら。アクセス兼とか問題あるだろ?」
『それは問題ない。あの時は管理者がヒースクリフだったからできたことだ。今は別の管理になっている。だから私はユイと同等の事しか出来ない』
「本当かね……」
正直疑いたくなってくる。
それぐらい優秀なAIだ。
こんな代物を3年前の俺が作ったのは嘘じゃないかと思いたくなってくる。
あの時は無我夢中だったからなぁ…とにかく家族と一緒に過ごせるにはどうしたらいいか必死だったし。
『時に…今日はALOかな?行くなら私も付き合わせてほしい。あの城が姿を現す瞬間を見たいからね』
「もちろんだ。そのためにもまずは親父達を迎えに行かないと。最短ルートを出してくれる?」
『了解だマスタ―』
ナビに目的地までの最短ルートが表示される。
今更だが、今日は大学の講義がない日で、親父のラボに顔を出す日でもないので、買い物に行った帰りである。
「ダイシー・カフェね。ここから15分ほどか」
『今から向かえばオフ会が終わる頃だね。先生たちが酔い潰れていなければいいが』
「さ、流石に大丈夫だろ……」
と言ったが実際はかなり心配だ。
流石に二度も同じことは繰り返さないとは思っているが…安全運転で急ごう。
車を走らせること15分。
渋滞につかまることなくダイシー・カフェ近くのパーキングに到着し、カメラを肩に乗せてから車を降りてダイシー・カフェの前まで向かう。
中からは親父達の声が聞こえてくるのを見ると、オフ会はまだ続いているのか?
「おじゃましまーす……」
出来る限りを音を立てないように入ると、キッチンにいたカフェのマスターであるエギルと目が合った。
「お。いらっしゃい。白い流星」
「どうも。父さんは」
「そっちだぜ」
エギルが指を刺した先には、キリトとアスナと談笑している親父達の姿。
他には…シリカとリズベットにクラインもいるな。
リーファも話の輪に混ざっている。
うん、邪魔するのも悪いしカウンターに座ろう。
「何にする?」
「ブラックのコーヒーで。あとタブレットおいても大丈夫?」
「おぅ。気にするな」
了承を得てからタブレットを取り出し、エイを呼んでエギルを紹介するが、彼女はシステム内で見ていたので、この場にいる全員を知っているらしい。
それを先に行ってほしいと言ったが、『把握していない君が悪い』と返しが来る。
この野郎、言ってくれるじゃないか。
誰がこんな子にしたんだろうね?
「あれ?ユキトさん?」
「あ……」
親父達の会話に混ざっていたリーファ…直葉に気付かれて声を掛けられる。
それを気に、キリト達の視線が一斉に俺の方を向いたので、小さく手を振ると、やや出来上がっているクラインに捕まってしまう。
「おめぇいつのまに来てたんだよ!?声かけろ!」
「それは僕の勝手でしょうクライン」
「そうよクライン。私達が先生達と話をしてたから空気をよんだのよ」
「読む必要ねぇだろ」
「……(賑やかだな……)」
クラインとリズベットのやり取りを見ていると、そう感じてしまう。
きっとSAOでもこんな風に賑やかだったのだろうか。
その光景が何となく想像できる。
「ごめんね直人くん。気付かなくて」
「いいって。俺は父さん達を回収に来ただけだし。体調良さそうだね明日奈」
「うん。先生や色んな人のお陰かな」
「そっかそっか。元気なことはいいことだよ」
明日奈達を見ていると、みんな普通の生活に戻れているようだ。
学生は帰還者学校に通い、社会人は菊岡辺り仕事を斡旋してもらったのだろうか。
一部は元々通っていた学校に戻ってるとか言ってたかな。
フィリアがそうだっけ?
ともあれみんな元気そうで良かった。
『そういえば…アスナは現実世界でもキリトと結婚したのか?』
「ふぇっ!?」
「こ、こらエイ!何を聞いてる!?」
いきなりとんでともないことをアスナに聞くエイ。
アスナの顔は真っ赤に染まる。
更にクライン達にも聞こえていたのようで、この場にいる全員が固まった。
『おや?まずいことを聞いたかな?』
「まずいと言うか…なんと言うか…その。まだキリト君が結婚できない年と言うか…」
『しかしマスターはーーー』
「ストップ!ストップだエイ!それ以上は駄目だ!電源落とすぞ!」
『む。それは困る。済まなかったアスナ』
アスナに謝るエイだが、少し困ったものだ。
色々と知りたくて様々な人と関わりを持とうとするが嬉しいが、触れてはいけない部分に触れようとするのは困る。
だが、エイは自己成長をするから、次は大丈夫…だと思う。
『さて。私はメインに戻るよマスター。仕事の時間だ』
「了解だ。宜しく頼む」
『うん。では夕方に』
タブレットの電源を落とすと、自然と溜め息で出てくる。
悪い方の溜め息ではなく、良い方の溜め息だ。
それに気付いたアスナが苦笑いを浮かべつつ聞いてくる。
「その…いつもこんな感じ?」
「うん。もう慣れたけどね。だけど、あぁいう人格になったのは俺のせいだから仕方ない」
「…というと?キリト君もその辺りに気にしてて」
ほほう、良いところに目を付けるじゃないか。
よし、せっかくだしアイツも話に混ぜるとしよう。
キリトを呼ぶと、彼も少し苦笑いを浮かべていた。
そういえばアスナにしか謝った無かったな。
後でエイに謝らせよう。
「エイについて聞きたいって?」
「あぁ。聞きたいことは山程あるが、どれから聞いたら良いか分からない。ユイも良く分からないって言ってたから」
「ま。細かくいうと長くなるが、性能でいえば超高性能。自己解析・自己分析・自己成長。ユイにも近いものがあるが、エイは全てが高性能に構築してある」
「全てが高性能か。だけど話している感じは全く人間と変わらない。本当にAIかって疑いたくなるぞ」
「それ、ユイにも言えるぞ?」
「う……確かに」
彼の言いたくなる気持ちは分かる。
実際にスペックはユイより上だし、今も尚、成長を続けている。
でもそれは、データだけの時からきちんと向き合ってきたからだ。
俺や香蓮達とやり取りをして、自分がどうあるべきか。
それを考えさせて自分で形を作らせる。
その結果が今のエイだ。
「まぁ心配するな。これからエイ以上のAIがポンポン出てくるよ」
「出てきたら困るんだが…。実際にエイを見ると、出てきそうだな。で…つかの事聞くが、セキュリティとか大丈夫?」
「大丈夫。茅場先生が強固なプロテクトを掛けたし、きちんと形が出来上がるまで向き合ったから、乗っ取られたり、邪悪の染まったりはしない。どんな手で迫ってきても、対応は出来るし、成長を続ければ何も起きないさ。君たちが喋らなかったらね」
「絶対に話さないと誓うよ。その代わり…色々と教えてくれると助かるよ先輩」
「誰が先輩だ」
個人的にはごめんだが、きっと逃げられないんだろうな。
これもあの人が繋いだ縁ってことにして諦めるか。
「っと。そろそろ帰らないと間に合わないぞ皆」
「え?もうそんな時間なの?」
「やば、早く帰るぞ皆!」
荷物をもって慌てて帰るキリト達。
のんびりしていると、アインクラッドが現れる時間を逃してしまう。
それは、俺達にも言えることなので、親父と母さんを回収して実家に放り込んだのち、家に帰ってALOにログインする。
それから、見晴らしのいい高台に移動して時計を確認していると、後ろからユウキが抱き着いてくる。
「つっかまえた!」
「とと。どうした?」
「ん。一緒に見ようと思って。ナイツの皆は予定会わなかったから」
「そっか。そういえばエイは……」
エイの姿を探していると、空中からゆっくりと降りてくるレプラコーンの姿。
よく見てみると、エイのアバターと瓜二つで、声をかけると静かに微笑んだ。
「ふふ……君の知るアバターと瓜二つだろう?ユイと協力した特別製だ。ちなみにアスナ達も同様だ」
「ずるくない?俺なんてチビ猫だぞ?」
「良いじゃないユキト兄。香蓮姉公認の可愛い子なんだから」
「素直に喜んでいいのか?」
そう言えば香蓮のスマホの待ち受けが俺のアバターだったかな。
またフカ次郎が隠れて撮って送ったのだろうか?
だとすれば盗撮で訴えておこう。
「さて…そろそろ時間だ」
「お。やっとか」
「楽しみだね」
揃って空を見上げると、夜空に大きな光が現れ、その中から大きな城が現れる。
茅場先生が夢見た城。
一万のプレイヤーが囚われ、そして犠牲が出た城。
親父やキリト達が命がけで駆け抜けた城。
それが、再び現れた。
「うわぁ…凄いね」
「あぁ。凄い城だ。外から見るとこんなにも綺麗に見えるのか」
「……圧巻だな」
あの城を再び登るのか。
今度は100階まで。
時間は限られているが、今度は目一杯楽しもう。
「さぁ…行こうマスター。完全踏破を目指して」
「そうだな。行こうエイ、ユウキ」
「うん!行こう!」
空中に浮かぶアインクラッドに向かうのであった。
フェアリィ・ダンス編終了です。
次はBoB編ですが、期間がそこそこ空くので、現実世界での話や、GGOやアインクラッド攻略や、香蓮のGGOデビューをやろうと思います。