「今日は平和だなぁ……」
満点の青空を見ながら言った。
今日は、朝からGGOで遊んでいたが、適度にエネミーに襲われるだけで、プレイヤーと全く遭遇しない平和な日である。
なので、ヘッドフォンを付けて、姉貴の知り合いである神崎エルザの曲を聞いていた。
ちなみに香蓮と木綿季は今日帰ってくる。
北海道は中々良かったようで、先日大量の写真が送られてきた。
特に目立ったのは、木綿季がじっちゃんに連れられて、港のお高い海鮮丼を食べている写真だろうか。
俺や姉貴には決して与えないようなお高いもの。
世の中、木綿季のような素直でいい子が一番甘やかしたくなるのだろう。
そう考えると…俺や姉貴は素直じゃないって事か。
だけど、それに関してはじっちゃんが悪いと思う。
ガキの頃から剣道やらをやらされ、長期休みの度に裏山に投げ入れられてサバイバルやらされたら、素直な子に育つわけがない。
「はぁ…でも、そのお陰で、ALOやGGOではほとんど負けないんだよね……」
リアルスキルが絡むゲームでは、現実世界で得た技量が反映されるため、とても強い。
リーファが剣道をして、その技をALOで使っているように。
俺も、ALOでは会得した体術を存分に使ってるし、GGOではエアガンを使ったサバイバル訓練での経験を活かしている。
「そう考えると、じっちゃんは退役後に構って欲しかったのか。あるいは現役時の感を失いたくなかったのかどっちなんだろ?」
聞いたところで答えないだろうけど、冬に帰省した時は聞いてみるか。
裏山でキャンプしながらとかいいだろう。
まぁ…トラップだらけの道を通り抜けれたらの話だが。
「密林に場所を変えるか。そしたらプレイヤーと……あら?」
背後から気配を感じ、上空から視線を感じたので上を向くと、そこには青髪の美人女性スナイパーの顔があった。
GGOでも数少ない女性プレイヤー。
そのうちの一人である彼女の名前はシノンといい、稼働初期からプレイをしていて、一時期狙撃を教えていたこともある。
「隙だらけよ先生」
「平和だからね。で…何で先生?」
「狙撃の先生だから。隣いい?」
「どうぞ。紅茶飲む?」
「いただくわ」
隣に座ったシノンに、持参している水筒に入っていた紅茶を、小さなコップに入れて渡す。
それから周りを見渡して、いつもシノンと居るプレイヤーがいないか確認するが見当たらない。
ということは、珍しく一人か。
「リヒターやダインはいないんだ?」
「私だって一人で狩りに出るときぐらいあるわ。というか、一人の方がいいし」
「その気持ちは分かるような……」
俺も定期的に一人で暴れたいときはある。
現実世界で嫌なことがあれば尚の事だ。
ALOで派手に暴れても、無駄に目立って見返りは素材のみ。
逆にGGOだと、賞金首ランキングが上がっていき、強いプレイヤーに狙われるが、返り討ちにするとお金が手に入り、小遣い稼ぎになる。
「で。何を狩りに来たんだ?」
「最近になって目撃された新種のエネミーよ。あと15分程で出てくるから、トラップを仕掛けたわ」
「へぇ。HNMかNMか。手貸そうか?」
「お願い。誰かに声を掛けようとしていたし。先生と組めば余裕よ」
だといいのだが、正直な所、GGOのエネミーはALOとは違う箇所が多いので、アドリブで何とかしないといけないし、プレイヤーの横入りもある。
その時々の判断力と、視野の広さがかなり要求される。
「先生は何を?」
「あぁ。同棲している彼女が北海道に帰省していてね。帰ってくのは今日だけど、それまで暇なんだ」
「成程。迎えに行かなくていいの?」
「帰りに寄る所があるとかで、迎えに行かなくていってさ。まぁ…ナンパとか絶対にないから大丈夫。むしろ避けられるし」
「避けられるって……(何かあるのかしら?でも、いつも話を聞いている感じでは、そんな人ではなさそうだけど)」
道を一緒に歩いていると、周りからの視線がかなり感じる。
その視線の先はどれも香蓮で、身長の高い女性というのは目立つのだろう。
しかも、香蓮を避けるものだから、色々と言いたくなってくるものだ。
「長身ってのも問題が―――むっ!」
「この音は―――!」
後方から爆発音と共に砂ぼこりが上がる。
シノンと目を合わせえてから武器を装備、シノンはヘカートⅡを。
俺は愛銃をストレージに戻してから中近距離用装備に切り換える。
「後ろは任せた。何がいるかは後で連絡する」
「了解よ」
岩山から飛び降りて、爆発音がした地点に向かうと、そこには10メートルほどの異形な形をしたサソリがいた。
一番目立つのは、両手の大きなハサミと、鋭利な槍の尻尾だろうか。
体力ゲージも3本あるし、結構大変そうだぞ。
「でも、その方が燃えるってね」
GNソードをソードモードに変形させてまずは間合いを詰めようとすると、異形のサソリは両手を開き、そこから大きい光弾が放たれる。
「とっとと!」
その光弾をかわし続けると、シノンの狙撃が背後から飛んできて、異形のサソリの右腕に命中。
それにより、異形のサソリの攻撃が止まったので、右腕を踏み台にしながら左腕を斬り落としつつ、胴体に銃弾を撃ち込むと、残った右腕でガードを固める。
「む…ガードか。実弾は通りにくいし…。シノン。炸裂弾で崩してほしい」
『了解よ』
シノンに指示を出しつつ、何をしてくるか観察していると、異形のサソリの尻尾がゆらゆらと動き始める。
GNソードをモード変更させて防御の構えを取っていると、尻尾の先端が俺の額に狙いを定める。
(槍のような尻尾…そこから遠距離攻撃も可能だが、この狙い方は…突きか!)
瞬時に右に飛ぶと、異形のサソリの尻尾が凄まじい速さで迫ってきた。
先手を取って避けたので当たらなかったが、アレを喰らうと一撃でお陀仏だ。
「易々と当たるわけには―――ちょい!?」
再び尻尾が超スピードで迫ってきたので慌てて左に避ける。
あれだけの速度だから連続で攻撃してこないと思ったが、どうやら連撃可能の様だ。
となると、しばらく避け続けないといけないのか。
「ちっ。面倒だが…今は待つか」
その内シノンの炸裂弾が飛んでくるだろうと考え、しばらく回避に専念していると、一発の炸裂弾が足に命中し、異形のサソリの体勢が崩れる。
そこを逃さず、尻尾を斬り落としてから、サソリの急所目がけて残弾全て打ち尽くし、それから一刀両断して討伐する。
「うっし。こんなものか。さてさて何がドロップしたかね……」
報酬を確認するが、目立っていいものはなく、売却行きが決まった。
なのでシノンと合流してからSBCグロッケンに戻って別れる。
それからアジトに戻り、ラフな服装に着替えてからログアウトする。
現実世界に戻ってくると、物音が聞こえたのでアミュスフィアを外して周りを見ると、台所で荷物を片付けている香蓮の姿があった。
「お帰り。早かったね」
「ただいま。おじさんが迎えに来てくれたから」
「そっか。手伝うよ」
「大丈夫。それよりお願いがあるから待ってて」
「おぅ……(お願いって……)」
少し嫌な予感がしたが、片付けが終わるのを待っていると、香蓮は隣に座って俺の頭に手を置く。
何をするのかと思っていると、彼女は自身の膝に手を置いたので、何をしたいのかすぐに分かった。
個人的には、そういう年でもないので避けたいが、たまにはいいか。
「えっと。では失礼してーーー」
「えい!」
「わふっ!?」
いきなり抱き締められる。
何事かと思っていると、香蓮はニコニコと微笑みながら俺の膝に座り、胸に顔を埋めてくる。
俺は『何で?』と思いながらも、彼女の頭を優しく撫でる。
「膝枕って思ったでしょ?」
「そうだよ。珍しいと思ったさ」
「ふふ、膝枕はいつでも出きるけど、抱き枕は中々出来ないよ?」
「そうだな…」
左腕を彼女の背中に回して抱き締めつつ、頭を撫でていると、香蓮はテーブルの上に置いてある鞄の中から、見覚えあるゲームを取り出す。
アミュスフィアとALOにGGOだ。
これこそ珍しいと思って聞くと、木綿季達から楽しい話を聞き、興味を持ったからやってみようと思ったらしい。
「そいうことだから、明日付き合って」
「了解。楽しみだね」
「うん。新しい自分が見つかるといいな」
「見つかるよきっと」
腕の力を強めると、香蓮も体を預けて来たので、暫く抱き枕と化すことにした。