香蓮達が帰ってきた次の日。
朝からアミュスフィアにデータをインストールしてから、パジャマ姿の香蓮に渡す。
まず初めはALOからプレイすることとなったので、彼女はダイブする前に美優に連絡し、木綿季にも念のためにスタンバイしておいてほしいと連絡している。
俺は、香蓮がダイブしてから向かう予定なので少し遅れると連絡済み。
さて…いいアバターを引いてくれると嬉しいのだが。
「では行ってきます」
「おぅ。行ってらっしゃい」
アミュスフィアを装着したのを確認してからリビングに向かい、スタンバイをしていた木綿季に声をかける。
「んじゃよろしく木綿季」
「うん任された。それじゃ―――」
と木綿季もアミュスフィアを装着しようとした時だった。
寝室から香蓮の大きな叫び声と、大きな物音が聞こえてくる。
俺と木綿季は慌てて寝室に向かうと、香蓮はベットから転げ落ち、アミュスフィアが外れていた。
何があった?と思いつつ香蓮を起こすと、おもいっきり抱きついてきたので慌てて受け止める。
「どうしーーー」
「何であんなに大きいの!?」
「「え……??」」
香蓮の言ったことに戸惑う俺と木綿季だが、直ぐにどういう意味か理解した。
多分、アバターがコンプレックスに触れてしまったのだろう。
「えっと。アバター作り直す?お金かかるけど」
「もったいないよ!」
「じゃコンバートしたら香蓮姉。GGOも買ったんだから」
「…そうだね。そっちなら可愛い子になれるかも。先に行っててくれるナオ?」
「りょーかい。到着したらメッセージ送る」
香蓮から離れてリビングに移動し、お茶を一口飲んでからGGOにダイブ。
部屋着から私服に着替えた後に、プレイヤーが最初に訪れる場所へと移動してから香蓮にメッセージを送る。
「いつでもどうぞっと……」
メッセージを送り暫く待つと、転移門が淡く光り、そこから小さくて可愛い女の子が姿を現す。
思わず『おぉ……』と言ってしまった。
それに気付いた女の子…レンは俺と目を合わせ、目を輝かせながら近づいてきた。
「……ユキと同じ目線!?ということは!」
「鏡はあっち」
鏡の方を指差すと、レンは飛び付くように張り付いて、自分の姿を見ながら頬をむにむにと触り、嬉しそうな顔を浮かべる。
うーん、あんなに可愛いアバターがあるとは思っていなかった。
「可愛い!超可愛いよこの子!」
「……はは」
とてもはしゃいでいるレン。
あれだけはしゃいでいるのはいつ以来だろうか。
少なくとも、身長が伸び始めてからは一度も見ていない。
笑顔は見ることはあれどだ。
(よかった……かな。これで昔みたいに活発な子に戻ってほしいけど)
両親やお姉さん達に可愛がられた結果、身長が凄く伸びた香蓮。
その件で、色々と辛い思いをしている。
周りからは変な目で見られ、タチの悪い先輩に目を付けられたりと。
上京してからもそうだが、どうして身長が高いだけで辛い思いをしないといけないのか。
「…レン。可愛い自分はいつでも見られるから、ひとまずチュートリアルを受けてきて」
「チュートリアル?」
「うん。チュートリアル……クスッ!」
「!?」
むにゅっと頬を両手で挟んだままこちらに振り返るレン。
その時の彼女の顔がなんとも面白かったので笑ってしまった。
だっていい感じにむにゅっとしているんだもん。
笑うなって方が難しい。
「…ユキ」
「ごめん。けど面白い顔してるから」
「だめ。こうしてやる。えいやっ!」
「ちょっと―――」
レンは勢いよく抱き着き、そのまま自身の右頬を俺の右頬に押し付けてくる。
むにゅっと柔らかい感触とと共に、俺の柔らかい頬が彼女の頬を優しく受け止めると、レンは嬉しそうな顔を浮かべる。
「うにゃ!ユキの頬も柔らかい!」
「……」
これでもかと頬を押し付けてくるレン。
周りに人がいないからいいが、誰か居たらいろんな噂が立ってしまう。
それは非常に困るし、フィールドで狙われる可能性が上がってしまう。
よし、早急に引き離そう。
「レン。いつまでも引っ付いていると、フィールドで色んな連中に狙われるぞ。俺も人気だから、数少ない女性プレイヤーに襲われるぞ」
「そうなったら返り討ちにするから大丈夫。エイもいるしね」
「…おっそろし」
少しだけレンの怖い部分を見た気がする。
この手の話をすると、現実政界では不機嫌になる彼女が、仮想世界では返り討ちにするのか。
あぁ、女って怖い。
「とりあえずチュートリアル受けておいで。待ってるから」
「あ。忘れてた。ちょっと待っててね」
レンは俺から離れ、メニューを操作してからチュートリアルを受けに行く。
俺は待っている間に近くのお店に行き、ウサギの様な耳が付いた大きめの帽子を買い、元居た場所に戻るが、レンはまだ戻ってきていなかった。
「結構やられてるのかな。あの教官に」
俺はチュートリアルを受けていないから詳しい事は知らないが、知り合い曰く、結構ヤバイNPCらしい。
どうヤバイかは知らないが、かなり心配だ。
精神的にダメージを追わないといいが。
「大丈夫かな……」
と再度心配していると、目の前に淡い光と共にレンが姿を現す。
かなりげっそりとしていて、相当辛い目に遭ったようだ。
どんな感じなのか聞きたいが、彼女のためにも聞かないでおこう。
「お帰りレン。どうだった?」
「聞かないで。軽くトラウマになりそうだから」
「そっか。で…どこに行く?武器とか必要な物なら一通り部屋にあるけど」
「部屋?マイルームあるの?」
「あぁ。一家でスコードロン組んでるからな。アジトみたいなものだ」
「アジトかぁ…子供の頃に秘密基地とか作ったっけ」
なんとも懐かしい話が出てくる。
そういえば秘密基地とか作ったっけ。
最終的にじっちゃんに見つかって怒られた覚えがある。
「どうする?部屋に来るか店に入るか」
「部屋かな。ちょっと落ち着きたいし」
「了解。こっちだよ」
SBCグロッケンを案内しながら部屋に戻ると、部屋では親父と母さんが寛いでいた。
訳を聞くと、ついさっきまで七色博士と会談していたらしく、ものすごく疲れたらしい。
だが、彼女との仕事は終わったとかで、少し休みを取っていると伝えて来た。
「というわけだから少し休むわ」
「少しだけ仕事をパソコンに転送しているから、時間がある時に頼むよ。例の物も部屋に送っているから」
「了解。んじゃ一旦俺の部屋に行こう。必要な物とか揃ってるし。こっち」
「うん。お邪魔します」
自室の扉に手を触れて鍵を開けてから中に入る。
GGOの自室は、リアルの部屋より一回り大きく、小物を多く置いている。
どれもイベントやエネミーを倒して手に入れた物。
ALOとは違って殺伐とした世界なのだが、結構いい小物が多い。
ので、手に入れたものは飾るようにしている。
「へぇ…リアルと違って広いし、小物も置いてるんだ。意外だね。結構高そうなものもあるけど」
きょろきょろと部屋を見渡すレン。
視線が俺から外れている隙に部屋着に着替え、物置に置いてある扱いやすい銃を一通り取り出してベットの上に置く。
「レン。適正とか聞いてると思うから、適当に選んでよ」
「ありがと。確かサブマシンガン?とか向いてるって」
「成程…となると」
その話を元に、実弾と光学の手頃な奴を取り出して再びベットの上に置き、あとはレンに決めてもらう。
使い勝手とかは、実際に使って貰った上で、彼女のプレイスタイルと相談だ。
「うーん…これかな」
「SPBバタフライか。二つとも持っていったらいい」
「ありがと。弾倉は明日でもいい?もうちょっと街を見て回りたいし」
「分かった。じゃあ今日はここまでかな。帰ってご飯の用意しよう。ユウキがお腹空かせているかも」
「そうだね。今日はありがと。明日もお願いねユキ。お礼は……よし」
レンは大きく手を広げてから抱き着き、そのままベットに押し倒してくる。
それからぎゅーと力を入れて抱き着いてきたので、俺も優しく頭を撫でていると、レンは頬にキスをしてきた。
「どうしたレン?甘えてくるのはいいけど、やりすぎるとハラスメント防止コードが出るから気を付けて」
「え?そんなのあるの?ALOだけじゃなくて?」
「ちゃんとあるよ。確認してご覧?」
「えっと…あ。本当だ」
俺の方からは見えないが、レンからは見えているのだろう。
どういった文章かは分からないが、YESを押した時点で俺は牢屋行きになる。
レンの事だから押さないとは思うけど。
「NOを押してっと…。これってハグするたびに出るのかな?」
「出ると思う。出ないようにするには…ALOだと結婚かな。GGOでは分からないけど」
「結婚…ALOにもあるんだ。GGOにもあったらいいのに。毎回押すの面倒くさいし」
「それはそうだな。ちょっと調べてみる。そういうアイテムあるかもしれないし」
情報屋辺りに聞けば何か分かるかもしれないし、もしかするとエイ辺りが何か掴んでいる可能性もある。
噂にならないだけで、アイテムとかはあるかもしれないな。
「よし…じゃあそろそろログアウトしよう。部屋は隙に使っていいから。鍵だけ渡すよ」
「うん。ありがとユキ。じゃあログアウトしよう」
部屋の鍵を渡してから、ログアウトするのであった。