SAOがデスゲームと化してから一月。
高校が冬休みに入ったので、約束通り東京の羽田空港へと向かった。
久しぶりの飛行機でかなり辛かったが無事到着し、姉貴との待ち合わせ場所であるバイク置場に来ている。
どこにいるか探していると、サイドカー付きのハーレーに腰を下ろして電話している女性ライダーの姿を見つけ、気づかれないように背後に回ると、電話の内容が聞こえてくる。
「あぁそうだ。手順はその通りに。プログラム関係は弟にやらせるから基礎設計等は任せる。あと先方との交渉もだ。大変だと思うが頑張ってくれ」
(うーん。大変そうだ)
そう思いつつ電話が終わるのを待っていると、女性ライダー…姉貴がこちらに気付き、『少し待ってほしい』と合図を送ってくる。
俺も合図を送ってしばらく待つと、姉貴は一息吐きながら電話を切り、軽く頬を叩いてから俺の方を振り向く。
「久しぶりだな弟。元気そうで何よりだ」
「姉貴は死にそうな顔してるけど?」
「当たり前だろ。忙しすぎて死にそうだ。そういうわけでほら」
「っと!」
バイクのキーを投げてくる姉貴。
慌ててキャッチすると続けてヘルメットが飛んできたのでそれもキャッチする。
『あぶねぇ!』と文句を言おうとするが、姉貴はサイドカーに座って『はよ走れ』と合図を送ってくる。
「……分かったよ姉貴。しっかりつかまってろ」
ヘルメットを装着してバイクの電源を入れる。
セルを押してエンジンを始動させたのち、周りを確認してから出発。
行先は自宅だが、かなり距離だあるのでまずは高速道路に向かう。
「ふぅー。いい風だ。安全運転でな」
「分かってる。それより本当にしんどそうだな」
心配して聞いてみると、姉貴はハーレーについているラジオを付けてから話始める。
まず話したのは現状の親父たちの仕事状況。
母さんの方はある程度計画があったので問題ないのだが、親父の方は思ったよりも予定がぎっしり詰まっていたらしい。
医療機器のメンテから開発。
提供病院の視察や打ち合わせと、上げればきりがないほどぎっしりだったとか。
そのことにどうするか親父の仲間と話した結果、先方さんと話をうまくしつつ、ある程度の仕事は俺に回すらしい。
幸いにも先方さんも似たような状態だったらしく、こちらと話を繰り返しながら無理のない程度にと話が収まったらしい。
「おかげで平均睡眠時間2時間でマジで死にそうだった。しかも単位も落とせないし」
「そんな過密スケジュール組むなよ親父……」
生きて帰ってきたら一発ぶん殴ってやろう。
それ位ならきっと許してくれるだろう。
「あと母さんが
「そっか……ってはいっ!?それ本当!?」
「あぁそうだよマジで―――ちょい前!信号赤!」
「っぉ!!」
慌てて急ブレーキを踏む。
おかげで信号無視せずに済んだが、姉貴の胸とお腹にシートベルトが食い込み、めっちゃ痛そうな声を上げる。
「安全運転って言っただろ……」
「ごめん姉貴。続きは高速上がってからにするわ」
「そうしてくれ。下りは空いていたからな」
一旦話を中断して首都高に上がる。
姉貴の言った通り、道は空いておりスムーズに流れている。
これなら予定よりも早く到着しそうだ。
「話の続きだが、完成した薬と調合の内容も書いてあった。使う機器もな。今は薬を作成しながら木綿季に投与している」
「経過はどう?」
「今のところは大丈夫だ。血液の汚染濃度も下がってきてるし、機能が落ちていた臓器も少しずつ回復している。免疫も戻ってきているから、あとは木綿季の体力次第だ」
「そっか。このまま何事もなければいいけど」
こればかりは時の運だろうか。
だけど治すことがほぼ不可能の病気が治る可能性が出てきた。
それだけでもいい話だろう。
ちなみに木綿季という子は、俺や姉貴の妹分のようなもので、彼女が子供の頃からよく知っている。
AIDSという病気にかかり、今はメデュキュボイドという機器に24時間接続され、母さん達の治療を受けているわけだが、もし完成した薬で治れば、彼女はメデュキュボイドから解放される。
そして出会った頃のように外の世界で過ごすことが出来るようになる。
「何事もなければ半年で完治する。そこからリハビリ等をやって、外に出れるのは2年位か」
「2年か。楽しみだね」
「あぁ。何もないことを祈りたい。そういうわけだから年末年始は空けとけよ。初詣のついでに神頼みするから」
それは物凄く大事なことだろう。
今年は頼むこと色々あるから、長くなりそうだ。
「さてと、そろそろ高速降りるし、ちょっと飛ばす」
「おう。再三だが安全運転な」
「分かってるって」
アクセルを回し、制限速度ギリギリの速度で走り、家へと向かう。
渋滞に捕まること無く無事家に到着し、バイクを車庫に入れてから家に入る。
自分の部屋に荷物を置いてからリビングに向かうと、ジャージに着替えた姉貴がソファで横になっていた。
「大丈夫?」
「オムライス食べたい」
「…作れってか。全く……」
やれやれと思いながらも台所に向かい、冷蔵庫の中を確認。
卵や鶏肉、玉ねぎなど必要な具材はあったので取りだし、炊飯器の中も確認。
朝から炊いていたのだろうか、それなりにご飯が残っていたので、これなら2人分作れそうだ。
「ちょっと待ってろ姉貴」
「ん。ニュース見ながら待ってる」
姉貴はテレビの電源をつけ、SAO関連のニュースを見始める。
俺もチラチラとニュースを見ながら、始めにチキンライスを作っていく。
「死者1000人越えたって。となるとまだ 一層の攻略すら出来てなさそうだ」
「多分、なれてないプレイヤーとかが犠牲になっているかもしれない。βテスターは早々やられないと思うけど…ケチャップいれる?」
「いらない。普通の焼き飯がいい」
「ラジャ」
フライパンを暖めて米油を入れる。
ある程度馴染ませてから具材を炒め始めると、姉貴が机の上に置いてあるパソコンの電源を付けたのが視界に映る。
仕事…ではなさそうだが、ちょっと気になるな。
でも、首突っ込むと怒られそうだし気にしないで置こう。
「あー。やっぱダメかー。対策されてるか」
「…?対策って……」
何したんだろうと思いながらサクッと焼き飯とオムレツを作ってしまう。
お皿に盛り付けてからパソコンの横に置いて覗き込むと、見覚えあるアカウントで、何かに干渉しているところだった。
「お、おい姉貴。外部からカーディナルシステムに干渉なんて絶対にするなよ。負荷がかかって何起きるか分からないからな」
「え?そうなのか?じゃあやめる。ま、お前の管理者権限でも無理っぽいし」
『そりゃそうだろ』と突っ込みたかったがやめておこう。
現状システムに介入できるのはゲーム内に居るであろう茅場先生だけだろうし。
「だから例の対策班も名前だけだろうし、今回の事をうまく利用してるんじゃないかな」
「可能性ありそうだな…。ま、私らはには関係ないだろ。はむ……」
パソコンを閉じてからオムライスを食べる姉貴。
それと同時ぐらいに、取材を受けている重村教授がテレビに映る。
親父の同級生であり、工科大学にある研究班を束ねる偉大な人。
あの人も色々大変なんだろうな。
「そういや、弟も教授の元で勉強するのか?」
「うーん…怪物揃いのあの人のもとはな…俺の目標としては親父の方が近いし」
「お前も十分怪物だと思うけど?まぁ目標に関してってなれば父さんの方がいいかもしれないが」
正直悩みどころである。
工科大学を目指している身なので、出来るから教授の元で勉強したいが、大学にも親父の研究班はあるので、そっちで専門的な事は学びたい。
掛け持ちとか出来たらいいのだが。
「お前の目標ってあれだよな。藍子がきっかけだろ?現実世界で生きるのが難しい子が、せめて電子の世界や仮想世界で目一杯生きられるようにしたいって」
「そう。んで、その一貫でこれ作ったんだ」
鞄の中から箱を取り出す。
その箱の中から手のひらサイズの設置型カメラを姉貴に見せると、姉貴は興味深そうに手に取り、カメラを色んな角度から見る。
「へぇ…全周囲型の最新カメラか。どうやって手に入れたんだ?」
「あぁ。香蓮の父さんに譲ってもらったんだ。試作型のモニタリングして欲しいって知り合いに言われたって」
「成程…となると。こいつとメデュキュボイドを接続して、木綿季に外の景色を見せたり会話できるってことか」
「正解。あとは微調整だな」
その微調整を何とか時間を見つけてやらないといけないし、接続テストとかも色々やる必要がある。
対策はいくつかやっているが、実際に繋げてみないと分からないことが多い。
ノイズとか、スムーズに動くかとか、綺麗に見えるかとか。
その場で対処しないといけないことは沢山ある。
「そういう訳だから、メデュキュボイドのメンテついでに色々やっておくよ」
「了解だ。んじゃ明日は朝から行くか」
「オッケーだ。んじゃ準備しますか」
昼食をパパっと食べ、明日の準備を始めるのであった。