香蓮との温泉デートに向け、今日はALOにて両親と作戦会議である。
エギルさんのお店で集合し、詳しい経緯を説明すると、父さんは『任された』と言ったので、このまま解散かと思いきや、話を聞いていたエギルが声をかけてくる。
「温泉と言えば、ウンディーネ領にもあるって話だぜ。だが最近、凶悪なモンスターが現れて利用できないらしい」
「へぇ…ということは、そのモンスターを倒せば利用できるということですか?」
「そうだ。かなり強いらしいから、挑むなら気を付けることだ」
「了解です。それじゃあ……」
父さんたちの方を見ると、二人も興味がある様なので、エギルの店を出て姉貴とユウキを呼び、エギルに教えてもらった場所に移動する。
そこには一人のNPCがいて、パーティーリーダであるユウキが声をかけると、NPCはエギルが言った事と同じ内容を話し、頭の上にクエストマークが付いた。
「マークが付いたね」
「受けなさいユウキ」
「はーい。受注っと!」
クエストを受注した後、俺達は温泉がある場所まで進み始めるのだが、その道中はかなり険しい山で、森がかなり深い。
ウンディーネ領か?と疑いたくなるほどだが、シルフの母さんがいるので道案内は母さんに任せつつ、俺達はエネミーを倒しながら進み続ける。
「そういえばユキト兄。服装また可愛いね。少し前はコートだったのに」
「あ……それは……」
服装の事を聞かれた瞬間、姉貴の目が光る。
今の服装は、姉貴が仕入れた可愛い服装。
再び着せかえ人形になったのは姉貴の仕業である。
「可愛いだろユウキ?今回のはかなり自信がある」
「あー…またユキハの仕業ね」
「全く…いくらユキトのアバターが武器になるとはいえ、やりすぎなきがするが?」
「ボクとしてはかっこいいユキト兄の方が見たいかなぁ…」
「なん…だと……?」
皆から一言言われてショックを受ける姉貴だが、正直なところ言われても仕方がないと思っている。
というか、言わない方が無理がある。
「でも、可愛いユキト兄もだいすきだよ!」
「っとと!いきなり抱きつかない」
後ろから思いっきり抱き締めてくるユウキ。
小さな体は彼女の腕の中にすっぽりと収まり、外から見ると、弟に甘えている姉のように見えそうだ。
「うーん。本当にユウはユキに懐いているわね。眼福眼福」
「いいじゃないか。本当の兄妹みたいで」
「だな……って。今そうなるように頑張ってんだろ?」
(そういやあの話どうなったんだろ?)
あの話とは、ユウキを誰が引き取るかという話である。
ユウキの両親と藍子は他界しているが親戚はいる。
なので、近いうちにユウキは親戚の所に引き取られるのだが、どうもユウキ本人が嫌がっていて、かつ親戚の人もいい顔をしていないらしい。
なのでその辺りをどうするか親父達が話をしているところだ。
「先生達何を話してるのかな?」
「お仕事の話。ところでユウ。君はこれからどうしたい?」
「ふぇ?温泉目指して進むんだよ?」
「そっちじゃなくてリアルの方。親戚の家に行きたい?」
「あー……そっちかぁ……」
ユウキは渋い顔を浮かべた。
その顔を見ただけでユウキの答えは分かってくるし、どうしたいかも分かる。
なら俺は、ユウキの出した答えの背中を押すだけだ。
「親戚の所には行きたくないなぁ…大好きなおにいちゃん達と一緒に居たいし」
「そっか。ならそのことをきちんと伝えないと」
「うん。次の面会の時に伝える。喧嘩になるかもしれないけど、ぶつからないと伝わらないことがあるから」
「そうだな。じゃあそのことを父さん達のも伝えておいで」
「うん!」
元気よく返事をしてから親父達の所に向かい、歩きながら話し始めるユウキ達。
その光景を少し離れた位置から見つつエネミーを倒していく。
暫く進むと、俺の視界に黒く濁った池の様な物が視界に映った。
僅かに熱気の様な物も見えたので、おそらく目的の温泉だろう。
「父さん達。目的地が見えた」
「む。僕達には見えないが……」
「流石ケットシ―の目ね。行くわよ」
駆け足で向かうと、どす黒く染まった池が現れる。
遠目で見た時よりどす黒くお湯がドロドロしていて気持ちが悪い。
近づくだけでデバフが付きそうだ。
「うへぇ…これどうするの?」
「凶悪なモンスターがいるって話だろ。そいつを倒せばいいが……」
「姉貴。ちょっと潜ってきてよ。姉貴の魅力でモンスターを釣ってきてくれ」
「私はルアーかッッ!?」
いいツッコミが帰ってくるが置いておき、凶悪なモンスターとやらは何処にいるのだろうか?
どう見ても池の中に潜んでいそうだが、この場にいるメンバーは水中で行動することはできない。
せめてウンディーネのアスナがいてくれたら話は変わってくるのだが。
「ふむ……この池…温泉は何かに汚染されているようだね。となると近くに何かあるかもしれない」
「汚染?呪いの類いか?」
「汚染…そういえば、SAOでもあったわね。石碑が4つあって、破壊すると浄化されてエネミーが出てくるイベント」
「なるほど。それじゃ別行動だ」
「りょーかい。それじゃメンバー決めちゃおうか」
軽く話し合いをしてメンバーを決める。
姉貴とユウキのペアと俺と母さんのペア。
親父は一人で行動となり、それぞれ周囲を探索する。
その途中で、母さんは右腕に抱きついて密着してきた。
「あのー…母さん?近いんですが?」
「あら。親子の距離感はこんなものよ」
「こんなものと言われても……離れていい?」
「尻尾掴むわよ」
「………」
ニコッと笑いながら母さんは言う。
これは素直にされるがままの方が良さそうだ。
尻尾を掴まれるの嫌だし。
「…で。仕事忙しいわけ?」
「んー。そんなことはないわ。ユキハも手伝ってくれてるし、優秀や部下もいるし。何より仕事も減ってきてるから嬉しいわ」
「医者としては出来る限り病院に来て欲しくないよね」
「その通り。貴方も気を付けなさい。食生活とか」
「大丈夫。婆ちゃんに叩き込まれてるし、毎月大量の野菜が届くから」
「それはよかった。今度ご馳走になろうかしら」
「いいね。いつでもおいでよ」
たまには親に料理を振る舞うのもいいだろう。
中々話せないような事もあるし、香蓮がお姉さん達のところに言っている日にでも招待するか。
そうと決まれば献立考えておかないと。
「あ。見えて来たわね。あれよあれ」
「…成程」
母さんが指を差した場所には禍々しいオーラを放った石碑がある。
いかにも触るな危険といった感じのものだ。
なので触りたくないが、温泉のためにも触れてみよう。
「よーし。私が触るから準備してて?」
「準備…?」
一体何の準備かと考えている間に、母さんは石碑に触れて弓を持ち背後に振り返る。
嫌な予感がしたので俺も振り返ると同時に、目の前を水の斬撃が通過した。
「ちょ―――」
慌てて後ろに飛んで斬撃が飛んできた方向を確認すると、十字槍を持った大きめのサハギンが立っていた。
成程…準備ってそういうことっすか。
というか、石碑に触ったらエネミーが現れるって先に言っててほしいんですけど……。
「さぁ行くわよ。SAOと同じなら結構手強いから」
「結構って…全く、背中は任せたから」
愛剣を両手で構えて迎撃態勢を取ると、サハギンがいきなり突っ込んできて槍を突いてくる。
その突きを最短で避けつつカウンターを入れて空中へと斬り上げたところに、母さんが急所に矢を打ち込む。
矢を撃ち込まれたサハギンは、くぐもった声を上げてから落下し、そのまま消失する。
「流石ユキ。戻るわよ」
「了解(相変わらずえげつないわ)」
矢の速射と命中率に恐怖を感じつつ池に戻ると、先に父さんたちが戻ってきていたので状況報告。
父さん達も石碑に触れてエネミーを討伐したと聞いたが、池はいまだに汚染されている。
ここからどうするかと尋ねると、父さんはある方向を指さし揃って視線を向けると、そこには大きな石碑があった。
「よっし。触ってくるわ。警戒しとけよ」
駆け足で石碑まで向かう姉貴。
触れるまでの間に母さんがバフをかけ戦闘準備をする。
バフをかけ終わってから姉貴に合図を送ると、姉貴は石碑に触れた。
すると、石碑は淡く光り、地面が揺れ始める。
倒れないように気を付けてきていると、湖から大きな飛沫を上げながらとても大きなワニが飛び出してきたーーー姉貴の前に。
「なぁんだとぉぉぉぉ!?」
「お!姉貴の魅力に釣れたな」
「んな事言ってる暇あったら助けろ―――うぉ!」
巨大なワニは大きく口を開けて姉貴を喰らおうとするが、無論そんなことはさせるわけもなく、俺とユウキがアイコンタクトを交わしてから左右に別れ、息を合わせて同時に挟撃を行う。
その挟撃でワニは大きく怯み、その間に姉貴を投げ飛ばした所で親父達は合流した。
「パターンはどうするユキ?」
「αで行こう。ユウキもいいな?」
「おっけ―。全力で行くよ」
「よし、タンクは任せなさい」
雪風家に何個かある連携フォーメーションの一つで、巨大ワニを攻略。
途中で攻撃パターンが変わった所で俺達もフォーメーションを変更。
何事もなく巨大ワニを無事に撃破すると、どす黒く染まった湖が浄化され、綺麗な湖が姿を現した。
「うわぁ…綺麗な湖」
「温泉ではなかったが、水浴びには丁度良さそうだな。行ってきなよ皆。俺は父さんと見張っておくから」
「そう?じゃあお言葉に甘えて」
「サンキューな弟」
母さんたちが水浴びをしている間、俺は父さんと見張りをしながら普段しない話を沢山するのであった。