朝早く、姉と共に横浜総合病院に来ている。
この病院が母の勤務先であり、メデュキュボイドの運用をしている病院である。
また、姉はこの病院系列の大学に通っており、病院の隣には親父の会社---医療機器などを開発している会社がある。
そちらに関しては少し落ち着いてから寄る予定だ。
初めは、今日の予定が終わってから寄る予定だったが、親父の右腕である副所長さんが気を利かせてくれて、余裕がある時に向かうことになった。
そういう訳なので、俺は今、とある病室の前でパソコンと睨めっこしながら作業中である。
「んー…問題はないかな。なんか画像フォルダがぎっしり詰まっている気がするけど……」
メデュキュボイド内にある画像フォルダが、なぜがぎっしり詰まっている。
何が入っているかは知らないが、ある程度余裕がある方が嬉しい……よし。
当の本人に聞くとしよう。
「木綿季。画像フォルダがぎっしり詰まってるけど?」
病室に向けて声をかけると、病室の電気がつき、メデュキュボイドにつながれた一人の少女が視界に映る。
彼女が木綿季―――俺たちの可愛い妹分であり、とても元気で活発な女の子だ。
『本当に?おっかしいなぁ…昨日整理して……あ。雪葉からいっぱい送られてる』
「……あの姉貴め」
余計な手間を増やしやがって。
いいだろう。
今日の晩飯は姉貴の嫌いなもので埋め尽くしてやる。
『えっと。いらないもの直ぐに消すね。ちょっと待ってて』
「あぁ」
少し間ていると、画像フォルダに空きが増えてくる。
大体半分ぐらいなくなっただろうか。
一体どれだけ送ったんだろうか?
『これでいいかな。他は何かある?』
「他は大丈夫。んじゃ始めるか」
カバンの中から設置型のカメラを取り出しパソコンと繋げる。
モニターを出して少し調整した後にメデュキュボイドと繋げ、それから電波の強度を確認した後に木綿季に伝える。
「アプリ出た?」
『うん。これを押したらいいの?』
「あぁ。一番下から二番目に俺のアバターネームあるから押してごらん」
『うん。えい!』
ポチっと音が鳴ったような気がするが…気のせいだろう。
さて…うまくいくだろうか?
うまくいったらカメラのスピーカ―から音が出てカメラが動くはずだが……。
『わわっ!すごくきれいに映ってる!声聞こえてる直人兄?』
「聞こえてるよ。ズームとか出来る?」
『ズームは…うん。直人兄の顔がめっちゃ近くに見えるよ』
「恥ずかしいからやめてくれ……」
どこまでズームしているのだろうか。
実際にどう映っているか分からないから、彼女の感覚だよりに調整しないといけない。
ひとまずはきれいに映っているようでよかった。
ズーム等の動作も問題なさそうだし、アプリのバージョンアップを徹夜でやって正解だったな。
『ねぇ直人兄。一番下のコヒーってもしかして香蓮姉?』
「ん?そうだけど……」
『そっか……よし』
「ちょっと待って。何がよし―――あ」
パソコンと繋いでいるカメラとメデュキュボイドの接続が途切れ、その代わり北海道に置いてきたもう一つのカメラと接続される。
そのカメラは香蓮に渡しており、遠距離の接続テストするから持っておいてほしいと渡してきたものだ。
まぁ接続は問題ないのだが、予告なしでいきなり接続すると、色々と大変な気がするのだが……。
「…大丈夫かな?」
心配していると、案の定携帯が鳴り、香蓮から電話がかかってくる。
スピーカーモードにして出ると、とても慌てている彼女の声が聞こえてきた。
『ちょっと直人!?いきなりカメラが動いてスピーカーから木綿季の声が聞こえてきたんだけど!?』
「あーそれは……」
軽く事情を説明する。
香蓮は直ぐに納得して電話を切った。
あぁ…きっと今頃木綿季をお説教しているのだろう。
「上手くいったみたいだな弟。ほらコーヒー」
「助かるよ姉貴。というか携帯見たら分かるだろ」
「まぁな。我が家専用の通話アプリ。父さんに言われて作ったもんな」
「そうそう。電話が繋げない時の為に」
まだ中学の時に、親父に言われて作った我が家専用の通話アプリ。
よもやこういう形で役立つ時が来るとは思ってもいなかった。
もしくはこうなると親父は予見していたのだろうか。
凛子姐さんからメデュキュボイドを渡されたあの時から。
「そういや一つ気になったけど、アプリのバージョンアップってなにしたんだ?」
「携帯開いてみ。今、木綿季と香蓮が話しているのか表示されてるし、あとグループ通話と増えてる」
「へぇ…って、本当だ。やるじゃないか」
「これぐらいの余裕です。あと各端末の電池残量も示してる。そろそろ香蓮側は切れるから呼び戻さないと」
香蓮にメールを送り、電池残量の事を伝える。
返事は直ぐに帰ってきて、再びこちらのカメラとメデュキュボイドが接続される。
さて……木綿季は香蓮とどんな話をしたのだろうか?
久し振りだし色々楽しい話でもしていたかな?
『香蓮姉元気だったよ。ちょっと怒られたけど』
「そりゃそうだよ。いきなり繋いだら怒るって。でもちゃんと繋がってよかった。何か問題あった?」
『電池の持ち位?もう少しもって欲しいかな』
「多分充電してない。バッテリーは良い奴使ってるから半日はもつはずだし」
『そうなんだ。他には無かったかな?あ、それと香蓮姉が週末にこっち来るって』
む、週末か。
予定では年明けのはずだったのだが、予定変えたのか?
あるいはおじさん辺りが気を遣ったか……。
まぁいいか、色々忙しいし、来てくれるのは助かる。
「せっかくだから甘えれるときに甘えときな。あとデート行っとけ」
「もちろんだよ。買い物もやらないといけないし」
『デートいいなぁ……。ボクも行きたいなぁ……』
「「……」」
ふむ…木綿季も一緒に行きたいのか。
ならその願いを叶えよう。
そのためにこのカメラを作ったわけだし。
「んじゃ行くか。日にち決まったら伝えるよ」
『やったぁ!楽しみにしてるから!』
「あぁ。こっちもきちんと整備しておくよ。接続切るぞ」
『りょーかい』
木綿季の了承を得てから接続を切り、カメラの充電を開始する。
それから木綿季はオンラインの世界に入って行った。
友達と遊びに行ったのだろう。
外に出られなくても電子の世界で元気でいるのはとてもうれしい。
だからこそ薬が上手くいってほしいところだが……。
「さて、私は大学行ってくるわ」
「分かった。俺は帰るよ。部屋掃除しないといけないから」
「ん。頼んだ。じゃ!」
足早に去っていく姉貴を見送ってから、俺も家へと帰った。