年末まであと僅かに迫り、何とか年明けまでに終わらせなければならない仕事を終え、ようやくまともな休みが出来た。
そういうわけなので、以前から計画していた香蓮達とデートする事になったのだが、朝から問題が起きてしまった。
「どうしようナオ。炊飯器と電子レンジが壊れた」
「……えぇ」
昨日まで絶好調だったこの二つが壊れたらしい。
こんなときに壊れなくていいだろうと、思いたくなってしまう。
仕方ない。
今日のデートは買い物も加えるか。
「よし。早めに準備して買いに行こう。ぶらぶらするのは昼からで良い?」
「うん。午前中に買い物済ませよう。準備してくるね」
出掛ける準備に向かう香蓮。
俺も準備を始め、お金や必要な荷物等を鞄に入れてからコートを着る。
あとカメラを忘れず持っていかないと。
他に持っていくのはないかな。
もしもの備えは……いいか。
流石に香蓮がナンパとかされないと思ってるし。
「お待たせナオ。行こっか」
「うん。行こう。その前にこれ持ってて。繋ぐのは昼からだけど」
香蓮にワイヤレスイヤホンを渡す。
木綿季が昼から合流することは話してある。
カメラがやや心配だが、いざとなれば親父の名前を出そうと思ってる。
というわけで、俺と香蓮はバスと電車を利用して秋葉原にある大きなデパートに向かう。
新宿とかでもよかったのだが、一番近いのが秋葉原なのでここにした。
年末が近いので人が多く、やや混雑しているのに加え、香蓮が移動で少し疲れてしまう。
その一番の理由は視線だった。
香蓮程の美人はあまり見ない上に、モデル顔負けのスタイルとなれば視線を集めてしまうのは仕方ないだろう。
「うぅ……なんで東京って人が多いの?」
「首都ですから。加えて年末間近だし」
「だとしとも多いよ。早く行こう」
ガシッと左腕に抱きつきながら手を握ってくる。
香蓮のためにも早々に済ませて、昼からのデートに備えるか。
デパート内にある家電売場に向かい、まず始めに見たのは炊飯器。
色んなメーカーの物があるわけだが、どれもかなり高い。
流石東京、北海道よりずっと物価が高い。
「た、高い……。10万越えるのもあるんだげど」
「色々と機能を付けると値段が上がるからな。だからといって安いの選ぶと直ぐ壊れるし、長い目を見て高性能の物を選ぼう。金は姉貴が出してくれるし」
「そっか。じゃあどれにしようかな……」
顎に手を置いて悩み始める香蓮。
ふむ、ここは香蓮に任せて俺は電子レンジの方を見に行くか。
時間短縮にもなるし、他の買い物も出来る時間が出てくる。
その事を香蓮に伝え、電子レンジ売場に向かおうとした時、ふと視線を感じたのでそちらを見ると、物陰からスーツを着た男がこちらを見ていた。
(……やれやれ。一体何処のどいつだ?)
「ナオ?怖い顔してるけどどうかした?」
「何もないよ。行ってくる」
スーツの男からは視線だけで、怪しい何かを感じたわけでない。
なので少し警戒しつつ電子レンジ売場に向かい、オーブン等の機能が付いた物を選び、香蓮の所に戻ると、香蓮はある炊飯器をジーと見ていた。
「どうした?まだ悩んでいるのか?」
「あ。ナオ。悩んでないよ。もう選んだし。ただ…後の事を考えてただけ」
「…後の事?」
「うん。高校卒業後の事」
高校卒業ってまだあと2年あるのだが……もしかして卒業した後は独り暮らしでもするのか?
まぁ事ある度に自分を変えたいって言ってたし、個人的には大賛成だ。
「独り暮らしするなら、今からでも色々考えて損はないと思うよ」
「え?独り暮らしはしないよ。私は貴方と一緒にーーー馬鹿」
「な、何で?」
何で馬鹿って言われたんだろ……。
何か不味いことでも言ってしまったか?
いかん、どうにかしてご機嫌を取らなければならない。
グレた香蓮は…あぁ、考えたくもない。
「さ、行こっかナオ。日用品とかも見たいし」
「あ…あぁ分かった(……?機嫌損ねてはないのか?)」
やや気になりつつレジに向かい、明日配送して貰う用に手配して貰う。
それから向かったのは日用品売場。
何でもシャンプーやら何やらの予備が無かったらしい。
その理由は何となく分かっているので、後日姉に伝えておこう。
「シャンプーはこれにして……ボディソープはどれがいい?」
「どれって……何でも良いと思うけど?」
「……あっそ」
素っ気ない返事が帰ってきた。
本当に何でも良いから答えたのだが、香蓮が求めていた答えとは違うようだ。
一体どのような答えを求めていたのだろうか。
「あの…香蓮さん?機嫌悪いのでしょうか?」
「別に。昔から変わらないと思って」
「何が?」
と聞き返すと、香蓮は『そういうところ』と返ってくる。
一体どの部分なのか全く分からないので考えているうちに、香蓮はテキパキと籠に必要な物を入れて俺の手を掴む。
「ほら。時間押してるから次行くよ」
「ととっ!」
手を引っ張られながらレジまで向かい、会計を済ませる。
これで一応必要な物は買ったので、あとはゆっくりぶらぶらするだけなのだが、時計を見ると時刻は11時。
いい時間なのでお昼にすることになり、飲食可能な場所に移動し、あまり人にいない場所の席に座る。
それから香蓮が持参していた3段の重箱をを取り出して並べていく。
一段目はおにぎりが詰められ、2段目には天ぷら、3段目は煮物や厚焼きの卵焼きなどは敷き詰められていた。
「珍しく気合入っているね」
「たまにはね。久しぶりのデートだし、こっち来る前におばあちゃんに色々料理教わったし」
「成程。では頂き―――っと。メールだ」
「もしかして木綿季?」
「かもしれん。昼頃連絡するって言ってたし」
携帯を開くと、予想通り木綿季からのメールで、俺と香蓮はイヤホンを装着してからカメラを起動させると、いつもと変わらない元気な声が聞こえてくる。
『お早う!直人兄!香蓮姉!』
「お早う。調子良さそうだな」
「元気そうで良かったよ」
『うん!めっちゃ元気だよ!所でそのお弁当は?」
「これは朝から香蓮が作ったんだよ」
『愛妻弁当って奴?』
「そうだよ。愛情込めて作った愛妻弁当」
うーん、結婚してないから愛妻弁当というのはおかしい気がするのだが……まぁいいか。
とりあえず木綿季も合流したことだし、お弁当食べながら昼からの予定を組もう。
「で。木綿季はどこ行きたい?」
『色んな所』
「大雑把だね。ちなみに直人は?」
「俺は……」
いつも来ているデパートだし、今さらどこ行きたいとかでも無い。
強いて言うならデパ地下か。
店のラインナップ変わっているだろうし、美優にお土産買わないと行けないし。
香蓮パパ達にも買って帰りたいし。
「デパ地下だよね直人。東京行く度にお高いお菓子買ってきてるし」
『デパ地下かぁ……昔に姉ちゃん達と行ったきりかな。色んな美味しい物が並んでて全部欲しいって言ったっけ』
「全部って…それはお金が辛いと思うけど……」
『うん。だからといつもアレを買ってたんだ』
「アレ?アレって何?」
木綿季の言うアレには心当たりがある。
まだ両親や藍子が生きているときに、多忙な親父達に差し入れで持っていった奴。
それを木綿季と藍子に上げて、とても嬉しそうに、美味しそうに食べていたのを覚えている。
『まだ売ってるのかな?』
「じゃあ行ってみよう。どのみちお土産買わないといけないし」
「そうだね。私もお父さん達に頼まれているものあるから」
「よし決まり。混む前に行こう」
香蓮に感謝しながらお弁当を食べる。
時折、香蓮にレシピを聞きつつ、木綿季と話しているとあっという間に重箱が空になる。
結構な量があったから少し残るかと思いきや、そんなことは全く無かった。
「ごちそうさまでした」
「美味しかった?」
「はい。とても美味しかったです」
「それはよかった。頑張って作ったかいあった」
「本当にありがとうございます」
再度感謝すると、香蓮は嬉しそうに微笑みながら重箱をしまう。
それからデパートの地下へと移動し、木綿季の求めるアレを探しながらお土産を物色することに。
肉類から海鮮、パンやお高いお菓子が並んでおり、それらを見た木綿季の目がとても輝き、香蓮は何度も足を止めては『これはどう?』と聞いてくる。
その度に『香蓮が決めたらいい』と返答するとなぜか顔がムスッとし、木綿季から呆れられてしまう。
特に問題のある対応をしているわけではないと思うのだが、いまいち香蓮の求めているものとは違うらしい。
『ねぇ直人兄。香蓮姉は直人兄と一緒に決めたいんだよ』
「だったらそう言えばいいけど?」
『そうじゃなくて……むむ。こういうときはどう言えば良いんだろ?』
「いいよ木綿季。直人は昔からだから。なのでお父さんのお土産は直人が決めて」
「分かった。なら良い店知ってるから行こう」
向かったのは親父達か愛用している茶葉売場。
結構な値段がするのだかとても美味しい。
三種類ほど選んで購入し、それに合うお菓子も買っていく。
「これで良いか。次…というか木綿季。アレ見つけた?」
『うん。さっき調べて場所見つけた』
「ん。次はそこだね。行こう直人。あと人多いから手繋いで」
「いいよ。ほら」
はぐれないようにしっかり手を繋いで移動する。
向かったのはとても美味しくて有名なバームクーヘンのお店。
丁度焼けた後らしく、とてもいい匂いが漂って来る。
かなりタイミングが良かったようだ。
「いい匂い。これっておじさん達がよく食べてる奴?」
「そう。親父達の好物だな。丁度いいし姉貴や親父の会社に持っていこう。姉貴に伝えてくれるか木綿季?」
『うん。伝えておくよ。それにしても懐かしいなぁ…』
とても懐かしそうにしている木綿季。
このバームクーヘンは、彼女にとって大切な思い出の一つなのだろう。
まだ元気だった頃の。
「……退院したら買いに来ようか木綿季。だから頑張って」
『うん。頑張るよ香蓮姉』
「その意気だ。よし、買ってくるから待っててくれ」
店員に大きさと数を伝えて購入。
小さな紙に誰に渡すかを書いてから香蓮達の所に戻る。
これで目当ての物は買ったので、これからどうするか二人に聞くと、木綿季は姉貴に呼ばれたらしいので別れることに。
香蓮は特に無いとの事なので、帰路に付くことにした。
その途中で、上手いことスーツの男を巻き、家へと帰ると、香蓮が背後から抱き締めてきた。
「どうした?」
「んー…ちょっと甘えたい気分?」
「そっか。でも御飯食べてから。待ってて、直ぐ作る」
「うん。お願いします」
香蓮が離れてから台所に向かい、晩御飯の準備を始めるのであった。