唐突だが、現在俺は色んな意味で死にそうだ。
その理由は一つ。
今日は大学の一次入試があり、一週間前から東京に来ている。
で、その入試帰りに病院により、姉貴と入試の手応えについて話をしていた。
「めっちゃ難しかった。結構ガチで勉強したのに」
「お前が言うなら相当だな……」
時々かなり問題が難しい時があるらしい。
特に倍率が高い時がそうだ。
今年は特に高く、確か3.5倍だったかな?
SAO事件がきっかけで、各工業大学への入学希望が多いらしい。
加えて東都大学は先生の母校ということもあり、異様に多かった。
しかも受けたのが工学科ということもあり、結構多かった。
「はぁ…マジで落ちたらどうするか」
「香蓮との同棲は無くなるな」
「あー…そういえば香蓮は東京の名門女子大学だっけ。受かったら凄いよな」
「しかも中学から大学まで一貫してるところの外部受験。受かったらヤバイ」
下手したら東都大学より難しい可能性が出てくる。
受かったらマジで凄いな…確か入試は月末だったか。
今頃必死に勉強してるんだろうな。
あまり刺激しないでおこう。
「そういえば直人。今月で2年だな」
「そうだな…色々あったが父さんも母さんも無事だ。いつ…帰ってくるかな?」
あと少しで丁度二年。
SAOがデスゲームと化してから二年経つ。
そろそろクリアするころだろうか。
いっぱい話したいことがあるから、早く帰ってきてほしいところだ。
「姉貴の調子はどう?無理してない?」
「してない。一人じゃないからな。だが今は…腹減った」
「そうか。じゃあオムライスでも作ってくるよ」
「頼む4人分な」
「はーい」
研究室に常備してあるキッチンに向かい、冷蔵庫の中から材料を取り出していると、扉がほんの少し空いていることに気付く。
間から見覚えある顔が見えたので、ゆっくりと扉を開けると、壁に張り付いている木綿季が居た。
「木綿季?一緒に作る?」
「うん!一緒に作る!」
ニコッと微笑む木綿季と共にキッチンに戻る。
それから作り方を教えながら、実際にやってみることに。
「えっと。まずはフライパンを温めて……油を敷いて……」
言われた通りの手順で作っていく木綿季。
途中で具材を炒めてから白米を入れようとしたので慌てて止める。
別に入れても構わないのだが、別々で炒めた方がいいので分けてもらう。
(ふぅ…気を付けないと)
「んと。ここでケチャップかな?」
白米に直接ケチャップをぶちまけようとする木綿季。
それもまずいので一旦止めてもらい、スペースを開けた場所に必要な量だけ入れて、ある程度水分を飛ばした上で混ぜるように伝える。
「これでいい?」
「おぅ。それじゃあチキンライスを4等分ね」
「はーい」
お皿を四つ用意し、オムレツが綺麗に乗るように形を整えて四等分する。
で、問題はこのオムレツなのだが、これは手本見せた方がいいか。
「まずは俺がやるから見てて」
「うん」
フライパンを軽く温めて油を敷き、卵を入れる。
菜箸で軽くかき混ぜてから固まるのを待ち、少し固まったのを見てから上手にひっくり返す。
「よっと。あとは乗せて……」
チキンライスの上にオムレツを乗せると、木綿季はナイフを持ってスタンバイしていた。
しかも目が超輝いており、ものすごく切りたそうにしている。
「切っていいよ木綿季」
「いいの?」
「いいよ」
「やったぁ!」
嬉しそうな表情をあらわにしながらオムレツを真ん中から切ると、中から半熟の卵が現れてチキンライス全体を包み込む。
その光景を見ていた木綿季の目はとても輝いていた。
よし、切るのは木綿季に任せてオムレツは作っちゃおう。
そんなわけで残りのオムレツはパパっと作ってしまい木綿季に切ってもらう。
それからみんなのもとに持っていくと、姉貴の部屋にあるメガネの男が居て、話をしていた。
「やぁ直人君。久しぶりだね」
「何しに来たんだよ菊岡さん」
「少し用があったんだ。あぁきちんとお礼の品は持って来てあるから」
紙袋を見せてくる菊岡。
あたかも俺が引き受けるのが確定しているような流れだ。
もちろん引き受けるかは内容次第だ。
「とりあえず座れ弟。食べながら話す」
「了解。ほら」
オムライスを姉貴に渡し、菊岡の向かいに座る。
食べながら進展を軽く聞き、これからの予定とか、人口島とかの話をしている間にも食べ終わる。
その後に、菊岡は一冊のパンフレットを見せてくる。
そのパンフレットに書かれていたのは、SAOから帰還した中学生から高校生に向けた学校。
すでに建設は完了しており、彼は今色んな病院に行ってパンフレットを渡しているらしい。
「確か雪葉先生の所にも何人か入院していましたよね?」
「あぁ。30人ぐらいだな。こちらで手配しておくが、一応説明会は開いた方がいい」
「もちろん。私が説明するので、予定を組みましょう」
「それもクリアされたらの話だが」
だが、学校の話は魅力的だな。
SAOの帰還者だけじゃなく、引きこもった子とか、不登校子供とかが通えたら、もっといい影響が出そうだ。
他にも、病気で長期入院して勉強が遅れた子供とかも。
「……ふむ」
「弟?どうかしたか?」
「ちょっと考え事。木綿季を呼ぶよ」
電話で木綿季を呼ぶと、すぐに来てくれて、俺の膝に座る。
それから学校のパンフレットを見せると、とても興味深々に見たが、どこか辛そうな顔を浮かべる。
その理由をこの場で知っているのは俺と姉貴だけだ。
「……学校か。中学は通えなかったから行ってみたいけど……」
「何かあったのかな?紺野さん?」
「まぁ…色々と。病気関係でね」
「「……」」
病気の影響で苦しんでいる人は多い。
木綿季も入院する前はいじめに近い事がされていたのを藍子から聞いたことがある。
詳しい事までは聞かなかったが、結構酷かったらしい。
時々病室で母さんに相談して泣いてたぐらいだし。
「あの…ボクも通ってもいいんですか?」
「もちろん。君のお兄さん達にはお世話になっているからね」
「そうですか……」
パンフレットと睨めっこを続ける木綿季。
相当悩んでいるようだ。
ここは…背中を押すべきだろうか?
だけど出来れば木綿季が一人で決めてほしいし……。
「まだ時間はあるからゆっくり考えな木綿季。慌てずに」
「うん。ちょっと考えるよ。ありがとう雪葉」
「……(ナイスだ姉貴)」
一旦学校の話は先延ばしになり、菊岡は帰って行った。
その間際に『おじいさんによろしく』と言い残して。
「はぁ…マジで何を考えているのやら」
「あぁいうやつは信じられん」
「その通り。さて仕事しますか。すまなかったな木綿季」
「ううん。いいお話聞けたから。ちょっと真剣に考えてみる。それじゃ」
膝から飛び降りて病室に戻る木綿季。
それを見送ってから、姉貴の仕事を手伝うのであった。