11月の下旬になり、東京はかなり寒くなってきた。
ちなみに北海道は一面雪で、その光景を見た木綿季のテンションがかなり上がっていた。
どこかで一度連れて行くのもいいかもしれない。
そんな中、香蓮の受験が昨日あって東京に来ていたが、俺と同様に燃え尽きていた。
流石に真っ白にはなっていないが。
「その…大丈夫?」
「……ダメ」
「ダメかぁ……」
研究室の机に伏っしている香蓮。
そんな彼女の頭を優しく撫でるが復活する傾向がない。
まぁ俺もこんな感じだったし、自立復帰してもらうしかないね。
「ナオ…ぎゅーして」
「良いよ。おいで」
両手を広げると、香蓮は抱き着いてきて、そのまま顔を胸に埋める。
よしよしと頭を撫でていると扉が開き、見覚えある白衣の女性が封筒を持って入ってきた。
「あ…もしかしてお邪魔ですか?」
「いえ。お構いなく雨宮さん」
白衣の女性は親父の会社の社長さんで名前は雨宮さん。(親父は会長兼研究主任)
親父がいない中、必死に会社を運営してくれている。
そんな人が病院に来るのは珍しいので訳を聞くと、東都大学から封筒が届いたとかで持ってきてくれたらしい。
早速受け取って封を切ると、中には一枚の紙と書類が入っていた。
「ねぇナオ。これって…」
「……多分そうだな」
中に入っている物は自然と分かる。
紙と書類ということは、合格通知と入学に必要な書類か。
でも待って、必ずしもそうという訳ではないので、ここは姉貴見てもらおう。
という訳で、姉貴を呼んで中身を見てもらおうと思たのだが、姉貴は思いっきり睨んでくる。
そんな顔しなくても…と言いたいが、姉貴も俺の心情は分かってくれているので、中から紙を取り出して確認する。
「えっと……あーこいつは」
「え?何?どうなの?」
「どうって……」
もったいぶって言おうとしない姉貴。
姉貴は昔からこういうのはもったいぶって話さない人だ。
そのせいで何度も胃が破壊されてきたか。
それを、今回のような人生左右するようなことでも平然とやる女だから性格悪いんだよ。
「その…雪葉さん?言ってくれないと困るんですけど?」
「何で?同棲出来ないから?」
「ちょ―――!」
香蓮の顔が真っ赤に染まる。
はは…本当にいい性格してるよこの女。
今度ALOで背後からぶっ刺してやる。
「で。結果だが…合格だ。安心しろ。つかあれだけ勉強したら落ちないだろ」
「でも怖いんだよ。はぁ…よかった」
力が一気に抜ける。
何とか大きな山を乗り越えられたか。
ということは、あの書類は入学に必要な物か。
北海道に帰ったら書かないといけないなぁ。
「よかったね直人。無事合格」
「うん。あとは香蓮だな」
「うぅ…そうだね。あぁ…受かってるかなぁ……」
いまにも気を失いそうな感じだな。
そうなる前に休む方がいいだろう。
なので、休憩室に案内し、ちょうどリハビリを終えた木綿季が休憩していたので、香蓮を彼女に任せ、それからじっちゃんと美優にメールを送る。
「うっし。親父への報告は後回しにして、一旦ALOだな」
姉貴の部屋に戻ってALOにログインする。
向かうはシルフ領なのだが、向かう前にアリシャにつかまってしまった。
その訳を聞くと、丁度彼女もサクヤに用がありシルフ領に行こうとしたのだが護衛がおらず、そんなときに俺を見かけたらしい。
「というわけでよろしくネ」
「はいはい」
空を飛びシルフ領へと向かう。
道中で何人かのプレイヤーと遭遇するが、大した相手ではなかったので軽く蹴散らしていく。
「うーん。プレイヤーが多いな」
「しかもサラマンダーばかり。なんでかナ?」
「さぁな。もしかして同盟が気に喰わないとかか」
「同盟…ね」
シルフとケットシ―は裏で同盟を組む話をしている。
今回シルフ領に行くのもそれが理由だろう。
その同盟の話を知っているのはごく一部の者のみ、
領内で役職を与えられている者や、俺のように謎に信頼されている奴など。
決して他の領主などが知っていることはあり得ないのだが、このサラマンダーの遭遇率を考えると、少し疑いたくなってくる。
「ま、ケットシーの仲間を疑っているわけではないが…っと。あれは」
「おや?見覚えある2人だネ」
シルフ領近くの森で2人のエルフが10人のサラマンダーと戦闘している。
そのうちの1人はフカ次郎で、もう1人は金髪ポニーテールのリーファだったかな。
ともあれ、かなりピンチなのが分かるので、助けに行こう。
「んじゃ領主殿。また後で」
「オッケー。思いっきりやっちゃっていいヨ」
アリシャの了承をもらったので派手に行かせてもらおう。
手始めにフカ次郎を背後から襲うとしている槍野郎を蹴り飛ばす。
「っ―――ユッキー!?」
「ユキトさん!?」
「おぅ。フカは兎も角リーファは偶然だな。こっちは任せな」
愛剣を抜刀すると、蹴り飛ばしたサラマンダーが槍で突貫してきたので、ギリギリで回避しつつ袈裟斬りで両断して仕留める。
「はい次…と。囲まれたか」
斧と盾をもったタンク4人に囲まれる。
残りの5人はフカ次郎達と戦っていてやや押されている。
成程…チビの俺はパワーがないから一旦押さえておいて、厄介な方を集中して倒すってか。
いい作戦だが、生憎とパワーのあるチビなのでね。
そうじゃないとこんな大きい剣を片手で扱うか。
「悪いな。あの2人が倒れるまで遊んでもらうぜ」
「…本当。新入りは見ただけで判断する。古参は俺を見たら逃げるんだがな」
光焔の剣を振り上げる。
自然と周りのプレイヤーは警戒して盾を構えるが、構え方が甘い。
もっと腰を低くしないと、一撃で消し飛んでしまう。
「とりあえず邪魔だから」
一番近くにいる奴に向けて振り下ろす。
真正面から受けたプレイヤーは、軽々と地面にたたき落されてしまう。
その光景にギョッとした目で見て隙だらけの残り3人も、同様に地面にたたき落す。
「うっし。次!」
後方から魔法を放っている2人を、後ろから真っ二つに斬る。
魔法による支援がなくなり、残りの3人はフカ次郎とリーファの連携で倒した。
後は地面に叩き落とした4人だが……さて、どうしたものか。
「どうする?」
「やるに決まってんだろ。やられたらやり返す主義なのでね」
「…というわけなのでもうちょっとだけ付き合ってください」
「おぅ」
残りの4人もきちんと始末し、周りには綺麗な赤い炎が点々としている。
しかし…なんでこんなところにサラマンダーの1部隊がいるんだ?
色々と気になるが、まぁいい。
何かあればアリシャが頼んでくるだろ。
「んで?私を呼んだ理由は?」
「ちょっと先生に伝言頼みたくてね。どっか店入ろうよ」
「いいぜ。奢りなら。勿論リーファの分も」
「え?いいんですか?」
「いいよ。行こうか」
3人でシルフ領の宿に向かって、それぞれ欲しい物を頼む。
俺は紅茶を頼んだのだか、フカ次郎は大きいアップルパイを頼んでリーファと食べている。
野郎、奢りだからって高いのを選びやがったな。
「で、先生の伝言だが、大学合格したって伝えておいて」
「お。それは良かったなユッキー」
「おめでとうございます!」
2人から祝福の言葉をもらい、フカ次郎は親指立てて『任せとけ』言った。
ちなみにフカ次郎は地元の大学を受ける予定らしく、ボチボチ勉強しているらしい。
「あとはコヒーか。受かったらやべぇよな」
「やばいよ。外部受験で受かったら超やばいよ。絶対香蓮一家でお祭り騒ぎだよ」
多分我が家も巻き沿いにしてパーティー確定だろうな。
東京にいるお姉さんとか帰ってきそう。
それぐらい香蓮が受けた大学はやばいのだ(いい意味で)。
「ともあれ、いい話聞けたし、このまま続けばいいんだけど」
「そうだな。いい話続けばいいんだけど」
例えばSAOがクリアされたとか。
俺の大学合格以上にいい話になるだろう。
そろそろ2年経つわけだし、クリアされてもいいんだが……。
「帰ってこないかな…父さんと母さん」
「そうですね。お兄ちゃん早く帰ってこないかなぁ……」
リーファの兄もSAOのプレイヤーらしい。
親父達と一緒に攻略していそうな気がしそうだ。
その辺りも、帰って来てから聞いてみよう。
「帰ったら起きてたりして」
「だとしたら嬉しいよ。どれだけ夢見たか」
「分かりますその気持ち。毎日お見舞い行って、起きてたら嬉しいなって」
俺もその気持ちは痛いほど分かる。
稼働当初は、病院に来るたびにお見舞いに行って祈っていたし。
でも一年経ったぐらいからやめた。
それぐらいから余計なお世話って言われそうな気がしたんだよね。
「……久々に顔見に行くか」
「その方がいいぜ。本当に起きているかもな」
「そんな気がしてきた。リーファも会いに行ったら?」
「そうですね。ちょっと行ってきます。それでは」
リーファが退席した後に、俺もフカ次郎と別れて部屋に入りセーブ。
それからログアウトすると、部屋に姉貴が居ないことに気付く。
仕事の戻ったのかと思い、姉貴の仕事部屋に向かうがいなかった。
それどころか、研究室には倉橋先生しかおらず、香蓮も木綿季もいない。
「買い出しでも行ったのか?まぁいいか」
どうせ帰ってくるだろうと思いながら、親父と母さんが寝ている病室に向かうと、中から姉貴達の話声が聞こえてくる。
中でも姉貴と木綿季はやや涙声だ。
それを聞いてとても嫌な予感がした俺は勢いよく扉を開ける。
「姉貴!何が―――え?」
姉貴に聞いたが、言葉が途中で止まる。
何故なら、姉貴の前にはナーヴギアを外して上体を起こしている母さんの姿があった。
その隣のベットでは木綿季と話している親父の姿。
それを見て、俺は言葉が全くでなくなり、石のように固まった。
「だ、大丈夫ナオ?」
「おい。意識あるか弟?」
「直人兄?」
何か言っているようだが、頭に入ってこない。
だけど、親父と母さんが起きている事だけは分かる。
ということはつまり……SAOがクリアされたということだ。
「あ…えっと……」
何とか声を出そうとすると、母さんがゆっくりとベットからおり、姉貴に肩を借りながら前まで来る。
2年前より痩せ細ったが、あの時と変わらないぐらい小さくて可愛い母さん。
俺と目を合わせると、優しく微笑みながら、大きく両手を広げて抱き締めてきた。
「ただいま…ナオ。苦労を掛けたわ」
「あ…っ。いいんだよ。お帰り。母さん、父さんも。お疲れ様」
泣かなように堪えながら微笑んで母さんを抱きしめると、父さんも背後から抱きしめて来た。
あぁ…夢じゃない。
本当に、帰って来たんだ。
(本当に…よかった)