囚われの姫
SAOがクリアされて早くも一か月半。
囚われていた約6000人のプレイヤーが現実世界に帰ってきた。
そのうちの一人であった親父と母さんも帰ってきて、空いた2年を埋めつつ仕事復帰に向けたリハビリをしている。
俺も冬休みに入ったので、両親のリハビリの手伝いと、春からの上京に向けて足を運んでいた。
そして、今は先日入ったある朗報について、母さんと話をしていた。
「へぇ…じゃあ香蓮も合格したのね。良かったわ」
「あぁ。泣いて喜んでたよ。おじさんとおばさんが」
「そっち?香蓮じゃなくて?」
「そう。香蓮じゃなくて」
香蓮の合格通知。
これは、ある意味で俺の合格よりも凄い事である。
両親は大喜びし、ちょっとした宴会が開かれ、家族一同が集まったのだ。
俺も呼ばれて、やや酔った香蓮パパの相手をしたりなど大変で、それを見てた香蓮ママに連行されたのは少し同情し、いつか香蓮もあんな感じになるのかと想像してしまった。
「相変わらず親馬鹿というか。小比類巻さんは変わらないわ」
「それは母さんもだろ。なんで俺の膝の上?」
「良いじゃない。息子の成長を近くで見れるから。それに、小さい私はナオの腕の中にすっぽり入れるし」
「あのね……」
母さんだって結構いい歳(なのに見た目20代後半)だから遠慮してほしい。
いくら身長が155センチで小さいからって、やっていいことがあると思う。
というか、母さんだけ小さいんだよな。
我が家は皆、170センチ超えてるのに。
「そういえば父さんは?さっきどっか行ったけど」
「キリト君と話してるわ。ちょっと相談事があるとかで」
「キリトって…茅場先生を倒したっていう……」
黒の剣士キリト。
二刀流の使い手にし、茅場先生…ヒースクリフを倒してSAOをクリアした英雄。
途中まで親父達は一緒に攻略してたって言ってたか。
それにしても、どうやってこの場所を知ったんだ?
「昨日はフィリアにレイン。今日はキリト……。色んなプレイヤーと縁があったんだ」
「そうよ。でもそれは貴方も同じ。妖精の世界で色んなプレイヤーと繋がってる」
「そうだけど……っと。父さんが来た」
ノックがされてから扉が開き、白衣姿の親父がタブレットを持って入ってくる。
キリトは既に帰ったらしく、何を話したか伝えに来たらしいが、本命は俺らしい。
「話しているところすまないね直人。これを見てほしい」
親父はタブレットに映っている画像を見せてくる。
見覚えのある景色と、ぼんやりと映っている一人の女性。
これは…ALOか、しかも世界樹の上の方。
「これは……世界樹の上の方か」
「そうだ。なんでも五人のプレイヤーがロケット形式で飛び、撮ったものだ」
「へぇ…。こんなところに誰かいたんだ。ほら母さん」
「どれどれ…え?」
母さんに見せると、母さんは大きく目を見開き、親父の方を見る。
おや?と首をかしげると、母さんは真剣な表情を浮かべた。
「この子はアスナ。SAOのプレイヤーで、いまだに目覚めない子よ」
「目覚めないって…そういえば菊岡が言ってたな。200人ぐらいいて、ちょっと調べて欲しいって」
「そうだ。で、直人の意見を聞きたい」
「意見って…」
なぜ目覚めないかは正直分からん。
そしてアスナがALOにいる理由も。
しかし…アスナがいるならほかのプレイヤーもいると考えるのが妥当か。
問題は『どうやって』と、『何故』か。
確かアミュスフィアを開発したのはレクト社で、ゲームを作ったのは須郷さん…あれ?
須郷さんと言えば、重村教授から何か聞いたような……。
「めっちゃ話変わるけど、須郷さん結婚するらしいよ。レクト社CEOの娘さんと。確か…結城明日奈さんだっけ」
「……結婚。それもその名前って」
「どう考えても……」
「偶然…じゃないわね」
ALOにいるアスナと須郷さんの結婚相手の明日奈。
そして彼女の状況をから考えると、導かれる答えは一つしかない。
だが問題は、どうやってアスナをALOに導いたか。
いくつか考えられるが…証拠がない。
「一体どうやって…僕はALOがどういった世界か分からないから何も言えないね」
「類似してるってユウから聞いたわ。違うのは空が飛べて魔法があって、ソードスキルがないのと、他にも小さな違いがあるって」
「あぁ。それ以外は全くと言っていいほど同じ……。まてよ。今更だけどあの人の頭でどうやってALOを作ったんだ?」
「されげなく酷いこと言ったわね……」
実際言っていることは間違っていない。
須郷さん優秀だが、歴代の重村ラボの中で言えば下の方で、茅場先生や凛子姐さんと比べると、かなり劣ると思う。
となると、やっぱりあの人SAOをパクったな。
なら、アスナを含めたプレイヤーが目覚めない理由も見当がつく。
恐らくカーディナルシステムを常時モニタリングして、ログアウトの処理が始まった瞬間に出口を操作しやがったな。
本当にSAOをパクったなら、それぐらいは可能だろう。
まぁ…推測だし、証拠無いから絶対とは言えないけど。
「推測だけど、出口を操作した可能性がある。多分須郷さんの仕業」
「何でこんなことを…まぁそう決まったわけではないとは思うけど」
「ふむ…茅場君の事を大分妬んでいる感じだったからね。色んな心情があるのだろう」
「……」
さて…親父達はどう出るのか。
流石に助けに行く…はないと信じたい。
キリトが動いているなら、親父達が動く必要はないはずだ。
「よし。行くわよ空。ALOに」
「そうだね海。僕達も行こう」
「……(やっぱそうなるよねー)」
そんな感じはしていたよ。
助けに行かないわけないよねこの二人が。
だけど…世界樹に行くのはお勧めしない。
あの場所ほど行く意味がない場所は無いから。
「ナオ。手を貸してほしい。私と父さんを世界樹まで案内してくれる?」
「無理強いはしない。時間がないなら僕達で何とか行って見せるから」
「……」
個人的には断りたいが、頼まれて断るなんて出来ない。
それに、もしかすると今回は行ける可能性もある。
親父や母さん…SAOプレイヤーというイレギュラーが加われば、あの扉の向こうに行ける可能性もある。
なら…俺の答えは決まっている。
「分かった。なら早速行こう。ナーヴギアでもプレイ出来るから」
「ありがとうナオ。では30分後に合流ね。初期エリアで待ってるわ」
「済まないが迎えに来てくれると助かる」
「分かってるよ。先に母さんから迎えに行く。そっから父さん。知り合いいるし声かけとくよ」
「うん。じゃあまた後で」
よし、そうと決まれば直ぐに動こう。
その前に二人がどの種族を選ぶか聞いておかないと。
知らずに行って全部回るとか勘弁したい。
「因みに種族は?」
「母さんはシルフで僕はノームだね」
「了解。シルフにノームっと。んじゃ先行ってるから」
休憩室に移動してからALOにログイン。
宿を出る前に親父達にあった装備があるか確認する。
SAOでは、親父は片手斧と大盾を装備し、母さんは短剣だったらしい。
なので念のために確認すると、三つともあった。
防具に関しては後で考えよう。
「行くか」
シルフ領に向けて出発。
いつも通り今日も晴天で雲一つない。
加えてプレイヤーもいないので、かなりいい日なので早くシルフ領へ向かおう。
ナーヴギアでログインしているなら、現実世界と瓜二つのはずだ。
なので、もし子供扱いされたら…あぁ、考えたくもない。
「急ごう。いろんなプレイヤーが被害に遭う前に」
やや全力で飛んでいると、平原に一人佇んでいる見覚えあるプレイヤーがいた。
緑の髪に尖った耳。
そして俺と同じぐらいの身長でかわいい女性プレイヤー…。
どっからどう見ても母さんだ。
何でこんなところにいるんだろ……。
とりあえず声かけるか。
「母さん?」
「あら……?ナオ…じゃなくてユキ?ここはどこ?」
周りを見渡しながら聞いてくる母さん。
ここは中立地帯であり、シルフ領とケットシ―領の間であることを伝える。
その上で念のために母さんにこの場所にいた理由を聞くと、ログインしたらこの場所にいたらしい。
それで、少し体を動かしながら周りを見ていた時に声をかけられたとのこと。
「成程…ナーヴギアでログインしたからか…っとそうだ。コンバートしたならアイテムも引き継がれてる?」
「それなら心配ないわ。全部消去してるから。流石に色々とまずいし」
流石母さん。
となると親父も同様に対応しているか。
SAOのアイテムをALOに持ち込んだらどうなるか。
バグやらが発生してとんでもないことになるかもしれん。
「さて。次はあの人かしら」
「そうだな。ノーム領まで飛んでいこう。えっと、飛び方教えるから」
「飛び方ね…うん。その前に合流しよう。担いで飛んでくれる?」
「えぇ…まぁ一緒に教えた方が早いか。分かった」
母さんをお姫様抱っこしていざノーム領へ。
少し距離があるので他のプレイヤーと遭遇するかと思ったが、遭遇することは全くなく、道中は空から見える景色を楽しみながらこの世界の事を説明していた。
「へぇ…弓があるのね。魔法も改めて聞くと便利だわ。弓道やっていた身からしたら最高の武器」
「ならあげるよ。実はいい弓持ってて」
メニューを開いて、ストレージにあるアルテミスの弓を取り出す。
弓の中でも上位に君臨する弓。
レジェンダリーウエポンには劣るが、性能はかなりいい方。
一時期弓も試すかと思ったほどだ。
「ほら母さん」
「…何その弓?どう見てもレア武器でしょ?」
「光弓に比べたら劣るよ。一回取りに行こうか悩んだけど、面倒だからやめた」
「分かるわその気持ち。欲しい武器ほどレア度高くて難しいのよ」
「デスゲームならもっと難しいよね……」
となると、あの世界では鍛冶師の需要が高いだろう。
それなりにレアな素材があれば高性能の武具を作れるだろうし。
確かリズベットっていう鍛冶師がいたんだっけ?
この世界もレプラコーンっていう鍛冶に特化した種族があるから、会う機会あれば依頼してみるか。
「そういうわけだからどうぞ」
「ありがとう…っと。あれってもしかして」
視界の先に大きな町が見えてくる。
目的のノーム領に到着だ。
近くでゆっくりと降りてから、町に入ると、いろんなプレイヤーが俺達を見てくる。
「結構見られてる。そんなに珍しいの?」
「アルンじゃないからな。あまりほかの種族は来ないと思う。あとあまり騒がないで。俺たちはノーム領では無力だから」
「そういえばそんなルールあるって言ってたわね」
基本何もしなければ問題ないし、よくしてくれるプレイヤーも多い。
だとしても見られるのは嫌だな。
早めに用事を済ませよう。
「初期エリアは…ここだな。父さんは……」
「…いない?」
親父の姿を探すが見当たらない。
近くのプレイヤーに聞いてみるが、ここ1時間は誰も新しいプレイヤーは来ていないそうだ。
となると、親父も母さん同様にどっか別の場所にいるのか。
「…うーん。とりあえずケットシ―領に戻ろう。父さんの事だからうまくやっている」
「そうね。戻ってログアウトしてから聞こう」
「ん。じゃあ飛び方教えるから練習しながら戻ろう」
空の飛び方を母さんに教えながら、ケットシー領へと戻るのであった。