Side 早也佳
「は? もう一度伺ってもよろしいですか?」
「政威大将軍殿下から、直々にお達しだ」
「理由がよく分かりませんが」
「俺にも分からん。しかし、この封を開けるわけにもいかん。
「は」
「中身を俺に話す必要はない。しかし、殿下からのご下命だ。くれぐれも粗相の無いように致せ」
殿下から? 何事!? 私何かした?
でも、何かして叱責されるようなことがあっても、殿下が直接お手をお汚しになるとは到底思えない。じゃあ、なに?
不安を胸一杯にして、受け取る。
キレイ。只それに尽きる。
宛名だけじゃない。そもそもこの封がキレイ。
殿下から書状をいただくことに震えながら封を開ける。
私、
そして今は、政界を引退された先代に代わって、長男の毛利
常日頃から、先代にも「日本のために。陛下、殿下のために」と、耳にタコができるように言われてきていた。
目に触れることもないような尊大な方と、そしてこの国を守るために、あらゆることをやってきた。
スパイ的に情報を集めたこともあった。他国のスパイの疑惑がかかった貴族院議員にハニートラップを仕掛けたこともあった。
私の秘書の仕事はそんなもんだ。もはや秘書ではなかったのかもしれない。島津家に恥じない姿ではなかったかもしれない。
でもこれが私のできる、国のための精一杯の仕事だった。
そんな折りに親房氏から渡された、この紫の封筒。裏には、御名御璽が入っている。
おそらく親房氏が受け取っているということは、それなりの信用のおける筋から渡されたと推測できる。
ってことは、本当に本物。
正直想像が付かない。何が入っているのか。何が書かれているのか。
殿下の直筆? であれば、家宝にしても余りある。
お父様や、本家の叔父上にご報告にあがらなければ。
え?
は?
軍属? 国連軍? 何が?
私、軍属になって何するの?
訓練もまともに受けてない。じゃあ、兵隊としてではなくて?
なら、なおさら。しかも、国連軍?
「それは本当か!? これは本家にご報告するぞ。いつ帰ってくるんだ?」
父のここまで嬉しそうな声は聞いたことがなかった。時間もないのですぐ帰ることを伝えると、時間が惜しいからと、直接本家に向かうように言われた。
もう何年もあがってない、本家の門を潜る。小さい頃にはいつも遊んでくれていた、世話係のおばさんに泣いて「おめでとう」といってもらった。
まだ、玄関ですから。それに私もまだ何をするのか分かってないんですよ。なんて声は届かず。我が事のように嬉しそうに廊下を先導してくれる姿は、私も嬉しかった。
「親方様。早也佳お嬢様が参られました」
「通せ」
「お久しゅうございます。お爺様。早也佳、重大な報告をもって帰郷致しました。えっと、父は」
「
「はい。先代の親斉様のお心をこれでもかと受け継いでいらっっしゃるご様子です。しかし、まだまだ先代の幻影に振り回されているというのも確かです」
「親斉の息子だ。困ることはあるまいて。しかし、まだ儂も詳細は聞いておらんが、秘書を辞めることになりそうだと」
「はい。父が来てからのお話にはなりますが。お爺様には顔に泥を塗るようなことをしてしまい」
「もう隠居しているような老いぼれに泥を塗っても構わんよ。して、そろそろ。ドタドタとうるさいの」
「叔父上! 遅くなって申し訳ありません」
「儂の時間は無限にある。それよりも若いもんの方が大事よ」
「早也佳も。お帰りなさい」
「ただいま戻りました」
「では、早速で悪いが話を聞かせてもらえるか」
「はい。先日親房様からこのようなものを渡されました。御名御璽が入っています」
「中身はなんと」
「国連軍への軍属をお願いしたいと」
「拝見してもよろしいか?」
「ぜひに」
「歳満はまだ読んでおらんのか」
「は」
「せっかく娘が殿下からいただいた書だ。先に読まんかい」
「は。では」
「でかしたぞ、早也佳!」
書を読み終えたお爺様から、笑顔と共に、今まで聞いたことの無いような大きい声が飛び出した。
「なにが毛利じゃ! 政威大将軍殿下の前では屁でもないわ! 人生70年。これほどまでに嬉しかったのは、孫が生まれたときくらいかと思っておったが。まさか殿下の御言葉をこの目に拝見することがあろうとは。天晴れじゃ! 歳満もよくやった!」
「「は」」
「して、いつここを
「明日には」
「じゃあ今日は祝いの席を設けるぞ! 鶴!」
「はい、親方様」
「本家も分家も全部集めろ。何にも優先して来させるんだ。これは殿下の
「そのように」
「よし。では、今日はここでゆっくりしていくと良い。あとは、ご先祖様にお伝えせねばなるまい。早也佳。お主からお伝えせえ」
「は!」