Side
午前の訓練が終わった段階で、真壁中佐に呼び出された。もし叱責があればその場で注意をされるお人だ。その方が、軍全体のためになるとの信念をお持ちだった。
つまり、それ以外。小隊長クラスの私に中佐が直接お話になるようなことなど、ないはずだ。軍に関係することではない? ならば。
中佐の部屋の前に着き、息を整える。理由がわからないためにどうも落ち着かない。ノックをしようと手を伸ばした瞬間、中から声がかかる。
「失礼します」
「君はいつも深呼吸をしてから入るからね。音が聞こえたよ」
「これは。失礼しました」
「今日呼んだのは、斑鳩閣下からの指示でね」
「閣下ですか!?」
「ああ。僕もまだ話を聞かされていないんだ。ただ、面白い話だと」
「六郎。邪魔するよ」
「は」
「待たせたね。でも、面白い話を聞いたよ」
「さて、どうも嫌な顔をしてますね」
「ウキウキを隠してるだけさ。さて、橘高中尉。君にこれを」
「これは」
「政威大将軍殿下からのお手紙だ」
「で、殿下!」
「中は見てないがね。君が欲しいそうだ。引き抜きだよ」
「それは羨ましい限りですね」
「六郎、本気で言ってるのかい?」
「私は噓を言ったことがありません」
「そうだったね。さ、中を見てごらん」
殿下? 殿下って、あの殿下?
引き抜き? どこに? 斯衛の総大将たる殿下が、斯衛の私をどこへ引き抜くというの!?
封を開け。開ける? どこから開けたらいいの? こんな、殿下から頂いたものに傷つけるなんて。えっと。
「六郎?」
「は。中尉。開けましょうか?」
「えっと」
「しかるに、殿下から頂戴した封筒が勿体なくて開けられないのであろう?」
「大丈夫さ。中を読んでもらわないと意味がないじゃないか。六郎に開けてもらおうか?」
「いえ、あの、自分で」
殿下。失礼いたします。
封筒の上部を破る。あ、切れ端も大事に取っておこう。
ん? これは。国連軍? 斯衛の私が国連軍?
「さて、実はね。中尉には一つお仕事がしてほしいんだ」
「は」
「そこに書いてある通り、国連軍に出向してもらうんだけどね。どうもね、旧横浜ハイブ跡に、国連基地を作るそうだ。そこの基地司令官に、インドからラダビノット准将が来るらしい。中尉は彼の護衛だそうだ」
「護衛ですか? 私が? もっと他に適任が居ると思われますが」
「ん-。内緒にしとこうとは思ったんだがね。私のほうに話が舞い込んできてね。誰か良い者はおらんかと。だから、六郎の覚えもいい中尉に白羽の矢が立ったんだよ。これ以上の説明が必要かい?」
「い、いえ! 失礼しました!
「それでこそ斯衛軍人だ。そうだね、六郎?」
「は。閣下のご推薦だ。気を引き締めて任務を遂行せよ」
「は」
「それで、お仕事というのはだね。簡単なことさ。週に一度くらいは顔を見せてほしいということだ。分かるね?」
「は。えっと」
「ああ、そうだ。中尉の婚約者も午後の訓練は休みにしてある。彼の部屋にでも行ってきなさい」
「閣下。お言葉ですが、私と裕之さんはまだ婚姻は」
「あれ、まだしてなかったのかい。六郎」
「は。
「それでは大尉も浮かばれないのではないのかい?」
「いえ、それは。私の我が儘を聞いてくださっていて」
「六郎。この辺りも早く話を進めてあげないか」
「御意に」
「では、話は以上だ。国連軍には明後日異動の手はずだ。明日は午前の訓練だけ参加し、午後は荷造りをしておきなさい」
「いえ、それには及びません。荷造りするほど荷物は」
「中尉。閣下が気を聞かせてくださっているのだ。受け取っておきなさい」
「は! ありがたく頂戴いたします」
「では、大尉によろしく伝えておいてくれ」
「は! 失礼いたします!」
やったー! 閣下にもご推薦をいただいて、殿下に名指しでお呼びいただくなんて!
これは、
まずは。裕之さんか。なんて言ったらいいのかな。ん-。
Side Out
Side 真壁
「閣下も人が悪いですね」
「六郎に言われても。なんだい」
「素直に話を受けるとは思えませんが? どこにおいしい話があるんですか?」
「さすが、目ざといね。准将の元に、秘書官を集めているそうだ。そのうちの一人に、
「存じ上げませんね」
「国連太平洋艦隊の駆逐艦艦長だそうだ。彼が、来週からたまに十六大隊へ来る」
「海の人間がですか? 十中八九」
「そうだろうね。斯衛の情報をつかむ糸口なんだろうね。どうせどこかの大隊に入るなら」
「うちで貰っておいて、バーターとして国連の情報を集めるってわけですね」
「国連どころじゃない。AL計画の情報だよ」
「最近ご執心になってるあれですか」
「嫌な言い方をするね」
「いえ。閣下ほどではありません」
「楽しいことになりそうだね」
「そうですね」
Side Out