基地司令は憂鬱   作:矢矧草子

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2000年 1月 仙台第二帝都斯衛軍

Side 橘高(きったか)

 

 

 午前の訓練が終わった段階で、真壁中佐に呼び出された。もし叱責があればその場で注意をされるお人だ。その方が、軍全体のためになるとの信念をお持ちだった。

 つまり、それ以外。小隊長クラスの私に中佐が直接お話になるようなことなど、ないはずだ。軍に関係することではない? ならば。

 裕之(ひろゆき)さんのこと? でも、午後の訓練が残ってる中でそんな私情なことで呼び出しがあるとも思えない。

 中佐の部屋の前に着き、息を整える。理由がわからないためにどうも落ち着かない。ノックをしようと手を伸ばした瞬間、中から声がかかる。

 

「失礼します」

「君はいつも深呼吸をしてから入るからね。音が聞こえたよ」

「これは。失礼しました」

「今日呼んだのは、斑鳩閣下からの指示でね」

「閣下ですか!?」

「ああ。僕もまだ話を聞かされていないんだ。ただ、面白い話だと」

「六郎。邪魔するよ」

「は」

「待たせたね。でも、面白い話を聞いたよ」

「さて、どうも嫌な顔をしてますね」

「ウキウキを隠してるだけさ。さて、橘高中尉。君にこれを」

「これは」

「政威大将軍殿下からのお手紙だ」

「で、殿下!」

「中は見てないがね。君が欲しいそうだ。引き抜きだよ」

「それは羨ましい限りですね」

「六郎、本気で言ってるのかい?」

「私は噓を言ったことがありません」

「そうだったね。さ、中を見てごらん」

 

 殿下? 殿下って、あの殿下?

 引き抜き? どこに? 斯衛の総大将たる殿下が、斯衛の私をどこへ引き抜くというの!?

 封を開け。開ける? どこから開けたらいいの? こんな、殿下から頂いたものに傷つけるなんて。えっと。

 

「六郎?」

「は。中尉。開けましょうか?」

「えっと」

「しかるに、殿下から頂戴した封筒が勿体なくて開けられないのであろう?」

「大丈夫さ。中を読んでもらわないと意味がないじゃないか。六郎に開けてもらおうか?」

「いえ、あの、自分で」

 

 殿下。失礼いたします。

 封筒の上部を破る。あ、切れ端も大事に取っておこう。

 ん? これは。国連軍? 斯衛の私が国連軍?

 

「さて、実はね。中尉には一つお仕事がしてほしいんだ」

「は」

「そこに書いてある通り、国連軍に出向してもらうんだけどね。どうもね、旧横浜ハイブ跡に、国連基地を作るそうだ。そこの基地司令官に、インドからラダビノット准将が来るらしい。中尉は彼の護衛だそうだ」

「護衛ですか? 私が? もっと他に適任が居ると思われますが」

「ん-。内緒にしとこうとは思ったんだがね。私のほうに話が舞い込んできてね。誰か良い者はおらんかと。だから、六郎の覚えもいい中尉に白羽の矢が立ったんだよ。これ以上の説明が必要かい?」

「い、いえ! 失礼しました! 橘高(きったか)麻弓(まゆみ)中尉、粉骨砕身、身命を賭して准将をお守りいたします!」

「それでこそ斯衛軍人だ。そうだね、六郎?」

「は。閣下のご推薦だ。気を引き締めて任務を遂行せよ」

「は」

「それで、お仕事というのはだね。簡単なことさ。週に一度くらいは顔を見せてほしいということだ。分かるね?」

「は。えっと」

「ああ、そうだ。中尉の婚約者も午後の訓練は休みにしてある。彼の部屋にでも行ってきなさい」

「閣下。お言葉ですが、私と裕之さんはまだ婚姻は」

「あれ、まだしてなかったのかい。六郎」

「は。許嫁(いいなずけ)のままですね」

「それでは大尉も浮かばれないのではないのかい?」

「いえ、それは。私の我が儘を聞いてくださっていて」

「六郎。この辺りも早く話を進めてあげないか」

「御意に」

「では、話は以上だ。国連軍には明後日異動の手はずだ。明日は午前の訓練だけ参加し、午後は荷造りをしておきなさい」

「いえ、それには及びません。荷造りするほど荷物は」

「中尉。閣下が気を聞かせてくださっているのだ。受け取っておきなさい」

「は! ありがたく頂戴いたします」

「では、大尉によろしく伝えておいてくれ」

「は! 失礼いたします!」

 

 やったー! 閣下にもご推薦をいただいて、殿下に名指しでお呼びいただくなんて!

 これは、外様(とざま)としては破格の話。父上にお話ししなければ。

 まずは。裕之さんか。なんて言ったらいいのかな。ん-。

 

Side Out

 

Side 真壁

 

「閣下も人が悪いですね」

「六郎に言われても。なんだい」

「素直に話を受けるとは思えませんが? どこにおいしい話があるんですか?」

「さすが、目ざといね。准将の元に、秘書官を集めているそうだ。そのうちの一人に、藤守(ふじもり)隆昌(たかまさ)少佐というのが入るそうだ」

「存じ上げませんね」

「国連太平洋艦隊の駆逐艦艦長だそうだ。彼が、来週からたまに十六大隊へ来る」

「海の人間がですか? 十中八九」

「そうだろうね。斯衛の情報をつかむ糸口なんだろうね。どうせどこかの大隊に入るなら」

「うちで貰っておいて、バーターとして国連の情報を集めるってわけですね」

「国連どころじゃない。AL計画の情報だよ」

「最近ご執心になってるあれですか」

「嫌な言い方をするね」

「いえ。閣下ほどではありません」

「楽しいことになりそうだね」

「そうですね」

 

 

Side Out

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