基地司令は憂鬱   作:矢矧草子

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2000年 1月 国連横浜基地 0900

Side 美果

 

 

 

「斯衛軍の、中尉殿!」

「無礼であるぞ! ラダビノット准将から直々の参上指令であり、日本帝国国務全権代行である、政威大将軍殿下直々の参上指令である!」

「し、失礼いたしました!」

 

 日本人の人と、黒人さん? いきなり銃を向けられてめちゃくちゃ怖かったけど。

 ってか、迎えに来てくれたこの人も十分怖いけど。

 断るなんて無理じゃんと思って、大学の門の前に行ったら、なんか見たことないような車とまってるし、軍人さんみたいな怖そうな人がずっと待ってるし、話しかけたら時代劇かよみたいな話し方するし。

 城内省じゃなくて、斯衛軍ってなるとそうなるのかー。なんて思ってたけど、移動中の車内も全然会話ないし。なにこれ!

 若いっていうか、私と同じくらいだよね。年齢は。うーん。いやむしろ、私より若い?

 じゃ、じゃんでそんな武士みたいな。

 

 でも、赤の斯衛ってかっこいー。こう、怖くなければ色々話してみたかったのに。「業務以外は話しませんが」みたいなオーラ出されちゃったら話しかけれないじゃん!

 

 ひとまず、このツクヨミ? って人に連れてきてもらったけど、基地の門のところでバイバイしちゃうし。せめてもうちょっとちゃんとお礼くらい言いたかったけど。

 門番の人たちも、最初は銃向いてて怖かったけど、ツクヨミさんが話をしてからすごく優しかったし。ま、いっか。

 

 

 

 

 ありえないんだけど。

 身体測定って、そういうことになる、普通?

 「女性なので安心してください」じゃねえし! 裸になるなんてことある!? 初めてなんですけど、人に裸を晒すなんて! 男の人にだって、そんな、……。

 ってー! そういうことじゃなくてー! 体中触られたし。 ほんとに。逆にむしろ男であってほしかったわ! かっこよくなくていいから、奥さんのいなくて、子供だけほしい男であってほしかったよ。それならそれで出会いになって、後々の展開とかあるじゃん!

 あー、もー! 思い出すとイライラしてくる。

 しかも、そのあとのアンケートみたいな。あれは何? 身辺調査? あれこそ服着てよくない? なんで裸なわけ?

 もう、辱めようとしてるだけじゃん!

 ……。私の初めては、軍の女医さんでした。くそが!

 

 いらだちも収まらぬまま、身辺調査が終わったら専用の服とか言って渡されたけど。ピッタリすぎて引くわとか思ったけど、それ用ってことね。さっきの身体測定は。

 だとしても、身辺調査はやっぱり服着てもよかったよね! 服じゃなくても、なにかしら羽織ってもよかったよね! 絶対にあとでチクる。絶対に許さん。乙女の柔肌を。……。やめよ。なんか、自分がツラくなってきた。自分で、自分の肌を乙女の柔肌って。

 ダメダメ。なんか余計に悲しくなってくる。はあ。どうせ私は、結婚相手のいない独身貴族で、研究にしか興味のない女ですよー。いや、事実はどうじゃないんだけどね。傍から見た時の評価としてね。

 誰に弁解してんだか。

 

 

 

「あら、また女の子ね」

「もう日本には女性しか残ってないということでしょう」

「あなた、お名前は?」

「杉崎美果です」

 

 待ってろって言われた部屋に入ると、圧倒された。

 外人さんの女の人。ちょっとエッチっぽい、私よりも年上? な人。日本語上手でよかった。国連だし、英語ばっかとか外人ばっかとかだったらどうしようかと思ったけど。私英語しゃべれないし。

 あと、普通そうな人が2人と、怖そうな人が1人。軍人さんかな。

 束の間の、世間話。さっきまですごくストレスだったから、なんとなく日常に戻ったような気がする。

 怖そうな人はちょっと良くわかんないけど、あとの3人は優しそうな人でよかった。

 

 

「これより、国連太平洋方面第11軍横浜基地指令室秘書官任官式を行う。ラダビノット指令に敬礼!」

 

 3人くらい男の人が入ってきたと思ったら、すぐなんか軍隊みたいなの始まったんだけど! まあ、ここ軍隊なんだけどさ。私のさっきまでの楽しかった時間返してよ!

 しかもいきなり敬礼なんて言われてもわかんないし! なんか隣の怖そうな女の人を真似してみるけど。合ってるのかな。

 

「楽にしてくれて構わない。私が、この国連軍横浜基地の基地司令であるパウル・ラダビノット准将だ。君たちには、政威大将軍殿下から参上命令があったと思うが、この横浜基地で私の手となり足となり、仕事をしてもらう。これは人類の生き残りをかけた至上命題であり、超機密事項に値する。君たちの仕事内容は家族にすら他言無用である。また、その特性上、表向きの所属は国連軍第3普通兵科である」

「准将、質問よろしいでしょうか」

「すまないが、最後にまとめて質問を受け付ける。2度手間を避けるためにな。ではまずは、簡単な経歴の紹介と、君たちの各業務および階級を与える。藤守隆昌少佐!」

「は!」

「藤守少佐は元々、国連太平洋艦隊アーレイバーク級駆逐艦ルーズベルトの艦長だった。海上生活が長いとはいえ、国連軍は勝手知ったるはずだ。また、軍属も君たちの中で一番長い。そういった意味で頼りにしている」

「は。ありがとうございます。准将のインド大陸でのご活躍は耳にしておりました。准将の下で仕事ができることを誇りに思います」

「うむ。少佐には帝国斯衛軍の第16大隊へ行ってもらう。5摂家の斑鳩閣下には話がついている。国連と斯衛のパイプ役は任せた」

「は! 粉骨砕身、この身を賭して励みます!」

 

 なんか。え。めっちゃ軍隊じゃん。私あんな挨拶できないんだけど。どうしよ。ってか、階級って何? 私もなんかつくの? 少佐ってどれくらい偉いの? 准将って何?

 

「続いて、メイ・イナニワ特務大尉!」

「は!」

「イナニワ大尉は、アメリカ生まれアメリカ育ちだが、両親ともに日本人だ。以前はアメリカのリベラル系シンクタンクに勤務していた。大尉には、その経歴を持って、アメリカの情報を探る仕事についてもらう。アメリカの日本大使館で仕事をしてもらう機会が多いと思うが、頑張ってくれたまえ」

「大使館はよく伺っていた場所です。お任せください。あと名前は、日本名で稲庭咲彩でお願いします」

「これは、失礼した。以後、気を付けよう」

 

「次。島津早奈也佳特務大尉!」

「は!」

「島津大尉は、貴族院議員の秘書をしていた。生まれも立派な御家系だそうだ」

「島津で立派なってことは、戦国大名のあの島津家ですか?」

「はい、そうです。まあ、分家なんですが」

「お父様の秘書ですか?」

「いえ、お爺様の懇意で、えっとー、戦国大名で有名な毛利家の本家の人なんですが」

「まあ、聞きたいことは山ほどあるだろうが、この辺にしてくれるかな。大尉には日本の首脳クラスとのコネクションを持ってもらう。総理秘書官の末席に入れさせてもらう手はずだ」

「はい。秘書の仕事は今まで通りですので、頑張ります」

 

「次。クリスタ・フォン・ケスラー特務大尉!」

「はい」

「クリスタ大尉は国境なき医師団として世界中を飛び回っておられた医者だ。もしかしたら私の関係者が世話になったことがあるかもしれん。その節は大変世話になりました」

「それが仕事ですので。当然ですわ」

「大尉には、ここ横浜基地に常駐してもらい、私含めた秘書官たちの体調などを管理してもらう。よろしいですね」

「はい、もちろんですわ。専門は内科と精神科よ。外科は他の人に任せるけど、一応私も診るから。よろしくね」

 

「次。橘高麻弓中尉!」

「は!」

「橘高中尉は、外様武家の出身で斯衛軍として活躍されていた。藤守少佐が出向する斑鳩閣下からも覚えが高い、大隊きっての武闘派だそうだ。中尉には私のボディーガードをお願いする。隣にいるマドゥル中佐と交代で私の身を守ってくれ」

「は! 橘高麻弓中尉、この身に変えましても准将をお守りする所存であります!」

 

「次に、杉崎美果特務少尉」

「は、はいー!」

「そう、緊張しなくてもいい。ただ」

「ただ?」

「一番重要な役割を担ってもらうことにはなるがな」

「えっ!」

「後ほど詳しく話をするが、我々横浜基地の最重要目標はAL4計画の完遂だ。その計画は日本の帝国大学に在籍していた香月夕呼博士が研究していたテーマだ」

「ええっ!?」

「そして、杉崎少尉はその香月博士の後釜として研究に励んでいた助教授だ。少尉には、香月博士の提唱する量子物理理論を私にわかりやすく噛み砕いて説明することだ。頼りにしているよ」

「え、ちょっと! そんなの私無理です!」

「謙遜は日本人の美徳とは言ったものだが。時にそれはマイナスに映ることもあるぞ、少尉」

「いえ、そういうことではなくてですね」

「教授からの推薦も素晴らしかった。君ならできる。頑張ってくれたまえ」

 

 やっばーい! ほんとにやばい!

 私の専門と違うんだけど! そんなこと急に言われても! 私も勉強しなきゃじゃん! どこから? どこまで? どのレベル?

 あーん、もー! どーしよ。

 

「最後に、私の隣に立っているこの男だ。マドゥル・ディングラ中佐だ。彼とはかれこれ20年以上の付き合いでね。インドで戦っていたときに、常にともに死線を潜り抜けてきた仲だ。君たち秘書官を束ねる秘書官長になっているが、実際は橘高中尉と同じように、ボディーガードのようなものだ」

「博打と酒とセックスくらいしか取り柄はねえが、こんな俺でも軍人やってんだ。お嬢ちゃんたちも何とかなるよ。あと、軍隊を抜けたかったら俺が」

「中佐。彼女たちに抜けてもらうと、私の仕事が立ち行かなくなる」

「こいつは楽しみが一つ消えちまったな。ま、よろしく頼むぜ」

「さて、では何か質問あれば受け付ける」

 

 

 

「とすると、常駐は私と、橘高中尉と、杉崎少尉だけということですか?」

「まあ、おそらくそうなることが多いはずだ。ただし、藤守少佐と島津大尉は基地と出向先自体は近い。面倒だとは思うが、報告事項は逐一基地にて行ってほしい。稲庭大尉は、稀に日本に帰ってきてもらう程度であろう」

「分かりました。部屋は」

「そうだな。今君たちに集まってもらっているこの部屋が、入口にあったように『基地司令室』だ。私と、マドゥルの部屋としても使用している。そして、この部屋の向かい側が、秘書官室だ。好きに使ってもらった構わない。部屋の奥はプライベート空間にしてある。ただし、ボディーガード役の橘高中尉だけは、一番入り口に近い部屋を使ってくれ」

「は」

「他は特にないかね。では先ほど少しだけ触れたAL計画について、説明しよう」

 

 

 

 

 

 

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