煌びやかに飾られた広間。
巨大なシャンデリアに、
床一体に敷かれたレッドカーペット。
宗教画や勲章が
丁寧に描かれた壁面。
王座に座する、
絵に描いたお手本のような……
白い髭面の王様。
(うん……ファンタジー系の
西洋映画でよく見るやつだ。)
この場所は、
『謁見の間』……だっけかな。
単なる旅行で拝見する分には、
一つの思い出や観光として
充分楽しめただろう。
けど、今ここに居るのは
そーゆう嬉しい理由などではない。
もしこれが、
再現度がやたら高いだけの
VR旅行だったら、どんなに
嬉しいことか……現実は、悲惨だ。
玉座に座する王は、
こちらの事情など
一切知らないといった感じで、
朗らかな笑顔を沙花叉たちに向けた。
綻ぶ口元とその目は、ありもしない
期待に満ち溢れている。
「ようこそ。諸君らが、
我々の世界を救う転生者達か……」
「「「いえ、違います。」」」
一斉に、沙花叉たち
かな建一行は本音を返した。
何故こんな目に遭っているのか。
それは、数時間前にまで遡る――。
*
━━▶︎ 数時間前。かな建事務所。
ウチらかな建は、
数ヶ月前にホロ鯖で開催された
2023年度夏祭りに参加した。
ブロックに飛び移りながら
頂上のゴールを目指すアスレチック。
夜空を彩る数々の花火。
他にも、
色々楽しいことが沢山あった。
社員一同でそれらを満喫して、
一夏の思い出は綺麗に
締め括られたと思われた。
……しかし。
一つだけ。
厄介事を引き摺ってきてしまった。
祭りの途中で参加した
『競馬イベント』。
その負け金の返済債務を放棄し、
のうのうと過ごしていたのだ。
目を背けてきた罪。
それに対する粛清は、ウチらが
想像するよりも早くやって来た。
かな建事務所の一室でB級映画を
鑑賞していた沙花叉の部屋に
突如として飛び込んできたのは……
面倒くせぇ、我が社の社長だった。
「やっほー沙花叉ぁ!
見て見て! 事務所の外で
珍しくて可愛い犬
見つけてきたから、
ボク持ってきちゃったぁ♪」
嬉々として桃色の犬を抱き抱えて
自慢するのは……
我が社の社長。天音かなた。
一言で言うなら、
勘違いの激しい奴だ。
「へー、犬ですかー。
凄いっスねー。」
あんまし興味ないけど、
無視すんのも可哀想だ。
しょうがないし、ちと見てやっか。
(え……待って。この犬って……。)
「ん、どったの沙花叉。
そんなに眉間に皺なんか寄せてさ。」
「かなたん、これ。
こんこよのココロっスよ。」
「ふーん。これココロって言うんだ。
こよりちゃんには悪いけど、
こっそり飼っちゃおうかな。」
「いやいや、
やめといた方がいいって。
そいつロボットだし。
こんこよ製だから、何かしら
仕掛けてる可能性だって…………。」
「あれ。2人とも仲良くお喋りして
楽しそうね。私にも
少し聞かせてくれない?」
「あー! AZKIちゃん!
見てよっ、この子可愛くない……!!」
「う、うん。」
油断したら、あれやこれやと
すぐ集まってくんな。
みんな沙花叉が
映画鑑賞中だってのに、
空気読まな過ぎでしょ……。
(まぁ、こういう空気も
悪くはないけどさ。)
ピリリリリンっ!
ん、こんな時にメールの着信?
一体誰からだろう?
取り敢えず、
holoX専用の通信デバイスから
メールを確認してみる。
【メール/1件】
名前: 博衣こより
件名: ねこねこファイニャンスの依頼
━━━━━
━━━━━
粛清こよ」
」
」
」
」
」
」
さよなら。んーまっ❤︎
(よし……削除しよ。
うん。沙花叉は何も見てない。)
「凄いわ。
この子、目と口が光るのね。」
「そういや沙花叉がロボって
言ってたね。
こんな機能があるなんて、
ボクも知らなかったよ。」
目と口が光る……?
待って。それってholoXの基地で
腐る程見た光景なんだけど。
「2人ともッ! いいから
さっさとその犬を外に投げなァ!」
「やだよ!
この子はボクら『かな建』の
マスコットになるんだ!!」
「違うッ! マスコットとか
言ってる場合じゃ…………」
「ワォーンッ!!」
ボゴォォンッ!!
……………………。
…………。
え、何この真っ白な空間。
おっ、ちと大きめな
ちゃぶ台もあんじゃん。
あの世ってのも、案外素朴だなぁ。
あれ。
あのピンク髪の人、
いつかな建に雇ったっけ?
「あなた達、何で死んでんの。」
憤りを露わにした表情で、
対面するように
カリオペ先輩が座った。
確か彼女は……『死神』だったよね。
てことは、ホントに沙花叉たち
死んだらしいじゃん。
うっわ最悪。
覚えてろよあのコヨーテ。
地獄の底から蘇ったら、
絶対焼き土下座させてやっからな。
泣いても許さねーぞ。
「じっ、実はボクも
よく分かってなくて……
可愛い犬が光って、
なんやかんやして……ね?」
「わ、私もいつも通り木こりを
してだだけで……
皆から怒りを買うような
真似をした覚えはないの。」
まぁ、2人からしたら
何が何だかさっぱりだよね。
放置し過ぎて、
忘れ去ったみたいなモンだし。
そんで、
流れ的に次なる尋問対象は……
「貴女は何か知ってそうね。
クロヱちゃん。」
はいはい分かってましたとも。
「ウチら
かな建は借金を滞納し、
当問題を放置し過ぎた。
そんで、痺れを切らした泥棒建設が
こんこよに『粛清依頼』を出した。
これが事の全貌だよ。」
今頃は
かな建の全財産を巻き上げ、
返済のアテにしてんだろうな。
「……成る程ね。それはもう、
あなた達が〝百悪い〟わ。」
「「「………………。」」」
何も言い返せねェ。
「本当はこのまま死神らしく
あなた達を見限っても良いけど……
それだと後味が悪いわ。」
バンっ!
かなたんがちゃぶ台を叩き
目をキラキラさせた。
「つまりっ! ボクらに
まだ救済措置があるって事ぉ!」
「良かったわね!」
「一応……ね。
せめてもの慈悲って感じよ。」
それだけでも、今は充分な朗報だ。
内容が明かされてない以上、
2人のように手放しで
喜ぶ訳にもいかないけど。
「ねぇねぇ、
どんな救済措置なの!?」
ったく、この社長は。
どんだけポジティブなんだよ。
「異世界転生して魔王を倒しなさい。」
「「「……は??」」」
「安心しなさい。
ちゃんと転生特典も用意したわ。」
「違う違う違ーーう!!
何さらっとかな建をテンプレに
巻き込んでんの!?
そもそもウチらが魔王
倒せるような面子に見える!?」
「それくらいして貰わないと、
あなた達の罪は帳消しにならないわ。
腕っ節の強い天使。逸脱した
空間認識能力を持つAZKIちゃん。
パチスロが人一倍上手い……
クロヱちゃん。
あなた達ならきっと、魔王を倒せるわ。」
「沙花叉だけ褒めてなくない!?」
「ふっ、腕が鳴るね。」
「木こりなら任せて頂戴!」
だから何でそんなノリ気なんだよ。
沙花叉は理解できねェっての……。
「逸る気持ちも分かるけど、
コレを忘れては困るわ。」
カリオペ先輩が、スッと
謎の端末をちゃぶ台中央に置いた。
「これは……?」
「言ったでしょう。
『転生特典』があるって。
それがコレよ。」
「えーっと、コレは何?」
「――『ホロメン呼び出しフォン』。
1日に1度、1時間だけ
好きなホロメンを召喚できる端末よ。
上手く使えば、
魔王攻略に大いに役立つわ。
他にもマップ機能や
インベントリ機能なんかもあるから、
大事に使いなさい。」
もうヤダ。
テンプレ過ぎでこの先怖いよ。
しかも転生特典とか
銘打ってるけど、
全然チート感ないし。
時間制でホロメン1人呼び出して
魔王どうこう出来る訳ねーだろ。
はー。さっさと家帰って
ゴロゴロ映画観てェーー。
パチ屋寄ってパチスロ打ちてェーー。
ぺこらとらでんの真横で
大当たり当ててイキりてェーー。
「じゃあコレは、
社長であるボクが持っておくよ。
ありがとねカリオペ先輩。
ボクら、大事に使わせて貰うよ。」
「ええ。そうして貰えると、
此方も作った甲斐があるわ。」
「魔王討伐、任せろって!」
「みんなで楽しく
木こりしましょう!」
「ちょっ、マジでやんの!?」
「……ふふ。私から言えることは、
もう何もなさそうね。
あなた達の吉報、待ってるわ。
――『ワープド・ポート』」
ただでさえ真っ白な空間が
眩く光り、視界を白に染める。
*
「ようこそ。諸君らが、
我々の世界を救う転生者達か……」
「「「いえ、違います。」」」
ってな感じで。
目が覚めたら、
ホントに異世界転生して
戦わなきゃいけなくなった。
カリオペ先輩の前でカッコつけてた
社長天使も今や、手のひらクルクルで
沙花叉たちに息を合わせてる。
「冗談はよしてくれ。
その異色の服装は
何処をどう見ても転生者だ。
さぁ、我が国のために戦ってくれ。」