始まりの街。スターテッド。
定期的に転生者が出没する謎の街。
煉瓦造りの
住居が軒並みを連ねた、
とても住みやすそうな国である。
……しかし。そんな街にも、
沼に転げ落ちた
堕落者の脛を、
ひたすら齧り続ける魔境も存在する。
――カジノ街『ブラック・ロンド』
その中でも最も仰々しく佇む
巨大なカジノハウスに、
かな建一行は
足を踏み入れていた。
バンっ!
「えいえいえーい!
ひかえおろー!
かな建様御一行の入店じゃーい!」
『クロヱさん。急にキャラ崩壊して
どうしたのですか。
お風呂でも入って落ち着きますか?』
「あーもうっさいなぁジオちゃん!
てかアンタ本当に
AZKi先輩の一部なの!?
めちょ性格悪くない!?」
ふよふよと浮かぶ天球儀、
もといジオプラネットが
不満気に返事を返した。
『いえ……私は〝清楚〟です。
マスターの魂魄と精神を反映して
生まれた存在ですので。』
(返し方のウザさまで
一級レベルじゃん。)
……といった感じで。
フルネームが
あまりにも呼びづらいので
ジオちゃんと呼んではいるものの、
やはり中々に
愛着の湧かない性格をしてる。
めちゃくちゃお喋りな上に、
隙あらば煽りを
グサグサ刺してくるのがデフォルトだ。
肝心の案内能力は、
AZKi先輩が
そのままナビゲートしてんのか
ってくらい丁寧で完璧。
――だが、その良さを
性格で帳消しにしている。
沙花叉の印象としては、
100円単位で売ってそうな
タチの悪いカーナビ……って感じだね。
「はは……私って性格悪いんだ。
あはは……」
「違うよあずちゃん!
あずちゃんはとっても清楚で
聖人だって僕は知ってるよ……!」
「そっすよAZKi先輩!
悪いのは毒舌拗らせてる
ジオちゃんの方っすから!!」
「う、うーん。そうなのかな?
つ……次からは気をつけてね。
ジオちゃん。」
『マスターのお望みとあらば……
検討に検討を重ね、対処を
心掛けていきたいと思います。
大事な仲間への無礼、
大変申し訳ございませんでした。』
それ絶対
従わないタイプの返答じゃんか。
いやいや……AZKi先輩も
満足気に頷かないでくれ。
最後の謝罪発言めちょ棒読みだし、
反省の意思がない奴の
常套句言ってるだけだよ。
「ありがとねジオちゃん。
もう後は私たちで何とかするから、
ゆっくり休んでいいよ。」
『了解です。また何か困り事が
御座いましたら、
何なりと私をお呼びくだ……zzz』
ヴゥン。
あ、消えた。
しかも消え際まで一言余計なのが
苛立ちポイント高い。
てか。
この子を事あるごとに
呼び出すの
色んな意味で遠慮したいんだが。
去り際にイビキ演じる必要
全くもってなかったでしょ。
「よーし! そんじゃ、
こっからどう凸ろうか沙花叉。
僕、ワクワクしてきたよ!」
「かなた先輩はそっすねー。
そこの楕円形の奴で適当に
遊んで待ってっちょ。」
「なんか扱い雑くない!?
僕一応かな建の社長だよね!
急に変なゲーム遊ばせないでよ!」
「――『トラント・エ・カラント。』
フランスやイタリアで
大人気のカジノゲームっすよ。
知らないんすか、かなた先輩。
まぁ、現世と同一仕様なのかは
知らんけどね。」
「こちとら全く知らんわ!
カジノゲーム知識で
マウントとるなッ!」
「……ぽえ?」
「白々しくしたら許されると
思ってんのかコラ!!」
「ねーねー!」
「ん?」
勝手に怒り始める天使の
横から、
天使のように可愛く興奮する
AZKi先輩が問いかけてきた。
「ねぇねぇクロヱちゃん!
あの四角いテーブルにつぶつぶが
いっぱいあるの何かなぁ!
私アレやってみたい……!!」
「あー、『ファンタン』っすか。
原始的な感じが強くて
面白いカジノゲームっすね。
ディーラーがカップに掬った
粒数を予想して、
プレイヤーが約38通りの
選択肢からチップをBETする奴っす。」
三門(サムホン)、丫攤(ヤータン)、
角(コック)、念(ニム)。
賭け方にプレイヤーの
個性が出てオモロいけど、
今バババと説明しても
混乱しそうだし……
正直な話。
いくらルールが似通ってても、
この世界の仕様だと
どうなってるのか分からない。
……まぁ。
AZKi先輩は要領の良い人だから、
実際にやらせた方が良さそうだ。
「あずちゃんにだけ
なんか丁寧じゃないか沙花叉ァ!」
「……ぽえ?」
「もういいわそのネタぁ!!」
「めんごめんご。
――勿論、先輩方に
自由時間を設けるのには
理由があるんすよ。」
「理由だと……?」
沙花叉は頷いた。
「まずは周辺調査して、
ウチらかな建の付け入る隙を探す。
当然その際、
経営陣に怪しまれないよう……
囮のギャンブラーが必要となる。」
「言われてみれば、それもそうだな。」
(よっしゃ。
これで気兼ねなく遊べる……!!)
「つー訳で、諸々の調査は沙花叉に
任せて、2人は興味のある遊戯で
遊んどいてください。
何か糸口が見つかり次第、
呼び出すんで。」
「おうよ!」
「頑張ってねクロヱちゃん。」
「あ、ちなみに為替取引の窓口で
専用チップにするのは、
1万Gまででよろちゃんっす。」
「おうよ!」
「うん……!」
返事を返した2人は
ノリノリで窓口へと向かい、
専用チップを入手した。
沙花叉も2人に続き、
3万G(ゴールド)分のチップ変換をし
各遊技機の小手調べに入る。
パチンコやスロットの質を
見極める為に、各遊技機に
対して最低1万Gは投資しておきたい。
念の為保険に
1万G多めに用意したし、
なんとかなるだろう。
手始めに、パチンコからだな。
カチャカチャ銀玉の主張が
さっきから激しいし……
面白半分で見てみよう。
パチスロ勢なんで
パチンコについては
ほぼエアプだけど、
確認するに越した事はない。
(さーてさて、
どんな感じかな〜♪ ん?)
「……え。いやそっか。
そっすよね。」
陳列する遊戯台に足を運ぶと、
ビデオ機能を一切搭載してない旧式……
いわゆる『羽根モノ』の
パチンコ台しか存在してなかった。
パチ屋でP機とCR機ばかりしか
目にしなかった昨今。
逆に新鮮な気持ちになる。
これが現代に毒された者の
価値観の違いか……。
って、待てよ。
もしやスロもジャグラーだけとか
やめてくれよ。
そしたら色んな意味で絶望するぞ。
いや、今そんな無粋な事を
考えるのはやめよう。
とりま試し打ちしよう。
(んーと。8000G分の専用チップで
銀玉交換して打ちゃいいか。)
「あのー、そこのバニーちゃん!」
「はい。」
「このチップ枚数分、
銀玉に変えてっちょ。」
「かしこまりました。」
うーし。回すぞ。
ジャラジャラジャラ……
カッ、カッ……カッ。
銀玉が大量に雪崩れ込み、
多数配置された釘に
衝突しながら各ゾーンに落下していく。
(行けっ……行けっ!
狙うはVゾーンっ!!
あっ、くっ、めちょ惜しい……!)
※Vゾーン……Victoryゾーンの略称
*
――場所は変わり。
……同時刻。某事務所。
デスクワークに
勤しむ2人の女性社員が、
タスクの大半を済ませ
一息つこうと伸びをした。
1人の後輩は気を遣ってか。
席から移動し、保温ポットから
2人分の紅茶をカップに注いだ。
「Aちゃん先輩、
シュガーは入れますか?」
「気を遣わせて済まないね
のどかちゃん。……そうだな。
疲れには糖分が効くと言うし、
是非ワンスティックお願いするよ。」
「はい。」
後輩社員、春先のどかは
言われた通りシュガーを
ワンスティック分溶かした。
デスク付近にコースターを敷き、
紅茶を置くついでに
彼女は質問をした。
「あのー、数ヶ月後の企画の件
なのですが……」
「――ダメだ。」
「え? どうしてですか?」
「そういや、のどかちゃんには
まだ説明してなかったな。
まぁ、ざっくり言うなれば――」
混乱するのどかに注意喚起を
促し、Aちゃんは紅茶を一口飲んだ。
「……え? 2人のギャンブラーに
気をつけろって、どういう事ですか。」
「どうもこうもない。
間違いなく、あの2人は危険だ。
私も2人の行動には極力警戒してる
つもりだが……もしもの事がある。
故に、この企画を通すのは
大人しく断念してくれ。」
言ってAちゃんは、
デスクの引き出しから取り出した
ホロメンのポストカードを2枚、
彼女に手渡した。
それを目にするなり、
即座に驚愕と畏怖が彼女に湧き上がる。
「嘘……この〝2人〟が……!!」
*
そんな事など梅雨知らず。
事務所で震え上がる彼女らを他所に、
沙花叉クロヱは全ての銀玉を
使い切っていた。
「――ふぅ。アナログチックなのも
悪くないっすね。
うん。楽しかった。」
『銀玉溶かして何の成果も得られない。
実に空虚じゃありませんか。
沙花叉クロヱさぁ〜んwww』
「ジオちゃ――っておいテメぇ
今なんつったァ!?」
『彼女はギャンブルに
熱中しやすい子だから心配だ。
……と言って。
マスターが私を
あなたの元へ派遣したんです。』
そんなにハマった
覚えはないんだけどなぁ。
「自分自身、
そもそも8000Gで当たり
引けるゲームなんて思ってないっす。
沙花叉の独壇場はスロの方なんでね。」
『負けシャチの遠吠えって奴ですか。
言い訳もここまでくると、
実に哀れですね。』
「もう名前ストレス生産機に
改名しろよお前ぇ!!」
「あのー、お客様。
大丈夫ですか。」
「だ、大丈夫です。
お気になさらずー……あはは。」
くっ。AZKi先輩は善意で
呼び出してくれただろうから……
とても追い返しづらい。
(ここは素直にジオちゃんの
監視を受け入れるか。)
寧ろこういう時こそ、
スロで大当たり引いてリラックスだ。
そうだ。
沙花叉の実力とラックなら全然可能だ。
「なら良かったです。
何か気になる事がありましたら、
私に相談してください。
不備の問題で騒がれては、
こちらも困りますので。」
あれ。これ若干
クレーマー認定されてる沙花叉。
「んじゃ、お言葉に甘えて
ちょっといいっすか?」
「……はい?」
「ここのスロットって、
何があるんすか?」
「スロット……ですか。
当店にはジャグラーがあります。」
「他は?」
「他……とは?」
「だからぁ〜、あるじゃん。
AT、ART、CT、ST機とかさぁー。
そういうの。
一台くらいは置いてるよね。」
「えーと、何の話ですか。
スロットは『ジャグラー』しか
存在しないと
オーナーは仰ってましたよ。」
「――え?」
新年明けましておめでとう御座います。
どうも、たかしクランベリーです。
これからもやる気の赴くままに。
時には休んだり投稿したり、
コツコツやってこうと思います。
よろしくお願いします。