一連の騒動から、1日後。
無事勇者荘へ帰宅したかな建一行。
脇腹にオーナーの蹴りを喰らった
天音かなたは……
大したダメージを負っていなかった。
彼女の逸脱したフィジカルパワーと
身体強度は、〝比例〟していたのだ――!!
翌朝を迎えて早々に。
デンタルケア、スキンケア、髪梳かし。
庭で腹筋150回、腕立て200回、
スクワット250回、横幅跳び往復280回。
30mシャトルラン300往復。
この間、筋トレ浪費時間計3分。
汗払いの朝シャワー。
流れるようにモーニングルーティンを
済ませた天音かなたが、
プロテインを携帯しながら
会いに行ったのは……
*
――《SIDE『天音かなた』》
「あ、おはようかなたちゃん。」
「おはようあずちゃん。」
「昨日凄い攻撃受けてたけど、
身体は大丈夫なの?」
「あーうん。
僕の愛用してた養成ギプスが
お亡くなりになったけど……
見ての通り、元気ピンピンさ。
今朝も問題なく筋トレ出来たし。ほら!」
ぴょんっ、ぴょんっ……!
僕は心配させたくないので、
その場でぴょんぴょん跳ねて
元気さをアピールしてみた。
「ふふっ、本当ね。」
小さく微笑んでくれたので、
多分分かってくれただろう。
けれども、あずちゃんの助けが
無駄だという訳でもない。
昨日は目紛しい出来事ばかりで、
感謝を伝えるということに
気が回らなかった。
(今なら、
胸を張ってお礼が言えそうだ。)
「でもあの時、あずちゃんが僕を
GUESSしてくんなかったら
迷子になってたかもだし……
ありがとね。」
「そっか。私も力になれたのね。
こちらこそありがとうだよ。」
「「…………ははっ。」」
ありゃりゃ。
こりゃ僕の気遣いが
完全に見透かされてるな。
互いにこそばゆく愛想笑いしてる
この場面を沙花叉に見られでもしたら、
きっと僕はそのネタを玩具に
イジられるんだろうな。
まだ朝の早い内に
会っといて正解だった。
この時間帯の沙花叉は僕の経験上
絶対寝てるしね。
「――で、今日は
どんなお仕事をするの社長?」
ホントあずちゃんは仕事人間だなぁ。
昨日の大惨事の翌日だというのに……
パッパと気持ちを切り替えるられるの、
素直に尊敬するよ。
カジノでの濃密な仕事量と
精神ダメージを加味したら、
ちょっとくらい休みたいと思うのが
普通な気がするし。
幸い。あずちゃんと沙花叉が
無傷で帰還できただけでも良しだけど……
一連の心労を昨日の今日で
取っ払い切るなんて絶対不可能だ。
こういう時こそ、
心労の回復も兼ねた休息が必要不可欠。
マネージャー不足の今、
社員の体調管理を率先して行うのも
社長たる僕の勤め……!
(うん。
ここは休ませるのが正解だ。)
「えーっと、
その件なんだけどねあずちゃん。
今日のかな建は、丸々お休みにするよ。」
「つまり……休日は
振替で就業しましょうって事?」
「違う違う違ーーうっ!
僕そこまでブラックな社長に見える!?
普通の臨時休業だって!
昨日のトラブルがあったから、
一休みする期間を設けようっていう
アレで……」
「ふーん。そうなんだ。
じゃあ休むしかないわね。
AZKi、朝食作りに行くね。」
(なんで
ちょっと悲しそうな顔するの!?)
振り返って歩み去ろうとする
あずちゃんの背中は哀愁が漂っていて。
なぜか放って置けなかった。
「ストップストーーップ!
分かった分かった!
じゃあ今日は特別なお仕事をしようッ!」
「――!!」
あずちゃんの足が、ピタリと止まった。
そして信じられないことに、
髪飾りが生きてるかのように
一瞬だけ16㎝ほど頭部から飛び跳ねた。
まるでギャグ漫画のアホ毛キャラが
物欲センサー発して
アホ毛を直立でピンと伸ばす
あの謎現象を見ているかの
ような気分になった。
「えーと、あずちゃん?」
「社長。〝特別な仕事〟って
なぁにかなぁ……!?」
やば。
その場凌ぎで言ったから何も考えて――
待てよ。
脇腹蹴られる所、
あずちゃんだけじゃなくて
沙花叉もガッツリ見てたよな。
その後の僕の容態を
あんまり気にしてなかったし、
逆にそれを利用できないか。
実は後遺症でめちゃくちゃ痛い事を
棚に上げて、沙花叉を1日だけ
従順な『しもべ』に
変えられるんじゃないか。
人(?)の良心を
弄ぶようで気が進まないけど、
沙花叉も普段
僕を馬鹿にしまくってるし……
因果応報って事で。
ちょっとくらい
王様ゲームしたっていいよな。
僕一人がわーわー喚いても
『えーそうなんですかぁwww
ざぁーこざぁーこ❤︎
さっさと寝て直せよ貧弱まな板ゴリラ。』
の一言で片付けるだろうが、
あずちゃんが本気で便乗すれば
不可能じゃない。
よし……仕事内容は〝コレ〟にしよう。
「今日一日、僕の仮病が沙花叉に
バレないようにアシストしてくれ。
それが、今日の特別な仕事だ。」
「分かったわ……!」
(いや普通に乗るんかーい!)
あずちゃんの事だから絶対
ツッコミの一つは入るだろうと
覚悟してたのに。
仕事やりたさに、
もはや見境なくなってるのか……!?
「それじゃあ早速、就業と行くか。」
「うん!」
沙花叉の部屋に2人でお邪魔したら、
案の定ターゲットは爆睡していた。
起こす為に僕が直接手を下してもいいが、
それでは仮病ドッキリが
成り立たなくなる。
そうなると、あずちゃんの魔力を
利用した方が得策だろう。
「あのさぁあずちゃん。
今回は僕の手で起こせないからさ、
ジオちゃん呼んでくんないかな。」
「ジオちゃんで何をするの?」
「呼べば分かるよ。
百聞は一見にしかずってね。」
「分かったわ。
――『GE◉▶︎planet』。」
ヴゥンッ。
鈍い起動音と共に、
例の天球儀が姿を現した。
『おはよう御座います。マスター。
ご用件は何でしょうか?』
「あーごめんごめん。
呼ぶように指示したのは僕だ。」
『あぁ、アナタですか。
では、ご用件をどうぞ。』
「この部屋の『凶』の
座標を教えてくれ。あと、
凶を連動させる座標もよろしく頼む。」
『成る程、〝凶の厄災〟で
無理矢理彼女を起こそうという
判断ですね。』
「そーそー、そんな感じ。」
「えーとかなたちゃん。
AZKiは何をすれば良いのかな?」
おっと。
ジオちゃんとの会話に夢中過ぎて
あずちゃんを放置してしまったか。
「こっからが大仕事だよあずちゃん。
今から、ジオちゃんの指示通りに
沙花叉を移動させて
〝厄災〟を当てるんだ。」
「それで起きるの?」
「さぁね。僕も〝吉の恩恵〟しか
受けた事ないから……
実際はどんな感じか知らない。
取り敢えずやってみたら、
結果は出ると思うよ。」
「そうね。ジオちゃん、指示をお願い。」
『了解です。
ナビゲートを開始します。
沙花叉さんの身体を6時の方向に
72センチほど移動させて下さい。』
あずちゃんが常人パワーで
ぷるぷると爆睡沙花叉の身体を引き、
移動させる。
仮病のアリバイ工作を
水の泡にしない為、
僕はただ静かに機会を窺い見守っていた。
『……そこで止めて下さいマスター。
はい。そこが完璧なポジションです。
続いて、デスク周辺にある
目覚まし時計を8時の方向に
4センチズラしてください。』
「こう。かな?」
『流石ですマスター。
もう私に
ナビゲートできる事はありません。
果報は寝て待ちましょう。』
「寝て待ったら意味ないだろッ!?」
『うるさいなぁ、
まな板ゴr……さて。
あと10の刻も刻まぬ内に来ますよ。』
「今僕になんて言おうとしたァ!?」
『happyhappyhappy〜♪』
(あ、これ絶対答えないな。)
と。嫌な悟りをしたその時だった。
カチッ、という音を合図に
突然目覚まし時計が
甲高いベル音を鳴らし揺れ動いた。
――ピリリリリリリリッ!
「「!?」」
その軌道はデスクの端に向かっていき、
落下した。
これだけなら
ちょっとしたアクションだ。
何も驚く必要はない。
問題なのは、それを起点とし
連鎖のように拡がる異常だ。
落下の衝撃で
何処からか水晶が現れて転がる。
転がった水晶はそのまま戸棚へ衝突。
仕組まれたドミノゲームのように、
続け様で戸棚は倒れる。
下敷きになったのは、
偶然にも絶賛スヤスヤ中の沙花叉だった。
まさしく、〝凶の厄災〟だ。
ドガァァン!
「――ってェェエエエエ!!」
(出遅れるな天音かなた。
ここが勝負所だ……!)
「痛だだだだだっ!」
「大丈夫かなたちゃん!?」
「沙花叉の心配は!?」
「大丈夫? どこか痛むの?」
「ぐっ、昨日の痛みが疼いて……
ヤバい。ぼきゅ、
絶対アバラ一本いっちまったよぉ!」
「そん……なぁっ。」
「いや沙花叉の心配は!?
今下敷きになってんの沙花叉なんだけどぉ!」
よし。効いてる効いてる。
後は台本通りに頼むぞジオちゃん。
『左様ですか。
それは災難ですね、沙花叉さん。』
「ジオちゃんも気づいてんなら
高みの見物してないで
沙花叉を助けてよ!!」
『それが私にモノを頼む態度ですか?』
「分かった分かった。
ジオちゃんの為に何かしてあげるから
今だけは沙花叉を手伝って……!」
『良いでしょう。では今日限り、
私の提示する
条件を飲んでください。』
「……条件だって?」
『えぇ、そうです。
今日一日、天音かなたさんの
看護並びに無償の奉仕を
行なってもらいます。
約束出来ますか?』
「あーはいはい、分かりましたよぉ。
そんじゃさっさと沙花叉の解放よろ。」
『身体を左に少し捻ったのち、
左足を右に5㎝ほど
動かしてみてください。』
スルンッ!
「うぉっ!? マジで抜けたぁ!
やるじゃんジオちゃん!」
『私の能力を以ってすれば
造作もありません。さぁ、
約束はきっちり守って貰いますよ。』
*
作戦は見事成功。
僕は望むがままに沙花叉を操った。
食事に萌え萌えきゅんきゅんの
おまじないを注入させたり。
箸でご飯を口に運んで貰ったり。
肩揉みさせたり……。
飼育員さんが軒並み望んでる
であろうご褒美全てを実践。
文字通り、本当にやりたい放題だった。
フィニッシュは
胸か太ももで迷った結果。
あずちゃんへの視覚的刺激が
マイルドな膝枕に決定した。
もちろん、感触の良さを
損ないそうなガーターベルトは
事前に武装解除させてる。
今はと言うと。
庭に自生する木々を一望出来る
縁側にて、それを満喫してる最中だ。
「……ちょっとは回復したっすか。
かなた先輩。」
「うんうん。明日には
元気100倍で動けそうだよ。」
「こうして間近でかなた先輩の
頭見てると……気になるっすね。」
「ん、何が?」
「その天使の輪っかっす。
沙花叉色んな映画観るからさ、
円環状じゃない天使の輪っか見ると
どうにも疑問が湧いちゃうんすよね。」
「あぁ、この『ヘイロー』か。
そうだね。僕も同族からは、
これを奇異の目で見られてたよ。
〝お前は本当に同族なのか?〟――
って目線でね。」
「……え?」
「まっ、僕がいつか
話したくなったら話すよ。
今の沙花叉には、まだ早いかな。」
「かなた先輩の……意地悪。」
「ん? 何か言ったか沙花叉?」
「んや。何もないっす。」
ひゅうううっ。
涼しげな風が吹き、
木枝に座す野鳥が数羽羽ばたいた。
「そっか。」
頬に伝う贅沢な柔らかさと、
木漏れ日から差す
暖かな日光をまったりと浴びる。
そんな中。
「募る思いが〜複雑な……」
沙花叉が唐突に口ずさんだ
謎の子守唄が、耳馴染みよく
意識に溶け込む。
あまりの心地良さに僕は微睡み、
だらしなく
二度寝の世界へと引き込まれた。
どうも、たかしクランベリーです。
今回は珍しくかなたそ回ですが、
次からはまたいつも通り
主役沙花叉でお送りする予定です。
よろしくお願いします。