沙花叉の急な断言に、
オーナーは動揺した。
「何……だと?」
「アンタらも叶うなら、
そんな事態は極力避けたいっすよね。
そこで、ウチらの
一大共同プロジェクトの出番って訳ですよ。」
「ほう。」
「そのプロジェクトとは―――」
((((ごくり…………。))))
固唾を飲む一同を前に、
言葉を続ける。
「ズバリ……不良品のジャグラーを
元に、『パチスロ』を製作する事っす。」
「「「――???」」」
「……ふむ。」
頷いたオーナーを除く、約3名が
疑問符を浮かべ首を傾げる。
正直な話、告げれば
こうなるだろう事は分かってた。
オーナーは飲み込みが
早いタイプなので、
話してく内に自ずと理解を深めそうだ。
棚から牡丹餅。
偶然とはいえ、事前に
パチスロ能力に
巻き込んだ甲斐があった。
一人理解者が居るだけでも、
幾分商談の進行ハードルが下がる。
となると。
現時点の第一関門は、
周囲のハテナマークに
最もわかりやすい〝解〟を提示し
順序立ててプロジェクト概要の
詳細説明を展開する事だろう。
「えーと、クロヱちゃん。
ぱちすろって何かな……?」
ほらほら、早速好奇心旺盛な
AZKi先輩が食いついてきた。
「うん。それも今丁度、
皆さんに紹介しようと思ってた所っす。
AZKi先輩、パチスロっていうのは――
ぐむむむっ!?」
鬼の形相に豹変した天使が即座に
沙花叉の口を手で塞いだ。
完全に油断していた。
まさかかなた先輩も、
パチスロ経験者だったのか?
(知られると不味い何かを
野生の勘で察知しているのか……。)
そうこう推測してる間に、
かなた先輩が耳打ちしてきた。
「おい沙花叉。
僕の大事なあずちゃんに
パチスロを教えたら、
どうなるか分かってんだろうな……?
ジャングルの土壌養分になりたくなきゃ、
今すぐに言葉を慎めよ。」
(あ、マジな死刑宣告だ。)
「This is……『ガムの自販機』
OK? 沙花叉ァ。」
めちょ知っとるやんけ。
「……クロヱちゃん?
小刻みに震えてるけど大丈夫?」
「そ、そそそそんな事ないっすよ。
パチスロっていうのは
ざざざ、ざっくり言うと
『ガムの自販機』っす。」
「ガムの自販機……
そんなものがカジノで売れるの?」
「あっ、うっ。それはそのぉ……
あっ……あっ。あっ。
あてぃしはっ、スゥーッ…………。」
「沙花叉が言葉に詰まって
あくたん化してるーー!?
カムバーック! 沙花叉ァア!!」
「――稼げる確証があるから
話を持ちかけたのだろう。
サカマタよ。」
「!!」
ナイス助け舟だよオーナー。
……危なかった。
あと救いの手が数十秒遅かったら
身も心も湊あくあ先輩になる所だった。
なんにせよ。
今飛び乗んなきゃ、
確実にチャンスを逃す。
(乱れた舵を切り直すなら……今だ!)
「察しが良くて助かるっす。
実演を通したおかげで、
見方も変わったって訳ですか?」
「ああ。今になっては
〝あの実演〟も良い経験になった。
『パチスロ』とやらには、
大儲けを生み出す
ポテンシャルが充分にある。」
「利害の一致ってヤツですね。
そんじゃ、合意も済んだ事だし
プロジェクトの大まかな概要と
契約を結びましょうか。」
「……ほう。」
「といっても、一方的に此方の条件を
飲んでもらう事が大前提っす。
ちなみに沙花叉、
契約書の準備は間に合って無いんで
口頭で言いますよ。」
「構わん。」
早速、口頭で伝えた。
①パチスロ製作等の経費は、
カジノ経営陣側が全負担する。
②パチスロの特許は
『かな建』が保有するモノとする。
③かな建と株主間契約を締結する。
④テナントの複数無償提供。
⑤一部遊技機の長期間無償貸し借り。
…………等々。
ほぼ支配に近い契約であるものの、
これらを飲んでもらわなくては
今後の活動拡大に大きな支障が出るので
意地でも通したい。
契約内容の重さに
多少反論が飛んでくると
身構えていたが……驚くことに、
あっさりとあちらは受け入れてくれた。
「――良いだろう。
話はそれで終わりか?」
「うっす。基本はこの5つの事項を
守ってくれればウチらは問題ない。
……そんで、急に話を変えるんすけど
競馬を映像中継可能な媒体で放映し、
擬似競馬をやってましたよね。」
「ああ。我々は商用利用できると
踏んだ賭け事はとことん活用する主義でな。
競馬協会に月極契約金を
支払って運営している。
……それがどうかしたのか。」
成る程ね。
その好奇心旺盛な商売姿勢が
アンタらの企業規模を拡大したって訳か。
そりゃ、街一番のカジノハウスに
なるのも頷ける。
って、称賛してる場合じゃないね。
そもそもの話だ。
三人寄れば文殊の知恵と言うが、
スロカスとGuessrお姉さんと
PPとMIXが
そこそこ出来る謎に怪力な天使。
それら三者が肩組んで
どう背伸びしようとも、
近代テクノロジーの結晶である
『パチスロ』を
年内に完成させるのは夢のまた夢。
相手方だって、数年を跨いだ
気長な合同プロジェクトを
望んではいない筈だ。
この考えはウチらも同様。
大事なのは即効性と、
それを成せる技術者の
協力に他ならない。
故に、真に訊き出したいのは――
「その中継機は、他所から仕入れたものか。
当国の技術者から直接仕入れたのか。
どちらっすか?」
「面白い質問だな。サカマタ。
アレは7年前、当国に出現した
〝転生者〟が発明し……
テレビと名付け
この世界に広めた文明機だ。
その利便性はすぐ認知され、
半年と掛からず各国に流通した。」
「…………。」
「初めは保存した映像を見るだけの
外付け媒体であったが……
現在では、様々なメディアが
近況情報や番組をリアルタイムで
提供する場となったな。」
おっしゃ。ナイス予感的中。
けど、問題は次だ。
「その転生者というのは今、
どこで何をしてるとか
分かったりします?」
「もしや諸君、
〝彼〟の力をも借りる気か?
次も上手くいくなんて保証は、
どこにもないぞ。」
流石オーナー。
沙花叉の企みにすぐさま気がついたか。
確かに彼の言う通り。
ここで重要になるのは
目標の助力が得られるかどうか。
沙花叉の計画は実の所、
そこが転んだら成立しない
アドリブ満載大作戦。
今の流れに持ってくるまでの
行動は全て……
現スタート地点に立つ為行った
前準備に過ぎないと言ってもいい。
本番はこれから。
その事実を彼は、
理解した上で訊いてるのだろう。
「必ずや味方にして見せるっすよ。
こんな嬉しいおもてなしを
頂いたのに、みっともなく失敗したら……
恥ずいじゃないっすか。」
「恥……か。
諸君のプライドが
どこまでのモノなのかは知らんが、
生憎私は賭け事が大好きなんだ。
教えてやらんこともない。」
「「「――!!!」」」
「本気なんですか、オーナー。
裏を引いたら我々は…………」
怪訝な面持ちで、ケビンが訊いた。
オーナーである彼自身も自覚してる筈だ。
――その可能性もゼロではないと。
寧ろ、名も知れ渡ってない
新参企業の話を
こうも真っ向から信じる
オーナーの方が異常だ。
この怯まない姿勢こそが、
彼を彼たらしめる所以なのだろう。
いい意味でも。悪い意味でも。
同じギャンブラーとして、
こういう精神性には
正直称賛を送りたくなる。
「ケビン、お前がなんと言おうとも
私は〝表〟に賭ける。
彼女らの信念が簡単に折られる
柔なモノでない事は……
この身を以ってして、私が理解している。」
「くっ……アンタ程の男が
そこまで言うなら……
同意するしかない。」
「あのぅ……」
「そう急ぐな。
私は賭けると宣言しただろう?」
「…………。」
「彼は当国で今も、製品業に携わってる。
――『電気屋マルコ』。
街でも有名な商店だから
すぐに見つかるが、一応渡しておこう。」
言って彼は懐から
紙切れを一枚取り出して、ウチらに
詳細が見えるようテーブルに置いた。
うん……名刺だ。
『電気屋マルコ』って
デカデカと書いてあるし、
住所やギルド手帳番号まで
ちゃんと記されてる。
エネルギー、吸収……アリーナ?
よく分からん文字フォントの羅列も
あるけど、店のキャッチコピーか?
エネルギーや吸収は100歩譲って
電気屋っぽい響きだけどさ、
電気屋なのにアリーナって何。
(いや、多分気にしたら負けなんだろう。)
もう、
そういうセンスなんだと割り切ろう。
「あざます……。」
「気にするな。
我々の合同ビジネスを
成功させる為に必要なモノだ。
私が手段を惜しむ必要性がどこにある。」
「ないっすね。」
「――期待してるぞ。」
*
商談は穏便に済み。
かな建とカジノ経営陣は
食事の後に解散した。
かな建一行が料亭付近から
大分離れたのを魔法水晶で
確認したオーナー・オオズキは
続くように退店した。
「オーナー、どうして態々遅めに
退店したんですか?」
「……気まぐれだ。それよりケビン、
お前ももう帰っていいぞ。」
「了解です。」
ケビンが人混みに紛れ去ったのを
見たオオズキは、何かに勘付いたように
水晶を懐にしまった。
「去ったか。」
1人呟き、彼はひと気のない
暗い路地裏へ歩み出した。
徒歩で細道の3割くらいに到達すると
足を止め、何者かに話しかける。
「盗み聞きか……
お前も趣味が悪いな。
居るんだろう、ドゥナコ・マルフォイ。」
ザッ。
名前を呼ばれ、マルフォイ公爵が
彼の眼前に降り立ち姿を表した。
「すまないね、オオズキの兄貴。
僕だって〝転生者の動向〟が
気になってしょうがないタチなんだ。」
「ほう。そんな理由か。
相変わらずお前は知りたがり小僧だな。」
「いつの話だよ……
――で、どうだった。
僕が絶賛する理由も分かっただろ?」
オオズキは満足気に口元を緩めた。
「今期の転生者は、今までに無い
〝面白さ〟がある……。
どんな結末かは予想つかんが、
お前の言う通り、夢物語じゃなさそうだ。
彼女らが『魔王』を制すのも。」
「だろだろ? 僕らを率いてた
〝転生勇者〟とは大違いだ。
オオズキの兄貴たちと旅してた
あの頃のワクワクに匹敵する
興奮が……止まらないよ。」
「ああ。あの頃は楽しかったな。
まぁ、お前の世話には手を焼いたが。
〝剣の神童〟なんてネームバリューに
騙された当時の俺を
ぶん殴りたいくらいだ。」
「一言余計だっつーの。」
「俺の些細な仕返しだ。
とことん噛み締めろ。盗み聞き小僧。」
「……ぐぬぬっ。
負けた側のクセによく言うよ。
魔王軍幹部3人相手に
素手で捩じ伏せた力強さも、
今じゃ見る影もなく衰えてる
堕落ギャンブラーが…………。」
「全くもってその通りだ。
俺とて、どうやら寄る年波には
逆らえんらしい。
老衰の進みが一際遅い、
ハーフエルフのお前と違ってな。」
「………………。」
マルフォイ公爵は、数秒沈黙した。
「――しかし、
こうして会うのも久しぶりだ。
折角だし行くか……アイツの墓参り。」
「分かったよ。
イクシアも誘っていいか?」
「構わん。」