始まりの街。スターテッド。
定期的に転生者が出没する謎の街。
かな建一行が転生するよりも前、
度々転生者が現れては……
彼らは当国にて、各々の掲げる
ビジョンに身を投じた。
由来不明の
不思議な『力』や『器具』を行使し、
魔族を懲らしめる勇者パーティとして
奮闘する者らも居れば……
現世由来の素晴らしき
文明や文化を布教せんと
躍起になり、動く者も数多くいた。
国民らは最早、
転生現象によって齎される
文明開花の飽和に慣れさえ感じていた。
付け焼き刃の力や知識は
通用しない域へと達し、
驕る彼らの多くは〝世界の洗礼〟を受ける。
――絶対的自然淘汰。
許されるのは……ほんの一握り。
実力と経験の伴った
真なる転生者こそが称賛を浴び、
正しき先駆者として国民に認められる。
それ以外は、身の丈に合う
市民と化すのみ。
……猶予期間は半年。
以降見込みがないと判断されれば、
『転生者の権利』を強制剥奪。
国の護衛庇護や保護金、
勇者荘の居住権といった
転生者ならではの
ハンディキャップを諸々失う。
これが当国の暗黙の了解であり、
沙花叉クロヱ自身は朧気ではあるものの。
その違和感に逸早く気がつき
答えに辿り着こうとしていた――。
音楽鑑賞、映画鑑賞、ギャンブル、
ストラテジーゲーム。
彼女自身が趣味で没頭していた
それらは意外な事に。
直感や感性、倫理的思考能力を
研ぎ澄ます砥石として絶好の素材だった。
その研ぎ上げて錬磨された
〝鋭さ〟が偶然にも、
優れた警鐘を疾く
脳内に鳴らす起因となったのだろう。
……だが。
かな建を除く『継続転生者』も、
手指で数えるほどには、
当国に一定数居る。
和食文化を広め、料亭くろはなまるの
現CEOを務める貴婦人。
〝奇跡の女将〟絹瀬・宮子。
25世紀相当に値する
様々な機構テクノロジーを普及させ……
自身の設立した電気屋を営む傍ら、
更なる発明に奔走する男。
〝電才〟こと、マルコ・セグウェイ。
電才と称される彼は、
かな建のアポ無し凸など梅雨知らず。
今も電気屋マルコで
新開発に取り組んでいた―――。
*
――電気屋マルコ。
扉が開かれ、備え付けのベルが鳴る。
ノコノコとやって来たのは
かな建一行。
入店したからといって、
即会えるほど甘くは無かった。
〜SIDE『沙花叉クロヱ』〜
(うわー。めちょ広いじゃん。
……完全になめてた。正直、
街の小さな商店感覚で来ちゃってた
自分がみっともない。)
街一番の電気屋と称されてるだけあって……
店舗の規模や広さに見合った
設備や職員の確保が行き通っている。
成る程成る程、
一階は総合案内窓口か……
あ、目が合った。
ウチらと目を合わせるなり、
清潔なスーツに身を包む職員が
入り口付近のカウンターで会釈をした。
「いらっしゃいませ。
こちらは総合案内カウンターです。
2階より上の階は売店で御座います。
お買い物をじっくりお楽しみください。」
会釈を一同で返した後。
営業スマイルで迎える
受付員を前に、
沙花叉クロヱは覚悟を固め直していた。
(おっとぉ、コレはそう簡単に
会えなさそう……。
けど、ここで決めなきゃ終わる……!)
どんな辛い崖でも、
クライミングしきると決めたんだ。
手を入れる凹みが
まだゼロとは限らないんだし、
やるだけやってみるしかない。
この高く険しい断崖を、
登り切ってみせる。
「すいません。ウチら買い物とは
別件で来たんすけど……
話聞いて貰えますか?」
「はい。返品相談、不良品相談、
ローン相談等の窓口手続きですね。
こちらで待機カードをお渡ししますので
お待ちくださ……」
「――ストップストップ!
違う違う。会いたいんすよ!
マルコ・セグウェイって人に……!!」
名刺に記載されてた社長の名前だ。
物分かりのいい受付員なら、
きっと取り持ってくれる筈。
けど、態度が少し横暴すぎたし……
通るか心配になってきた。
「可笑しいですね。社長は昨日、
本日行う商談の
予定は無いと仰ってましたが。」
あちゃー。っぱそうなるよね。
もうこうなりゃゴリ押しだ。
「そこをどうにかお願いします……!」
受付員は数秒ぽかんとし、
一応といった形で受話器を繋いでくれた。
そこはギルド手帳じゃないのか。
とも思ったが……
標的が用心深い性格なら、
無闇にギルド手帳の番号を
社員へ公開しない事にも納得がいく。
何が起こるか分からない異世界生活。
あっちもそれなりに
対策を講じてるって訳ね。
「社長、もしもし。……はい。
2人の若い女性と、天使族の少年が1人。
――良いんですか!?
はい。承知しました。」
がちゃり。
受話器を元に戻し、受付員が向き直った。
「……あのー。どうなりましたか?」
「面会の要請が通りました。
あなた方は20分後、
7Fの応接フロア06号室にて
社長と直々に対談出来るそうです。」
(良かったぁ。)
一時はどうなる事かと思ったが、
なんとか第一関門突破。
訪れた安堵の中、そっと
心の中で胸を撫で下ろした。
カジノハウスでの一件があったせいで、
またもや強制バトルイベントに
巻き込まれるんじゃないかと
内心ドキドキしてた。
「私たちは、この場で待機した方が
良いのでしょうか?」
心を落ち着けてる最中。
AZKi先輩が気を遣って
先に質問してくれた。
ナイスアシスト。
「指定時間に
その場に居れば問題ありません。
近場の外出くらいで憤るような
お方ではありませんから。」
「だそうだ沙花叉。どうするよ?」
AZKi先輩の手柄を
さも自分の功績かのように
ヒソヒソ声で沙花叉に伝える性悪天使。
かなた社長、沙花叉恥ずかしいよ。
(うーん。確かに外の空気を吸って
一旦気持ちを
リフレッシュするのもアリだ。)
けれど、AZKi先輩やかなた先輩が
異世界特有の目新しさに
興味を惹かれて思いもよらぬ
遅刻を被る可能性もある。
その最悪な
ケースを確実に回避する為には、
待機を選ぶ他ない。
「ちょっといいっすか受付員さん。」
「はい。なんでしょう。」
「7Fの面会フロアって、
待機所が設けられてたりしないっすか?」
「はい。待機所はありますよ。
あなた方は時間まで
待機するつもりですか?」
「ま、そんな感じですかね。」
受付員が朗らかな表情で頷き、
戸棚下の引出しから取り出した
冊子を沙花叉に手渡した。
「分かりました。
こちら当店の案内パンフレットです。
当店について
また何か疑問が御座いましたら、
いつでも此方の総合窓口に
お声掛けください。
エレベーターは
そこの通路を渡って右です。」
言って手振りで視線誘導された
先には、確かに
エレベーターホールがあった。
ペラっ、ペラペラっ――。
店内のフロア案内や見取り図は
分かりやすく冊子型パンフレットに
記載されてるし……
受付員やジオちゃんから
聞かずとも、
目的地へと迷わず行けそうだ。
「ありがとうございます。」
感謝を告げ、
かな建総員で礼をしたのち。
例の応接室へと足を運んだ。
………………。
…………。
応接室内まで指定時刻より
大体15分早く先回りし、
着席待機を
始めてから20分経った辺りだろうか。
かちゃりとドアの部が音を立てて
回転すると、扉が開く。
そして、遂に目標が入室。
互いに会釈を交わし合い。
博衣に身を纏った如何にも
研究者っぽい男が、
移動しながら上座に座る。
獣人ではないんだけど、
どこぞの獣人コヨーテ研究者と
雰囲気が似てるなぁ……。
「やぁ、少し集合が遅れてすまないね。
僕は予定が空くと、
新開発に没頭しちゃう難儀な性分でね。
あはは……。」
申し訳なさそうに愛想笑いし、
彼は言葉を続ける。
別に悪いとは思わない。
いつ寝てんだよっていう
研究熱心なマヨラー博士が
身近にいるから、
そういう性格は慣れっこだ。
むしろ時間のルーズさなら、
沙花叉も負けてない。
ブラック上司天使が見張ってなきゃ
今も爆睡こいてた所だ。
シャチなのに睡眠時間が
虎じゃねーか。と何度ツッコまれた事か。
「もう既には知っているだろうけど、
改めて自己紹介させてくれ。
僕は転生者のマルコ・セグウェイ。
当店の社長を
務めてる冴えない研究者さ。
……君たちは?」
こりゃあ、続けて
言う流れは避けられなさそう……。
しゃーない。
不本意ながら、トップバッターとして
行かせてもらいますかね。
「どうも、建設会社『かな建』の
社員を沙花叉クロヱっす。」
「僕は天音かなた!
この子達の社長をやってる天使です!」
「AZKiです。私も彼女たちと
同じ職場に勤めている社員です。
よろしくお願いします。」
「うんうん。良い挨拶だ。
君たちが近頃、新聞の一面を飾った
転生者なのは此方も把握済みだよ。
しかし、購買目的以外で
僕に会いに来た転生者は君らが初……
おまけにアポ無し。
正直僕自身びっくりさ。
で、どういった要件なんだい?」
この国の記者はプライバシー皆無なのか?
せめて一声くらい
ウチらにかけて欲しかったな。
まぁ、今嘆いたとしても紙面に出回った
情報を無かった事には出来ないし……
今は返答の処理にリソースを割こう。
というより、要件を訊かれた時の
返答は昨日の時点で決めてある。
予め頭に仕込んだテンプレートに沿って
会話を進めてけば、何も問題はない。
「ちょっとした合同プロジェクトに
協力して欲しいんです。」
「ちょっとした計画を手伝って欲しい……か。
それを態々僕に顔合わせしてまで
お願いするって事は――
当店に並ぶ購買製品以上の〝何か〟を
僕と合同製作したいって訳だね。」
察し良すぎでしょこの研究者。
もう何から何まで筒抜けになりそうで
怖くなってきた。
でも、踏み込まんと始まらない。
「単刀直入に言っていいっすか。」
「いいよいいよ。
僕も丁度気になって
仕方がない所なんだ。」
「――『パチスロ』っす。」
すぐさまそれが何かを理解したようで。
彼は小刻みに震え出すと、
貯めに貯めた愉快さを吐き出し
大笑いした。
「あっははっ! こりゃあ発明家の
僕でも盲点だったよ!!
まず異世界転生してすぐに、
〝パチスロ作りましょう〟って――
頭の螺子相当
ぶっ飛んだスロカスじゃないと
そんな発想出ないでしょ……!!」
ご尤もな意見で反論の余地もない。
「で、君たち3人の中の誰が
考えついたんだい。
その愉快な事業計画は……」
スッ。
かなた先輩とAZKi先輩が
柄にもなく、
無表情で沙花叉の方を指差した。
「んもぉぉおおおお……!!
何で沙花叉ばっかりこんな役回り
なのぉぉおおお!!」
「いや沙花叉。
おみゃーの自業自得だろ。
僕は社長として、おみゃーの
持ち出した計画に
付き合ってるだけだぞ。」
なんという薄情ゴr……天使。
頼むから
薄いのは胸だけにしてくれよ。
大丈夫だ。
かな建には誰にでもお淑やかで優しい
完璧清楚なAZKi先輩がいる。
きっと何かの拍子で手が滑ったんだ。
たまにおっちょこちょいな部分が
出るだけで、沙花叉の心に刺した
絆ゲッサーピンをそう易々と
引っこ抜くような仲間じゃない。
(そう……だよね。)
「AZKi先輩は沙花叉とぉ〜、
一緒に考えてくれたっすよね……?」
「GUESS♪」
「何をGUESSしたの!?」
『えっへん!
今日もマスターは絶好調ですね♪
あ。ちなみにマスターは先程、
NOと答えました。』
「うそぉん!
響きとイントネーションが
ほぼほぼYESだったよジオちゃん!?
てかマジで沙花叉の味方居ないのぉ!?
ねぇってばぁぁああああ……!!」
ゴトッ。
(あ、じたばたしちゃったから、
懐に仕舞ってたholoX端末が
床に落下した。)
急いで拾わないと
ややこしい事になりそうだ。
彼に気が付かれる前に――
サッ。
……マズい。
マルコさんに例の端末が拾われた。
しかも、観察まで始めてる。
「おやおや。こんなギルド手帳は
見たことがないな……。
どちらかと言うと、スマホに近い
形状の通信式デバイスに見える。
――ん!? この紋章は?」
端末を包む裏面カバーを見るなり、
何かを確信した顔つきになった彼。
数秒沈黙したのち。
突然、沙花叉に目を合わせてきた。
「こんな偶然は初めてだ。
もしや君……
〝holoX〟の社員なのかい?」
「―――ッ!!?」