かな建クエストっ!   作:たかしクランベリー   

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5話・シャチを捕えろ!

 

『――解除《Full face》』

 

プシュー……。

 

顔面を覆うヘルメットが

消失し、holoX専用デバイスが

本来の端末形態へと戻る。

 

解除後、突然シャトルランを

70往復したような

疲労感が全身を襲い。

 

ふらふらとしながら

綺麗にしたソファーにもたれ掛かった。

 

「ゆ、許さねぇあのスケベ犬。

とんだ欠陥品じゃんかよぉ………。」

 

肩で息をしつつ、愚痴をこぼす。

一向に癒えない身体と筋肉は、

未だ悲鳴を上げている。

 

「すごいな沙花叉。

いや、新アイテムを褒めるべきか。

正直僕、あんなに

残像ができるくらい

テキパキ動けるようになるとは

思わなかったよ。

――って沙花叉ァ!?」

 

「……ハァ……ハァ。

気づくのが遅いっスよ、

かなた先輩。」

 

「もしかしてソレ、副作用?」

 

「副作用っつーか何というか。

普段の運動量の数100倍は

体感疲れてるって感じ。」

 

「うわー。それは災難だね。

ま、僕に言わせりゃ

自業自得でしかないけど。」

「沙花叉だって分かってますよぉ!」

 

ピンポーン!

 

突然、

勇者荘のインターホンが鳴った。

 

……という事は、どうやら。

清掃終わりのダラけタイムも、

そろそろ終了みたいだ。

 

あずいろの2人が、

買い物を済ませて帰ってきたっぽい。 

 

動けない自分の為に

かなた先輩が代わりで出迎えをし、

清潔になったリビングに

連れ出してくる。

 

「ただいまー。」

「ただいまでござるー。」

 

「んあー、おかえりっす。」

「返事適当すぎだろ!」

「いいじゃないっすかぁ〜。

今更畏まる関係でもないっしょ。」

 

「まぁまぁ。

落ち着くでござるよかなた殿。

クロヱ殿のぶっきらぼうは

今に始まった事

じゃないでござるし。」

 

「いいかい、いろはちゃん。

誰が何と言おうと、

僕は沙花叉を甘やかす気はない。」

 

糸目で黒い笑みを浮かべ、

かなた先輩がのっそりと

近寄ってくる。

 

構えられた両手は、

これでもかと力の籠った握り拳。

その標的となるのは。

 

(……あ、これマジなヤツだ。)

 

「あのー、ちょっと考え直しませんか

かなた先輩。ほら、

バナナでも食べて落ち着いて……」

 

「さぁ、お仕置きの時間だよ★

さ・か・ま・た❤︎」

 

「ちょまっ! AZKi先輩っ、

いろはちゃん! どうかお助け……」

 

「「…………。」」

 

グリグリグリグリィ……。

 

「――ぎぃぁぁああああっ!!」

 

両方の顳顬を襲うグリグリの刑。

 

ワインのコルク抜きでも

やってんのかと思うくらい

強烈な激痛が奔り、

本気で頭蓋骨が割れて抉れると

錯覚した。

 

「よし、大人しくなったし……

これで反省したな。」

「かなた殿。

これ、気絶してるでござるよ。」

 

「あはは……1発KOだね。」

 

 

 

 

コトコトと沸騰する湯音と、

芳しい料理の香りで目が覚める。

 

まだ、頭がほんの少しグラグラする。

あの天使……マジで容赦というモノを

知らないのだろうか。

 

全身を動かせる程には疲労が

回復したけど……

頭に残る物理的ダメージで、

未だ全快とは言い切れない。

 

「あ、起きたんだ沙花叉。」

「はぁ? 誰の所為で

気絶したと思ってるんすか。」

「あれ、まだ反省してない?」

 

ゴキっ……ゴキっ。

 

「――してますしてます充分っす

かなた先輩!!」

 

(クラッキングで

脅迫すんの怖すぎでしょ!)

 

「にしても、沙花叉が

元気そうで良かった。」

 

「どこが!?

今日だけでめちょ

身体ダメージ負ってるよ!?

上級クエスト帰りたて

かってくらいにさぁ!!」

 

かなた先輩は、首を振って告げた。

 

「いーや、気持ちの問題だよ。

いきなり慣れない世界に

連れて来られて、

仲が良くて居心地の良い

holoXとの面々とも離れ離れ。」

 

「…………。」

 

「実は怖がりちゃんの

沙花叉だからさ。

不安で落ち込むだろうと、

僕は心配してたんだ。」

 

かなた先輩、沙花叉のコトを

そんな風に思ってくれてたんだ。

ずっと八つ当たりばかりしてる

印象だったのに。

 

もしかしてそれも、

沙花叉を独りで落ち込ませないため?

 

(――って、んな訳ないか。

だって、あのかなた先輩っすもんね。)

 

「さーて。あんまのんびり

し過ぎると夕食も冷めちゃうし、

食卓に行こうか。」

「そ、そっすね。」

 

彼女に連れられ4人がけサイズの

食卓の席に着くと、

既に3人分の食事が

卓上に並べられていた。

 

「あれ、いろはちゃんの分は?」

「制限時間切れで

元の世界に帰ったよ。」

 

あ、そーいや

1日1時間しか呼び出せないんだっけ。

 

改めて考えると、

地味に使いにくいなぁ。

――『ホロメン呼び出しフォン』

 

時間が長過ぎても各ホロメンの

スケジュールに対する支障や負担が

肥大化するだけだし……

割りかし真っ当な調整か。

 

っていっても、

多少は伸ばせるオプションも欲しい。

……これって、高望みかな。

 

「でもね。いろはちゃん、

最後まで私の料理作りを

手伝ってくれたんだよ。」

「ほへー。何となく分かっては

いたっすけど、律儀だなぁ。」

 

「まっ、何はともあれ

全員席についた事だし……

冷めないうちに食べよっか。」

 

どうやらかなた先輩は、

食事が待ちきれようだ。

多分あと数十分もすれば、

沙花叉の腹の虫も鳴るだろう。

 

(もう、我慢なんてしてられっか!)

 

「そんじゃ、いっただっきまーす!」

「おいっ! 

フライングを許可した覚えないぞッ!」

 

「……ふふ、いつも通りね。

元の世界にあった食材が

案外多くて、和食の再現も

想定より楽だったわ。」

 

AZKi先輩の補足通り

卓に並ぶ一汁三菜は、

異世界ドリップしたとは思えない

レベルに完成度の高い和食だった。

 

白米、なめこっぽい味噌汁。

焼き魚、胡瓜とわかめの酢の物。

にんじんしりしり。

 

その中でも一際美味しそうな香りを

漂わせる焼き魚に、箸を通した。

 

ふわっと身の繊維が解れるように

裂かれて、旨みの蒸気を放つ。

 

この魔性の飯テロ誘惑には、

耐えられる筈もなかった。

 

一口大に分けた切り身を

口に入れる。

 

入れて早々、噛んでもないのに

魚の旨みと

しつこさのない脂が染み出す。

 

(こりゃもうっ……

白飯しかないっしょ!!)

 

パクっ。

 

美味い主菜に白米。

どう転んでも、不味くなるわけがない。

 

和の暴れん坊タッグがブチかます

ダブルラリアットに、

沙花叉は堪らず称賛の白旗を上げる。

 

咀嚼を終えても、

彼らの猛攻の余韻は

心地良く残っていた。

 

「んまーっ! 

っぱ頑張った後の飯って最高だわ!」

「うんうん。あずいろ監修の

夕食御膳は、本当にご馳走だね。」

 

「そ、そんなに褒められると

照れちゃうなぁ。」

 

………………。

 

…………。

 

「「――ご馳走様でした!!!」」

 

「ぷはーっ、満腹満腹ぅ♪」

「食器の片付けは私に任せて。

2人は掃除頑張ったし、

まだ休んでていいよ。」

 

「いやいやAZKi先輩、

そりゃ申し訳ないって。

多少の軽い作業でも力に……」

 

――ガチャッ。

 

「……ん。」

「や! 沙花叉、行こっか。」

 

ガシャガチャガチャっ……。

 

手首から伸びる短い鎖。

それは、

かなた先輩の手首まで続いていた。

 

「あのーかなた先輩。

コレって手錠っすよね。

何の真似? 束縛系彼氏ごっこ?」

 

「僕なりにさ、考えてたんだよ。

どうやったら沙花叉が

毎日風呂入ってくれるのかなって。

だから、

気絶してる間に買ってきたんだ。」

 

逃がさない為だった。

 

まさか、食後の気の抜ける瞬間を

ずっと窺ってたのか?

くっ……今度は引っかからないぞ。

 

「分かった分かった。

今日は沙花叉の負けで良いですよ。」

「ふっ、今日はやけに

潔いじゃないか。」

 

実を言うと、

腕を犠牲にする程の事じゃないし。

 

「それじゃあ出発ぅー★」

 

――勇者荘。バスルーム。

 

逃れられず、

彼女の意のままに

バスルームへ足を運ぶ。

 

脱衣所にある洗面台に設置された

戸棚には、既に購入済みの

歯ブラシセットが3人分陳列している。

 

目立った大きめの棚の方は、

着替え用の衣服と、

タオルがカゴ分けされて置いてある。

 

「よし、さっそくだけど

デンタルケアしよっか。

沙花叉は何色の

歯ブラシセットにする?」

 

▶︎桃色

▶︎赤色

▶︎青色

 

「んー、赤で。」

「そこは空気読めるんだね。」

「沙花叉を何だと思ってるんすか。」

 

「シャチ。」

「正解。」

 

ごしごし……。 

ごしごしごし……。

ガラガラガラガラ……ぺっ。

 

大きめの洗面所で良かった。

お一人様用の

洗面台サイズだったら、

大惨事になってたかもしんない。

 

「なぁ、沙花叉。」

「何?」

 

「手錠つけながら歯磨きって

やり辛くないか。

利き手が使えないって、

こんな不便なんだね。」

 

(マジ、何でつけたん……?)

 

「じゃあ外そ。」

「それは断る。

風呂が終わるまで我慢しろ。」

 

 





どうも、たかしクランベリーです。

かな建クエストは
グルメ系のストーリーじゃないです。
テーマとしては
フリーダムな日常モノなので、
グルメ回も
あったりなかったりします。

さて。推しが配信する
本日21:00からの
特別なライブ配信に備えて
仮眠します。
よろしくお願いします。
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