かな建クエストっ!   作:たかしクランベリー   

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8話・#爆睡シャチの起こし方

 

 

「いやぁー、実は

わたくし儒烏風亭らでん。

昨日スロで6万ほどスっちまいまして。

ここのバイト代で

どーにかこーにか生活費を

賄わないといけないんで御座いますな。」

 

「ふーん。頑張ってね。」

「なぜに他人事ぉおっ!?

ノリ打ちの大勝ちで

らでんを救って下さいよぉ!」

 

「「…………。」」

 

「えーっと、注文入れていい?」

「はぁいっ! お伺いしまぁす!」

 

威勢よくカウンターに

シュッと滑らして来たのは、

ラミネートを施された

コーヒー専用メニュー。

 

独自のランキングと

デザインが目立つそれを眺め、

考える。

 

「はてさて、単に珈琲と言いましても。

原料となる珈琲豆のブランド、

淹れ方……延いては

ドリップ手法に応じて、

魅せる味も薫りも

大きく変わっていきますな。」

 

「ふーん。」

 

「まぁ任せて下さいって

クロヱ先輩。ホロメンの

珈琲ソムリエといえば

らでんみたいな所ありますから。」

 

あれ……可笑しいな。

沙花叉の認識では

酒や美術関連の話を多くしてる

イメージだけど、

もしや本当に

珈琲ソムリエだったりする?

 

「そっか。んじゃ、

例えば何が良かったりすんの?」

 

「ドリップ手法言うてもね。

王道のペーパードリップ。飲んだ際の

舌触りを追求するネル(布)ドリップ。

攪拌や蒸らしといった工程要らずの

エスプレッソ、フレンチプレス。

攪拌技術が美味さの仕上がりに

直結するサイフォン、エアロプレス。

とにかく美味しさが長持ちする水出し。

などなど、

様々なモンが御座いまして……」

 

このチュートリアル、

なんか長くなりそうだな。

怠いし、ストレートに決めさせるか。

 

「あー、別にそうゆうのとか

どういいからさ。

らでんちゃんが今これだ!

って思った奴でよろ。」

 

「うわーん! 先輩が冷たぁいっ!

熱燗冷めちゃうよぉっ!

挽きや焙煎の説明もまだ

残ってるのにぃいっ……!!」

「それを言うならホット珈琲っしょ。」

 

「上手いっ! 座布団しゅっ!」

 

待て待て。

沙花叉はこの後輩のノリにどこまで

付き合ったらいいんだ。

 

はよシオン先輩の所に

戻りたいんだけど。

 

 

「あのー、注文……」

「わっかりやしたぁ!

大将! 銀髪のネーチャンに

特選珈琲豆中挽き、

シティローストでサイフォン!

ワンカップの注文でお願いしやぁすっ!」

 

居酒屋かよ。

 

「居酒屋みたいなノリで

俺に自分の仕事押し付けんなッ!

ちゃんと自分で淹れやがれッ……!!」

「了解です! 大将……!」

 

怒られてる自覚ないのかな。

控えのキッチンから

怒号が返ってくるなんて相当だよ。

 

「えーっと、らでんちゃんが

淹れてくれるって認識であってる?」

 

「えぇ、わたくし儒烏風亭らでん。

任された仕事はしっかりと

こなしますとも。

……そげん時間はかからんとよ。

ちょっと待つたけ〜。」

 

醜い押し付けがあった気がするが、

当人は一切の悪怯れもなく

仕事に移った。

 

大きめのスチル缶から

コーヒー豆を匙で規定量掬い、

挽き器で挽く。

 

着火した熱源にフラスコ、

ロートをセッティング。

 

湯を張ったロートに

挽きたて特選豆を投入し、

熱量調整と並行して

ヘラによる丁寧な攪拌が始まる。

 

魅入っていると

ロート内に挽き豆のドームが

あっという間に形成され……

抽出が済んでいた。

 

コトッ。

 

「サイフォン式特製コーヒー。

ワンカップで一丁上がりでっせぇ

クロヱ先輩。冷めんうちに、

とくとご賞味あれ。」

 

自身あり気な声音で言い。

後片付けに動き出すらでんちゃん。

 

特に話す事も無さそうなので

例のコーヒーを受け取って席に戻る。

 

戻ってみると

待ちきれなかったのか。

 

右半分の山を失った

プリンアラモードをスプーンで

つついて退屈そうに待つ

シオン先輩の姿があった。

 

(マズいな……もしや、

シオン先輩を怒らせちゃったか?)

 

「……も、戻ってきたよー。

シオン先輩。」

「――おっ、沙花叉ぁ!

大丈夫大丈夫。

シオン全然待ってないって!」

 

(くっ、この優しさがマブいっ……!

益々好きになっちゃうって!)

 

「そ、そうなの……。

でもなんか待たせた気がするし、

ごめんねシオン先輩。」

 

「いいっていいって!

ほら、沙花叉もこのプリンなんちゃら

食べてみてよ! マジ美味いからさ!」

 

言ってシオン先輩は、

デザートスプーンを

沙花叉に手渡した。

 

(待たせて

退屈な思いさせちゃったし、

ここでプリン大絶賛して

お互いの気分を

リフレッシュさせよう。)

 

お誂え向きの特製コーヒーも

あるんだ。

 

この最強コンビで

優勝して気持ちよく

起床するしかないっしょ……!

 

パクリっ。

 

(何これっ……美味すぎる。)

 

ガツンとくる黄身の風味。

カスタードの甘み。

しかしクドさを感じさせないよう、

仄かに苦味の効いた

カラメルソースが飽和した甘味に

ビシッと輪郭を与えてる。

 

そして。

添えられたホイップクリームの

ミルク風味とふわふわ感が

優しく全体を包み込み、

とろける滑らかな食感に

拍車を掛けている……!

 

なんというプリンへの情熱。

 

溺れそうだ。――『プリンの海』に。

 

え。待って。

マジで呼吸出来ないんだけど。

ホントホント。

 

いや。比喩とかじゃなくて、

物理的に酸素取り込めないレベルで

苦し……ごぼっ。

 

「げほげほぁっ!

げほぁぁああっ……!!」

 

「あ、起きた。おはよう沙花叉。」

「あ、起きた。

――じゃねーわッ!

沙花叉を溺死させる気なの!?」

 

夢だったけど夢じゃなかった。

あとちょっと夢に浸ってたら

本当の意味で永眠を迎えてる所だった。

 

場所は、勇者荘のリビング。

 

ぽつんと置かれた、

水責めに利用したであろう

冷水を張った金属製のタライ。

 

否が応でも、状況を理解してしまう。

 

「え、シャチって

魚だからエラ呼吸できるでしょ?

沙花叉なら、

これで本能的に起きれるかなー

と思って試してみた。」

 

「魚類じゃなくて一応哺乳類ッ!

シャチはイルカや鯨の仲間ァ! 

つまり肺呼吸っ!

Do you understand??」

 

「あー、そうなんだ。

じゃ、さっそく仕事しよっか。」

「軽く流すなっ!」

 

「言っただろ沙花叉。

僕は君を甘やかす気はないと。

holoXは君のロングスリーパー体質に

理解を示し、午前の就業時間を

やむなく免除してたんだろうけど……

僕らかな建は〝違う〟。」

 

「違う……?」

 

かなた先輩は頷いた。

 

「――そうだ。これは昨晩、

沙花叉が始めた物語だろ。

もう生きる世界が違うんだ。

ライフスタイルも業務スタイルも、

一新する心構えでいなきゃ

いつまで経っても

鈍い足取りのままになる。

ね、あずちゃん。」

 

「……うん。」

 

「だからまずは、

規則正しい生活リズムからだ。

あずちゃんが沙花叉の

口の中に角砂糖入れても

全然起きないーって言うから、

僕なりの手助けをしたのさ。」

 

あー、だから夢ん中で

口が一瞬甘くなったのか。

にしても、もっとマシな起こし方は

無かったのかな。

 

……ま、今そんなの考えても

しょうがないや。

 

(よし……寝るか。)

 

――タッ。

 

ドンっ!

 

寝室へ走り去ろうとしたが、

かなた先輩が先回りして戸を閉じた。

 

彼女の表情は笑顔ではあるものの、

その目は全く笑っていない。

 

「沙花叉ぁ〜、まさかだけどさぁ……

この僕を前に、『二度寝』出来ると

でも思ったの?」

 

「……ひっ!!」

 

「もーしょうがないなぁ。

僕優しいからさ。

仕事するか永眠するか、

10秒だけシンキングタイムあげるよ。

はいいーち、にー……」

 

(怖っ! これ以上調子乗ったら

マジでジャングルに

埋められんじゃないか沙花叉。)

 

「すんませんすんません

すんませぇん!! これからは毎日

ちゃんと起きて働きますので

どうか命だけはご勘弁ください

大天使様ァア!!」

 

「よく言えたね沙花叉。

やっぱり僕は信じてたよ。

本当は良い子だってね。」

 

とんでもねぇラスボスが

身近に居たよ。

 

カリオペ先輩、

ジャングルの魔王がここに居ます。

攻略法教えてください。

 

てか、何が良い子だ。

完全にムーブが

ヤンデレの類いだろうが。

拒否権皆無のパワープレイに

誰が勝てると言うんだ。

 

……と、内心ゴチりながら。

 

朝食前。昨晩に続き

リビングにて

かな建朝ミーティングが火蓋を切った。

 

「――さて、決めようか。

今日具体的に、僕らが何をして

事業を進めていくか。」

 

 

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