謎の声に導かれて勢いよく扉の「向こう側」へ飛び出した詩織であったけれど、当然ながらその後の事を考えていない為、大きな決断をした割にはすぐに後悔をしていた。
アニメや漫画などによくある、「扉の向こうは戦場だった」パターンだったらどうしよう。それならまだ、「トンネルを抜けたら雪国だった」の方がマシかもしれない。そんなことすら思う。
いや、寧ろ重要なのはたどり着いた場所ではない。
急に鍵が解除されて開いた扉、そしてそのの向こうへ行けば新しい道があるという謎の声を信じて行動する――そんな謎の現象を自分が素直に受け入れてしまった方が問題だ。いくら結果的には「生きる」ことを選んだとは言え、そんな行動した自分に詩織は驚いていた。
――でもとりあえず、扉を開けて飛び出してしまったのだから仕方がない。詩織はゆっくりと、つぶっていた目を開ける。そして自分が今立っている場所を確認した。
するとそこは戦場――でも雪国でもなく、意外な事にどこかの建物の中だった。
その場所は天井がアーチ状になっており少し高く、一見すると何かの会場、いやホールのような場所だった。部屋の形はまるでも四角でもなく、珍しいことに星型に作られているようだった。
またよく見ると天井付近にはアーチの形に沿って燭台が等間隔で並べられており、それら全てに火が灯っている。電気を使った照明が存在していないのだろうか。明るさはあるけれど、仄かなオレンジの光が柔らかく室内を照らし出すような、柔らかさを部屋全体から感じた。星型の部屋の頂点部分には、ことさら大きな蝋燭が設置されている。
一方で、部屋の正面には横長の檀があり、そこに五人の人間が座って詩織を見つめていた。五人は、白い上質な布で織られているであろう発光の良いローブに、煌びやかな金や、星などをあしらった複数のバッチを身に着けており、静かに壇上から詩織の姿を見つめている。
檀の左右にはそれぞれ机が置かれていて、そこには二人づつ座っている。左側の二人は白いローブのような服を、右側の二人は青いローブのような服を身に纏っている。そのどちらの肩部分にも、先程の五人と同じバッチらしきものを付けていた。
檀の正面、部屋のちょうど中央の円形スペースには、人が一人囲える程度の低い柵と低い壇があった。そこに誰かが立つようにできているのだろうか?
その中央スペースの柵の背後には、二十以上は椅子が用意されており、人々で埋め尽くされている。椅子は左右に分かれて設置されており、それは詩織が今立っている場所から柵のまで続く道を臨むようになっている。
「……」
何となくだけれど、この配置、どこかでみたことがある。詩織は少し考えた。そして、その「どこか」がテレビドラマやニュースなどで良く出てくる、「裁判所」であることに気が付いたのだ。
――扉を開けたら、裁判所? それが、私の新しい道?
一体どういうことなの? 詩織がそんなことを考えていると、不意に詩織の背後の扉がバタンと音を立てて閉まった。
「ちょっ……!」
私が通ってきた扉! 詩織は思わず声を上げる。
扉の内側に戻るつもりはないけれど、それでも扉が閉まってしまうと少しは不安を感じる。
そんなことを思った詩織だったけれど、ふと目線を自らに落とした時、更に驚くべきものを見つけ言葉を失った。なんと、詩織が身に纏っていた衣服がすっかりと変わっていたのである。
あのビル火災の中にいた時、詩織は学校を出たまま徘徊していたのもあり、制服――緑色のタイをしたセーラー服にプリーツスカートを履いていた。靴も、黒いローファーを履いていたはずだった。
ところが今はどうだろう。何やら真っ赤な布で出来た、ラフな膝丈のシンプルワンピースのようなものを身に纏っている。しかも素足。黒いハイソックスもローファーもどこにも見当たらない。その上、腰の辺りには紐状のベルトのようなものまでつけている。
――あれ? でもこのベルトって。
見慣れない服に突然着替えている自分を分析していた詩織だったけれど、その内あることに気が付いた。
赤いラフな、シンプルワンピースはまあ良いだろう。百歩譲って裸足もヨシとしよう。問題は、ベルトに一瞬見えた「紐状のもの」だ。
その紐、よく見てみると、縄で出来ていた。腰に縄が巻かれて、結び目が後方にあった。結び目はそこからまた別の縄に繋がっており、その縄は何故か、詩織の後方にいつの間にか立っていた人物が手にしている。
詩織の縄を持っている人物は、黒いスーツのような、胸に立派な紋章をつけた服装をしていた。きちんとネクタイを締め、帽子をかぶり白手をして――まるで、ガードマンや警察官のような格好である。
赤いワンピース。腰に縄。そしてその先端を持つ警察官。
そんな己の今の状況を鑑みた時、詩織はふと思いついた。「もしかして私、裁判の被告人みたいになってない?」と。
詩織がいた国では違ったが、海外ではいわゆる囚人服のまま裁判を受けるケースもある。
そういえば、海外ドラマでは何度かそう言う光景を見たっけ。オレンジ色の囚人服を着た人が裁判にかけられてて。詩織はその部分は「なるほどね」と納得するも、すぐに正気に戻った。
――いやいやまて。
「扉を開けたら新しい道がある」そう言われてやって来たのに、その「新しい道」が「裁判の被告人」って一体?!