1.
目が覚めると、ロープでグルグル巻きにされていた。
周りを確認すると、がらんとした部屋には何もない。誰も部屋におらず、僕一人だった。
感覚的には、意識を失ってから半日も時間は経っていないだろうと思う。
「くっ、殺せ」
暇すぎるので一人で女騎士ごっこ(六回目)で遊んでいると、シグナムとザフィーラが入ってきた。
ザフィーラは人間モードなので、タンクトップを着たマッチョの褐色兄ちゃんだ。威圧感が異常にある。
僕の偏見に満ちた所見では、タンクトップを着る奴は自分の筋肉を見せびらかしたいナルシストか、ケツの穴を掘りたいカマ野郎だ。
「あの、僕、男の人は無理なんです」
「何を?」
シグナムが怪訝そうな顔をした。
「え? ホモAVの撮影じゃないんですか?」
無言でレヴァンテインの鞘で脳天を殴られた。
「ぐぇ」
目の前がチカチカして、あまりの衝撃に目ん玉が飛び出しそうになる。
「色仕掛けだけではなく、拷問にまで精通しているとは恐ろしい奴だ。やはり天才か……。」
ちなみに今のは、色仕掛けと精通をかけた高度なギャグだ。
「黙れ」
「ぐぇ」
もう一度殴られた。
2.
「名前を言え」
シグナムがレヴァンティンを肩に担ぎ威圧してくる。
その横では、ザフィーラが無言で腕を組んでいる。
前世からヤンキーが苦手だった僕は、耐えきれずに正直に答えた。
「グラス・ゴーです。年齢は16歳。巨乳の彼女が欲しいです」
「余計なことは言うな」
肩を軽く小突かれた。虐められた前世を思い出してちょっと泣きそうになった。
「こちらに質問された内容だけ、答えろ」
ザフィーラがイケボで投げかけてきた。子宮に響くいい声ですね。
「なぜヴォルケンリッターのことを知っている」
良い言い訳が浮かばず、僕は黙っていた。
その後、色々と質問されたが、核心に触れる質問にはうまく答えられず、彼らにとっては消化不良の尋問になってしまったようだった。
一通り話が終わると、シグナムとザフィーラが小さい声で相談しだした。
「――――不確定――――――殺す――――。しかし、主が―――――――。仲間が――――――」
こちらをチラチラ見ながら話しているが、時折不穏な単語が聞こえてくる。
これ、絶対あかんやつや。
そうして話し合いが終わったのか、シグナムが怖い顔で近づいてきた。
「プルプル、僕悪い魔道士じゃないよ」
必死にアピールするが、死刑宣告がくだされた。
「こちらも心苦しいが、我等の目的のためだ」
「ヒエッ」
ちょっとおしっこが漏れた。
「すみません、遅れました」
何とかして首チョンパを逃れようと必死で考えていた所、部屋の扉を開けてシャマルが入ってきた。
彼女の金色の髪の毛をみた瞬間、僕の灰色の脳細胞はすごい勢いで活動を始めた。
やるしかない。
「母さん、助けて!」
3.
声をかけられたシャマルは何事かと表情が固まった。シグナムとザフィーラも困惑した様子だ。
「僕だよ、グラスだよ! ずっと探してたんだ!」
「え?」
ロープで巻かれているので、バランスを崩しながらだが、シャマルに必死で駆け寄る。
身体が触れ合うギリギリで、上目遣いで見上げる。
「……覚えてないの?」
じっと見つめる。覚醒しろ、僕の演技力!
「シャマル?」
シグナムが問いかけるがシャマルは首を振った。
「闇の書の前のマスターが僕の父さんだったんだ。母さんはお揃いの金色の髪が好きだって言ってくれたよね」
「守護騎士に子供が産めるのか……」
「……多分無理だと思うわ……」
シグナムはシャマルに確認するが、シャマルは少し考えて自信がなさげに答える。
クソ、分が悪くなってきた。
「愛の奇跡だって……母さんは言ってた。父さんを、僕を……愛してるって……」
自分で言ってて、認知されないグラスくんが可哀想で少し涙が浮かんできた。潤んだ目でもう一度上目遣いをする。
「僕の5歳の誕生日までには、プレゼントを買って帰ってくれるって言ったじゃないか……でも、帰ってこなかった!」
誰かの息を呑む音が聞こえて、少し流れが変わったのを感じた。
このまま勢いで押し切る!
「8歳と9歳と10歳の時と、12歳と13歳の時も、僕はずっと……待ってた!」
全身を使い、身体を折り曲げながら大きく声を出す。
オスカー賞待ったなしの名演技だった。
観ててよかったブレンパワード。
「やっと母さんと出会えたのにプレゼントをくれずに、今僕を殺そうとしている!」
演技に入り込みすぎてガチ泣きをしながら、まくしたてる。
「産むだけ産んで、都合が悪くなったら捨てるんだ! やっぱり大人って最低だ! コンドーム付けろよ! 誰か僕を愛してよ!」
立っていられなくなり、座り込む。
あれ?何を喋ってるかよくわからなくなってきた。
その時、ふわりと優しい感触が身体を包んできた。
「ごめんなさい……あなたのことを覚えていなくて。でも、あなたが許してくれるなら、これから二人の時間を作っていきましょう」
シャマルは優しく抱きしめてくれた。
全ヴォルケンリッターが泣いた。
そうして僕は、八神さんちの子になった。