この青椒肉絲のレシピを紹介したかっただけです。
でも凄くおいしいので作ってみて下さい。
1.
「そうだな、ルールは僕が決めても大丈夫?」
「ええで、何があってもわたしが勝つから大丈夫や」
はやては、やる気満々だ。
「じゃあ、ルールはこうしよう」
壱. ジャンルは中華、一品
弐. 評価基準は味と価格
参. 調理時間は三十分
肆. 審査員はヴォルケンリッター及び、はやてと僕
「兄ちゃん、ほんとにこれでええんやな」
はやてはほくそ笑んでいる。中華料理が得意だからだ。
中華料理を選んだ理由は、僕の得意料理でもあるからだ。
皆さんはもうお分かりだろうが、僕の前世は関西人だった。前話でもついつい関西弁が出ていることが伏線だ。
関西に住んでいない人には全く分からないかもしれないが、関西人の家庭の味=中華料理なのである。本格的な中華とは異なり、いわゆる町中華に近いものだ。
関西人の冷蔵庫には必ず、『味覇(ウェイパー)』 『オイスターソース』 『XO醤』の中華で用いられる三種類の調味料が入っている。入っていない関西人はモグリと言っていいほどである。
もちろん料理で使う油は、胡麻油を使用することは言うまでもない。
これらを用いることで、簡単に中華の味を再現することが出来る。
僕は前世では常に中華を食べていたため、その造詣は九年しか生きていないはやてとは比べ物にならいほど深い。
二つ目の評価基準については、料理ということで味はもちろんのこと、家庭料理なので価格も関係する。
制限時間が三十分と短い理由は、中華料理ということで、熱い状態の料理をふるまえるように意図した。ただ、短い時間では、はやてに少し不利になるため、多少の調理ができるシャマルを補助に入れてもらった。
審査員はヴォルケンリッターが行うが、はやてに料理を任せているという負い目があるから、平等な判定を下してくれるだろう。むしろこちらに有利な判定が出る可能性もある。
「これは勝ったでー。第三部完!」
はやては早くも勝った気でいるが、僕には勝算があった。
2.
お互いに足りない具材や調味料を買い出しに行ったあと、向かい合っている。
僕は、オイスターソースとピーマン、筍、豚肉を購入した。青椒肉絲を作るつもりだ。
はやての方を見ると、牛肉、ピーマン、筍が並んでいる。やっぱり青椒肉絲か。はやてはこの料理を最も得意としている。
「……!」
驚いた様子でこちらを見てきたはやてに、僕は余裕の表情を作り鼻で笑った。はやては頬を膨らませてムキになった。
中華料理を指定した時点でこの料理を選択することは読めていた。同じ料理で完膚なきまでに叩き潰す……!
「それでは、私、不肖シグナムが号令をの役目をば」
準備が整ったのを見計らい、シグナムが声を上げた。穀潰しなのにちょっとドヤ顔なのがムカつく。こいつ、顔が整ってるから何でも様になるんだよなぁ。
「お互い全力を尽くすように。……始めっっ!」
八神家はかなり広々としたキッチンで、ガスコンロが四口もある。二人同時にコンロで調理することも可能で、シャマルと合わせて三人で作業してもまだ少し余裕がある。
「久々に本気を出すか……」
僕は腕をまくり、全身に魔力を行き渡らせた。
○青椒肉絲 (グラスおすすめレシピ)
・材料 (約二人分)
豚肉・・・細切れでもOK 400グラム
ピーマン・・・小さいもの4個
たけのこ・・・200グラム以下 (水煮でOK)
①しょうゆ、酒、片栗粉・・・各 小さじ2
②オイスターソース(※醤油の含まれていないもの)、酒、みりん・・・各 大さじ2
②しょうゆ・・・小さじ2
②砂糖・・・小さじ1以下
ごま油、塩コショウ・・・適量
まずは、鍋に水を入れ火にかける。酢と塩を入れておく。
肉をボールに入れ、①のしょうゆと酒で下味を付ける。肉は個人的には豚肉がオススメだ。価格が安い細切れ肉でも、それなりの味がする。片栗粉は最後に入れてもみ込み。これで一端、味がしみ込むまで寝かしておく。
次に野菜に取り掛かる。ピーマンは種とわたの部分(白い部分)を取り除き、細切りにする。タケノコは水煮の物を購入したので、袋を明け、ちょうど煮立った鍋に入れて熱湯にさっとくぐらせる。くぐらせた後はざるでよく湯を切っておく。
「速えぇ……、今の一瞬で下ごしらえを済ませやがった。あたしでなきゃ見逃しちゃうね」
料理バトルだけにヴィータが驚いた表情で解説する。それもそのはず、魔力で全身を強化された僕の姿は、一般人に捉えるのは困難である。速すぎて残像が出るレベルだ。
チラリとはやての方を覗くと、ヴィータの声が届いたのか焦りながら作業をしている。シャマルと共にあわあわしているのが可愛い。
二人を尻目に次の作業に取り掛かった。
中火にしたフライパンにごま油を熱し、良い香りがして来たころに先ほどのピーマンとタケノコを炒め、軽めに塩コショウを振りかける。ピーマンにつやが出てきた頃に取り出す。
こちらも少し置き、野菜に油を馴染ませる。
この段階でまだ半分ほど時間が残っていた。はやての作業を見ながら少し時間を潰すことにした。はやては先ほどの焦りがおさまったのか、手際良く作業をしていた。時間内には無事に終わりそうだ。
はやては九歳にしては異常なまでに家事が達者だ。ヴォルケンリッターが来る前は、週に幾度かヘルパーさんが来ていて、その人に教わったと言っていたけれど、その必要に迫られた環境には悲しさしかない。ギル・グレアム許すまじ。
「残り十分!」
シグナムの声をきき、最後の手順にかかることにした。
先ほど使用したフライパンにごま油を足し、豚肉を投入する。木べらで平らに均し、そのまま数分放置する。この際、火力は弱火と中火の間にしておく。肉に焼き目が付いたらひっくり返してほぐし、野菜も入れて炒め合わせる。
ある程度熱が通ったのを確認すると、②を入れ、強火で一気に炒め合わせる。炒められたオイスターソースの香りが食欲をそそる。
「そこまで!」
器に料理を盛ったのと同時に、終了の合図が下された。
3.
皆で食卓に付き、審査が始まった。
「まずは僕の方から食べてもらおっか」
先手を取って、皆に促す。
「ふむ、豚肉を用いているのか。それに肉も切っていない」
通常の青椒肉絲と違い、牛肉ではなく豚肉を用いた。本場では青椒肉絲は豚肉を指し、牛肉を使う場合は青椒牛肉絲という。日本で中華を広めた陳建民は青椒牛肉絲を紹介したため青椒肉絲は牛肉として定着した。
「いいから食べてみてよ」
中華は熱い内が一番おいしい。
「こ、これは……」
「美味しい……」
「う、うめえ……」
シグナム、シャマル、ヴィータは一口食べた後、唸る。
ザフィーラーは犬モードで無言でかきこんでいる。はやては一口食べた後に固まっている。
僕が考える家庭料理としての青椒肉絲の弱点を克服したものがこの料理だ。
青椒肉絲は肉と野菜を細切りにして同じサイズにしているが、家庭料理として見ると少し物足りなく感じてしまう。肉と野菜の調和が取れているのだけど、肉のメイン感が薄い。とろみがある分、デブからすると飲み物みたいに食べられてしまう。
しかし、肉のサイズを大きくすることで満足感を上げ、オイスターソースの風味を感じられる。肉を豚肉に変えることで脂っこさも感じない。お子様から大人まで大満足のアレンジだ。
「ご飯と一緒に食べるとおいしいよ」
家庭の中華には必須のご飯にバウンドさせる。うんめえー。
普段の半分ぐらいの量しか作っていなかったので、一瞬でなくなってしまった。
「次は私のやね」
はやてが料理をすすめるが少し自信なさげだ。僕の料理がここまでとは思っていなかったのだろう。
「主のは、いつものですね。これはいい勝負になりそうです」
シグナムはうんうんと頷きながら口へと運んだが、その手を止めて首をひねった。
「……?」
シャマルもヴィータも不思議そうな顔をしている。ザフィーラは気にせず猛烈な勢いで食べていた。
「何かいつもと違う気が……」
そう、少し味が濃いのだ。
もちろんはやてはいつも通り作っていた。
いつもは全く分からないのだけど、僕の料理と比べてしまったが故に、違いがはっきりと感じられる。
料理の温度が少し冷めていて牛肉を使っているために、油のくどさも感じてしまう。
このために僕の料理を先に食べてもらった。
卑怯と言うなかれ。獅子は兎を狩るにも全力を尽くすものだ。勝負の世界は非情なのである。
そして何より、原因は
「はやてのオイスターソースには醤油が入っていて国産のメーカーには多いんだけど僕のは本場のメーカーを買っているから醤油は入っていないんだよ。醤油が入ると分量の調整が難しくなってしまうから今回僕の料理との違いが際立ったん「早口キモい」だ」
ヴィータに突っ込まれる。
やめて、オタクは得意なことになるとブヒブヒ早口になるんだよ。
皆もオイスターソースを買う時は、醤油が入っていない物を買おう。
「あー、負けたーーー!!くやじいーーーー!!」
はやては本気で悔しいのか、叫びながら地団駄を踏んでいた。
シグナムは横ではやてを慰めている。
「主、あいつは後で殴っておきますので大丈夫です」
大丈夫じゃない。
ヴォルケンリッター鍋の騎士としての面目躍如を果たした僕は、台所の主となった。