【トレーナー室】
ホクト「大変大変~~~~~っ!!」
エース「んだよ、騒がしいな。」
慌ただしくトレーナー室に飛び込んできたホクトベガが1枚の紙を手にやって来た。
ホクト「て、テンテンを呼びに行ったらこれが……!!」
机に置いた紙には、こう書かれていた。
【しばらく1人にさせてください。 テンポイント】
アルダン「これは……。」
シュヴァル「て、テンさんが…失踪……?!」
ホクト「携帯も部屋に置きっぱなしで……色んな子に声をかけたけど見てないって…。
と、トレくん…………!」
流石の事態にホクトベガも取り乱しているようだった。
「…アイツなりに、あの選抜レースで思う事があったんだろう…。」
アルダン「選抜レース…トウショウボーイさんとグリーングラスさんのことですね。」
エース「ライバルが強いかもしれないって考えるのは分かるけどよぉ…アイツも十分強いと思うけどな……。」
シュヴァル「…トレーナーさん、どうするんですか……?」
「……俺は、信じて待つよ、アイツならちゃんと分かってるはずだって。」
ホクト(……大丈夫なのかな、テンテン……。)
………………………………………………。
【とある山奥 坂道】
テン「……この勾配なら…足腰も鍛えられそうですね…。」
テン(…トレーナー様なら、3本が限度…と、言いそうですね…。)
テン「……ですが……私は…''5本''走ります……っ!!」
その声と共に、テンポイントは荒れた山道を力強く踏みしめた。
テン「─────。」
トウショウボーイ【─────クラッシク三冠、根こそぎ狩ってやるよ。】
テン「あの感じ…私は…今のままだと…負けてしまうと感じてしまった…。
……ならば、通常の2倍……いや、3倍…トレーニングをしなければ…。」
テン(───限界を越えて…私は、トレーナー様に…勝利を齎さなければ…。)
沸々と湧き上がる闘志を内に秘め…テンポイントは坂道のダッシュとランニングを繰り返していた。
テン「…………ふぅ。」
自分に課したトレーニングメニューをやり遂げた後…テンポイントは丘の上で景色を眺めていた。
テン(……帰る頃には、日も暮れてしまいますね…。)
焦っていた気持ちもあったが、突然姿をくらましてやり過ぎな位自主トレーニングを行った自分の行動を振り返って……テンポイントは眉をひそめた。
テン(……トレーナー様に、叱られてしまいます……ね。)
京成杯まで、あと3日と迫る中でのトレーニング…到底トレーナーは了承しないのは火を見るより明らかである。
テン(……しかし、帰らない訳には……いかない、ですよね…。)
少し顔を俯かせていたテンポイントだったが……すぐに前を向き直し…軽めに走りながら…トレセン学園に戻るのであった……。
【トレセン学園前】
戻る頃には、すっかり日も暮れて行き交う人の数も少なくなっていた。
テン「……………………。」
─────着いたら、トレーナー室に行って謝ろう。
頭の中で考えを巡らせ、下を向いて歩いていると…………。
「…………………………。」
テン「…………………………あっ…………。」
正門近くで壁によりかかるトレーナーの姿があった。
見るからに、相当待っていたのが見受けられる。
「……おかえり。」
ただ一言、そう呟いたトレーナー。
テン「…………ぁ…………そ、の……っ……。」
謝りたい……それなのに、言葉が出ない。
もしかしたら、トレーナーから失望されるかもしれない、軽蔑されるかもしれない…そんな考えがテンポイントの頭を過り…表情を暗くさせた。
「…………ん。」
そんなテンポイントを、引き寄せて静かに抱きしめるトレーナー。
テン「……トレーナー……様……。」
その体は、1月の寒さの影響を受けたのか、冷たかった。
「……こういう事をしたって事は…負けたくないって気持ちが強くなったんだよな。」
テン「……………………。」
「その気持ちと……勝ちたいのは、自分の為じゃなくて…俺のため……。
だから、もっともっと……厳しくトレーニングしよう…そう考えたんだね?」
テン「……………………。」
その言葉に、テンポイントは小さく頷いた。
「……ん、そか……でも、次からはちゃんと相談すること、良いね?
テンの事は信頼してるし…大事な担当ウマ娘だから。」
テン「……トレーナー様…。」
抱き締めてゼロになっていた距離が再び離れる。
眼前に居るトレーナーはクスッと笑い、踵を返した。
「……さっ、お腹空いただろ?エースとアルが戻ってきたら連絡入れてくれって言ってたし、何か作ってくれてるみたいだから、トレーナー室に───」
テン「─────あの……っ!」
そのトレーナーの足を……テンポイントが止めた。
「……?」
テン「……怒ら……ないんですか……?」
「…………そうだね、強いて1つ言えることがあるとすれば……。」
「───無事に帰ってきてくれてありがとう、テンポイント。」
テン「……………………!」
「さっ、戻─────」
テン「……トレーナー……様…………っ!!」
突然、後ろから抱きつくテンポイント。
テン「……貴方は……どこまで優しいのですか……っ……。」
「……心配したんだからね、テン。」
テン「……ごめんなさい……私……トレーナー様に……何とお詫びをすればいいか……。」
「なら、ちゃんと横に居てよ……ね?」
テン「………………はいっ……!」
テンポイントの体温がじんわりと伝わり…心做しか気持ちが温かくなるトレーナーだった。