そして、運命のデビュー戦の日が、やってきた。
アルダン「──────」
(なんて集中力だ…トレーナーの俺でさえ話しかけられない雰囲気だ……)
抑えようとしている闘志が溢れてくるのか…
アルダンの身体から青い覇気が感じ取れるようだった。
その、凄みに思わず息を呑んでしまっていた。
「……アルダン」
しかし、それではいけない……と、アルダンの肩にそっと手を置いた。
アルダン「────トレーナーさん。」
「少し肩に力…入りすぎてるぞ」
アルダン「……ありがとうございます。」
「リラックスしていこう、アルダンの走りならきっと大丈夫」
アルダン「ありがとうございます。
おかげで…気持ちが整いました。
もう、いつでも走れます。」
先程の集中した表情から一転、柔らかい笑みを浮かべるアルダン。
アルダン「今日まで私を鍛え上げていただき
誠にありがとうございます。
必ずや、レースでお見せしましょう。''今''の私、その全てを。」
「……あぁ、1番近くで見届けるよ。」
アルダン「では────行って参ります。」
…………………………………………。
アルダンを見届けた後、スタンドに戻ると話し声が聞こえた。
観客A「へー、今日のデビュー戦で走るあの子、メジロラモーヌの妹なんだってよ。」
観客B「あ、そうなんだ。メジロラモーヌかぁ……思い出すなぁ、あの走りを。」
観客A「まさに生ける伝説だよなぁ。
特にオークスなんか─────」
心の中で、今はまだその高みに行けてない……けど。
けど、いつか……アルダンだって…。と思いながらターフに目を移した。
アルダン「これが…レース場。
学園のコースでは無い、本当の戦いの場。
その感触、匂い、風─────」
アルダン(────血が沸く。体が疼く。
抑えようとしても、抑えきれない…!)
ずっと待っていた、この地に居ると思えば思うほど
心の高鳴りは抑えられない。
アルダン「……トレーナーさんに…この身を焦がす程の熱を輝きに変え……勝利を、一筋の光跡を…送ります。」
胸に手を置き、息を整えるアルダン。
アルダン「…………メジロアルダン、参ります。」
─────────────────────
トレーナーの祈る中…。
先頭で目の前を駆け抜けるメジロアルダン。
その走りは、まるで…一筋の流れ星のようなそんな光跡だった。
「……アルダン……っ!!」
アルダン「はぁっ……はぁっ……はぁ…────」
アルダン(ああ─────)
アルダン(ターフを駆け抜け、風を切り裂いた感触が
まるで体に張りついたかのように残っている)
アルダン(前へ、先へ、勝利へと。
この命を燃やした熱が…胸の中で早鐘となって─────)
アルダン「……熱い…」
アルダン「────これが私の、トゥインクル・シリーズの始まり
その1歩、なのね……!」
観客A「メジロラモーヌの妹、結構頑張ってたな。
偉大な姉にどこまで追いつけるかねぇ。」
観客B「う~ん、比較対象があの''メジロの至宝''だからねぇ。
ラモーヌの走りはやっぱり凄すぎるよ。」
アルダン(今はまだ、届かぬ光だとしても……)
(いつか必ず…この会場に居る全員に輝きを刻みつけような…アルダン!)
俺は、居ても立ってもいられず、メジロアルダンの元に走って向かうのだった。
…………………………。
アルダン「トレーナーさん。」
「はぁ、はぁっ……お疲れ様、アルダン!」
アルダン「……ありがとうございます。
ふふっ、走ってこられた上に…お泣きになられているなんて。」
「えっ、嘘……っ!?」
急いで目元を拭う。
自分でも気が付かぬうちに泣いてしまっていたようだ。
アルダン「…でも、その想いのおかげで
''今''の私の全てを、出し切ることができました。
ですがそれは……まだ私の中のみの話。」
アルダン「この会場にいらっしゃる方々に
私の光跡を刻みつけるには至っておりません。」
アルダン「''今''はまだ、私を経て、姉様の威光を思い出すのみに留まっていますが──────」
アルダン「いずれ必ず、私自身の輝きを皆様に刻みたく思っております。」
「……ああ、そうだな!」
想いを新たに、お互いに誓いあって、目を合わせる。
アルダン「では、さっそく戻って───
今日……の……っ」
「……っ……アルダン!!」
崩れ落ちそうなアルダンを急いで抱き抱える。
意識は……ある。
けど、呼吸は荒く、かなり疲弊しているのが見て取れた。
…………………………………………。
その後、すぐに病院に運ばれることになり──
綿密な診察を受け、取り急ぎの大事がないことが確認される頃には
メジロアルダンの体調も少し戻ってきていた。
しかしその日は、念のため安静にするべく
メジロアルダンはメジロ家が保有する保養所に入ることとなった。
アルダン「…すみません。
ご心配をおかけいたしました。」
「ひとまず、大事なくてよかった……」
アルダン「はい……─────
あの、トレーナーさん───────」
主治医「トレーナー様。
少々、よろしいでしょうか。
お話しておきたいことがございます。」
何か言いたげだったアルダンだったが、話を遮られてしまった。
「分かりました、すぐ行きます
アルダン、今日はゆっくり休んでてくれ」
アルダンの頭に手を置き、その場を後にする。
アルダン「………………そうさせて、いただきます。」
────────────────
メジロ家の主治医に別室に案内され、促されるままに座る。
「……それで、お話というのは」
主治医「アルダンお嬢様のお体についてです。
結論から申し上げますと─────」
主治医「お嬢様には、1度レースから退いていただき
この保養所で長く安静にしていただくのが望ましいと考えております。
……言い換えるのであれば」
主治医「トゥインクル・シリーズへの挑戦を今…果たして急ぐ必要があるのか、それをもう1度ご一考していただきたい。
以上が私の見解です。」
「…………………………」
分かってはいた。
しかし、目の前で突きつけられると…言葉を失ってしまった。
主治医「今回の件は恐らく、本番レースを終え、お嬢様の心身に蓄積されたものが負荷となって一気に現れたことが原因です。」
主治医「トレーニングによる体の疲労。
レースを控えたことによって生じる精神の緊張、ないしは重圧」
主治医「そして、真剣勝負が故の、トレーニングとは比べものにならない消耗。」
主治医「それら全てが、レースを終えて
張りつめていたものが微かに緩んだお嬢様に、濁流の如く襲いかかってきた」
主治医「もし仮に、お嬢様が今後も大きなレースに挑戦していくとなれば
その負担も必然、今日より大きなものになるでしょう。」
主治医「……その苛烈さが如何様かは
トレーナー様が1番想像がつくかと思われます。」
じっとこちら見据えるメジロ家の主治医。
主治医「…私とて、お嬢様のレースに懸ける想いは承知しております。
無下にしたいわけでは決してありません。」
主治医「最終的にどうするのか、ご決断するのはお嬢様です。
しかし、トレーナー様もこのことをどうかご認識していただきたい。」
────────────────────
メジロ家の主治医との話の後
メジロアルダンのばあやさんに学園まで送ってもらい──────
ばあや「トレーナー様。
改めて、本日はお嬢様を助けていただきありがとうございます。
メジロ家を代表して、御礼を申し上げます。」
「いえ、そんな……自分は大して何も…」
ばあや「……先程、旦那様と奥様から
アルダンお嬢様にお話がありました。
曰く、レースの世界で生きることをもう1度考え直して欲しい、と」
「……!」
ばあや「私はお嬢様が幼少の頃より仕える身。
あの方が今何を望み、何に心を痛めているのか
それを想像することは難しくありません。」
ばあや「…それを踏まえ、この学園でお嬢様と共に歩むトレーナー様にお願いしたいことがございます。」
ばあや「──どうか、お嬢様にとって最良の選択を。」
ばあや「お嬢様がお選びになった貴方ならば
それができると信じております。」
深々とお辞儀をするばあやさん。
それを見て、自分の拳に力が入るのを感じた。
ばあや「では、私はこれにて失礼いたします。
トレーナー様、おやすみなさいませ────」
………………………………。
【トレーナー室】
(アルダンにとって、最良の選択……。
それはいったい、なんだろう)
主治医【トゥインクル・シリーズへの挑戦を今…果たして急ぐ必要があるのか、それをもう1度ご一考していただきたい。
以上が私の見解です。】
ばあや【……先程、旦那様と奥様から
アルダンお嬢様にお話がありました。
曰く、レースの世界で生きることをもう1度考え直して欲しい、と】
アルダン【すぐに色褪せ、忘れ去られる。
─────それでも…''今''】
アルダン【今、この瞬間を輝かせるために命を賭すことは
私に許されたただ1つの権利なのです。】
……あの日のメジロアルダンの言葉が
自分の中で反響している。
「……何迷ってんだよ…俺はとっくに覚悟決めてたんじゃなかったのかよ……!」
「俺は……俺は、メジロアルダンのトレーナーであり続けるって覚悟を決めたんだろ……!!」
「なら……俺ができることは、アルダンのトレーナーとして
為すべきことするだけだ…!!」
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