解釈一致だと嬉しみ。
デビュー戦から数日後。
メジロ家の保養所に
メジロアルダンの様子を見に来ると─────。
ばあや「おはようございます、トレーナー様」
「おはようございます…」
頭を下げ、要件を言おうとした……が。
ばあや「アルダンお嬢様にお会いになりに来られたのでしょう。
ご案内いたします、どうぞこちらに─────」
どうやら全てお見通しだったらしく、中へと案内された。
(アルダン……)
………………………………。
メジロアルダンのばあやさんに案内されたのは
保養所に隣接する林であり、メジロアルダンはそこで森林浴をしていた。
アルダン「────トレーナーさん、ごきげんよう。
来てくださったのですね。」
「……体の調子はどうだ?」
アルダン「問題ありません。
主治医からも、ひとまずはデビュー戦前の状態まで回復したことを確認していただいています。」
「……良かった」
ホッと胸を撫で下ろしていると、アルダンが提案してきた。
アルダン「……トレーナーさん。
よろしければ少々、歩きませんか?
少し、2人だけで話したいことがあります。」
…………………………。
メジロアルダンに連れられて着いた場所は
林を抜けたところにある高台だった。
アルダン「────トレーナーさん。
''今''、ここが貴方にとっての分水嶺です。」
分水嶺……さしずめ、運命の分かれ道ってところか。
「……それって」
アルダン「…トレーナーさんが先日、私の主治医から聞かされた内容は、おおかた察しております。」
アルダン「彼は当家の誇る名医。
私を幼少から知り、ばあやと同じく信頼に足る人物です。」
アルダン「故に、彼が私について述べたことは…………
全て真実に近いとお思いください。」
アルダン「ただ─────」
その時、アルダンの雰囲気が少し変わった気がした。
アルダン「それでも。たとえ私の体が、そうであったとしても。
進む道が、薄氷の如き脆さであっても────」
アルダン「私は決して、退くことはいたしません。」
「……アルダン」
アルダン「ですが、これはあくまで私の選択。
私の意志であって…トレーナーさんの意志ではありません。」
アルダン「……私がデビュー戦の時点で倒れるような、頼りない、朧気なウマ娘であることをトレーナーさんはよく理解をしたかと思います。」
アルダン「そのような私と共に行くことで
トレーナーさんは……──────」
アルダン「欺様に脆弱で、危うい、空疎な
ガラス細工の如きウマ娘を─────」
アルダン「壊すかもしれない覚悟は、お有りですか?」
声はいつものように穏やかだが、目は悲しみに溢れていた。
まるで、こちらを突き放すかのように……。
「……あの後、すごく考えた。
俺が手にしてるガラス細工のようなウマ娘は…ちょっとでも力を込めたら壊れちゃうような…綺麗だけど、繊細で儚い存在なんだって。
……それでも。
それでも、俺は…壊す覚悟は……ある。」
アルダン「─────」
「でも……絶対に壊したりなんかしない。
壊してたまるか、いつまでもずっとずっと、大事にするんだって………!」
メジロアルダンの瞳が、何かを問うように自分に向けられている。
彼女に示すべき答えは……ずっと前から決まっていた。
「……アルダン、キミに見て欲しいものがある。」
アルダン「見て欲しい……もの…?」
カバンから持参したタブレット端末を差し出した。
アルダン「これは…出走ローテーションと、トレーニングメニュー…?
しかも、いくつかパターンが…。」
画面をスクロールする度に、アルダンの目が驚きの目と変わる。
アルダン「……っ、まさかこれは────」
「それが、俺の覚悟…キミと一緒にどこまでも進むって覚悟」
アルダン「……!」
アルダンに手渡したタブレット端末には
ジュニア級以降の彼女の出走ローテーション、トレーニングメニューが表示されている。
そしてそれは、メジロアルダンの今後様々な状態を想定し
自分が考えうる限りのパターンを全てまとめたものだ。
この日、このメニューが出来なかった時の別の提案……。
体調面を考慮したいくつかの選択肢をまとめたメニュー。
休日の体調チェック、練習終わりのミーティングでのチェック項目。
自分が出来ることは、これくらいかもしれない。
時間の許す限り…寝る間も、食べる間も惜しんで作成した。
けど、アルダンのためなら、これくらい何とでもない。
……まぁ、寝不足でここまでよく来れたなって思ってはいるけど。
アルダン「トレーナーさんは、私の先の話を……
言葉の意味を…理解していますか……?」
理解している。
彼女があえて突き放すように、試すように問うているのも。
それが、彼女の優しさだということも────
だが、そんな優しさは求めていない。
自分が……俺が求めているのは。
「俺は…アルダンのトレーナーでいたい」
アルダン「っ……!!」
彼女のトレーナーでいたいからこそ、考えた。
自分がトレーナーとしてすべきことはなにか。
求められていることはなにか、を。
ずっとずっと考えて考えて…考え抜いた。
そして、胸に決まった答えを…今、ここでメジロアルダンに伝えたい、と。
自分は…メジロアルダンのトレーナーとして──────
「君の光を、潰えさせたりしない
だって、俺は……キミの輝きが好きだから」
メジロアルダンの体をトレーナーとして守り
これから先もずっと彼女がレースで輝けるようにする。
そして、''今''に生き、''今''のみを見つける彼女のために───
「俺が……キミの…アルダンの未来を、描くよ」
アルダン「──────」
アルダン「……………………。」
何も言わず、アルダンが近寄ってきた。
そして、そのまま……こちらの胸に収まってきた。
(……泣い、てる…)
すすり泣く声が、胸の中で静かに聞こえてきた。
アルダン「……デビュー戦の後。
保養所に運ばれた日の夜。
……夢を、見たんです。」
アルダン「─────ガラスの割れる音が響く夢を。」
アルダン「ひび割れた私の体から
なにもかもが零れていく感触が、生々しく、寒々しく────」
アルダン「その夢が忘れられなくて……
自分の気持ちに嘘をついて、トレーナーさんを試すような無礼を働いてしまいました。
……大変、申し訳ありません。」
「ううん、試してくれて、むしろお礼を言いたいよ。」
アルダン「えっ───────」
顔を上げたアルダン…その目は真っ赤で、まだ涙が流れていた。
「俺も改めて覚悟を決められたから
アルダンのことを…自分の人生賭けてでも守ってあげたいって」
アルダン「……トレーナーさん。」
「キミと共に歩ませて欲しい」
アルダン「こちらこそ、よろしくお願いします……っ。」
アルダン「どうか……これからの道行きも、私と共に─────」
「行くよ、どこまでも」
アルダン「……ごめんなさい、もう少し…このままでも、よろしいでしょうか……。」
「……いいよ、アルダンの気が済むまで…ずっとこうしてあげるから」
縋りつくアルダンの背中を優しくさするのであった。
アルダン(怖い夢だった……けど、起きたら…トレーナーさんに会いたくなってしまって…声が聞きたくて…安心したかった
この陽だまりに…私はずっと立っていたい…この人と共に……ずっと……)
─────────────────────
その後、メジロアルダンと共に
彼女の主治医と話をすることになり───────
主治医「──お嬢様とトレーナー様の意志は承知いたしました。
主治医として、お嬢様が学園に戻ることを許可させていただきます。」
「…っ……ありがとうございます!」
アルダン「ありがとうございます。」
主治医「ですが、今後もしお嬢様の身にまた
何かあった際には、この許可を取り下げる可能性があることをご留意ください。」
「はい、重々承知しております。」
主治医「……いち個人である私としては
お2人の選んだ道を応援しております。」
主治医「何か相談がありましたら
遠慮なくお申し付けください。
では、私はこれで失礼いたします───────」
アルダン「……彼も、トレーナーさんのことを信頼しているようですね。」
主治医が去った後、アルダンが小さく呟いた。
「その信頼を裏切らないように、今まで以上に頑張らないとな」
アルダン「ふふっ、それは私も、ですね。」
──────────────────────
メジロアルダンのばあやさんに
保養所から学園までメジロアルダンと共に送ってもらうと─────
メジロアルダン「ばあや。
送っていただきありがとうございました。」
ばあや「本日の件、旦那様と奥様には
私の方から既にお伝えしております故──────」
アルダン「ええ。
私からも先ほど、お父様とお母様に文章でお伝えいたしました。」
アルダン(永遠を刻みたいほど、大事な…心から慕っている方が…出来た、と……)
アルダン「寮に戻り次第……改めて、連絡させていただきます。」
ばあや「お嬢様。この先の道行き…
どうか、お気をつけてくださいませ。」
アルダン「はい。
''最も苦しく険しいもの''…それを、ゆめゆめ忘れないようにいたします。」
ばあや「私の心は、常に貴方と在ります。ご武運を。」
手を取り、想いを乗せるばあやさん。
そして、こちらを向いた。
ばあや「─────トレーナー様」
「はい」
ばあや「……お嬢様をどうか、よろしくお願いいたします。」
「必ず、彼女を守ると…ここで誓います…必ず」
自分のその言葉を聞くと、メジロアルダンのばあやさんは
深々と頭を下げ、それ以上の言葉を残さず去っていった。
………………………………。
【トレーナー室】
アルダン「……今日は、迎えに来てくださって
ありがとうございました。」
「……俺も、アルダンのことが気になって仕方なかったから」
アルダン「……ですが、トレーナーさんっ」
ムスッとした顔で、両頬を掴むアルダン。
「あ、アルダン……っ?」
アルダン「酷いクマですよ……あまり、寝てないですね?」
「あ、うん…さっき見せたのを作るのに必死で…」
アルダン「守ると言ってくださった方が、これでは元も子もありませんよ。」
「……だ、よな…説得力ないよな…」
アルダン「……ですが、頑張りすぎちゃう貴方もとても素敵です。
どうでしょう、少し仮眠を取られては。」
「でも、今後のことを話さないと……。」
アルダン「私はもう少し、トレーナーさんが作ってくださったメニューに目を通したいので…大丈夫です、起こしますから」
ソファーに腰掛け、タブレットを開くアルダン。
確かに、一気に疲れが押し寄せてきているのは事実。
「……ごめん、じゃあ1時間だけ……。」
アルダン「はい、おやすみなさいませ。」
その言葉が魔法のように眠りの世界へと誘った。
アルダン(本当によく作り込まれてる……
ここまで作るのに、どれだけの尽力を……。)
熟睡した隣の人の顔を見る。
アルダン「……私のために…何から何まで…ありがとうございます。」
眠ってて聞こえないと分かってて、お礼の言葉と微笑むを向けるメジロアルダン。
アルダン「……少し、片付けをしておいた方がよろしいでしょうか?」
よく見れば、机の上には缶や資料が乱雑に置かれていた。
立ち上がり、片付けをしよう……と、思った時だった。
「ん……んんっ……」
アルダン「ひゃっ……!///」
体勢が崩れたトレーナーが、寄りかかるようにアルダンの方に倒れてきた。
アルダン「もう……トレーナーさんったら…///」
髪を撫でるアルダン。
アルダン「……ありがとうございます、トレーナーさん。
私の輝きが…好き、と言ってくださり…本当に……///」
……………………。
【約1時間後】
「んっ……むぅ…」
アルダン「起きてください、トレーナーさん」
「アルダン…………ぁ……んぅ!?」
起きた瞬間、アルダンの顔が近くにあった。
急いで離れると、アルダンはクスクスと笑った。
アルダン「相当お疲れのようですね。」
「ご、ごめん、俺……っ!」
アルダン「気にしてないので構いませんよ。
それに……対価として可愛らしい寝顔も見れましたし♪」
「……あ、アルダン……」
アルダン「それで、目を通して分かったことがあります。」
「……ど、どうした?」
アルダン「私がジュニア級で走るレースの采配を
全てトレーナーさんにお願いしてもよろしいでしょうか」
「……もちろん、だけど全部決めていいのか?」
アルダン「はい。私も…新たに決めたことか出来ました。」
離れた距離がまた、近くなる。
指で唇に触れるアルダンの仕草に、ドキッとしてしまった。
アルダン「────トレーナーさんが示してくださった
描いてくれた''未来''に、添ってみよう、と。」
「アル……ダン…。」
アルダン「私の積み重ねるべき''今''を
どうかお示しください。トレーナーさん。」
その言葉と、表情を見て
メジロアルダンが以前よりも…自分を頼ってくれてることが感じられた。
決死の覚悟を秘めた彼女をこれからも
こうやって支えていきたい。
そんな想いが胸の内から湧き上がってくる。
「少しずつ、強くなろうな」
アルダン「はい、トレーナーさんとなら…どこまででも。」
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