エース「よーし、今日もトレーニング張り切ってくぞ!」
デュラ「はい、精進いたします!」
ホクト「………………。」
テン「ホクト?行きますよ?」
ホクト「…………えっ?……あ、う、うん…今行くよ。」
アルダン「……トレーナーさん。」
「ん、先に行っててくれ。ホクトは残るように。」
ホクト「………は、い。」
そう言うと、ホクトベガ以外のメンバーはトレーナー室を後にした。
「……また悩み事?」
ホクト「…やっぱり、顔に出てた…かな。」
「何か抱え込んでる時に黙るのはホクトの癖だからな。」
ホクト「……あは、は…トレくんに…隠し事は出来ないなぁ……。」
「良かったら、悩み…聞かせてくれない?」
ホクト「…………その……ね。」
なかなか切り出せないホクトベガ。
「………………。」
ホクト「……私がエリザベス女王杯を勝った後…1勝も出来てない、よね。」
「……出来てない、な。それは紛れもない事実ではある。」
ホクト「…だから、ね…最近…こう思うの…あれは…あの時は、まぐれだったのかなー…なんて。」
「……ホクト。」
ホクト「このまま勝てないままなら…フリースタイルレースに転向や活動休止も……。」
────''フリースタイルレース''
本能のまま走る、言わば野良レース。トレセン学園に属さないウマ娘などが走るレースのことである。
ホクト「……って、ホクベーちゃんは思ってて────」
「────そんな事はさせない!!」
困った顔で笑うホクトベガを…………俺は思い切り抱きしめた。
ホクト「ちょ、ちょっ!……と、トレくん……?」
「……まずは、ごめん…そんなになるまで思い詰めさせて…。」
ホクト「や、やだなーっ。トレくんはいつも尽くしてくれてるもん。
……勝てないのは…私の実力不足……だから。」
「……そんな事ない。」
ホクト「……いやいや、フォローしなくたって…大丈夫だよ。」
「いや…………本当にそんな事ないよ!」
ホクト「……トレくん。」
「……まだ、可能性はある…頼む…もう一度、俺を信じて欲しい。」
ホクト「…………ぷっ……変な、トレくん
……私は、ずーーーっと前から…トレくんの事を信じてるよ。」
「……ありがとう、ホクト。」
ホクト「……それで、トレくんが思う可能性って?」
「────…ダートレースへの出走。」
ホクト「……ダート…レース。」
自分のデスクから小冊子を取り出す。
「……これ、なんだけど。」
ホクト「……JpnⅡ エンプレス杯…川崎レース場…地方レース……?」
「正式に言えば、交流重賞と呼ばれるレースだ、地方ウマ娘と中央ウマ娘が混じって行われるレースだ。」
ホクト「……これに、出るの?」
「あぁ……出よう……そして…もし、このレースで負けたら…当分、活動休止にしよう。」
ホクト「……でも、私……地方レース場なんて走った事ないよ?
それでも、勝てるって思ってるの?トレくんは。」
「あぁ……その為に…まずは、ホクトの武器を今一度考えてみよう。」
ホクト「……ん、分かった!辛気臭い空気はこれでおしまいっ!
……抱きしめてくれて、ありがと、トレくん。」
ホクト(……やっぱり……好きだな…トレくんの事。
テンテンとトレくんの事、応援するつもりだったのになー…)
………………………………………………………………
ホクト「じゃあ、まず1本走ってみるね。」
「その前に……深呼吸して、肩に力が入ってる。」
ホクト「あわわ…うん、分かった。……すぅ……はぁ……。」
「よし……スタート!」
ホクト「────はぁぁぁあぁっ!!」
(ホクトの武器……確かに、テンは高速で曲がれるコーナーリング技術を身につけた。
だが…ホクトはどちらかと言えば負けん気根性で何とかしてきた…焦るのも無理はない、か。)
ホクト「……やっぱり、ダートの方が走りやすい感じはする……けど。
それだけじゃ…レースは勝てない……よね。」
「………………………………。」
ホクト「トレくん…?走った後の足跡見てどうしたの…?」
「これは……。」
明らかに深く踏み込まれた足跡を見る。
「(普通のウマ娘の1.5倍……いや、2倍は深いな…)……ホクト、ちょっと。」
手招きしてホクトベガを呼んで……有無を言わさずに
ホクト「ひゃあぁぁぁっ!?……と、トレくん…?」
「(出会った時より遥かにトモが隆起している…凄まじいな…。)走り方を変えてみないか?」
ホクト「……は、走り方を…変える…?」
「……本来なら、人間もウマ娘も…走る時は後ろに蹴り上げて走る。
当然、そうすればダートだったら砂は後ろに飛ぶ。
それを前に蹴るように意識してみよう。」
ホクト「……前に…でも、それって…難しい……よね?」
「完全にそうしろとは言わない、けど、意識してみようって話だ。
今のホクトは、自分のパワーに踏み込みが深くて接地面がスカってる感じだ。」
ホクト(…………そこまで見抜けるんだ…流石だな…トレくん。)
「誇張無しに、今のホクトのパワーなら前のめりになるくらい踏み込んで良いと思う。
反発…って言えば伝わりやすいかな、こう…スパーン!と蹴るような。」
ホクト(あ、でも、こういう所は子供っぽくて可愛い、かも。)
「…とにかく、ホクトの武器は誰にも負けないパワー、そうだろ?」
ホクト「……そうだ、私の武器は…誰にも負けないパワー…。
正々堂々、それを出し尽くせば……。」
ホクト(もっと…前に乗り出すくらいに走り出せば……っ!)
自分の走り方を確認しながらホクトはダートコースを駆け抜ける。
その様子を見てたチームメンバー達がトレーナーに話しかける。
エース「凄い気迫だな。」
アルダン「遠くからでもその闘気が見えるくらいでしたね。」
シュヴァル「な、何かあったんですか……?」
「ん、ホクトが自分の武器はなんだろうって相談してきたんだ。」
デュラ「……武器、ですか。」
テン「……………………。」
「テンはどう考える?」
テン「……そうですね、パワーに関しては随一だと思います。
…ですが、その他に……レースに対する集中力は目を見張るものがあります。」
デュラ「確かに…普段は、ふざけていますが…レースになると目付きは変わりますね。」
スティル「まるで…別人になったかのように様変わりしますね…。」
「……これで好転してくれれば…いいん、だが……。」
…………………………………………………………………………
【川崎レース場 JpnⅡエンプレス杯 当日】
エース「うひゃー、ここが川崎レース場か。」
シュヴァル「ほ、本当にダートコースしかないんですね…。」
アルダン「えぇ、その分ゴールからスタンドまでの距離も短く感じますね。」
エース「去年このレースを勝ったウマ娘や7連勝して今回のレース挑んでるウマ娘もいるみたいだな。
……何よりも、交流重賞に中央のGIウマ娘が出るんだ、話題にもなるだろ。」
スティル「少数とはいえ、ここまで注目されると…ホクトさんでも萎縮してしまうのでは…。」
裏スティル(ホントに強いウマ娘ナラこれくらいでプレッシャーなンか感じないワ)
スティル「……………………。」
デュラ「…しかし、昨日からの大雨でバ場に水たまりができるくらい荒れてますね…。」
スティル「まだ些か雨も降ってる様子です。」
シュヴァル「それでも、平日なのにいっぱい人が……。」
エース「で、テンとトレーナーは?」
アルダン「先に控え室に向かってるとの事でした。」
エース「なら、ホクトの様子見終わったらこっちに来るか。」
デュラ「では、その間に何か食べますか、シュヴァルさん?」
シュヴァル「な、ななな、何で僕ぅ!?」
【控え室】
ホクト「……………………ふぅぅ……。」
テン(今日はいつもより深呼吸する回数が多い…。)
ホクト「……ん、トレくん大丈夫。」
「本当に?」
ホクト「…………ごめん、ちょっと緊張してる……柄にもなく。」
「まずは、肩の力を抜く!……ちょっと来い。」
ホクト「わ、わわっ、トレくん……!?(顔近い……。)」
「……大丈夫だ、お前らしく走ってこい。」
ホクト「……トレくん。」
テン「では、私からも。
前を走るウマ娘が蹴り上げる砂には注意を。」
ホクト「注意って……そんな今更な…。」
テン「貴方の能力ならば、そこだけ気をつければ勝てるという事ですよ。」
ホクト「…………勝てる、のかな…。」
スタッフ「ホクトベガさん、ご準備をお願いします。」
「───ほらっ、シャキッとする!!」
────バシン!
ホクト「いっ…………~~~~~っ!」
「気合い入ったろ?」
ホクト「び、びっくりの方が勝つよ~っ!」
「いつものホクトらしくなったな、よし……行ってこい!」
ホクト「……ありがとう、トレくん……行ってきます!」
…………………………………………………………
実況「まだ雨が降る中、川崎レース場、本日のメインレース
交流重賞JpnⅡ エンプレス杯。今年は7人によるレースとなりました。
注目はやはり、中央から乗り込んできた1番人気ホクトベガでしょうか。」
ホクト(……足、泥濘むな…。)
【お前らしく走ってこい。】
ホクト(……ううん、関係ない…私らしく走って……勝つんだ…!)
「みんな、お待たせ。」
アルダン「ホクトさんのお見送り、お疲れ様です。」
エース「顔色はどうだったよ?」
「ちょっと緊張してたけど、大丈夫だよホクトなら。」
テン「……シュヴァルさん、たくさんお買いになられましたね。」
シュヴァル「す、すいません……レース場の食べ物美味しいのが多くて……。」
デュラ「そうですね、シュヴァルさんおすすめのこの焼きそばも…
………か、辛っっっっっ!!!???!?」
エース「何やってんだ、お前…。」
スティル「ホクトさんが、ゲート入りしますよ。」
実況「さぁ、最後に注目のGIウマ娘、ホクトベガが7番ゲートに向かって────」
ホクト「────────よし。」
────ガッコン!
実況「スタートしました。第42回のエンプレス杯。
まずは内枠の利を活かして船橋から参戦した2番がハナを切るのか。
去年のディフェンディングチャンピオンがまずは先頭に立ちました。」
ホクト(……………………まずは…。)
実況「外を通ってホクトベガがまずは3番手からレースを伺います。
エリザベス女王杯を勝ったホクトベガ、果たして交流重賞の地でどのような走りを見せるのか。」
エース「外目3番手につけたな。」
テン「先頭を走る2人の後ろにつけたら砂を被ってしまいます。これは賢明な判断かと。」
シュヴァル「直線コースに戻ってきて…もう1周ですよね。」
アルダン「他のウマ娘も、様子を見るように順位を入れ替えていますね。」
スティル「………………。」
裏スティル(フフッ……アノ子…とぉっても…強ぉい…♪)
観客A「な、なぁ、ホクトベガってウマ娘…何かペースが速くないか……?」
観客B「初の地方レース場だし……掛かってるのかもな。」
「…………いや…。」
デュラ「えぇ、スピードの乗り方延いては加速力が違うのかと。」
シュヴァル「…辛いの和らぎました?」
デュラ「…多少は、ですが屈しません…騎士なので。」
ホクト(泥濘んでるから…いつも以上に力入れないと走りにくい…けど…トレくんが言ってくれた……アドバイス通りに……!)
実況「かなり縦に長い体形のまま、各ウマ娘が第1コーナーを回り切りました。
先頭と2番手、ホクトベガに次いで人気を分け合う2人で並んでおります。」
出走ウマ娘A(コース特性を知ってる私に利がある…連覇させてもらうよ…!)
出走ウマ娘B(前のペース凄すぎて…縮まらない…!)
ホクト「(もうすぐ残り600…やるなら……)………………ここだっ!!」
出走ウマ娘A「(…っ…スパート!…その動きを読んで…っ!)───っ!?」
ホクト「……ぅ……ぁあぁ…ぁ…ああぁっ!!!!」
出走ウマ娘A(な、なにこの気迫…こ、怖い……っ!)
その時、ホクトベガの足の筋肉が隆起するのを見た。
出走ウマ娘A(なん、て……パワー…?!これが中央の…GIウマ娘の力だとでも言うの…っ!?)
ホクト「────私は…
実況「さぁ、ここで仕掛けた!ホクトベガが単独で先頭に立った!
第3コーナーで後続を引き離しにかかる!」
コーナーを曲がろうとした……その時だった。
ホクト「────っ!!??」
ホクト(……あれ…私……っ……。)
後続のウマ娘の足音も、実況の声も、歓声も、空気を裂く音も……聞こえなくなっていた。
ホクト「……ぁ……。」
スローに見える世界の中……ホクトベガが目にしたのは。
ホクト「────トレくん……。」
「────ホクト、行けぇーーっ!」
「────ホクト、行けぇーーっ!!!」
ホクト「…………っ……!…………うんっ!!!」
実況「さぁ、第4コーナーを曲がったホクトベガ!!!
後ろを大きく、大きく引き離した!!これはとんでもない着差になりそうだ!!」
ホクト(そうだ、私は1人じゃない……ゴールで待っててくれる……大切な人のために…私は、走る事を……辞めない…!!)
────────ピシッ。
ホクト「────限界なんて、超えてやる……何度だって……っ!!!!!」
出走ウマ娘A「む、無理っ……!」
出走ウマ娘B「反則、だって…っ!」
観客A「一人旅もいいところだぞ……!」
観客B「これが、GIウマ娘……。」
実況「2番手以降も必死に追いかけるが、先頭の背中は遥か遠くだ!
ホクトベガ、なおも差を広げる!」
ホクト「(勝ちたい、勝って……トレくんと一緒に……喜びたい……っ!)まだ……私は……走っていたいんだぁあああぁああぁっ!!!!!!」
実況「強い、強すぎる!!!!!
ホクトベガ、今先頭でゴールインッ!!!!!!
────────そして今、2着がゴールイン!とんでもない着差だ!これは恐れ入ったぞホクトベガ!!!中央のGIウマ娘、ここにあり!!」
観客達「「「おおおぉおおおおぉーーーーーーーっ!!!!」」」
ホクト「はぁっ、はぁっ……っ!!!!」
エース「──っしゃぁ!」
「アル。」
アルダン「ホクトさんと、2着の着差…3.6秒です。」
デュラ「3.6秒…と言うと…。」
「約19バ身差だな。」
シュヴァル「じゅ、じゅじゅじゅ、19バ身……!?」
テン「………………ほっ。」
スティル「勝てて一安心、と言ったところですか。」
テン「……いえ、ここからですよ…彼女はもっと強くなります。」
スティル「……えぇ、楽しみです……とっても。」
ホクト「トレくーーーーーーーーーーーーーんっ!!!!!!!!!!」
「待て、柵を乗り越えて飛び込んでくるのは聞いてな────」
────────ドンガラガッシャーン!
「いっ、てててて……。」
ホクト「勝てたっ!勝てたよっ!!!」
「……凄かったよ、鳥肌がたつくらい。」
ホクト「えっへへ……トレくんのおかげだよ。」
「俺は何も…ホクトがホクトらしく走ったからだよ。」
ホクト「ううん、トレくんが信じてくれたから……えへへ、トレくん大好きっ!」
テン「!」
シュヴァル「あ、わわ……!」
デュラ「くっ…!」
アルダン「まぁ……。」
スティル「あら…。」
エース「………………やれやれ。」
「わ、分かったか!離れなさいっ。」
ホクト「あーん!」
テン「全く…まずはインタビューとライブが先です。
その後にアイシングと───」
ホクト「…うぅー。分かったよぉ。」
テン「…ですが、まずは。」
テン「────
ホクト「…!
…ふふっ、テンポイントだけじゃないって知らしめてやるんだからっ。」
テン「えぇ、共に精進しましょう。」
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