とある日……。
アルダン「あら…シュヴァルさん、こんにちは。」
シュヴァル「あっ……あ、アルダン……さん……こんにちは…。」
相変わらず目深く帽子を被るシュヴァルグラン。
しかし、メジロアルダンもその様子に慣れたようで…。
アルダン「その格好…これからトレーニングですか?」
シュヴァル「……は、はい…そんなところです…。」
アルダン「ふふっ、そうでしたか。
では、貴重なお時間を邪魔しないように私はこれにて失礼致しますね。」
軽く会釈をし、その場を離れようとした時だった……。
シュヴァル「……あ、あのっ…。」
アルダン「……はい、どうしましたか?」
シュヴァル「……あ…えっと……その……。」
呼び止めたはいいが、話すのに躊躇っているシュヴァルグラン。
そんな様子を見たメジロアルダンが、優しく微笑みかける。
アルダン「ゆっくりで構いませんよ、誰しも話しにくいことはありますから。」
シュヴァル「……その……。」
グッと拳に力を込めて、アルダンを見据えるシュヴァルグラン。
シュヴァル「─────実は、今度……。」
アルダン「……まぁ…。」
……………………………………。
【数日後】
トレーナー業務が終わり、一息ついてる昼下がりの事だった。
アルダン「失礼します。」
「アル?」
突然の訪問に戸惑いつつも、立ち上がりメジロアルダンの方を向く。
アルダン「トレーナーさん、今お時間よろしいでしょうか?」
「あぁ、仕事も一段落ついたけど……。」
アルダン「では、参りましょう♪」
「……どこに?」
アルダン「来てからのお楽しみですよ。」
「……う、うん?」
半ば強引にトレーナー室を後にする。
その道中、メジロアルダンの機嫌は何故か良さそうだった。
アルダン「トレーナーさん。こちらへ」
「……ここって…」
連れてこられたのは、コースが一望できるスタンドだった。
よく見ると、他のトレーナーやウマ娘達も見学に来ていた。
「これって……。」
アルダン「はい、選抜レースです。」
「アルが連れてきたかった理由って……。」
アルダン「ふふっ、これから分かりますよ。」
新人トレーナー「やっぱり注目は新進気鋭のサトノ家の2人かな?」
中堅トレーナー「それと、この間の選抜レースで快勝したヴィルシーナの妹であるシュヴァルグランも注目ね。」
(……シュヴァルグラン、出るんだ…。)
ベテラントレーナー「だが、一番の注目は……。」
数多くの目線の先に居るウマ娘……。
「……あの子は…。」
アルダン「''ドゥラメンテ''…選抜レース前から注目されてるウマ娘です。」
「……確かに、風格があるな…。」
アルダン「それよりも、トレーナーさん、あちらに……。」
指を差すアルダン……その先には。
シュヴァル(すごい……これがレース前の雰囲気……。
みんな、気持ちが全面に出てるな……ううん、僕だって、負けられない……。)
「シュヴァルグラン……。」
アルダン「────数日前、シュヴァルグランさんから告げられたんです。
選抜レースに出る、是非……見て欲しい、と。」
「……えっ?」
確かに面識はあるとはいえ、そんな事を伝えるなんて少々驚きを隠せない自分が居る。
アルダン「……ですが、この言葉の意味は私に向けて…ではなく
トレーナーさんに向けて言っているのだと、私は捉えています。」
「……俺に?」
アルダン「その答えを、是非トレーナーさんも目の前で見て感じて欲しいと思いお呼びした次第です。」
「……そうだったのか。」
アルダン「……どこか、私と似た雰囲気を感じまして……。」
「え?」
アルダン「何でもありません。レースが始まりますよ。」
「……あぁ。」
見る方も、柄にもなく緊張してきた。
思えば、アルダンが選抜レースを走る前の時もこんな感じだっただろうか。
シュヴァル(……メジロアルダンさん、見に来てくれたかな……。
……ううん、今はレースに集中しないと……。
姉さんやヴィブロスに負けない……そんなレースをするんだ…!)
────────────────────
【レース中盤】
シュヴァル(ペース…まだ仕掛けるところじゃない……
けど、ここでいいのかな……っ……?
周りを見ながら……冷静に……っ……。)
(何か考えながら走ってる……?)
シュヴァル「……ここ、だ……っ!」
ラストの直線に差し掛かる寸前、シュヴァルグランがラストスパートをかけた。
……が、しかし。
シュヴァル「……っ!(前のウマ娘の方が…仕掛けるタイミングの方が早い……っ?!)」
それでも何とか持ちこたえて先頭に並びかける。
シュヴァル「届……けっ……!!!!」
最後の力でゴールへと飛び込むシュヴァルグラン。
……結果は……。
実況【ゴーーーールイン!!!
シュヴァルグラン、僅かに競り負けての2着!】
シュヴァル「はぁ……っ……はぁっ……!!」
シュヴァル「2着……まただ……僕は、また……っ……!」
新人トレーナー「うーん、キレはまだまだって所かなぁ。」
中堅トレーナー「明らかに経験不足ね…まだ担当にするには早いのかしら……。」
レース内容からか、評価はあまり芳しいものではなかった。
アルダン「……さて、トレーナーさん。
貴方の目に彼女の走りは、どう映りましたでしょうか。」
「……能力は、確かにあると思う。
けど、気になることが1つあった。」
アルダン「では、確かめに参りましょう。」
「確かめるって…」
アルダン「善は急げ、ですよ♪」
そう言うと、メジロアルダンはコースへと歩き始めた。
……………………。
アルダン「お疲れ様です、シュヴァルグランさん。」
シュヴァル「……あっ…………すいません、僕……。
あんなこと言っておいて……こんな不甲斐ない結果で……。」
アルダン「……そちらに関しては、私よりも…トレーナーさんの方がお聞きしたいことがあるそうですよ。」
シュヴァル「……えっ……。」
「……まず、お疲れ様。」
シュヴァル「…………ぁ……はい……。」
「レース中に見てて思ったんだけど…''何か考えながら''走ってた?」
シュヴァル「…………!」
その言葉に、シュヴァルグランは目を見開いた。
シュヴァル「……仕掛けるタイミングを考えていたのと…
あとは…姉さん達ならどうしたのかな……って……。」
「姉さん……ヴィルシーナか。」
シュヴァル「姉さんって……凄いんです……。
気品に溢れてて……それでいて、実力もあって…
僕も……そんな風に……なりたい、だなんて……。」
「………………。」
シュヴァル「そして、まだ選抜レースに出てない……ヴィブロスも
僕より、全然才能があって……だから、その2人を越えたい……その一心で選抜レースに……。」
アルダン「……そうだったのですか。」
シュヴァル「でも、またこんな不甲斐ないレースをして……
僕は……なんて、情けないんだろうって……。」
「シュヴァル」
シュヴァル「……ぅえ……はい……?」
「キミの夢ってなんだい?」
シュヴァル「……夢……。」
「なんでもいい、聞かせてくれ。」
シュヴァル「……示したいです、あの場所に……僕の、想いを。
……いつか必ず、叶えて見せます。僕だって……!」
「……そっか、じゃあ──────」
アルダン「姉妹の強さに打ちひしがれる気持ち……私も分かります。」
「……アル?」
シュヴァル「……メジロアルダンさん……。」
アルダン「どうでしょう、お試しでトレーナーさんにトレーニングを見てもらうというのは?」
シュヴァル「……えっ……?」
「アル、それは……。」
アルダン「決めるのは、シュヴァルグランさんご自身です。」
シュヴァル「……僕…………こんな、僕でも…輝ける、かな…。」
「輝かせてみせる。」
長い沈黙の後……。
シュヴァルグランは、帽子を深く被りながら答えを出した。
シュヴァル「…………分かった……。
よろしく……トレーナー……。」
「お、おう……!!」
アルダン【想いは紡がれる……そして、私自身も……】
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