レース本番を見据え、トレーニングを重ねていたある日。
アルダン「はぁ、はぁ…っ……。……ふぅ。」
アルダン「タイム、縮まりましたね。
それに走り終えた際の呼吸も、乱れが少ないように思います。」
「うん、メニューも、いいペースでこなせているよ」
アルダン「ありがとうございます。
では───このまま、無駄のないよう、進めて参りますね。」
褒められてもすぐ、トレーニングへと意識が戻る。
無駄のないようにと語る通り、練習中のアルダンの集中力は凄まじい。
「─────その集中力は…君の武器だね」
アルダン「……武器、ですか?」
意外だったのか、ハッとした顔をするアルダン。
アルダン「すいません。
光栄ですが、そのように考えたことがなかったので、少し…驚いてしまって。」
本人は言われても、ピンときてないようだが…
おそらくこの気迫は
彼女の覚悟から来るものなのだろう───
アルダン【もう、ご存じのこととは思いますが。
……私は、生まれつき、あまりに弱く、脆い体をしております。】
アルダン【いつ砕け散るとも知れぬ身です。
メジロの、あるいはウマ娘たちの紡ぐ輝かしき歴史の中に、すぐ埋もれゆくこともあるでしょう。】
アルダン【すぐに色褪せ、忘れ去られる。
─────それでも…''今'】
アルダン【今、この瞬間を輝かせるために命を賭すことは
私に許されたただ1つの権利なのです。】
あの日、自らの境遇を語ったメジロアルダンの目には、静かな…しかし揺るぎない決意が宿っていた。
(あの覚悟に応えたい…新人とか、メジロ家とか関係ない…
俺は、あの子のために……頑張りたい。)
アルダン「トレーナーさん、準備できました。
ラスト1本、お願いいたします。」
「────それじゃ、用意……スタート!」
見学中のウマ娘「え?アルダン先輩、あれ何本目?
───前よりトレーニング量増えてるよね。
体調大丈夫なのかな?」
近くで見学していた後輩たちから
心配する声が聞こえてきたが──
アルダン「はぁ、はぁ……。
……うん、いい感じだわ……。」
(大丈夫、彼女なら……アルダンならまだやれる)
アルダン「トレーナーさん?どうかされましたか?」
「ううん、この調子なら、本数を増やせるかなって」
アルダン「……!
ぜひお願いいたします。私も、もう少し走りたいと考えておりました。」
………………………………。
アルダン「───本日も、ありがとうございました。
今日の練習は、一段と実りの多いものだった気がいたします。」
アルダン「ですから…いかがでしょうか。
明日からこのメニューを基準に組む、というのは。」
「……ふふっ」
アルダン「……?」
「ごめんごめん、今まさに全く同じこと言おうとしてたから、つい」
アルダン「まぁ。……ふふっ。
''今''に感謝しなければ。
このところは特に調子がよくて、体の熱で動けなくなることもありませんし。」
アルダン「デビュー前は、連日トレーニングができないこともありました。
ですが、今はこの通り。」
その健勝さを共に喜びながら、ミーティングを終える。
……が、そこで気を抜くつもりはないか、彼女の背筋は伸びたままだ。
「……アルダン」
くすっと笑って、トントンと書類を机に打ちつける。
「休憩中は、もっと楽にしてていいからね?」
アルダン「楽に……というと?」
「背もたれを使うとか、ソファーに寝転がるとか」
アルダン「まぁ、ありがとうございます。
ですが、私にとってはこのままが自然ですから。」
アルダン「もともとメジロの娘は人前に出る機会が多く、幼い頃から粗相のないよう、教わって育つのです。
それに────」
知人の女性【あらアルダンちゃん、どうしたのそんな隅っこでうつむいて。
もしかして、具合が悪いの?】
幼いアルダン【いいえおばさま。
私、少し考えごとをしていただけで……。】
知人の女性【ダメよぉ、無理しちゃ。
貴方は体が弱いんだから…!】
幼いアルダン(……そっか。
しゃんとしてないと、ぐあいが悪いって思われちゃうんだ…。)
アルダン「……」
「……アルダン?」
アルダン「いえ、なんでもありません。
このほうが落ち着くだけですので、ご心配なさらず。」
アルダン「トレーナーさんの前で無理はしないとお約束いたしますから、どうか、ご安心ください。」
「……ん、分かった。
甘えたい時は甘えていいからな」
アルダン「あら…担当ウマ娘を甘やかしていたら、トレーナーさんのお仕事が滞りませんか?」
アルダン「もしかしたら私、今日は気分が乗らないのでお休みいたします、なんて言いだすかもしれませんよ?」
「い、いやいや!練習では甘やかさないからね!?」
アルダン「ふふっ…ぜひ、そうお願いいたします。
大丈夫です、今でも充分、お気遣いいただいてますから。」
(そう言うなら、本人に任せようか……)
涼やかに微笑むメジロアルダンに、これ以上の口出しはやめることにしたのだった。
アルダン「……ふふっ」
「?」
アルダン「ああ、いえ。
慌ててるトレーナーさんを見るのが、初めてでしたので……。
何だか、新鮮で……つい。」
「……そ、そうだったか?」
アルダン「はい。
トレーナーさんも、気がつかないだけで…顔が緊張でいつも強ばってましたから。
リラックス、リラックス…ですよ。」
「ん、そう……か……」
アルダン「はい。
トレーナーさんも、いつも通り肩の力を抜いた自然な姿の方が…素敵なのは私自身が感じていますので。」
「分かった、自分で気がつかないうちに気張ってたのかもな」
アルダン「アドバイスになったのなら、良かったです。
これからお互いに協力していく身です。
どちらかがよくても、どちらかが欠けて……て、は……。」
「……アルダン?」
何かを言いかけたアルダンだが、1人で考え込んでしまった。
アルダン(い、今……トレーナーさんのとこ……素敵と言ってしまいました……間違いでは、ないのですが、いきなり過ぎたでしょうか……。)
アルダン「いえ、なんでも。」
コホンと咳払いをし、姿勢を正すアルダン。
でも、心なしか……しっぽと耳が動くのが多い……気がする?
評価・感想・お気に入り登録
よろしくお願いします。