──────とある日。
(えーっと、シュヴァルのクラスは…)
シュヴァルグランに言伝があるので、中等部に向かおうとしていた時だった。
???「なっ………いきなり何て事言い出すんだよ、トレーナー!」
周りのウマ娘A「ね、ねぇ…大丈夫…?」
周りのウマ娘B「止めた方が…良い、よね…。」
何やら言い争う声が聞こえたので、様子を伺ってみると…。
疲れた顔のトレーナー「だからね…夢を見るのは良いけど…時には叶えられない夢もあるんだよって言ってるだけじゃないか…。」
自分よりも年上のトレーナーが1人のウマ娘に諭していた。
黒髪のウマ娘は、言ってることを聞き入れながらも反論していた。
???「だからってよ…っ!!!
クラシック級は全然冴えなかったけど…。
アタシには叶えるって約束したでっけぇ夢が──────」
2人の会話を聞きながら、横にいたウマ娘に声をかけた。
「……喧嘩か?」
怯えた様子のウマ娘「は、はい…今年の方針の違いでああなっちゃったみたいです…。」
(方針の違いか…)
トレーナーの考えやトレーニングメニュー…ウマ娘の思う鍛えたい箇所・自分の補いたい短所…相違が出てくる事は珍しくは無い。
(流石に止めた方がいいか…)
声をかけようとしたが…。
疲れた顔のトレーナー「とにかく、もうそんな大きな夢を見るのは疲れたんだ…現実を見ようよ、現実を」
力の無い笑みと共に、トレーナーはその場を後にしてしまった。
???「……現実……何だよ、大きな夢を語ることの何がいけないんだよ…。」
「…………あっ…。」
何とも気の抜けた声に、そのウマ娘は反応した。
???「……アンタは?…あぁ、悪い…情けないとこ見せちまったな。」
腰に手を当てて、俯きながら答えるウマ娘。
「俺のことはいい…それより、その…大丈夫か?」
???「あぁ、大丈夫だ。こんな事でアタシはめげやしない。
…それに、夢は1人でも叶えられる…何度だって前に進んでやる。」
その目は、失望や悲壮に満ちてなく…ただ真っ直ぐに前を見つめていた。
???「悪い、気晴らしに走ってくる…声、かけてくれてありがとうな。」
「…君の、名前は…。」
???「アタシか?アタシは────────」
…………………………………………。
【トレーナー室】
アルダン「まぁ、そんなことが…。」
先程の出来事を、俺はアルとシュヴァルに話していた。
シュヴァル「トレーナーと仲が悪いウマ娘も居るんですね…。」
「偶然出くわしちまったとは言え…もどかしいな。」
腕を組み、難しい顔をしていると…アルが紅茶を差し出してきた。
アルダン「…これも''今''という時間が生み出したご縁かもしれません。
お話を聞いたりしてあげるのが懸命かと。」
「…出しゃばりすぎじゃないかな?」
シュヴァル「…そ、そんな事ないですよ…僕も当時は…話しかけられて嬉しかったです…し…。」
アルダン「あら、新たな発見ですね♪」
シュヴァル「…ぼ、僕にだって言い難いことくらいあります…///」
「…話…か…。」
確かに、あの様子だと…オーバーワークしたり
トレーナーとの溝が更に深まる可能性もある…か…。
……………………………………………。
【数日後】
その噂は、密やかに広まっていた。
高等部のウマ娘A「この前喧嘩してたウマ娘のトレーナーさん…トレセン学園辞めるみたいだよ。」
高等部のウマ娘B「えっ、本当に?…まぁ、あの様子じゃねぇ…。」
アルダン(…以前、トレーナーさんが言っていた出来事…。)
その会話を耳にしながら横切るアルダン…向かう先は、もちろん…。
【トレーナー室】
コンコン。
アルダン「失礼します。」
「アル?どうした?」
アルダン「突然すいません、少しトレーナーさんの小耳に挟んでおきたいことが…。」
「……え?」
アルダン「──────と。」
「…………そうか。」
トレセン学園を去るウマ娘やトレーナーは…少なからず存在する。
彼もまたその1人だったのだろう…顔を見ていれば分かる。
重圧・期待・責任・憧れ…色々な物を背負うといつか人はパンクする。
アルダン「…どちらへ?」
「一度は首を突っ込んじゃったからな、様子見だよ様子見」
アルダン「ふふっ、トレーナーさんならそうすると思いました♪」
──────────────────
【理事長室】
コンコン。
「失礼します。」
理事長「うむっ、入りたまえ!」
中に入ると、秋川理事長とたづなさんが居た。
「すいません、ちょっとお聞きしたい事─────」
たづな「…お辞めになったトレーナーとその担当ウマ娘の事…ですね?」
「…やっぱり、分かりますか。」
たづな「詳しいお話を聞きに来たのは貴方が初めてですが…時期とそのお顔を察するに…その件、かと。」
「…はい、そうです…彼女はこれからどうなるんですか?」
理事長「無論、担当トレーナーが居ないウマ娘となる。
要約っ!このままだとトゥインクル・シリーズに出走することは不可能!」
「………………やっぱり。」
たづな「もちろん、新たな担当トレーナーが出来れば…今まで通りレースに出ることは出来ますが…彼女自身がそれを望んでいるかと言われると…。」
「……本人に、直接聞いてみます、ありがとうございました。」
たづな「き、聞くって…あまりズカズカ入り込むのは…!」
理事長「たづな、やめておけ。」
たづな「で、ですが理事長…!」
理事長「彼もまた、困ってる人を放っておけない主義なのかも知れん…静観!…しばらく様子を見てみよう。」
…………………………………………………
【トレーニングコース】
そのウマ娘は、1人…黙々と走っていた。
???「はぁっ…はぁ…まだだ…まだまだ…ぁっ!!」
大粒の汗を流し、歯を食いしばり…息を切らしながらも走るのを辞めなかった。
???「…こんなんじゃ……アタシは…っ…!」
「待って!」
???「……アンタは…。」
再び走ろうとする本人を止めて、落ち着かせる。
「少し休憩しよう。」
???「気遣いか?サンキューな…でも、アタシは走らなくちゃいけないんだ…まだ目指したい夢があるからな。」
「ここで無理したらその夢も途絶え─────」
???「同情か?」
グッとこちらを見据える目には…少し、怒りも混じっていた。
「そんなんじゃない。」
しかし、こちらも毅然とした態度で返答する。
???「…………そうか…。」
嘘ではないと感じ取ったのか、大きく息を整えるウマ娘。
???「…改めて自己紹介させてくれ、アタシの名前は…
''カツラギエース''……ウマ娘界のエースを目指している。
…悪いな、少し苛立って当たっちまった。」
「気持ちは分かるよ、あんな事の後だもんな。」
エース「だけど…アタシの夢は潰えた訳じゃない、例え1人になっても…それは変わらない。」
でも、1人のままだと…とは、言えなかった。
それは目の前にいるウマ娘の夢を、否定するのと同じことだから。
エース「…気にかけてくれたんだろ、サンキューな。」
「大丈夫か?」
エース「あぁ、もう少し走ってから上がることにする。」
その言葉を信じることにして、俺もその場を後にしようとした。
その時だった。
エース「────アンタの夢は何だ!」
「……えっ。」
後ろからの叫び声に、思わず振り向く。
ただ真っ直ぐにこちらを見ながら、返事を待つカツラギエース。
「……俺の夢…。」
何故か、出てこない。
今まで、担当ウマ娘のなりたい姿や輝きたいという思いに応えるのに一生懸命で自分の夢がありそうでなかったから。
エース「………………………。」
しばらくして、カツラギエースはそのまま走り始めてしまった。
俺は…ただ、その姿を眺める事しか出来なかった…。
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