───テンポイントがトレーナー室に来て以来…。
テン「…………。」
「また来たのか、テンポイント。」
何度か顔を出すようになった。
アルダンもエースもシュヴァルも何時しかその風景が普通になっているようで何度か話もしているようだった。
(しかし…)
───あまりにも、線が細すぎる。
ヒトの俺ですら、少しでも力を込めたら砂のように消えて散りゆくと思ってしまうくらいに。
テン「…来週、松葉杖を使わなくても歩様できる様になると…医師から伝えられました。」
こちらの危惧を見透かしたのか、テンポイントが口を開く。
「そうか、少しずつでも練習再開できるんだな。」
テン「…はい、ですが…また何時こうなるか分からない身…
授業も、途中で不参加になる可能性が…高いでしょう。」
聞けば、一本走った後…見学になることもあるようで。
その潜在能力はどれほどなのか…自分でも分からないと言っていた。
テン「…………あの。」
申し訳なさそうに顔を上げるテンポイント。
大方の予想はついていたが、敢えて本人の口から聞きたかった俺はじっとテンポイントの方を見た。
テン「……おかしな事を述べても、よろしいでしょうか。」
「うん、聞くよ。」
テン「既に、ご存知だと思いますが…残された時間は多くありません。
私の中でも…選抜レースに出れるのは一度きりだと思っています。
…そして、選抜レースを走り…走った上でスカウトを受けたい…そう思っています。」
ウマ娘としては、必然の考えだろう。
アルダンもそうだったから、殊更そう思う気持ちはよく分かる。
テン「おこがましい申し出なのは承知です…どうか、私のトレーニングを見─────」
「うん、いいよ。」
テン「………………。」
予想外…だったのか、テンポイントは言葉を失っていた。
テン「…何故、そこまで…。」
「言っただろ、キミに俺は光を感じたって。」
テン「……。」
「…多分、キミも同じなんじゃないかな?」
テン「……えっ…。」
「そんなお願いをするの、多分初めてでしょ?
…それって、俺に少しでも何か感じてくれたから…なのかなって。
まぁ、こちらの思い過ごしだったら…謝るけど。」
テン「………………。」
「キミがそう望むのなら、俺はそれに応えるそれだけだよ。」
テン「…ありがとうございます…お優しいのですね、とても。」
「馬鹿正直でお人好しなだけかもよ。」
テン「いえ…目を見れば…分かります。」
そう言って、頬に手を添えるテンポイント。
その指は細く…そして、少し冷たかった。
テン「……松葉杖取って…歩けるようになったら、また来ますね。」
「あぁ、待ってるよ。」
軽く頭を下げて…コツコツと歩き始めるテンポイント。
その様子を見守りながら…触れられた頬に手を置く。
(…細いな…あまりにも…)
アルダンと違った…儚さに少し戸惑いつつも…面倒を見るからには大事にしないとと思う俺だった。
────────────────────
【次の週】
今日はシュヴァルのレース出走の日。
舞台はGII、青葉賞。
本人は終始緊張していたが…結果は2着と好走した。
その様子を見る、俺とエース…アルダン…そして。
エース「怪我、良くなってよかったな。」
アルダン「ですが、治ってすぐはお気を付けください。」
テン「…ありがとう、ございます…エースさん、アルダンさん。」
普通に歩けるようになったテンポイントも来ていた。
とは言え…まだ、その歩き方はゆっくりで少しふらついているようにも見えた。
エース「さぁ、シュヴァルの出迎えに行こうぜ、トレーナー。」
「あぁ、そうだな。」
アルダン「テンポイントさんも、お足元にお気を付けください。」
テン「…はい。」
………………………………。
【地下バ道】
「お疲れ様、シュヴァル!」
シュヴァル「ぁ…と、トレーナーさん…あ、ありがとうございます。」
「どう、GIIを走ってみて」
シュヴァル「えっと…上手く、走れたかなって…思います。
ただ…先週''皐月賞''を走った…同期のみんなにはまだ及ばない…かなって…。」
「先を見据えることは良い事だ…でも、シュヴァルにはシュヴァルのペースがある…な?」
シュヴァル「…はい、ありがとうございます。」
俺とシュヴァルのやり取りを見ていたアルダンがテンポイントに話しかけた。
アルダン「…トレーナーさんは、私たちの事をとても大切に扱って下さいます。」
テン「…はい、幸甚に存じます。」
エース「アタシもよ、色々あって今のトレーナーに見てもらってるけど…良いもんだと思うぜ、本当に。」
テン「…えぇ。」
トレーナーの姿を目にし、1人考え込むテンポイントだった。
────────────────────
【翌日】
テン「失礼します。」
「約束通り、来てくれたんだね。」
テン「…はい、今日はお伝えしたい事があります。」
真剣そうな顔でこちらを見るテンポイント。
重要な話のようなので…自分の仕事の手を止めて立ち上がった。
「…うん、聞かせて。」
テン「………………。」
目を閉じて、すぅと息を吐くテンポイント。
そして、次の瞬間…。
「…えっ?」
両膝を地面につけ…膝立ちの体勢で祈るように手を合わせた。
テン「…あなたに…トレーナー様に全てを委ねます。
昨日のあの光景を見て…確信しました。
この先、まだ暗い道に…光を見つけてくれたトレーナー様に…願いを託します。」
「ちょ、ちょっと…!」
こうべを垂れ、まるで崇拝するように気持ちを述べるテンポイント。
「で、でも…まだ選抜レースすら走ってないってこの前…!」
テン「分かっております…ですが、気持ちだけでも、お伝えしたく…
この想いを…走りを受け取るかは、トレーナー様にお任せします。
しかし…こうして伝えずにはいられなくて…ご迷惑なのは承知の上です。」
「…分かった、顔を上げてよ。」
テン「…はい。」
「その…仮って事で一先ず収めよう?
もちろん、選抜レースまでおためし…って言い方はアレだけど…面倒を見るし、さ。」
テン「…お心遣い、感謝致します。」
(何だか…情の深い子…だな)
テン「…どうかなさいましたか?」
「いや、まずはどのくらい走れるのか…少し見たいなって
えっと…テンポイント──」
名前を呼ぶと、静かに首を横に振るテンポイント。
テン「本来なら…新若と幼少期は呼ばれていたのですが…トレーナー様には、テンと呼んでいただきたく…。」
「テン…か、なんかピッタリだな、本当に」
テン「…と、言いますと…。」
「天を…星を目指すキミに。」
テン「…そう言っていただけるのは、とても幸せです。」
「…くれぐれも、怪我をしないようにな。」
手を差し伸べると、テンポイントはその手をしっかりと握った。
テン「…はい、どうか後見の程…よろしくお願いします…トレーナー様。」
こうして、仮契約という形で…テンポイントを担当する事となった。
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