8月の暑さ厳しいある日。
トレーニングコースには、デビューを目指してこれからレースに向かおうとするウマ娘達が集まっていた。
エース「夏合宿があるからか、見物人は少ないな。」
アルダン「記者の方々は居ますが…主にサブトレーナーが多いようです。」
シュヴァル「…こうして見ると、普段の賑やかさが無いのって…変な感じです、ね。」
「まぁな、でも…テンの選抜レースだしな。」
エース「あんまり注目はされてる感じはしないけどな…。」
ウマ娘の耳はヒトよりも優れている。
記者たちの小話も聞こえているようで……。
記者A「今日のメンバーはハイレベルそうですね。」
記者B「1人離れてウォーミングアップしてるあのウマ娘は…見た事ないですね。」
記者A「本当だ…名前は…テンポイント?今まで選抜レースを何個も見てきましたが…初めて見ましたね。」
記者B「華奢だなぁ…大丈夫か?」
テン「…………………よし。」
いつも通り、念入りにウォーミングアップをするテン。
今までその様子を見てた俺たちは何も心配してなかった。
エース「それで、今日の作戦は何て言ったんだ?」
「作戦は…無し!」
シュヴァル「…へ、へぇっ…?!」
アルダン「トレーナーさんらしいですね。」
「あぁ、でも…一点だけ伝えてはおいた。」
シュヴァル「そ、それは…一体…。」
「───''ありのまま走れ''と」
エース「…だな、何かに縛られるくらいなら…思い切り走ってこそ…だよな。」
アルダン「えぇ、目に焼き付けましょう。」
実況「さぁ、選抜レースもいよいよ大詰め。
デビューを目指し…9人のウマ娘達がターフを駆けます。」
テン「…凄い…今まで走ってるから見慣れてるはずなのに…胸の高揚が…収まらない…。」
実況「今、スタートしました!!」
テン「─────っ!」
「よしっ!」
実況「おぉっと、テンポイント好スタートを決めた!そのままハナを進む!」
記者A「おぉ、スタートセンス良いな!」
記者B「後はこのペースをキープ出来れば、だな。」
実況「先頭を走るは、テンポイント。
しかしリードは徐々に無くなってきました。」
テン「……はっ……はっ…!」
記者A「やっぱり実戦慣れしてない走りだな。」
記者B「あぁ、直線に入ったら捕らえるな…。」
「…いや。」
アルダン「トレーナーさん?」
「ここからだよ、アイツは。」
実況「さぁ、3コーナー回って、各ウマ娘が攻め上がってくる!」
テン「この感覚…っ…楽しい…走るのが…楽しい…!!」
ウマ娘A(何…っ…何か…起こる…!?)
ウマ娘B(前のペースが…早まった…!)
テン「トレーナー様…これが…私の目指した走りです…っ!」
グッと目を見開いて、ターフを踏み込むテン。
次の瞬間、2番手以降の差が開き始めた。
テン「速く…速く…っ…どこまでも…前へ…っ!!」
実況「逃げる逃げるテンポイント!とんでもないスピードだ!」
記者A「嘘だろ、おい…!?」
記者B「失速するどころか、どんどん引き離している…!」
サブトレーナー「何なのあのウマ娘は…本当に初の選抜レースだって言うの…?!」
実況「テンポイント4コーナー回って直線へ向いた!
他のウマ娘は今ようやく4コーナーに差し掛かる!
速い、速いテンポイント!リードは7~8バ身!」
エース「…やるな、アイツ。」
シュヴァル「…凄い…。」
アルダン「…これも想定の内…ですか?」
「いや、予想以上だよ…凄いな。」
実況「持ったままペースは衰えず!
他のウマ娘をねじ伏せ、今テンポイント、ゴーールイン!!
10バ身の差を付けて圧勝です、テンポイント!」
テン「はっ…はっ……やった…。」
記者A「お、おい、見ろよ…これ!」
ストップウォッチを持った記者が隣の記者に走破タイムを見せた。
記者B「1000m…58秒8…!?
短距離路線で活躍するウマ娘でも出せないタイムだぞ…!?」
中堅トレーナー「凄い…必ずスカウトしてみせるわ…!」
エース「あーあ、盛り上がっちまったぞ、トレーナー?」
「自分の事のように嬉しいな。」
シュヴァル「そ、そんな呑気な事言って…テンさんが他のチームに行ったりしたら…!」
テン「私が…どうしましたか?」
アルダン「お疲れ様です、テンポイントさん。」
テン「…トレーナー様、お約束通り…勝利をもたらしました。」
「あぁ、凄いスピードだったな。」
テン「…身に余る程のお言葉、感謝致します。」
片膝をつき…深々と頭を下げるテンポイント。
その様子を見ていた周囲の人達が声を漏らす。
記者A「…じゅ、従者と主人みたい…だな」
記者B「そう言う関係なのか…?」
中堅トレーナー「もう契約済なのね…あのトレーナー…やるわね。」
エース「…何か要らない誤解まで生まれそうだな。」
アルダン「まぁ、仲睦まじいと言う見方も出来ますよ。」
シュヴァル「……そ、そうなの…かな?」
テン「…して、トレーナー様…その…。」
「ん?」
テン「…いえ、何も…。」
頭を差し出したようにも見えたので…俺はそのまま頭を撫でた。
テン「……っ……。」
「ごめん、違ったか?」
テン「……いえ…合っています…ありがとう、ございます…トレーナー様…。」
幸せそうに目を閉じるテンポイント…走り終わると年頃の反応を見せていた。
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【寮】
選抜レースを走り終えたテンポイント…だったのだが。
テン「………。」
エース「夕飯、全然食べなかったな。」
テン「…申し訳ございません。」
アルダン「食欲…無かったのですか?」
テン「…はい…あまり…食べたい気にならず…。」
シュヴァル「そ、それって…選抜レースと何か関係…あったり、するんですか…?」
テン「多分…精神的に疲れてしまった…の、かと…。」
アルダン「精神の緊張…又は重圧…気にならないウマ娘なんて居るはずありません、
今日はゆっくりと体を休めてくださいませ。
…トレーナーさんに、連絡は?」
テン「…先程、しました。
体の消耗は予測していた…明日また体調の変化があったら教えてくれ…と。」
エース「なら、今日はもう休め…疲れたろ?」
テン「……お気遣いありがとうございます…失礼します。」
その言葉と共にその場を去るテンポイント。
シュヴァル「大丈夫…です、かね…。」
アルダン「レースとなると…普段よりも気持ちが出てしまうタイプなのかもしれません。
…負担にならなければ良いのですが…。」
エース「だな…トレーナーにも考えがあるとは思うが。」
テン(……体が…重い…。)
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