テン「…申し訳ありません…。」
「良いから、横になってなさい。」
テン「…はい。」
食欲不振に陥ったテンポイント…。
次の日、いつも通りにトレーナー室に来たが明らかに顔が赤かった。
「お前、熱があるだろ。」
テン「だ、大丈夫…です…このくらいは…。」
「いーや、無理はダメだよ、帰って安静にしてなさい。」
テン「…トレーナー様のお顔が…見たくて…。」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、無理してる表情見るのも辛いから…。」
テン「…分かりました…少し、ここで横にさせてください…。」
というやり取りがあり、今に至る。
「…やっぱりレースで生じる疲労の要因は多岐に渡る…か。」
テン「…不思議でした…。」
「聞こえてたのか。」
テン「……前からも後ろからも迫るプレッシャーに…
自分の胸も高鳴り…もっともっと…走りたい…
触れれば火傷しそうなほどの…熱を…感じたいと…心から思いました。」
「…楽しいか、レースで走るということは。」
テン「…楽しさが少々…あとは、宿命だと思う気持ちが大多数…です。」
「…前を見据えて、自分の中で存在意義や理由が明確になってるのは素晴らしい証拠だ。
あとは、無理をするのを控えろ…少しなら食べられるか?」
テン「…はい。」
「分かった、ちょっと待ってろ……もしもし、アルか?」
電話で繋がったのは、メジロアルダン。
アルダン【もしもし、トレーナーさん、如何なさいましたか?】
「ちょっと、テンが体調崩してな…食欲は昨日よりあるって事だから──」
アルダン【かしこまりました、体に良い物を何個か見繕って伺いますね。】
「…話が早いな、助かるよ。」
アルダン【えぇ、では後ほど。】
テン「…すいません、何から何まで…。」
「それだけ大事なチームメンバーって事だよ、だから早く治そうな。」
テン「…はい、承知致しました。」
……………………………………………………
アルダン「おまたせしました、トレーナーさん。」
エース「果物に栄養ドリンク…後は軽く食べられそうな物選んできたぜ。」
「ありがとうね、みんな。」
シュヴァル「…あ、の…大丈夫です、か…?」
テン「…ご迷惑おかけしてすいません…少し熱っぽい…です。」
エース「どれどれ…うーん、確かに熱っぽいな。」
アルダン「……………………。」
エースに背中をさすられながら、持ってきてもらった物を食べようとするテンを見てアルダンは考えを固めた。
アルダン「では、エースさん、シュヴァルさん…練習に向かいましょう。」
シュヴァル「……えっ?」
エース「でもよ…。」
アルダン「ここはトレーナーさんにお任せしましょう。」
「…えっ、俺に?」
クスッと笑い、去り際に耳打ちをするアルダン。
アルダン「その方が、テンさんも安心なさりますし…1人にさせたら様子見に来る可能性も否めませんので…。」
「…そうだけどよ…。」
アルダン「では、行ってまいります、トレーナーさん。」
シュヴァル「…え、えっと…テンさん…お大事に…っ。」
エース「頼んだぜ、トレーナー。」
「…………あ、あぁ。」
そう言って3人は、トレーナー室を後にした。
テン「…お気遣いさせてしまったでしょうか…。」
「それだけ大事な仲間だってことだよ…ほら、食べられるか?」
テン「…はい、大丈夫です。」
と言って、ゼリーを口に運ぼうとするテン…しかし。
テン「…ぁ………あっ…。」
情けない声と共にテンが眉を顰める。
「…仕方ねぇなぁ。」
テン「…トレーナー様…?」
「ほら、口開けろよ。」
テン「…で、ですが…トレーナー様のお手を煩わせる訳には…。」
「いーのいーの、こういう時は甘えとけって。」
テン「……あり、がとう…ございます…。」
トレーナーから差し出されたゼリーを食べるテン。
テン「……んっ…。」
「美味いか?」
テン「…はい…とても…。」
「良かった、食べれそうだね。」
テン「……その…もっと…。」
「分かった分かった。」
テン「ありがとうございます…トレーナー様…その様な優しさが…テンは大好きでございます。」
突然の言葉に思わず顔を背けてしまった。
「…そういう事は、あまり言わないの。」
テン「…ですが、事実です…ので…。」
「…そう、か。」
真意は本人のみが知るということにしておいて…俺は食事の手を止めなかった。
テン「…ありがとうございます…何から何まで…。」
「後はゆっくり休んで…また、レースに臨もうな。」
テン「…はい。」
(…でも、この調子じゃ何度もレースには出せないな…ジュニア級は出せてもあと2回くらいか)
テン「………すぅ……すぅ…。」
「…寝ちゃったか、とりあえず…アルダン達の様子を少し見て戻ってくるか。」
テン「……んっ…トレーナー…様…。」
「…すぐ戻ってくるからな。」
テンポイントの頭を撫で…起こさないようにトレーナー室を後にする。
……………………………………………
【トレーニングコース】
「3人とも、お疲れ様。」
エース「トレーナー!」
シュヴァル「…テンさんは…?」
「今眠っちゃったとこ。」
アルダン「こちらは何も問題ありません。」
「そうか、アル達も無理はするなよ。」
シュヴァル「…トレーナーさんも、気苦労が耐えませんね…。」
エース「アタシら、手のかかるウマ娘ってか?ははっ!」
「それくらいの方がトレーナー冥利に…ってやつだよ。」
アルダン「ですが、トレーナーさんも無理はしてはいけませんよ。」
シュヴァル「…そ、そうですよ…夜遅くまでトレーナー室にいるの…知ってるんですからね…。」
「…ま、まぁ…そんな日も…あった…かな?」
エース「ま、トレーナーがバテちまったらよ、アタシらが介抱してやっからよ!」
アルダン「まぁ、それは良いですね♪」
「…そ、それは…威厳というものが…。」
シュヴァル「…ありましたっけ…トレーナーさんに。」
「シュヴァル、良く毒舌って言われない?」
シュヴァル「…は、初めて言われたんですけど…。」
……………………………………………………
【トレーナー室】
戻ると、テンが目を覚ましていた。
「ごめん、席を外してて。」
テン「いえ…こちらこそ…ご足労をおかけして…。」
「顔色、良くなったな。」
テン「…はい、これなら…数日で練習に戻れます。」
「そっか、良かった。」
テン「…快調になった暁には…トレーナー様に…何かお返しを…。」
「良いって、また走れるようになった姿さえ見せてくれればさ。」
テン「…どこまでもお優しいのですね…トレーナー様…。」
「そんな事ないって。」
テン「…あの…トレーナー様…その優しさに甘えるようで申し訳ないのですが…。」
「ん?」
テン「…抱きしめて、いただけませんか…?」
「…俺で良ければ。」
そう言って、テンポイントに近づき…優しく抱きしめた。
テン「…安心します…私…こうされるのが…好きかもしれません。」
「…それは、良かった。」
テン「…こんな感情を教えてくれたのは…トレーナー様…です、よ?」
「教えたつもりは…。」
テン「なら…運命…かも、しれませんね…。」
そう言うテンポイントの顔は、優しい笑みを浮かべていた。
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