ブルアカの世界にTS転生したので日記を書く 作:TS百合好きの名無し
ヨシミ可愛いよヨシミ。
そして総力戦で最推しが暴れてるぜ。
というわけでエデン条約編4話目。
深夜――ゲヘナ自治区にて。
爆発によって崩れ去り、未だ完全に煙の晴れない廃墟の中でよろよろと立ち上がる影が5つ存在した。
「試験用紙が、試験用紙がっ……!?」
「跡形もなく吹っ飛ばされた……」
「せ、【先生】、ご無事ですか……?」
「“なんとかね……”」
「……ああ、わざわざアスカさんを別の用事で呼び出して私たちから引き離した理由はこのためですか。なるほどなるほど……やってくれますね」
影の正体は先生と補習授業部のヒフミ、アズサ、コハル、ハナコの5名。
何故トリニティの生徒である彼女たちがゲヘナの自治区にいるのか。その理由は昨日発表された第2次特別学力試験の内容変更にあった。
『試験範囲を既存の範囲から約三倍に拡大』『合格ラインを60点から90点へ引き上げ』『試験会場はゲヘナ自治区第15エリア77番街、廃墟の1階』『時間は午前3:00から』……これらは全て昨日に突然発表されたもの。
あまりの内容に絶句する一同――ハナコから明かされた退学の件――繋がらないナギサとの通話――未受験はそのまま不合格となる試験の仕組み……
これらを受けて補習授業部は、道を塞ぐ不良をなぎ倒し、ゲヘナの風紀委員会と揉め事を起こして美食研究会と遭遇し、爆発と銃撃の中をなんとか必死で通り抜け、この場所へやってきた。
そうして受けた試験の結果は。
「なんで……」
試験の最中に突然会場が激しい爆発で吹き飛んだことで全てが台無しになった。
爆発に巻き込まれて消え去った答案用紙を必死で探していたものの、やはりもう消えてしまったのだと悟り、コハルの口から震え声が漏れた。
特別な理由もなく元々赤点だった彼女はこの合宿で最も成績を上げた努力者である。部長ヒフミと副部長アスカの『とにかく褒めて褒めて伸ばそう』という指導方針の下、着実に努力を積み重ねた彼女にとって、この試験は退学を回避するという目的とは別に、純粋に『自分のために頑張ってくれた二人を喜ばせてあげたい』という想いを持ち合わせていた。
だって彼女は知っていたのだ。部長と副部長の二人がみんなに隠れて夜な夜な寝る時間を削って自分たちのために試験対策に取り組んでくれていたことを。
だから合宿中の勉強は決して手を抜かなかったし、今回の無理難題な試験内容に対しても二人に恥じないよう全力で取り組んでいたのだ。
なのに――
「ぐすっ、なんで……なんでよ……! 私たちいっぱい頑張ってここまで来たのに……!」
「コハルちゃん……」
ついに涙を堪えきれなくなったコハルを見て、ヒフミがそっと傍らに寄り添うも言葉が見つからないでいる。アズサもそんな二人を心配そうな顔で見つめていた。
そして、コハルの気持ちをよく知るハナコはといえば……
「ふ、ふふ、うふふふふふふっ……」
笑顔で激しく怒り狂っていた。
「ここまで……ここまでするのですね。そうですかそうですか、ならば私たちも手段を選んでいる場合ではありませんね」
ドス黒いオーラを纏う明らかに様子がおかしいハナコに近づく者はおらず、【先生】ですらもその雰囲気に呑まれて口を閉ざしていた。
「こんな時、アスカちゃんがいてくれれば……」
ぽつりとヒフミが零した呟きが場に落ちて消えていった。
◆ ◆ ◆
「――そこまで。試験はこれで終了となります」
試験監督の言葉を受け私はペンを置く。
回収されていく答案用紙を見送り、部屋を退室するとティーパーティーの生徒が一人こちらへ話しかけてきた。
「ナギサ様よりアスカ様のご案内を承っております。こちらへどうぞ」
「……分かりました。よろしくお願いします」
彼女の案内に従って廊下を歩く。そうして案内されたのは何度か訪れたことのあるいつものティーパーティーの会場だ。
「……ナギサ様。アスカ様をお連れしました」
『ありがとうございます。そのまま人払いをお願いできますか?』
「承知いたしました」
私を連れてきた生徒に促され、私は扉を開き入室する。
ナギサはいつもの彼女の定位置に座り、視線をカップへ落としたまま私に声をかけてきた。
「どうぞお座りください」
「……失礼します」
私の物だと思われるティーカップが置かれた席に座ると、ようやく彼女は顔を上げてこちらを見た。
よく見ればその顔に普段のような余裕はなく、隠しきれない疲労の色がわずかに滲んで表れている。薄っすらと目の隈も見えるのできちんと眠れていないのだろう。しかしその中であっても目だけは冷たい力強さを持って私の姿を捉えていた。
「まずはお疲れ様でした。試験の結果はすぐに出るのでもう少しお待ち下さい」
「ありがとうございます」
「こちらの都合でアスカさんだけ変則的な試験となってしまいましたが問題はありませんでしたか?」
「はい、実に快適な試験環境だったので」
「……それはよかったです」
私の返答にぴくりと過敏に反応した彼女の眉に気付かない振りをしながら私はティーカップを手に取った。
ナギサの言った通り私が今ここにいるのはティーパーティーの都合によるものだ。
急遽ティーパーティーの一員としての私の力が必要な案件が発生し、その処理のために私がここに呼び出された――というのが表向きの事情。
実際は十中八九ナギサの妨害によって補習授業部から引き離されたというのが本当だろう。今回の試験においてイレギュラーである私の影響をできるだけ受けないようにと考えた結果がこれというわけだ。
――警戒されているのは理解していたけどまさかここまで強硬策に出てくるとは思わなかったな。
今回の試験は少しばかり危険を伴うものだし、ヒフミたちが怪我をしていなければいいけど……
「――ナギサ様。ご報告です」
「どうぞ」
また別のティーパーティーの生徒が入室し、ナギサへと小さな紙切れを渡すとそのまま去っていく。
ナギサは紙切れを一瞥すると、努めて残念そうな顔をつくって私へその内容を告げてきた。
「残念ですが……たった今入った情報により補習授業部みなさんの不合格が決定いたしました。どうやら会場での事故で試験用紙を紛失してしまったようですね」
「……そうですか。それは確かに残念ですね」
「ええ、残念です。しかし事故とはいえ試験は試験、やり直しはできませんのでアスカさんも彼女たちと同様に今回も不合格となります。非常に心苦しいですがこれもルールですので」
やっぱりここはそうなるのか。
私はティーカップの中身を飲み干すとナギサの顔を真っ直ぐに見つめて質問した。
「そうですか。ヒフミたちに怪我はありませんか?」
「……怪我の報告は受けておりませんが……なぜそんな心配を?」
「ああ、彼女たちに怪我がないなら大丈夫です。ちょっと心配になっただけですから」
「……」
ナギサの視線がより一層厳しいものになる。流石に今のは露骨すぎたか。
ああ、やっぱり苦手だなあこういうの。
とりあえず彼女の現況は確認できたから今日はもう言いたいことだけ伝えて帰ろう。
「ナギサ様」
「何でしょうか?」
「これは私の経験則ですけど……人は人と関わらなければ傷つくことはありませんが、助けられることもありません」
「は?」
「さらに人は絶対に一人で生きていけるようにできてはいません。孤独はいずれその人の心を殺します」
「突然何を……」
困惑するナギサの瞳から決して目をそらさず、私は続けて言う。
「きっと今のナギサ様には私のどんな言葉でも届かないのでしょう。ですが、それで『はいそうですか』と引き下がれるほど私は物分かりの良い人間ではありませんので」
「……」
「だから一方的な約束をします」
「約束、ですか?」
怪訝そうな顔でナギサが身構える。
「はい。……ナギサ様、全部終わってすっきりしたら一緒に美味しいケーキでも食べながらくだらない話をたくさんしましょう」
「……は?」
ぽかんと間の抜けた顔になった彼女に私は微笑む。
「それと、ミカたちだけじゃなくてあなたのこともちゃんと守りますから。今私が言いたいことはそれだけですね。紅茶、ご馳走さまでした」
固まる彼女を残し、私はその場を後にした。
◆ ◆ ◆
「――様、――ナギサ様!」
アスカが立ち去った後しばらく固まっていたナギサは従者の声でハッと我に返った。
「ナギサ様、お身体に何か異常が……?」
「……いえ。少し考え事をしていただけです。もう下がって大丈夫ですよ」
冷静に従者を下がらせ一人になったナギサは、再び先程のアスカとのやりとりを思い返す。
姫野アスカ――経歴に怪しさこそないが最近急に頭角を現した高い戦闘力、ミカやヒフミをはじめとした生徒たちを強く惹きつける不思議な魅力を持つ少女。
特にナギサにとって特別な存在であるミカとヒフミの二人から絶大な――自分にとって不可解な――信頼を寄せられていることから複雑な想いを向ける相手でもある。
大切な幼馴染は言っていた。『この世界で一番大切な人だよ』と。
寵愛する後輩は言っていた。『誰よりも頼りになる親友です』と。
彼女が現れてからというもの、二人は口を開けばいつも『アスカさん』『アスカちゃん』とその名を口にするようになったのだ。
現在に至ってもナギサはそのことにまだ納得ができていなかった。いや、むしろ納得したくなかった。
……彼女は本当に何の前触れもなく現れてこの世で最も大切な幼馴染と後輩の心を奪っていったのだから。
ああそうだ、桐藤ナギサは嫉妬しているのだ。二人の心を奪っていった泥棒猫であるあの少女に。
だから元々怪しさの塊だった彼女の答案にこっそり細工をしてまで補習授業部へと入部するように仕向けたのだ。様々な理由を付けてはいたが、根本にあったのは誤魔化しようのないただの私怨である。
だと言うのに――
「なんなのですかあの方は……!」
――全部終わってすっきりしたら一緒に美味しいケーキでも食べながらくだらない話をたくさんしましょう。
こちらが最初から友好的な態度でないことは向こうも理解していたはずだ。しかも今回は分かりやすい妨害工作まで行った直後だったのだから。
それに対して彼女がとった行動があれだった。
「それにあの目……」
ナギサは対話の後半で彼女が自分に向けてきた目に既視感があった。
嫌悪の類を一切抱かず、どこか心配するような、優しく諭すかのような、底の見えない深い慈しみが込められた目……あれは最近出会った大人が自分との対話で見せたものと同じだ。
――ミカたちだけじゃなくてあなたのこともちゃんと守りますから。
そう言った彼女の目を見た瞬間、不思議とその言葉が本心からのものだと理解できてしまった。負の感情に対して純粋な正の感情でなぐり返されたのだ。自分の方が年上であるはずなのに、彼女の方がよっぽど大人に見えた。
ナギサの心は不可解な胸の痛みと共にぐらぐらと不安定に揺れ動いていた。
なぜあんな目を自分に向けることができる。なぜああも純粋に他人を信じることができる。
どうして……自分は彼女を心の底から嫌うことができないのか。
――他人の心の中身など証明できるものではないのに。
いっそ恨み言の一つでも吐いてくれた方が良かった。そうすればこんな想いもすることはなかったのに。
「それでも、仕方のないことなのです」
それでも……それでもナギサは自分の考えを変えることはできなかった。
策謀の渦巻くトリニティでは誰も信用することができず、裏切り者によって自分と幼馴染の命がいつ狙われるかも分からず、大切な者の心すら裏切らなければならない状況で。【エデン条約】だけはなんとしてでも自分の手で成功させなければならないと必死にここまで動き続けてきた。
全てはトリニティを――そして大切な幼馴染を守るために。
「全部忘れましょう。ゴミはゴミ箱にまとめて捨てる。最初から決めていたことです」
ナギサは手にとった紙切れ――『妨害成功』と書かれたそれをくしゃりと右手で握り潰した。
ナギサ様かわいそう。
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