ブルアカの世界にTS転生したので日記を書く 作:TS百合好きの名無し
エデン条約編5話目です。
◯月☓日 曇り
この世界でも補習授業部の第2次特別学力試験は失敗に終わった。
ティーパーティーが本気で私たちを退学させようと動いていることを明確に突きつけられたことで、部のみんなの空気はとても重かった。特にかなりのショックを受けたらしいコハルのことが少し心配だ。明日フォローを入れなければ。
最後に会ったあの日を境にナギサは姿を消したし、ミカも補習授業部に来ることはなくなった。ミカに関しては会おうと思えばいつでも会えるようにはしているけど、この時期に不用意な接触はしない方が良いと考えて距離を置くことにしたのだ(かなり文句を言われた)。
試験の合格条件はかなり厳しいため、本気でやらないと最後の試験も不合格になってしまう可能性が十分にある。
明日からの数日間、手は一切抜かずに勉強に取り組む。それが今すべきことだ。
◯月☓日 雨
ハナコと私と先生が指導者側に立ち、他のメンバーへ勉強を教えているけど進捗はギリギリだ。
模擬試験で合格点を超えられているのはまだ私とハナコだけなので、せめてヒフミはすぐにこのステージまで引き上げなければならない。
2回目の試験の不合格をきっかけに何かのスイッチが入ったのか、コハルが凄まじい勢いで点数を伸ばしている。ハナコもそんな彼女に対して茶化すことなく真面目に勉強を教えてくれている。
アズサもまだ合格点に届かないけど今の伸び具合を維持できればギリギリ間に合うと思う。
今日は早く寝て明日に備えよう。
◯月☓日 晴れ
みんなの模擬試験の点数が合格圏内に入るようになってきた。
そのことにヒフミは喜んでいたけど、まだ安心はできないと念を入れて勉強を続けている。
現時点で分かっている最後の試験の内容は以下の通り。
範囲:前回と同じ
合格点:90以上
場所:トリニティ第19分館の第32号室
開始:午前9時
一見普通に見える条件だけどここにナギサの妨害が加わることを考えると油断はできない。
◯月☓日 曇り
相変わらず勉強漬けの一日だった。
ミカからモモトークで『こっそり隠れているナギちゃんに会いに行ったんだけど、ナギちゃんが分からず屋過ぎてつい本気でキレちゃった☆』と連絡が来ていた。
一体彼女たちの間で何があったのだろうか。変なことをしていないといいのだけど……
最後の試験はもう目前だ。気を引き締めていこう。
◆ ◆ ◆
最後の試験を控えた前日の深夜。密かに合宿所を抜け出したアズサは校外の廃墟で一人の少女と密会をしていた。
「アズサ、日程が変わった」
「……?」
「明日の午前中だ。約束の場所で待て」
「ま、待ってサオリ、明日は……」
「何か問題が?」
「ま、まだ準備ができていない。計画よりも日程を早めるのは、リスクが大きすぎる」
「いや、明日決行だ。これは確定事項、しっかり準備しておけ」
「……」
「明日になれば全てが変わる。私たちのアリウスにも、このトリニティにも、不可逆の大きな変化が起きることになる」
少女――サオリは鋭い目でアズサの決意を促すように見つめて告げる。
「――トリニティのティーパーティーのホスト、桐藤ナギサのヘイローを破壊する……そのためにお前はここにいるんだ」
「……」
ヘイローの破壊――それはこのキヴォトスにおいて【死】と同義である。つまりサオリがアズサに向けて出した指示が意味するのはまぎれもない殺人行為であった。
「お前の実力は信頼している。上手くやれ、百合園セイアの時のように」
「……分かった。準備しておく」
そう言って立ち去ろうとするアズサへ向けて、サオリは感情の読めない冷たい目で念を押すように声をかける。
「アズサ。忘れてないだろうな『vanitas vanitatum』」
「全ては虚しいもの。どんな努力も、成功も、失敗も……全ては最終的に、無意味なだけ。……一度だって、忘れたことはない」
「……」
淡々とそう答えたアズサは今度こそサオリの前から姿を消す。
サオリもまたそれを確認して立ち去った。
そして――
◆ ◆ ◆
コツンッと小さな小石が自分の足下に転がってくるのに気付くと同時に、ぼんやりと人の気配を感じたアズサは反射的に武器を構えてその方向を見た。
「――誰?」
警戒しながらじっと廃墟の暗がりを見つめ続けていると、やがてそこから先程会ったサオリとは別の少女が姿を現す。
月明かりに照らされて浮かび上がったその少女の姿を視界に入れたアズサは、その予想外すぎる人物を見て驚きに目を見開いた。
「――アツコ!? どうしてここに……?」
「……」
そこにいたのはアリウス分校の誇る精鋭アリウススクワッドのメンバーの一人である秤アツコ。その特別な出自もあって周囲から【姫】と呼ばれている人物でもある。
アリウスの制服に身を包み、顔が全く見えない黒い仮面を着けたアツコは、アズサの質問に対して手話で短く返事をした。
『アズサを待ってた。サっちゃんたちには内緒で』
「私を? しかもサオリたちには内緒で……?」
『そう。ここじゃ見つかるから移動しよう』
「……」
一瞬アズサは迷った。常に護衛を引き連れて行動しているはずの彼女がたった一人で現れるという異常事態に。さらに仲間であるアリウスの目を気にしているかのような気になる発言もあった。
「分かった」
結局アズサはその場で彼女に付いていくことを選んだ。ただの勘だが彼女から悪い気配は感じなかったからだ。
『――ここなら誰も来ないと思う』
彼女に案内されてやってきた暗がりで、彼女は小さなペンライトで手元を照らしながら再びアズサに手話で話しかけてきた。
『突然ごめん。アズサと話したいことがあって』
「問題ない。早く用件を聞かせて欲しい」
『じゃあ早速だけど……アズサから見た【シャーレの先生】の印象を教えて欲しい』
「先生は――」
アズサは彼女から投げかけられる質問へ順番に答えていく。
性別。人柄、容姿、好きな食べ物、趣味、仲の良い生徒など、アズサが知っているおおよその事実を彼女に伝えた。
「こんなことを聞いてどうするの?」
『今後のためにちょっと確認しておきたくて』
「……?」
『ああ、そうだ。もし知っているなら先生の下の名前も教えて欲しい』
「先生の下の名前? それなら◯◯だ」
『………………それは本当に? 本当にその人の名前は◯◯なの?』
「ああ、間違いない」
『そう……なんだ』
間違いないとその名を言い切った時、アツコがわずかに肩を落としたことにアズサは気付けなかった。
『じゃあ最後の質問……アズサは【アスカ】って名前を聞いたことがある?』
「アスカ……? アツコはアスカを知ってい――」
そう言った次の瞬間、アズサは凄まじい速さでアツコに肩を掴まれていた。
「アツ――!?」
「知ってるの!?
手話ではなく禁じられているはずの生の声と共に鬼気迫る様子で詰め寄られ、一瞬アズサは言葉を失う。
突然過ぎて驚いたのもそうだが、彼女がこんなにも感情をあらわにする姿を見るのは初めてだったからだ。
ギリギリと強い力で掴まれた肩の痛みに顔を顰めつつ、下手な答え方はマズいと感じたアズサはできるだけ慎重に答えた。
「ア、アスカは……私と同じ補習授業部に所属する生徒だ。でも彼女は女の子だし、アツコが言う【彼】とは違うと思う」
「
フッとアツコの腕から力が抜ける。仮面をつけているためにその表情は窺えないが、どこか呆然としている様子だった。
「
アズサはどこか遠くを見つめながらぶつぶつと呟く彼女の姿に少し恐怖を覚え始めていた。
「そっか……そうだったんだ。ああ、やっと……ふふ、ふふふふふ……」
「ア、アツコ……?」
「でもやっぱりちゃんと確認はしたいから次の任務でヒヨリに頼んで……あ、ごめんねアズサ。肩、痛かったよね」
「いや……大丈夫だ」
パッと両手を離して謝るアツコにアズサはなんとも言えない顔で平気だと返す。
聞きたいことはもちろんあった。しかし、たった今彼女の異様な姿を見たせいでそれを聞く勇気がわいてこない。
かける言葉に迷った末、話を逸らすように先程から気になっていた別の件に触れることにした。
「そういえば……手話はしなくていいの? 確かアツコは【彼女】に話すことを禁じられていたはずじゃ……」
「あっ……そうだったね、忘れてた。でも、こんな所でもわざわざあの【オバサン】の命令に従う必要はないし別にいいかな」
「お、オバ――!?」
耳を疑うような発言が彼女の口から飛び出し、アズサは思わず彼女を二度見した。そのまま周囲を見回して誰もいないことを確認し、ホッとする。今のは万が一にでも他のアリウスの生徒に聞かれでもしたら大変なことになる危険な発言だった。
「ど、どうしたのアツコ? なんだか今日のアツコは、その」
「別に普通だよ。ただ、今日はアズサからいい知らせが聞けていつもよりテンションが上がっちゃってる、かも」
「そうか……(そういう問題なのだろうか?)」
「……もうそろそろ時間だね。いい加減戻らないとみんなに抜け出したことがバレちゃう」
そう言ってアツコはペンライトの光を消す。それから去り際に仮面越しにアズサの顔を見つめて言った。
「頑張ってねアズサ。応援してるよ」
それを【明日のアリウスの襲撃作戦の一員】としての期待だと受け取ったアズサは、内心に気付かれないように無表情で返事をしようとして――
「――襲撃の規模は最初の想定より若干多いけど、【シャーレの先生】とお友達の力があればそれなりに
――あまりにも致命的なその言葉に凍りついた。
「――っ」
「安心して。私は
――一体いつから? どこからどこまで知られている? 目的がまるで読めない。不気味すぎる。彼女は何を考えてここに来た?
アズサは何も言わない。言うことができなかった。
焦りと困惑、恐怖に頭を支配されたアズサを知って知らずか、アツコはいつも通りの自然体で言う。
「それに、アズサのやろうとしていることは私にとっても都合のいいことだから」
――だから頑張ってね。
今度こそ完全に言葉を失ったアズサをその場に残し、アツコは闇の中に消えていった。
「ふふ、ふふふっ……ようやく見つけた……楽しみだね、先生。ずっと探していたのにまさかそんな所にいるなんて……お姫様をあんまり待たせすぎるとどうなっても知らないよ?」
仮面の奥でドロリと闇色の光が瞬いた。
彼女をようやく登場させることができた……
そろそろ……ナギサ様の脳に危機が迫る。
※アスカのブルアカデータ(絆ランク)メモ
秤アツコ
カンスト。もう一人のお姫様。
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