ブルアカの世界にTS転生したので日記を書く 作:TS百合好きの名無し
いつも感想&誤字報告ありがとう。助かる。
今回でようやく彼女が登場です。
目を開けるとそこはどこまでも澄み切った青空が広がる空間だった。
「ん……?」
アロナたちのいるシッテムの箱の世界と似ているが違う。そもそも直前に入った記憶がないので別の場所であることは間違いない。
一体ここは何処なのか。
顎に人差し指を当てて数秒考え、私は結論を導き出した。
「……なるほど。夢か」
「――その通り。ここは君の見ている夢の世界だよ」
「君は……」
まさか返事が返ってくるとは思わず、驚きながら振り返る。そこには前世で見たことのある――今世では初めての邂逅となる狐耳の小さな生徒が一人立っていた。
「はじめまして、希望の導き手よ。このような形とはいえ、今ここで君と会えた幸運に感謝しよう」
「セイア……」
無意識のうちに私の口は彼女の名前を呟いていた。
百合園セイア――ナギサが代理として立つ前のティーパーティーのホストであり、未来予知の能力を持つ特異な生徒であり、現在のトリニティで行方不明となっている人物である。
「……どうやら君は既に私のことを知っているようだね。私は君のことをほとんど知らないというのに」
「……」
「お互いに聞きたいことがあるはずだ。良ければ少し話をしないかい?」
「そうだね。……とはいえここは何も無い寂しいところだけど」
「ああ、すまない。私としたことが客人への茶の用意を忘れていたよ」
セイアはそう言うと軽く右手を振るような仕草をした。
すると私たちの目の前に高級感のある机と椅子が現れ、さらにその上にお茶と菓子が出現する。なにそれかっこいい。
「わお」
「夢だからね。こういうこともできるのさ」
「遠慮なく座りたまえ」と声をかけられお互いに席へと座る。
ものは試しと飲んだお茶はこれまでに飲んだことのない味だった。きっと彼女のお気に入りの茶葉なのだろう。
「さて、まず最初に聞いておきたいことがあるのだが……アスカ、君は予知能力者なのかい?」
「それは……セイアと同じ未来予知ができるかってこと?」
「そうだ」
「なら答えはノーだ。私にそんな神秘的な力はないよ」
「……」
私の答えを受けて、セイアは何かを考え込んでいるようだった。やがて何かしらの整理がついたのか、そのまま次の質問をしてきた。
「では、未来を知っているかいないかで言えばどっちだい?」
「それは……どちらとも言えないかな」
「……なるほど。ようやく君のことが少し分かってきたかもしれない」
茶を飲んで一息入れつつセイアは静かに目を伏せた。
「セイア、私からも質問していいかな」
「構わない。私に答えられることなら何でも聞いてくれ」
「じゃあ、さっきセイアが言ってた希望の導き手って何のこと?」
「ああ……それを説明するにはまず私のことを話す必要があるね」
そう言ってセイアは私に彼女自身のことを話してくれた。
生まれ持った予知の力。それによって観測された絶望の未来を見続けたあまりに希望を失い、夢と現実の境が曖昧になるくらいに思い詰め、体調を崩しがちだったこと。
そんな憂鬱な日々を送る中で彼女にある変化が起こったこと。
「ある日突然未来が2種類見えるようになったんだ」
一つは元々見えていた何の救いも喜びも希望もない絶望の未来。もう一つはそれと異なる希望の可能性を掴み取った別の未来。
そこではあり得ないはずの大切な友人たちが笑顔で笑い合う世界が広がっていた。
――変わらないはずの未来に変化が起こった。
その光景は未来を諦めきっていたセイアの心を奮起させるのに十分すぎるものだった。
「すぐに原因を探した。そうしてはっきりと分かったのは2つの未来におけるとある存在の有無だった」
セイアの視線が私の視線とぶつかる。
「君だよ、姫野アスカ。君の存在が2つの未来の分岐点だったんだ」
「私……?」
「そう、君こそがキヴォトスを滅びから救う希望の導き手なんだ」
私が希望の導き手……? なんだか大層な肩書きだ。自分のことは精々世界に紛れ込んだ異物くらいにしか思ってなかったんだけどな。
「うーん、そういうのは大人である【先生】の役目だと思うけど」
「【シャーレの先生】が必要不可欠な存在であることは否定しない。だが、私の見た未来だと彼だけでは希望の未来へと辿り着くことはできない」
「……えっ?」
この世界の主人公である【先生】がいるのに私抜きではハッピーエンドにならない? それは……とてもやばい事実なのでは?
重大なカミングアウトに私の脳はしばし停止する。
「それに……【先生】であることが必要な条件ならば、君もまたその条件を満たしているのではないかい? ただの予想だがね」
「……どうしてそう思ったのかな」
「私はまだ君の正体をよく分かっていないが、観測した世界の一場面でミカや他の生徒たちが君のことを【先生】と呼んでいる場面を見たことがある。その時の彼女たちの様子はとてもふざけているようには見えなかった。なぜ彼女たちが君をそう呼んでいたのかは分からないが、きっと意味のあることなのだと私は思ったまでだ」
「……」
ううむ、前々からもしも関係者以外でバレるとしたらこの子かなあと思っていたはいたけど、もうほとんど正解にたどり着いてるじゃんね。元々彼女に対しては隠す気がなかったけども。
「その顔を見るに私の予想は概ね当たっているのだろう? ふむ、私の中で君という人がますます不思議な存在になったよ」
「私は……どうするべきだと思う?」
思わず口をついて出た言葉。それに対してセイアはすぐに答えを返してくれた。
「別に特別な何かをしようとする必要はない。君は今まで通り自分がしたいことをすればいい。それだけで自然と良い未来を手繰り寄せることができるはずだ……もっとも、私が言わずとも君は既にそのことを理解しているだろうがね」
「……そうだね。ありがとうセイア、悩みの一つが解決してスッキリしたよ」
「礼を言うのはむしろこちらの方なのだが……一応受け取っておくよ」
私はスッキリした気持ちでテーブルの上のお菓子を一つ取って食べる。甘さ控えめのお上品な味。こちらはナギサとのお茶会で食べたことのある味だった。
それから良い機会なので、私は前々から気になっていた疑問を彼女へと投げかけてみた。
「ところでセイアは結局どういう理由で行方不明になっているの? ミカが結構心配してたよ?」
「……私が姿を隠しているのは『上手くいった未来の過程』をなぞった結果だよ。唯一見ることができた希望の未来では、私という存在が表舞台に立っていなかったからこそ全てが上手くいっていた。……逆を言えばそうでなければ未来がどうなるか分からないということでもある。だから私はその未来を知った時点で自ら彼女――白洲アズサへ接触して表舞台から姿を消すことにしたんだ」
体調の方も今はかなり回復しているから安心したまえと付け加えるセイアにホッと一息つく。セイアの不可解な失踪が起こったことで色々と良くない可能性も考えていたのだけど杞憂だったらしい。
「この話はミカたちにも伝えても?」
「今はまだ私の生存を伝えるだけにとどめて欲しい。近い内に私の方から彼女たちに会いに行くとするよ」
「……できるだけ早く会いに来てあげてね。二人共すっごく心配してるから」
「ああ……二人には本当に申し訳ないと思っているよ。それでも、時が来るまではまだ……」
そう話す彼女の顔には迷いと痛みを堪えるような様子が見て取れた。
彼女自身、今の現状を心苦しく思っているのだろう。
未来のために行動を起こすと言っても、彼女の場合できるのはリスクを避けるために【ほとんど何もしないこと】だけだと考えているのだから。実際その方が合理的ではある。ただ、友人が困っているのに表立って行動ができない……そのもどかしさはとても辛いものであるはずで。
「あんまり思い詰めるのも良くないと思う。セイアはもう少し自由に生きてみてもいいんじゃないかな」
「しかし、私が勝手に動くことでもし未来が――」
だから私は不安そうに揺れる彼女の瞳をじっと見つめてはっきりと言った。
「それで何か不都合が生じるようなら私がなんとかするよ」
「……」
そういう難しいことは本来大人である私たちが担うべきことなんだから。
「君は……」
「私のしたいようにすればいいって言ったのはセイアだよ?」
「それはそうだが……」
「もっと素直に頼ってくれていいんだよ。『助けて欲しい』ってね。それだけで私が君のために動く理由としては十分なんだから」
「なぜそこまで……君と私は今日が初対面の他人だったのだよ?」
答えなんて最初から決まっている。
理解できないと言った顔で私を見るセイアへ向けて、私は迷うことなくその答えを告げた。
「それが
すると彼女はぽかんとした顔で数秒固まった後、何かを理解したような顔になりそっと目を閉じる。
「……なるほど。君の周りにいる娘たちがあれだけ深く君を慕う理由がよく分かったよ。君は間違いなく天性の人たらしというやつだね」
そう言って再び開かれた彼女の目にはどこか呆れを含んだ色が浮かんでいた。
「少しだけ見えた未来でナギサがああなっていたのも納得――するのは心情的に少々抵抗があるが、まあ仕方ないことだったのだろう……すまない、余計な話だったね。忘れてくれ」
話している途中でほんの一瞬、あ、やばい口が滑った……みたいな表情になるセイア。なに? 何なの?
いや、そこで止められるとめっちゃ気になるんですけども!
「えっと、その口ぶりだと私に関係することでナギサに何かが起こるのかな?」
「……」
「ちなみに内容は教えてくれたり?」
「すまない。流石に人に言うのははばかられるのでね、これ以上は聞かないでくれると助かる」
どうやらこれ以上は聞けないらしい。
諦めて次のお菓子を頬張ったところで、私は身体が浮くような不思議な感覚を覚えた。
「あれ?」
周囲の景色がぼやけて白に染まり始める。頭が冴え、浮くような感覚が少しずつ強くなっていく。
「どうやら君の身体が目覚めようとしているようだ」
「そっか。もうちょっと話していたかったけど仕方ないね」
「心配はいらない。そう遠くないうちに再会できるはずさ」
「そうだね、楽しみにしてる。……ああそうだ、ナギサのフォローは私の方でしっかりしておくつもりだから心配しないで」
「あ、ああ。うむ……よろしく頼むよ」
最後に彼女を安心させようとナギサへのフォローを口にしたのだけど、何故か返ってきたのは微妙な表情だった。
こうして夢による私と彼女との初邂逅は終わったのであった。
◆ ◆ ◆
光に包まれて姿を消したアスカを確認し、百合園セイアは一人で嘆息する。
それから身体の力を抜き、どこかを遠くを見つめながらなんとも言えない表情で呟いた。
「――言えるわけがないだろう。未来で大切な友人が【年下の生徒をお母様と呼んでひたすら甘える倒錯プレイ】にハマっているだなんて」
疲れたように笑う彼女の嘆きを聞く者はもうどこにもいなかった。
◆ ◆ ◆
「今こそ反撃の時です。今度はこちらから相手を振り回してさしあげましょう」
ハナコの言葉が静まり返った部室に響く。
時刻は深夜。アスカとセイアが夢で邂逅していたその頃、深夜の合宿所でもまた、それぞれが動き始めていた。
眠れずに先生の元を訪れていたヒフミとハナコ、そしてコハルが最終試験における更なる妨害行為について話していた最中、どこからか戻ってきたアズサが「トリニティの裏切り者」は自分だと告げたことをきっかけに、彼女たちは自分たちの置かれている状況を打開するために策を練り始めた。
アズサからもたらされたのは試験の日にアリウス分校がナギサの命を狙って襲撃を仕掛けてくるという情報。
みんなで最終試験に合格する。ナギサの命を守る。その両方を同時に成し遂げるため、補習授業部はハナコの知恵をもとに動くことを決めたのだ。
「あ、あのハナコちゃん、できれば手荒なことは控えてくださいね」
ナギサの命を守るためにハナコが出したアイデアは【アリウスよりも先にこちらがナギサをさらって隠してしまおう】というもの。
そのためにはまずこちらからナギサへ奇襲を仕掛けることになるのだが、ハナコがナギサに対して大きな怒りを感じていることを察しているヒフミは彼女がやりすぎてしまうことを心配していた。
「ふふふ、大丈夫ですよヒフミちゃん。大きな怪我をさせるような手荒な真似をするつもりはありません。……ただ、ちょっとキツめのお灸をすえるだけですから」
ハナコは笑顔だった。笑顔でありながら黒いオーラが背後で蠢いていた。ちなみにコハルは怯えて先生とアズサの背後に縮こまっていた。先生も苦笑するだけで止める気配がない。アスカも熟睡中だ。
これはもうダメかもしれない。ヒフミはナギサの身がさらに心配になった。
「ハ、ハナコちゃん……」
「ヒフミちゃん。その優しさはヒフミちゃんの持つ良さですけど、物事の落とし前はしっかりつける必要があると理解すべきかと。ヒフミちゃんは彼女によってこのトリニティの外へ捨てられようとしている事実を軽視しすぎています」
「それは……」
「ナギサさんの目論見通りに事が運べば、私、コハルちゃん、アズサちゃん、そしてアスカちゃんとも離れ離れになって全てを失うことになるんですよ? ヒフミちゃん……あなたは【退学】の――今のこの幸せを失うことの意味を本当に理解していますか?」
「今の幸せを……失う?」
ハナコに言われ、ヒフミはその時のことを想像してしまう。全員が退学となり、あてもなく外へと放り出されることを。
キヴォトスにおいて学校を退学するというのは故郷を追われることに等しい。きちんとした身分がないのでロクな仕事に就けないし、毎日を生きるだけで必死にならざるを得ない。今までのように何かを学ぶことも、友達と自由に遊ぶこともできなくなるだろう。
(みなさんとの……アスカちゃんとの日常が失われる?)
胸の奥に鋭い痛みが走り、足元がグラグラと崩れる感覚。ゾッとした。恐怖した。考えれば考えるほどそんな未来は決して受け入れたくないという思いが強くなっていった。ヒフミはここにきて初めて、【退学】という言葉が持つ重みに気付いてしまった。
……そしてそれはヒフミの心にある変化をもたらした。
(ああ、だからハナコちゃんはこんなに怒ってくれているんですね)
ヒフミはとても優しい人物だ。争いごとが嫌いで、本気で怒ったことなんてほとんどないし、誰かを傷つけようなんて考えたこともない優しく広い心の持ち主だ。
しかし誰しも限度というものがあって――
「――ハナコちゃん」
「なんでしょうかヒフミちゃん」
「やっぱりちょっとだけキツめのお灸をすえてきてください」
「かしこまりました♡」
補習授業部、出撃――
次回【破壊】
補習授業部、出撃する。
ハナコ
ガチギレ寸前。もう止まらない。
ヒフミ
色々と自覚してキレた。
アズサ
自分を受け入れてくれたみんなのためにも最期まで抗うと覚悟を決めた。
コハル
ハナコが怖すぎてずっと震えている。
【先生】
触れぬ神に祟り無し。この後どうしようかと必死に考えている。
アスカ
おねんね中。この後ヒフミに起こされた。
セイア
友人の末路を知ってしまいどんな顔をしていいのか分からない。
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