ブルアカの世界にTS転生したので日記を書く   作:TS百合好きの名無し

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感想、誤字報告感謝します

先に言っておくとこの回にタイトル要素はもはやない(ウサギのせい)
それでは、どうぞ


阿慈谷ヒフミ死す 後編

 

 

 

 ――それでは、現在の私たちの状況について順番に説明させていただきます。

 

 今回の任務はSRTの上層部から正式に下されたものでした。

 

 内容は、【とある薬物組織のアジトの壊滅及び薬物データの入手】です。

 対象は、依存性の高さや副作用の酷さにより連邦生徒会から危険指定されている違法薬物を密売している組織でした。

 

 彼らは悪事の隠蔽の手口が非常に狡猾で、これまでは表立って証拠を掴ませることなく商売を続けていたのですが、つい最近逮捕に踏み切るための証拠を入手することに成功し、私たちに出動命令がかかったという次第です。

 

 任務は順調でした……途中までは。

 

 私たちは彼らのアジトを襲撃し、そこで組織の幹部たちを捕らえることに成功したのですが、ここで一つのミスが発生しました。

 

 私たちの目的の一つである違法薬物の実験データと組織に関する極秘データのファイルを、構成員の一人に持ち逃げされてしまったんです。

 

 さらに追跡中に妨害を受け、ターゲットにブラックマーケットへと逃げ込まれる始末。

 

 それを追って私たちもブラックマーケットへ入ることになり……こうしてアスカさんたちと出会うことになったというわけです。

 

 ――ターゲットの居場所の心当たりですか? それならこの建物内で間違いないと思われます。追跡中にターゲットへ貼り付けたGPSの反応がちょうどここに重なっていますから。

 

 ただ困ったことに、正規の手順で入るための会員証など持っているはずがなく、裏口も強固なセキュリティロックの扉で閉じられているために中へ入ることができなかったんです。立場上、大きな騒ぎを起こすわけにもいかず……

 サキたちにはこの問題を解決するために他の場所での情報収集を頼んでいます。

 

 正直ここから先は手詰まりになっていたので、この場でアスカさんと出会えたことは幸運でした。

 

 正面からは不可能でも、この裏口のセキュリティロックならばアスカさんの手で解決できると思うのですが可能でしょうか?

 

 ――ありがとうございます。中に入った後のことは自分たちでなんとかしますので大丈夫です。

 

 ……ところでアスカさんたちは何故ここに?

 

 ……ペロロ様? 格ゲーコラボ? よく分かりませんがそちらも上手くいくことをお祈りしています。

 

 ああ、それと――よろしければまた今夜、いつもの場所で会えませんか、先生?……ふふ、ありがとうございます。おかげで元気が漲ってまいりました。

 

 それでは、また後ほど。――どうかご武運を。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「アスカちゃん、本当に良かったんですか?」

「んー、何が?」

「ミヤコちゃんのことですよ。裏口を開けたらそれで手伝いは終わりだなんて……私とペロロ様を優先してくれるのは嬉しいですけど……」

「それがミヤコの望んだことだし、私もあの娘の顔を見て大丈夫だと思ったから手を引いただけだよ。ヒフミは知らないだろうけど、あの娘って本当に優秀で頼りになるSRTの生徒なんだよ」

 

 だから安心してと告げるとヒフミはそれ以上何も言わなくなった。完全に納得したわけではないが、彼女についてあまり知らない自分がこれ以上言えることはないと理解したのだろう。

 

「それより、ようやく目的地に着いたよ」

「……!」

 

 そこはまるで劇場のような内装の大きな円形の会場だった。

 仮面を着けた様々な人々が席に座り、眼下にある中央の無人の舞台を見つめている。場内にはスーツ姿の警備員が至る所に配置され、周囲に厳しく目を光らせていた。

 薄暗い場内にこの光景はなかなかに裏の世界の雰囲気があって、気を抜くと呑まれそうになるが、しっかり気を強く持って耐える。

 恐らくここでは舐められたらそれで終わりだろうし。

 

「ここが、オークション会場か。普段とは違う緊張感があるね。ヒフミは……思ったより動じてないけど慣れてるの?」

「完全に、というわけではありませんが、少しだけ経験があるので……」

 

 ……呆れた。こんなヤバそうな場所に以前も一人で来たことがある時点でヤバすぎる。下手すればトラブルに巻き込まれて行方不明になりました……なんてことにもなりかねない。

 どれだけ危ない橋を渡ってきたんだこの娘は。

 

「……ヒフミ。今後はできるだけ一人でブラックマーケットに来ちゃだめだよ」

「えっ」

「返事」

 

 私がガチトーンで言うとヒフミが背筋を伸ばして返事をする。

 

「は、はい! 今度からもアスカちゃんと一緒に来るようにします!」

 

 別に私じゃなくてもいいんだけど……まあいいか。

 それにしても、すれ違う人に結構な頻度で二度見をされる。やっぱり少し目立ってるな私たち。幸い場内が薄暗いが故に近くの人々にしか認識されないでいるけど。

 

「お、おい、あれって……」

「目出し穴の付いた安っぽい紙袋? なんだあの巫山戯た格好は? ……いや、待て、まさかアイツら……」

「ファウスト……実在したのか」

「まさか今度はこのオークションで何かを……?」

 

 …………外野が騒がしいけどツッコむのはやめとこ。

 今はオークションに集中だ。私は何も聞いていない!

 

「……どうかしましたかアスカちゃん?」

「いや? もう時間もないし、適当な席に座ってオークションの開始を待とうか」

「そうですね。もうすぐ最初の競りが始まりますし」

「ああそれと、事前の打ち合わせ通り、競りでの金額設定は伝えた上限を超えなければ大丈夫だからね」

「ごめんなさいアスカちゃん! どれだけ時間がかかっても絶対に返しますから!」

 

 そう、今回お金を払うのはヒフミではなく私なのだ。そもそも一介の生徒であるヒフミが闇オークションで競り勝つ金銭を持っているはずもなく、こうなるのはある意味当然の成り行きだった。

 ちなみに私がお金をたくさん持っている理由は単純に株取引で荒稼ぎしているためである。お金はあって困らないからね。優秀な相棒がいると情報戦にめっぽう強くなれるのだ。アロナとプラナが強すぎる。

 ……さすがに増えすぎたら自重して控えるけども。

 

 そういうわけで軍資金の心配はいらないのだ。

 

「ここまで来たら絶対に手に入れて帰ろうね」

「はい! よろしくお願いいたします!」

 

 そうこうしている内に中央のステージに司会者が現れ、開会の宣言をする。

 

「――皆様! 長らくお待たせいたしました。本日のオークションの開始です!」

 

 さあ、オークションの始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「抵抗は無駄だぞ! 観念しろ!」

「ちくしょう! こんなところまで追ってくるなんてしつこすぎるぞ貴様ら!」

 

 路地裏にて。Rabbit小隊のメンバーである空井サキによって地面に組み伏せられた目標を見下ろしながら、月雪ミヤコは安堵のため息をついた。

 

「目標確保。これで任務完了ですね」

「……ああ、これでようやくここから脱出できる。ずいぶんと手間をかけさせてくれたもんだ」

 

 サキの言葉に一同が頷く。長かった追いかけっこがようやく終わりを告げたのだ。

 

「……アスカさんがいてくれてよかったね。私も会いたかったな……」

「そういえばアスカ先輩の助けを借りたんだったっけか。あの人にはまた借りができちゃったな。今度お礼を言わないと」

『くひひっ、私としてはなんで先輩がこんなところにいたのかって方が気になるけどねぇ』

「モエ、そういう詮索はアスカさんの迷惑になるのでやめてください」

『はーい。分かってるって』

 

「……ん? あれ?」

「サキ? どうしました?」

 

 目標を拘束し、その懐を弄っていたサキが困惑した声を上げたことにミヤコはほんのりと嫌な予感を覚えながら問いかけた。

 

「……ない」

「?」

「コイツが持ち逃げした例のデータが入ったメモリーカードがどこにもない……!」

「は……?」

『「ええーーっ!?」』

 

 思わず驚きの声を上げるミヤコたち。それを見て目標の男は拘束されたまま大声で笑い始めた。

 

「はははっ! バカめ! こんなこともあろうかとあのメモリーカードは既に別の場所に隠しておいたんだよ間抜けども!」

「なんだとっ!?」

「……落ち着いてくださいサキ。どこに隠したのか答えてください、さもなくば……」

「ああ? そんなの答えるわけ――グハッ」

 

 男の言葉が途中で止まる。ミヤコが男の顔を蹴りつけ、銃口をその口の中に突っ込んだからだ。

 冷たい無表情のまま、彼女は彼に淡々と要求を突き付ける。

 

「あと10秒だけ待ちます。10、9、8、7、6――」

「ヒッ……オ、オークションの出品物の中だよ! 知ったところで手遅れだがな!」

「どんな商品ですか?」

「そんなの知らねーよ!」

 

 ジャキッ……!

 

「べ、ベロベロだかボロロだか知らねーが、なんかキモい鳥のフィギュアだよ! 逃げる途中でその口の中に突っ込んでおいたんだ!」

「……ベロベロ? キモい鳥、フィギュア……? ……まさか」

 

 いち早く心当たりに気付き、目の色を変えたミヤコを他所に男は得意げに話し続ける。

 

「ふはは……別の本部の精鋭部隊たちが回収に動いているだろうから貴様らが行ったところでどうにもならんよ。今頃は客を始末してブツを回収してるはずだ。残念だったな!」

「――サキ、ミユ、モエ、急ぎましょう。私の予感が正しければアスカさんたちに危機が迫っています」

「何!?」

「えっ!?」

『ふうん……?』

「今からアスカさんたちの元に急ぎます。付いてきてください」

「それはいいが、コイツはどうするんだ? 誰か見張りに置いていくか?」

 

 そう言ってサキが銃で男を指し示す。それにミヤコは数秒考え、結論を出した。

 

「手足と口を拘束してゴミ箱に突っ込んでおきましょう」

「……!?」

「了解。こら! 暴れるな!」

 

 手際よく男を近くのゴミ箱に投げ入れ、彼女たちはアスカの元へと走り出した。

 

「――Rabbit小隊、現場へ急行します」

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「――いやー、すごかったね限定ペロロ様の競り。まさかあんなに値が上がるとは……」

「はい……アスカちゃんがいなかったら絶対に買えませんでした。このペロロ様は一生大切にします! お金は明日から頑張って返していきますね!」

「無利子だしゆっくりでいいよ。なんならプレゼント扱いでも良いくらい」

「そ、それは流石に……」

 

 オークションが終わって時刻は夕方。無事にペロロのフィギュアを競り落としてブラックマーケットを抜け出した私たちは、笑顔で談笑しながら帰路についていた。

 

「オークションって初めて出たけど色々とヤバそうな品が多かったなあ……」

 

 明らかに盗品っぽい宝石とか、違法改造された武器とか……ロクデモナイものだらけな所に何故かペロロ様が混じっていることが不思議だったよ。

 

「あはは……闇オークションは本当に色々な物が出品されますから」

「……ところでヒフミ、後ろの人たちは知り合いかい?」

「……へ?」

 

 私の質問に驚いたヒフミが後ろを見る。彼女の目に映ったのは背後から一定の距離を保って付いてきていた武装オートマタの姿だった。

 

「えっ!?」

「……」

 

 ――さて困った。本当に心当たりがないんだけど一体誰の差し金なんだろうね……

 

 こちらに気付かれたことを察したのか、前からも横からも物陰に隠れていた武装オートマタたちがずらりと姿を現す。

 通りはいつの間にか武装兵と私たちだけになり、完全な包囲網を敷かれてしまっていた。

 

「な、何なんですかこの人たち!? 一体いつから……!」

「オークションの会場を出た辺りから尾行されてたよ」

「ええっ!?」

 

 私たちは立ち止まり、周囲を見回す。すると前方からスーツを着た身なりの良いオートマタが一体進み出てきた。

 恐らくコイツがこのオートマタたちのリーダーなのだろう。

 彼は私たちと10m程の距離を保って立ち止まると、不遜な態度で声をかけてきた。

 

「貴様ら……痛い目に会いたくなければオークションで買った物をこちらに渡せ」

「……」

「オークション……ってペロロ様のことですか!? これは私たちが買ったものですよ!?」

「ふん……この銃が目に入らんのか? 貴様らに選択権などない。大人しく渡した方が身のためだぞ」

「あなたもこの限定ペロロ様が欲しかったんですか!? ペロロ様ファンとしてその気持ちはよく分かりますが……こんなやり方は許されないことです! それにこのペロロ様はもう私のものです! あげませんよ!」

 

 ぎゅっと両手で守るようにペロロ様フィギュアを胸に抱くヒフミ。

 

「違う! そんなクソみたいなキモい鳥はどうでもいい! 我々が求めているのはその中身だ!」

「――は? キモい鳥!? 訂正してください! ペロロ様はキモくありません!」

「ええい! ごちゃごちゃとうるさいやつめ! こうなったら貴様らを痛めつけた後でそのフィギュアを眼前で破壊してくれるわ!」

「な、何てことを!? そんなこと絶対にさせませんよ!」

「総員撃てええいっ!」

 

 リーダーが指をこちらに指して叫ぶ。オートマタたちが一斉に銃を構え、引き金を引いた。

 

「――アロナ!」

『がってん! アロナちゃんバリアー!』

 

 瞬時に展開されたアロナバリアーが銃弾を弾く。

 同時に私は自衛用に持ってきていたフラッシュバンに手をかけた。

 

(まずは右手後方の路地裏へ逃げ込むか……)

『……! お待ち下さいアスカ先生、援軍です』

 

 そのまま私がフラッシュバンのピンを抜こうとしたその瞬間――私たちの後方にいたオートマタたちが爆発で吹き飛んでいた。……何故?

 

「があああっ!?」

「ぐあっ!」

「な、なんだ!?」

「伏兵!?」

 

「――ご無事ですか! アスカさん! ヒフミさん!」

「ミヤコ……?」

 

 包囲網に空いた穴から姿を見せたのは、今日出会ったミヤコ――だけではなく、ウサ耳ヘルメットを被ったショートヘアの少女――サキと、長い黒髪のオドオドした少女――ミユ。SRT特殊学園に所属するRabbit小隊の三人であった。

 

 ――何故ここに? でも今は助かった……!

 

「こっちだアスカ先輩!」

「行くよヒフミ!」

「は、はい!」

 

 私たちはミヤコたちのサポートを受け、一旦近くの遮蔽物に避難することに成功する。

 

「ありがとう。助かったよ……ミヤコ?」

 

 遮蔽物の影でミヤコたちは一斉に私たちへと頭を下げてきた。

 

「申し訳ありません。私たちのせいでアスカさんたちまで任務に巻き込んでしまいました」

「すまないアスカ先輩。こうなったのは私たちの責任だ」

「ごめんなさい、アスカさん……」

『いやー悪いね先輩。こんなトラブルに巻き込んじゃってさ』

「もしかしてこれ……ミヤコたちの追ってた例の組織絡み?」

 

 私の問いに申し訳なさそうな顔でミヤコが頷く。サキとミユは説明をミヤコに任せ、そのまま遮蔽物越しに銃撃戦を始めていた。

 

「でもなんで……」

「……アスカさんたちが購入されたそのフィギュアが原因です」

 

 彼女の視線がヒフミの胸元の袋に向く。その中身は今日の戦利品である限定ペロロ様だ。

 

「は?」

「えっ!?」

「なんでもそのフィギュアの口の中に秘密のデータチップを隠したらしいのです」

「「……?」」

 

 私とヒフミは顔を見合わせて……ヒフミがペロロ様フィギュアを袋から取り出して揺すり出す。中からカタカタと聞こえてくる謎の音。

 少ししてペロロ様の口内から吐き出されたのは一枚の小さなメモリーカードだった。そんなことある?って思ってたら本当に出てきちゃったよ……

 

「……! それです! 間違いありません!」

「えぇー……?」

「これで任務はほぼ達成されました。後はこの場を乗り切るだけです。……ヒフミさん、戦闘が終わるまでそれをあなたに預けておきますのでよろしくお願いいたします」

「わ、分かりました」

「――ミヤコ! そろそろ反撃しないとマズいぞ! 敵が仕掛けてくる!」

「今行きます!」

 

 焦ったようなサキの声に応え、ミヤコが銃を構え出ていこうとする。

 

「ミヤコ! 私たちも!」

 

 私も銃に手をかけながら声をかけたが、彼女はすぐに首を振る。

 

「いいえ、これは私たちの任務です。ならば私たちの手で始末をつけるべきでしょう」

「……でも」

「ですが、もし一つだけ我儘を許していただけるのならば――」

「……ミヤコ?」

 

「――私たちが先生(あなた)の指揮下で戦うことをお許しいただけますか?」

 

「……え?」

 

 私の指揮? 私がこの場で指揮官としてミヤコたちを指揮するということか?

 

「それは――」

 

 そんなの無理だ。やったことがない。そう言おうとして――彼女の真っ直ぐな眼差しに射抜かれ私は口を閉ざす。

 その瞳に浮かぶのは、向けられているこちらがむず痒くなるほどの強い信頼と期待の色。

 

「――できますよ。だって先生(あなた)ですから」

 

 彼女のその言葉に私は奇妙な説得力を感じ、気付けば頷いていた。

 それを見たミヤコの反応は劇的で……彼女は分かりやすくぱあっと顔を輝かせ、遮蔽物の外へと飛び出していった。

 

「では、行ってきます!」

「うん」

「アスカ、ちゃん……?」

 

 ()()()()()。そう意識した瞬間、私の身体は驚くほど自然と動き始めていた。

 

「――アロナ、プラナ」

『『戦闘指揮モードへ移行します!』』

 

 何故だか妙に嬉しげな相棒たちの声。銃の代わりに取り出した携帯端末がほのかに光を放つ。やがてそこから地形図や生徒の状態がホログラムで可視化され、戦場のあらゆるデータたちが私の中に入り込んでくる。

 

『生徒たちとの通信はもう繋がっています。いつでもどうぞ』

『さあ先生、指揮をお願いします!』

「うん」

 

 知らないはずのそれらに()()()()()()()()()()()()()、私は指揮を開始するのだった。

 

 

 

「――サキ、10秒間正面の敵の足止めを頼む」

『おう!』

 

 サキのマシンガンが前へ出ようとした敵の足を止める。

 

「ミヤコ、4秒後に右前方へクレイモアを展開して即起爆。そのまま前進」

『お任せを』

 

 ミヤコが投げ入れたクレイモアが炸裂し小隊が一つ潰れる。敵が崩れたその隙を突き、ミヤコが突貫した。

 

「ミユ、10時の方角。グレネードを落として」

『は、はい!』

 

 SRTの誇る最高のスナイパーの一発が、こちらへグレネードを投げ入れようとしていた敵の手を撃ち抜き、敵陣地で爆発させる。これで残り7割。

 

「サキ、リロードが終わったらミヤコのカバーへ。ミヤコはサキと交代でリロードして次のクレイモアを準備」

『『了解』』

 

「……モエ」

『あー、ごめん、私は通信専門でさー』

「私たちの後方から忍び寄ってきてる伏兵のさらに後ろに隠れているドローン……モエのでしょ?」

『……うひゃあ、バレてた?』

「派手にやっちゃって良いよ。先手必勝だ」

『くひひひひ! それじゃあ全弾発射だ〜!!』

 

 私たちの後方に潜んでいた伏兵部隊がドローンミサイルにより壊滅する。これであと半分。

 

「ミユ、気配を消して2つ前の障害物まで前進」

『……!』

「そこからなら敵のリーダーまでギリギリ射線が通るはずだ。いけるね?」

『い、いけます!』

「頼んだ。一発で仕留めて」

『はい……!』

 

「な、何故だ! 何故精鋭である我々がこうも簡単に――アガッ!?」

 

 数十秒で味方が半分に減り焦る敵部隊のリーダー。その頭に寸分違わずミユの狙撃がヒットし完全に沈黙させる。

 あっという間に浮足立ち、統率のとれなくなる敵部隊。こうなってしまえばもう、ただのカカシも同然だ。

 

「ミヤコとサキは突撃、好きに暴れていいよ。ミユとモエは撃ち漏らしを仕留めて」

「「「『了解!』」」」

 

 この時点で勝敗は決した。ここから先はただの蹂躙劇だ。もう私の指揮はいらないだろう。

 私は端末の指揮モードを解除した。

 

『『素晴らしい指揮でした、先生!』』

 

 こうして私の指揮するRabbit小隊の戦闘はすぐに終了するのであった。

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 ――アスカちゃんが端末を取り出して何かを呟いた瞬間、私は彼女の中の何かが切り替わったのを感じました。

 

 隣に立つ彼女の姿がなんだかいつも以上に大きく見え、不思議な安心感が場を支配していました。

 

 そこからの彼女は本当にすごくて、迷いのない的確な指揮であっという間に敵を追い詰めていきました。

 

 たった数手で戦場の流れを変えて支配する指揮能力の高さに、気づけば私はある大人の姿を重ねていました。

 

 初めはアビドスで、次に補習授業部で。私はそれを見ています。

 そして、今日の戦況を読み切り最善手を出し続けるその姿はまるで――

 

(こんなの、全然知りませんでした……アスカちゃんは一体……)

 

「すごかったぞアスカ先輩! 先輩ってあんなに指揮が上手かったんだな!」

「え……いや、そんな大層なものじゃないよ」

「い、いえ! あの、とても戦いやすかったです……!」

「ありがとう。……ミユもよく頑張ったね、いい狙撃だったよ」

「……えへへ」

 

 戦闘が終わって、興奮した様子のヘルメットの女の子が最初にアスカちゃんへと声をかけ、続いて黒髪の女の子も声をかけています。

 アスカちゃんは優しい笑みで2人と向かい合っていて、特にミユと呼ばれた方に対しては頭を撫でながら功を労っていました。ちょっと羨ましい。

 その姿から、彼女たちの普段の仲の良さが窺えて……私はなんだか複雑な気持ちに――って、恩人に対して失礼でしたね。助けてもらったんですから余計なことは考えちゃいけません。

 でも――

 

「ご無事ですか。ヒフミさん」

「ひゃ!? ……あ、ミヤコさん」

「戦闘が終わりましたので例のメモリーカードをいただいても?」

「ど、どうぞ」

「……感謝いたします」

「い、いえ、私は何もしていませんから」

 

 私はなんだか気まずくなって視線を地面に落とします。

 気付けばいつの間にかミヤコさんが私のすぐ側に立っていました。実は彼女もまた、私が複雑な想いを抱えている相手です。

 最近の私は、アスカちゃんに関係する些細な違いに気付くことができるようになってきました。

 

 誰にでも優しいアスカちゃんですが、特定の生徒さんと話す時だけ、目に宿る雰囲気が少し変わるんです。

 ……1人目はミカさん。2人目はいつの間にかアスカちゃんと交流ができていた一年生。

 そして、3人目は……今ここにいるミヤコさん。

 

 彼女たちが一緒にいる時、アスカちゃんの目に宿るのは深い愛情と信頼。

 同時に彼女たちの方の目に宿るのは、底の見えない愛情と絶対的な信頼。

 

 そこには彼女たちだけの繋がり――私たちが踏み込めない――絶対的な一線が存在していることに、最近になってようやく気付きました。

 

 ――それを羨ましいと思い始めたのはいつからでしょうか。

 

「……ミヤコちゃんは、知っていたんですか? アスカちゃんが今日みたいな指揮をできることを」

「はい。()()()()()()()()。アスカさんは私が知る中で最も信頼できる指揮官ですから」

 

 彼女はそれが当然であるかのように、迷いなく言い切りました。

 

「私は……初めて知りました。指揮をしている時のアスカちゃんはまるで……」

「――【シャーレの先生】みたいだったと?」

「……!」

 

 心の奥底で思っていたことをずばり言い当てられて、私は思わずミヤコちゃんの顔を見つめました。すると変化に乏しいお顔のまま、彼女もまた私の目を見つめていました。

 

「心配せずとも、いずれ全てを思い出す時が来ると思います。あなたもまた、あの人とそれなりに強い絆を持っていた生徒の一人ですから」

「え?」

「では、失礼いたします。これ以上ライバルが増えても困るので」

 

 最後にとても気になる言葉を残して、彼女は仲間の元へと戻っていきました。

 

「……思い出す?」

 

 私は、一体何を忘れているのでしょうか。

 彼女は、一体何を知っているのでしょうか。

 初めて会った時から、彼女が時々アスカちゃんのことを【先生】と呼ぶことにどんな意味があるのでしょうか。

 

 本当に分からないことだらけです。

 ――ほんの一瞬、知らない大人の男性と楽しそうに笑い合う私の姿が見えた気がした。

 

 今日こうして彼女と会って、やっぱり私はまだまだアスカちゃんのことを何も知らないのだと思い知らされました。

 それを自覚した途端、胸が変な痛みを覚えました。これは嫉妬……なんでしょうか。

 

「……」

 

 ……何も分からない私ですが、今はただ一つ、強く思うことがあります。

 

 即ち――負けたくないなと。

 

「ヒフミー! 事後処理はミヤコたちに任せて私たちは早く帰ろう!」

「はい! 今行きます!」

 

 好きな物に対しては妥協しない。それが私、阿慈谷ヒフミです。

 湧き上がる想いを胸に秘め、私はアスカちゃんがくれたペロロ様を強く抱き締めました。

 

 

 

 

 

 




★ヒフミ
ファウストとして裏の世界ではそこそこの知名度があるが本人は知らない
絆が深まったことで色々なことに気付きつつある
「負けませんから……!」

★ミヤコ
メイン回じゃないのに出ると自然とメインを奪いに来る存在感
負けを知らない強すぎるウサギ
アスカと共に学校生活を送れるヒフミを結構羨ましく思っている
「私たちの指揮を本当の意味で任せられる方はただ一人だけです」

★サキ
度々模擬戦をしているのでアスカの強さは理解済み
アスカを先輩として普通に尊敬しており、色ボケミヤコの実態に気付いてからは、ミヤコに対する遠慮がなくなった(リーダーとしての実力はちゃんと認めている)
「アスカ先輩の指揮すごくないか? さすがは先輩だ!」(無邪気)

★モエ
当初は表情筋の硬いリーダーの色ボケ具合に驚いていたが、今ではすっかり慣れた
謎の多いアスカとミヤコの関係に興味を持っている
「くひひ、ますます先輩の謎が気になるなあ……」

★ミユ
存在感が薄い自分のことをいつも見つけてくれるし、たくさん甘やかしてくれるアスカに懐いている
精神的余裕が与えられたことで少しずつ自己肯定感が生まれ、優秀な狙撃手として順調に成長している
「アスカさん、次はいつ会えるのかな……」

★アロプラ
ようやく指揮の出番が来たのでめちゃくちゃ張り切っていた
久しぶりの指揮官としての先生の勇姿に大満足だった模様
「先生と私たちが一緒なら、いつだって最高の指揮ができます!」
「全力を尽くします。もう……二度と失うことがないように」
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