――俺の妹はとりわけ馬鹿らしい。見事に。
地球から宇宙に上がった人々が住む、フロントと呼ばれる建造物。そのフロントを丸ごと学園施設として使用したアスティカシア高等専門学校という場所。さらにその中で生徒たちが共用する学食の一角で、2年生男子生徒のカスパール・ヴァントシルムは非常に深いため息をついた。
赤い目を閉じて目頭にぎゅっと指を押し当て、喋られる情報の多さにうつむいて白髪の頭頂を見せる。
「む? なんですの、そのため息は? この天才で情報通の妹の言葉が信じられないとでも? いいですか、これは同じジェターク寮のフォントさんから頂いた貴重なネット情報で――」
あまりに荒唐無稽な話を、双子の妹のアーケミー・ヴァントシルムにずっと上がったままのテンションで話される。それを受け続けるカスパールは、もう「うんうん」と聞き流しすることもできずに疲れた表情で水が入ったグラスを取る。
「フォントが入手したネットの情報って、ほぼ都市伝説のゴシップじゃねぇか。お前優等生なんだから、そんな都市伝説を興奮気味にばらまいてるとイメージ崩れるぞ。もー、あのメガネー」
「そこは上手いことやりますので大丈夫ですわ!」
ふふんと調子良さそうに微笑み、ふわふわと膨らみがちな白いロングヘアをかきあげるアーケミー。逆にカスパールは、本当に『妹のポンコツっぷりが彼女の友人達にバレてないのだろうか。いやもう多分手遅れ』と、トレーの上のふわふわのハンバーグをぶすりとフォークで刺した。
「そ・れ・よ・り、いいですの? 兄様、これはこの皆様に快く褒めたたえられる私が手に入れた貴重な情報ですわ。『天使の輪』とはすなわち、この世界に恒久の平穏をもたらす最終兵器との噂で――」
「本当かどうか知らないけど。恒久の平和をもたらす最終兵器ってさ、なんかもうニュアンスから胡散臭い感じが半端ないな」
「で・す・か・ら! 驚くべきはその兵器の内容で。もう、兄様はニュースやゴシップに興味が薄いんですから。――あら皆さま、ごきげんよう」
前のめりになって夢中で話し続けていたアーケミーがぴたりと停止し、すぐに姿勢を正す。そしてテーブル席に近づいてきた同級生たちへとゆるやかに手を振り挨拶する。
こういった身の振り方の上手さはとても真似できないと舌を巻き、カスパールはハンバーグを口に運ぶ。肉汁が染みて美味であった。
二人が座るテーブル席に近づいてきたのは、同じアスティカシア高等専門学校の同級生だった。しかし集まってきた2人の男子と2人の女子の視線はアーケミーに向いており、その返す挨拶も彼女へ向けたものだった。
「こんにちは、アーケミーさん。その人と何を話してたの?」
「なんかずいぶん前のめりに見えたけど」
その男性にまさか『あーん』などさせてもらっていないよなと、男子たちの視線がカスパールに突き刺さる。同じ肌色、眼の色、髪の色でも、カスパールとアーケミーの言動の違いで兄妹だと認識されていないようだ。
カスパールはいつでもやや体の力を抜いている腑抜け気味といった印象を抱かれていて、アーケミーは成績優秀の才女と見られているためだ。
「ええ、実はモビルスーツ戦について興味深い話を兄様から聞けて」
よくその場しのぎの嘘を眉一つ動かすことなく言えるものだと、カスパールの舌はもはやゼンマイのようにぐるぐる巻きあがる。
「えっ? 兄様? あっ、そこの人ってもしかして――」
「あの魔弾兄さん!?」
「その呼び方やめてくれよ……」
二人の女子はアーケミーをよく知ってるのかよく話すのか、彼女の対面に座るカスパールを見るなり珍しい動物を見たように驚いた。しなびた野菜を噛んだようなカスパールの苦々しい表情を見て、男子達はおもしろ半分で女子達に尋ねる。
「魔弾兄さんってなにさ? 『ホルダー』狙えるくらい強かったりするの?」
「えっとねー。我ら女子が誇る、才女パイロットのアーケミーさんがいるじゃん? そのおっかけ? だから魔弾なんだよね」
「アーケミーにトラブルがあれば、いつでもどこからでも飛んでくるから魔弾みたいだって。だから魔弾兄さんってね。ホルダー狙える強さ化は、わかんないや。やる気ないというよりは、地味め?」
「シスコンセンサーついてんの? ハハハッ」
確かに自分は筋金入りのシスコンだなと思いながら、カスパールは美味しいはずの野菜を家畜のようにむしゃむしゃと味気なく食す。アスティカシアで一番優秀な学生パイロットである『ホルダー』を、ある理由から目指していないことは本当なので、笑われても仕方がない。
だがカスパールを笑った男子につられて、もう片方の男子も面白おかしく笑った瞬間。
ペキッ
強い音を立てて、アーケミーの持ってたスプーンが指で思いっきり直角に曲げられた。
「きゃっ。あらら、いけませんわ。スプーンが不良品だったようで」
「はぁ、しょうがない。替えを取ってくる」
助け舟を出されたカスパールはゆっくりと腰を上げて席を立つ。男子たちを
「そこのお2人……。兄様が席を立ちますので」
「あっはい」
「あれっ? どうしたの二人とも青い顔して」
「ここ寒かったっけ?」
「いきましょう、いきましょう」
疑問に思う女子二人を男子二人がぐいぐいと押し、そそくさと逃げるようにテーブルを離れていく。その様子を見て、カスパールは呆れ気味に肩をすくめて告げた。
「アーケミー、ああいうことしない。俺は大丈夫だし」
「兄様こそ。後で宇宙に出るのに、あんまり重く食べ過ぎては駄目ですわ」
「食っとかないと終わる前におなか減るじゃん」
カスパールは直角に折り曲げられたスプーンを持って、その替えを持ってくるために今度こそ食器置き場に向かった。
こうしたやり取りがあった数時間後。二人は自身が所有する人型兵器である『ゲシュペンスト』を操縦してアスティカシアの外へ、つまりフロントを出て真空の宇宙へと教師の指示通りに出撃していった。
宇宙に浮かぶ巨大フロントの外。どこまでも広がり、どこまでも暗く、どこまでも静か。彼方に存在する星の明かりや巨大なフロントが、遠近法の要領で四角い画面に収まるほど小さく補正されてコクピットのモニタに映る。
「綺麗ですね……。あの彼方に、どんなフロンティアが待っているのでしょう」
「いつかモビルスーツ防衛隊として、外宇宙の探査に行くのがお前の夢だもんな」
「はい。遠い宇宙に夢を見て、同じ夢を持つ人を守れる。とても素敵でしょう?」
「で、俺もついていくと。まぁお前だけだと本当に心配だからな」
「ツンデレ!」
「どこが!」
そんな中で2機の汎用人型兵器である、ゲシュペンストという青いカラーリングの機体は、ある指定のポイントまで武装した状態で向かっていた。それぞれを操縦するのは、カスパールとアーケミーの兄妹。
また、そんなゲシュペンストと同じように、あらかじめ出力などを決闘用に抑えた調整をしたモビルスーツ4機が、一緒に特定のポイントに向かうために整列するようにして宇宙を飛ぶ。
その機体は全て、アスティカシアを運営するグループに関わる企業が生産したモビルスーツであった。なお2機のゲシュペンストは企業グループ以外で独自に開発されたものであり、カスパールとアーケミーに過去に正式に個人のものとして受領された機体であった。
「お客様と転校生だかを迎えるために、モビルスーツや俺達のパーソナルトルーパーまで出すのか?」
「権力のある所は、その持ちうる力を見せたいものですわ。今回のお客様というのは、あんまりおもしろくないようなお客様らしいので」
「お前、どこの伝手から掴んだんだよ」
「こういうのは極秘情報、というものですので」
指定のポイントに着くまでに、緊張を抜くために通信を交わす二人。カスパールの問いにいたずらっぽい笑い声でアーケミーはごまかし、両者共に教師に定められたポイントで己の機体を制止させる。
アーケミーは離れ際に、自分たちが護衛しているルートを通って誰が来るのかという情報をカスパールに渡していた。ゲシュペンストのコクピットのコンソール画面に、渡されたデータの内容が表示される。それは極秘情報というわけでもなく、ネットにて公式に発表されている内容だった。
「ネットニュースの情報? 全然極秘じゃないじゃん。転校生の方じゃないから、客人か。……マリナ・イスマイール皇女の視察?」
情報通ではないカスパールでも、地球の一国の皇女様が視察に来るとなれば最低限は興味も出てくる。記事によれば、アザディスタンの再興や技術確保のために、地球に住む人々である『アーシアン』だろうと受け入れる最先端の学園を視察するとのこと。
「アーシアンとスペーシアンの溝は深いっていうのに、よく来るな? それをわかってても来るっていうのは、相当強い意志を持ってるんだろうな」
そんな独り言をつぶやいた後、カスパールはなるほどなぁと一人納得する。確かに宇宙に暮らす人々であるスペーシアンからしてみれば、皇女とはいえ地球の者、すなわちアーシアンであるマリナが対等なように視察に来るというのは面白くないものだろう。
力量や己の立場を勘違いしないように、などとモビルスーツを路地の花のように並べて力を見せつけたくもなるかもしれない。
しかし、アスティカシアを取りまとめる厳格な理事長様はそこまで無駄なことに時間を使わないだろう。だから6機の最低限でしか道を飾らないんだろう。しょうがなく出したのは周りの声が大きかったからだと、カスパールは暇つぶしのように考える。
結局のところ、競技用とはいえモビルスーツを多く所持したり、フロント管理社の防衛がある場所にテロリストが突っ込んでくるはずもない。カスパール達は指定のルートを安全に通ってくるお客様や転校生を丁重にお迎えして学校に受け入れればいいのだ。
「こぉんなところにモビルスーツで突っ込んで喧嘩売る奴なんていないよなぁ」
「独り言聞こえてますわ、兄様」
「もう時間だし、余計な通信するなよ」
「あぁん、冷たいですわ。これがツンデレ」
「今のどこにデレの要素があったかレポートがあったら見たいくらいだ」
「4枚くらいでまとめてきますわ」
「読まんぞ!?」
やはり俺の妹は特大のバカだ、とカスパールは目の前の操作機器に頭をヘルメットごとガンガン打ち付けそうになった。どうして今の会話で存在してなかったデレを4枚にという、非常に面倒な妄想の塊としてまとめてくるのか。かつ、妄想だけでそんなにまとめられるのか。
「まぁまぁ兄様。心配せずともトラブルなんて起こりませんわ。そもそも皇女様が来るとはいえ、学園の前にモビルスーツが並んでる所に、わーわー突っ込んでくるバカなんておりませんわ」
「……アーケミー。なぁ、アーケミー。各機、レーダーは見ているよな?」
「なんですの? まさか私がいるからもうバカはいる、なんて言うつもりじゃ――」
「バカが本当に、来たようだ」
「……えっ?」
アーケミーはきょとんとしてからレーダーの反応を見やる。そこにはこの部隊に向けて急接近する数機の反応があった。
接近する一番近くの反応の先は、後ろの追手からなんとか逃げようとする輸送機の反応。つまり、マリナ皇女を乗せた輸送機が何者か複数に追われている。モニタに補足一瞬だけ緑の線が走ったことから、戦闘が始まっているだろう。
すぐさま整列しているモビルスーツ達にも緊急のアラートが鳴る。しかし、マリナ皇女を迎え入れるだけだと過信していた者達は、コクピット内で慌てふためくしかなかった。
輸送機にあらかじめ乗っている護衛の者がなんとかしてくれると心のどこかで信じているから、自ら死地に飛び込むことなどできなかった。なにより輸送機に乗る者は、自分達が下に見ているアーシアンだから……。
そんな状態になっている群体の中から青い機体が一機飛び出していき、輸送機が逃げる先へ、すなわち戦場へと向かう。アーケミーが乗る、専用のメガ・ビームライフル1丁を携えたゲシュペンストだった。
「LP080! アーケミー・ヴァントシルム! 一人で何しに行く!?」
その場のモビルスーツ4機とゲシュペンスト2機をまとめていた教師から、激しい怒号が飛ぶ。生徒を一人突出させて死に追いやったとなれば、伸し掛かる責任は重いだろう。
「狙いをそらす囮くらいにはなれると思いますわ! 輸送機を守らないと!」
「護衛やフロント管理社に任せればいい! そのモビルスーツ隊を向かわせるように要請する! 無茶な真似はよせぇ!?」
教師の怒号が再び飛んだ瞬間、先行する機体を追ってもう一機のゲシュペンストが飛び出していく。教師は呆気にとられ、口をパクパクと開閉させるしかなかった。
迫る追手から逃げる輸送機の護衛のモビルスーツ隊は、まったくもって未知の敵に対応できず、その機体性能の差もあって無力化されそうになっていた。
追手の機体は、全身の装甲をモスグリーンの色で染め上げた、蚊のような尖った口を持つ未確認の兵器であった。その正体は、まだこの時点の地球圏の人々が知らぬ『ガルファ素体』と呼ばれる外宇宙からやってきた存在であった。
ガルファ素体はその手に持つ携行ビームガンを護衛のモビルスーツ達目掛けて乱射し、その戦闘力を奪ったり推進器を貫いたり致命傷を与えてたりして、果てしなく広い宇宙空間に爆散させる。
だが一機、たったの一機だけ。複数機のビームガンの連射をかいくぐって、別の護衛とは全く異なる回避運動を見せ、あろうことか実弾のリニアライフルの射撃でガルファ素体にカウンターに近い攻撃を与える存在がいた。
それは本来なら宇宙ではなく地球の空が本場のはずの黒い細身のモビルスーツ、ユニオンフラッグであった。
宇宙で活動できるようにカスタムされているが、あまりに細身でぽっきりとすぐに折れてしまいそうな印象の軽量機体。しかしその軽快な動きでビームガンの雨を簡単に
並大抵の技量では不可能な操縦テクニックであった。幾度も視線を潜り抜けなければ、ここまでの動きはできないだろう。
だが他の護衛がやられつつある今、一人の技量だけがあっても手数が足りない。ガルファ素体の一機がユニオンフラッグから視線を外して輸送機の方を向き、それにとりつこうと加速していく。
輸送機の操縦者が迫る未確認機の恐怖で冷や汗を流した瞬間、急に飛び込んできたゲシュペンストの強烈なキックがガルファ素体の頭部に命中していた。
「大丈夫ですの!? 間に合った!」
アーケミーのゲシュペンストがなんとか間に合い、余裕ぶったガルファ素体の頭を体からぶっ飛ばした。間髪入れずにゲシュペンストの姿勢を制御し、腹に蹴りを入れてコントロールを失ってだらんとした体を弾き飛ばす。
複数の未確認機を相手にしているユニオンフラッグのパイロットから感謝の言葉は届かないものの、アーケミーは確かに『彼』から礼を言われたような気がしていた
だから油断する。未確認機は一機ではないし、ここは学生が体験することのない本物の戦場である。実戦経験などないアーケミーは急な危険を上手く察知できず、飛びかかってきたように加速してきたもう一体に組みつかれる。
「なっ!? 離しなさい!?」
細い手足だというのに強烈な力で両腕を封じられ、メガ・ビームライフルを使用できずパニックになるアーケミー。だが、そんな危険を『魔弾』が弾き飛ばす。
手荒だが、もう一体のゲシュペンストが回し蹴りでガルファ素体の側頭部に強烈な蹴りを決める。今度はカスパールのゲシュペンストだった。
ゲシュペンストはモビルスーツとは若干設計思想が異なったパーソナルトルーパーと呼ばれる機体である。とりわけ格闘戦についてはめっぽう強く設計されており、接近戦を挑むためにその加速力も優れている。
頭部を跳ね飛ばされるほどの蹴りを受けたガルファ素体は、葬った護衛の後をたどるように宇宙を漂うことになった。
「兄様!」
「バカ野郎! 一人で飛び込むな!」
「飛び込んできたのは兄様の方では? さすが私の魔弾ですわね!」
「そこはもうどうでもいいだろ……!」
向こうではユニオンフラッグとガルファ素体のドッグファイトが続く。カスパールとアーケミーのゲシュペンスト2機は、体勢をなんとか立て直して輸送機の守りにつく。
ユニオンフラッグを駆るパイロットの神業とも言える操縦により、ガルファ素体はじわじわと弱りつつあった。が、モビルスーツより装甲が厚いのか、決定的な一撃をなかなか受けない。ゲシュペンストの格闘や射撃が上手く決まれば機能停止にはなり得るだろうが、輸送機の守りを解くわけにもいかない。
「この状態、長く続けば不利ですわ! ユニオンフラッグではいつまで弾丸が持つか!」
「あと一手足りないってところか……! フロント管理はまだ来ないのか!?」
「が、学校の方にも! あの機体と同じような反応が行ってますわ!?」
カスパールはぎりっと奥歯をかみしめる。何者かは知らないがよほどのバカが来たらしい。
これでは武装したモビルスーツ隊がこちらへ来るのに時間がかかるだろう。さらにモビルスーツに乗った他の生徒も出ていたので、その収集を付けるためにごちゃごちゃになっているはずだ。
「何か一手、誰かの助けが……!」
ゲシュペンスト達に今一度、数体のガルファ素体が迫る。が、ガルファ素体の斜め後ろから走り抜けてきた光にその手足は貫き焼かれ、コントロールを失って別の方向へと飛んでいった。
「今のは!?」
「兄様、あれを!」
ビームライフルを携えて連射しつつ、白と青を基調としたモビルスーツが急速で戦場へ割り込む。ガルファ素体も負けじとビームガンをそのモビルスーツに向けて放つが、その光線は左手についた大型の盾にはじかれ、いくつもの光点に拡散して飛び散って消える。
「み、みなさん大丈夫ですか!? え、え、援護すればいいんですよね!?」
「救援か!? なんで向こうの方向から……? いや! こちらはアスティカシアの生徒です! 所属不明の機体に輸送機が襲われている! 助けたい!」
「わ、わかりました! こちらはスレッタ・マーキュリーです! 緑色の機体は敵……でいいんですよね!? ……行こう、エアリアル!」
エアリアルと呼ばれた白く細身のモビルスーツと、そのパイロットであるスレッタ・マーキュリーという弱気な口調の少女。大型でビームに耐性がある盾で、連射される敵のビームガンから身を守りつつ、的確に頭部へとビームライフルの光線を撃ち込んでいく。
ユニオンフラッグの高速飛行に翻弄され、さらにエアリアルの火力支援を受けたとなれば、ガルファ素体達の全滅はすぐのことであった。
無数の残骸が漂う中で、カスパールとアーケミーは実戦が終わったのだと脱力する。アドレナリンがそうとう分泌されていて、呼吸は非常にうるさく感じられて、胸は飛び出すほど激しく高鳴っている。いつビームガンの威力にさらされて藻屑となるかの恐怖が、夢中の後に遅れてやってきた。
「終わった、ようですわね。教師たちに何と言われることやら」
「人助けをしてよくやった、偉い。はぁ……怖かった」
「うふふ、兄様に素直に褒められるとは人助けしたかいが――」
「バカ言え。教師に言われるんだよ。いや、言われそうにないな」
周辺に動けるような敵機はもういないらしい。スレッタの乗るエアリアルもぐるりと索敵を終えて合流し、後から彼女を載せてきたであろうもう一機の輸送機もやってきた。
気弱そうな声が先の通信で聞こえたとカスパールは感じていたが、やることはきっちり行える人物であるようだ。ようやくうるさい妹以外の声が聞けると、カスパールは再び通信回線を開く。
「えっと、スレッタさんだったか。そしてそっちのフラッグのパイロットさんも。あなた達のおかげで――」
しかし感謝の言葉を聞き遂げることもなく、誰が乗っているのかも未だ不明なフラッグは、ブースターを吹かしてその場を離脱していく。
この宇宙のどこで誰と待ち合わせしているのだろうか。少なくともフラッグが積んでいるような燃料でフロント間の移動などできないはずである。その間の距離がありすぎるのだから。
「護衛の機体のはずでは? 特ダネの匂いがしますわね……! しかし、追う余裕など残念ながら無いので……うぅ、疲れたぁ」
「えっと、はい。こちらスレッタ・マーキュリー、です。せ、戦闘の光が見えたのでじっとしてられず……途中で救助が必要な人も見つけたので、このままだとすごく危ないなって」
「救助が必要? 誰かいたんです?」
撃墜された護衛の機体から脱出した人であろうかとカスパールが聞く前に、一人の少女が通信回線に割り込んできて怒鳴った。やってきた輸送機に乗せられたのであろう救助者だ。
「誰が要救助者ですって!?」
カスパールやアーケミーと同じく白髪の少女。厳しそうな誰か譲りのきつい眼差しと物言いで、学園に通う人ならほとんどの人が「ああ、あの有名人か」と、触れないでそっとしておきそうな人物だった。
「ミ、ミオリネ・レンブラン!? なぜですの?」
「えっ、ミオリネさん。きゅ、救助が必要じゃなかったんですか!?」
「確かにあの状況でノーマルスーツと推進剤くらいだと救助は必要になるけど……ああ、もういいわ」
三人寄ればとっても姦しいとカスパールは再び脱力する。しかし呆れ気味のミオリネもそう考えていたようで、なぜなぜと聞いてくるアーケミーとスレッタにうんざりして口を閉ざす。
ミオリネ・レンブランは学園からの脱走を図っていたのだと3人が知るのは、学園側のモビルスーツが救助に来て、スレッタを含めた4人が教師からこっ酷く叱られた後であった。