実験室のフラスコ(バナナヨーグルト味)   作:フォトンうさぎ

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第2話:白いモビルスーツー②

第2話

白いモビルスーツ

 

 

【アスティカシア高等専門学校 戦術試験区域】

 

 広大な敷地を利用して作られた、人型起動兵器同士の戦闘訓練場。指定ポイントは傾斜の険しい部分がある荒野。

 20メートルクラスの兵器が姿を隠すのにも十分なほどの障害物や断崖があり、上空からの狙い撃ちでも上手く位置取りを行わないと、相手へなかなか致命傷を与えることはできないだろう。

 

「でぇぇぇい! ……くっ! こうやって立ち回られると!」

 

「さすがにやるね、アーケミー・ヴァントシルム……! だが、単純なパワー勝負でならディランザの方が上だ!」

 

 アーケミーの乗るゲシュペンストが手に持つプラズマカッターの刃で斬りかかるも、ラウダの乗る専用ディランザの斧に受け止められ、そのままじりじりと押し返されて弾かれる。

 そのままラウダは押し返した勢いも利用してゲシュペンストの右腕を狙うが、格闘戦に挑むにもってこいの機動性を活かされて、左への跳躍でかわされる。

 

「ですがスピードでは、ゲシュペンストの方が上ですわ!」

 

「くっ、ちょこまかと……! だが!」

 

「よく追い込んでくれたラウダ!」

 

 すかさずグエルの乗る赤い専用ディランザが、上空のやや高めの位置からビームライフルで狙い撃ちをする。直撃までとはいかなかったものの、バックパックにつけられたウィングをかすめて焼いた。

 

「2対1は卑怯じゃないですの!?」

 

「それをお前が言うかぁ!?」

 

 その自信を現すかのような豪勢な羽根飾りを頭部アンテナにつけた専用の赤いディランザ。それを操縦するグエルは、どうして時間が経てば勝ったような勝負をわざわざしなければならないのかと歯がゆい思いをする。

 ちなみに、アスティカシアでの決闘は機体の頭部アンテナを失うと敗北である。大きな飾りを付けてなお、地上からの狙撃も悠々と交わしてみせることからグエルの技量がうかがえる。

 

 『スレッタ&アーケミー対グエル&ラウダ』の決闘は既に始まった。

 いや、決闘に来るはずだったスレッタは持ち込んだ機体のエアリアルに登場しておらず、なぜかミオリネが搭乗している事態となっていた。おかげで現状は『ミオリネ&アーケミー VS グエル&ラウダ』の状況である。

 

 なぜスレッタではなくミオリネがエアリアルに乗っているのか、その理由を理解できるものはいなかった。ミオリネはスレッタから借りたままの生徒手帳のデータを活用して、エアリアルに自ら乗り込んでグエルと決着を付けようとしたのだが……。

 経営戦略科のお姫様と呼ばれるミオリネでは、モビルスーツの実戦にいきなり対応などできるわけはない。機体を走らせることすらギリギリの状態だ。

 

 そこでアーケミーがやむを得ず前に出て絶えず攻撃を果敢に挑み、グエルとラウダの二人の攻撃を引き付けている。ミオリネのまったく頼りにならないビームライフルの支援攻撃を受けつつで、やっと奇跡的に回避が続いているという有様ではある。もちろん、こんな回避がいつまでも続くはずはない。

 

「もらった!」

 

 狙うどころかビームライフルの反動に振り回されているくらいの、注目する必要もない支援攻撃。それを余裕で回避して、ラウダが乗る青いディランザの斧が、プラズマカッターを持つゲシュペンストの右腕をついに肩口から切り落とす。支えを失って落下した腕部が、ずしんと地面を震わせた。

 

「ひぃん!? グエル先輩! ゲシュペンストはちゃんと整備お願いしますね!?」

 

「何の話だ!? 適当なことを言って油断させようという魂胆か!」

 

「そうでもありますのよ!?」

 

「ふざけるな、トドメだ! ――っ!?」

 

 ゲシュペンストの頭部アンテナを寸分の狂いなく狙うグエルのディランザ。しかし、その手のビームライフルを狙いすましたかのように、ビームの粒子が別方向から綺麗に潜り抜けて空中に爆散させる。

 

「なんだ今の狙いは!? ミオリネじゃないな!?」

 

 既にグエルとラウダからノーマークにされていたエアリアルという機体に何が起きたのか。

 グエルは破壊されたビームライフルをすぐに投げ捨てさせてビームパルチザンを起動し、エアリアルに向き直る。が、向こうの白いボディを持つエアリアルはなぜかその場に倒れていた。

 よたよたとビームを撃っている内に勝手に転び、その直後に何者かが乗り込んだのか、コクピットハッチは決闘中だというのにぽっかりと開いている。

 

『エアリアルは私の家族です! 返してください!』

 

『ケチ! たかがモビルスーツ一機くらいいいじゃない!』

 

「たかがじゃありません! エアリアルは私の大事な家族なんです! それに、あんな二人に負けません!』

 

 ゲシュペンストも2機のディランザも何事かと動きを止め、エアリアルの内部で起こっているらしい喧嘩の内容を聞く。アーケミーもラウダも何が起こっているか全く理解できず、グエルは決闘委員会ラウンジへ通信を入れて怒鳴った。

 

「シャディク! 何が起こっている!」

 

『ごめんよグエル。どうやら決闘相手を再変更しなければならないらしい』

 

「なんだと?」

 

 決闘委員会の一人であるシャディク・ゼネリの、状況を面白がるような鶴の一声。それぞれの機体の画面に、『決闘参加者変更 : ミオリネ・レンブラン → スレッタ・マーキュリー』の表示が映る。

 よって、決闘開始時にスレッタからミオリネに変えられた参加者は、今度はミオリネからスレッタへと戻ることとなった。どういうことか、今回はころころとトラブルが転がり込むらしい。

 

 なおスレッタとミオリネの喧嘩の拍子で通信回線が開いたらしく、スレッタの気迫のある声はまだそれぞれの機体に届いている。

 

『お母さんが言ってました。「逃げたら一つ、進めば二つ手に入る」って! だから私は、あなた達が相手だって進んでみせる!』

 

「ほざけ!」

 

 すでに勝つ気でいるスレッタに激高し、グエルはビームパルチザンを手にディランザを突撃させる。パイロットが変わったとて、なんだというのか。

 

 突撃を迎え入れるようにエアリアルが両腕を広げたかと思うと、装甲の一部が勢いよくパージされた。装甲がはじけ飛んだかと思うとそれらは機体の周辺をくるくると旋回し、急にディランザの方へ鋭角を向け、一斉に細いビームを11機全てからいきなり連射する。

 

「――!?」

 

 驚愕の言葉を述べる暇もなくグエルのディランザは手足をハチの巣にされ、さらにディランザの周りを泳ぐように旋回しだしたビット兵器のビーム斉射によって手足を切り離され、最後に頭部を撃ち抜かれて綺麗にバラバラになった。

 まるで砕け散ったブロックのオモチャのようにそれらは揃って地面に落下し、その機能を完全に停止する。

 

「兄さん!?」

 

「すごいですわ……」

 

 まさか自分の兄でホルダーである男が、学校一の実力を持つ男がたった一瞬のやりとりで撃墜されると思わず、ラウダはコクピットの中で叫ぶ。逆にアーケミーは、ビット兵器達がエアリアルの腕に統率された動きで集まってシールドとなる光景に見とれていた。

 

『スレッタ、あんた……』

 

『あの、ミオリネさん』

 

『なによ、まだラウダのディランザが残っている!』

 

『決闘って、乱入とか邪魔ってありなんですか?』

 

『はぁ?』

 

 まるでラウダ以外の何かを見ているかのようなスレッタの反応。ラウダは怒り、たとえ一人であろうとスレッタに立ち向かおうと無我夢中になったため、突撃してくる機体に気づかなかった。

 

「え――!? ラウダ先輩! 右!」

 

「水星女は落と――!? がっ――!?」

 

 アーケミーの咄嗟(とっさ)の叫びでラウダは迫りくる機体に気づいた。偶然にもラウダのディランザは無傷であったため、斧の面ですぐさま防御の耐性を取ったものの、ビームで構成された激しく回転するドリルに頭部をえぐり飛ばされた。

 

「ラウダ先輩!?」

 

『……スレッタ。私はあんなの知らないわ。あいつ、確実にヤバいヤツよ!』

 

『倒せばいいんですよね!?』

 

 スレッタとミオリネの会話が、急に突撃してきてディランザの首をえぐった所属不明の機体にも届く。まるで中折れ帽子を被ったような頭部をしており、指が無い腕を持った機体は、ぐるりとその声の主は誰なのかを探した。

 

「へ、へ へ! なんだ、ヒナの卒業しかけが2人、いや3人か? ……めんどくせぇな、例の奴とこのボウズを切って、早めに切り上げてぇな」

 

 突如として決闘に割り込んで来たハット帽子の指無し機体『デスフィズ』。それは腕の先からビームクローを発信させ、猛烈な勢いで回転させてディランザに切っ先を向ける。

 そこを倒れ込んだラウダのディランザに命中しないように、アーケミーのゲシュペンストがマウントしていたメガ・ビームライフルを取って射撃する。さらにエアリアルビット兵器が周囲からビームを連射するが、デスフィズは上空に一度飛び上がったかと思うと、華麗に体を(ひね)って逸らせ、全てを回避してしまった。

 

「なんですのあの動き!?」

 

『エアリアルの攻撃をかわした!?』

 

「わるいな! そういうのはな、『わかる』んだよ! ヒナの卒業しかけが武器を持って歯向かうというのなら……いや、ほんと面倒だな。ケッ」

 

 ビームライフルとビットからの攻撃をかわし続けているというのに、謎の男が乗るデスフィズは別の方向に視線を向ける。

 その先からさらにビームがデスフィズへ向けて飛んでくる。続けて反対側からも、別のモビルスーツ達が接近してゲシュペンストやエアリアルに攻撃を行ってきた。。

 

「全員まとめて切っちまうというのもいいが、あんまり長居して下手に食らうと、団長たちに合流できなくなるからな! 仕方がねぇか、つぶし合いの高みの見物といくかぁ?」

 

 先にデスフィズへビームを放ったのは、やってきた白い機体ともう一機のゲシュペンスト。反対側から逆側の機体達などどうなってもいいとビームを放ってきたのは、アスティアカシアにまったく関係のない部隊の『リグ・シャッコー』と呼ばれる機体だった。

 

「兄様!?」

 

「アーケミー! グエル先輩とラウダ先輩を連れて離脱しろ! ザンスカールは俺達が相手をする!」

 

「どういうことですの!? そしてやっぱり、ピンチにやってきてくれる魔弾兄さんですわ!」

 

「わからんが早く! そしてその呼び名やめろ!」

 

 兄を一人で戦わせるわけにはとアーケミーは逡巡するが、右腕を失った状況ではまともに撃ち合うことなどできない。接近戦にまで持ち込まれたら一気に撃墜されるだろう。

 ラウダのディランザに近づいて既に救出しようとしていたグエルと、コクピットから引きずり出されてぐったりしているラウダを左手に乗せ、アーケミーのゲシュペンストは離脱する。それを守るように一機の大型デミトレーナーがフルの出力で後ろ向きでブーストしながら、訓練用のビームライフルで支援する。

 

「大型のデミトレーナー!? って、フォントさん!?」

 

「早く格納庫まで行って! あんまりこういうのは慣れてないから!」

 

「助かります!」

 

 グエルとラウダを乗せたゲシュペンストはなんとか搬出口へと逃げ込む。しかし、ゲートが閉じるのを見届けて、フォントが乗る大型デミトレーナーは外に出たままとなっていた。

 

「いったい、決闘に何が起きてるんですの……!?」

 

 

 

 

 

【アーケミー達が決闘開始してから十数秒後の倉庫】

 

 カスパールは入り口の側から姿を現し、友人のフォント・ボーに謎の取引をしようとする黒人と対峙していた。黒人は武器を持っておらず無防備に見える。そしてその側には、迷子に見えた幼い少女もいた。

 

「アンタ……フォントに何させようとしてるんだ?」

 

「ふむ、君はフォント君の同級生かね?」

 

「カ、カスパール?」

 

 どうやら倉庫にいたのは、フォントと褐色でサングラスの男、そして人形を抱えた少女のようだった。しかし少女を連れているとはいえ、『ここで死ぬか』と縁起でもない言葉を言い放っていたサングラスの男が危険なのは事実。幼い少女がいてもカスパールは警戒を解かないでいた。

 

「見てわかるだろ」

 

「すまないね。私は目が見えないんだ」

 

 褐色の男はサングラスを片手で取る。そこには、なにも見ることのない閉じられた両目があった。

 

「どこから聞いていたかね?」

 

「アンタが、フォントを連れていくか殺すかみたいな部分から」

 

「ほう? それ以外は?」

 

「それだけだ」

 

 冷や汗を流すカスパールと、ふむと片手を顎に当てる褐色の男。フォントと少女はというと、この状況でどうしていいのかわからず、交互に彼らを見ることしかできなかった。少女は男の仲間であるようだが、年齢相応であり危険ではないらしい。

 

「ふむ……それだけ? うっわ!? すっごいめんどくさい部分のみ聞いてるしぃ!?」

 

「は?」

 

 突如砕けた口調と態度になった褐色の男に、カスパールは呆気にとられて口をあんぐりと開けた。まるで人殺しをするような男の態度ではないと感じたからだ。それに、「あーどうすっかどうすっか」と呟きながら口元を隠す男は、まるで気のいい先輩のように思えた。

 

「うぅん、そこだけ聞いているとすごい、その……納得できる説明がしづらいんだよぉ! えぇとね? 『ここで死ぬか』というのは私が殺すわけではなくてぇ、うぅん、どうしよう本当に説明しづらい。ひ、比喩というかね……? うん」

 

「おいフォント。これはどういうことだ?」

 

「お、俺も説明しづらい、かな? ただ、状況は飲み込めたんだけど、とても言えそうにない……」

 

「その人と一緒に学園を去るとか、そうしなきゃならないやつか? お前、いったい何について話してたんだよ? 兵器とかネットの情報をまとめていたサイトで、変な情報載せてしまったとか?」

 

「たぶ、ん? そう、たぶんそう」

 

 カスパールとフォントが問答を繰り返す中で、褐色の男は「えらいこっちゃえらいこっちゃ」と今にも阿波踊りでも始めそうな雰囲気である。

 しかし、隣にいた少女から端末へ流れてきた情報を教えてもらうことで、急にスン……と落ち着いた雰囲気を取り戻す。

 

「……ありがとうございます。フォント君、機密については先ほど言った通りだ! 既にザンスカールのモビルスーツが君を狙ってこの学校に侵入している。我々はすぐさまここを発たねばならない」

 

「ザンスカール? なんで、そんなの」

 

 カスパールは急に飛び出たザンスカールという単語に寒気を覚える。ザンスカール帝国といえば、現状の地球圏で『マリア主義』の名のもとに、地球や他の従わないコロニー群に無差別に攻撃を仕掛ける危険なコロニー国家だからだ。

 そのような者達が、ベネリット・グループの傘下にあるこの大きな学校にまで手を伸ばしているというのだから。好きにさせておけばどれだけ生徒たちに、そして妹に被害が及ぶかわかったものではない。

 

「わ、わかりました……! でも、でも……せめて、ザンスカールのモビルスーツをこの学校から追い出すことは……!」

 

「なぁフォント、まるでわけがわからないぞ!? お前、ただのオタクで、妹の友達で、グエル先輩からも頼りにされるやつだろ!? なんでいきなり、こんな映画みたいな――」

 

「ごめんカスパール。本当に、説明は、できない!」

 

 フォントなりの強い意志があるのか。カスパールの問いかけにも、フォントは専用のタブレットを抱えた腕を振るわせて譲らない。

 

「カスパール君といったね。君が今知っている情報は、正直に話してしまった方が安全は確保できるだろう」

 

 わけもわからず友人が学園を怪しい人物と共に去る。そして危険なザンスカールのモビルスーツが今にも暴れ出しそうであるという展開。カスパールはしかしその展開に、「待ってくれ」の一言を発した。

 

「俺が、ゲシュペンストでザンスカールのモビルスーツを叩く! 妹やこの学校に、被害を出させるわけにはいかない! アンタたちは……俺が戦うから、逃げろよ」

 

「……時にフォント君。キミ、モビルスーツの操縦くらいはできるよね?」

 

「え? はい……?」

 

 

 

【学校内 戦術試験区域 現在】

 

 カスパールはゲシュペンストに乗り、一人でザンスカールのモビルスーツと戦うつもりだった。しかしあの黒人は白いモビルスーツに乗り、どういうことかザンスカールの機体排除までは手伝ってくれるようだ。

 善人なのか悪人なのか、カスパールにはいまいち男が何者なのかを掴めなかった。

 

「信頼していいんだよな!? つーか、目が見えないって言ってたよな!? それ嘘だろ! 盲目でモビルスーツ操縦なんて聞いたことないぞ!?」

 

「信頼、信用するもしないも勝手だが、ひとまずここを切り抜けるのが先決だぞ!」

 

『ごめんなさいミオリネさん。もうちょっとだけ我慢してください!』

 

『ちょっとスレッタ!?』

 

 リグ・シャッコー数機は、左腕の装備であるビームローターをぐるぐると回転させて、まるで自由自在なヘリコプターのように空を飛んでいる。

 それに対してカスパールのゲシュペンスト、スレッタのエアリアル、カーティスの白いモビルスーツがビームライフルを手に立ち向かう。

 

 しかし、ゲシュペンストとエアリアルのビーム兵器は決闘用の調整で出力を7割ほどまで下げられている。それに対して白いモビルスーツとリグ・シャッコーの部隊は実戦用のビーム出力であり、非常に強力。

 そのハンデを負いながらもカスパールとスレッタは、守るもののために果敢に立ち向かった。

 

「へ、へへ! こいつは見ものだし楽しそうだが、最低限の仕事はしておかないとな!」

 

 右腕のビームドリルをリグ・シャッコーと同じように回転させて滞空するデスフィズは、戦場の上空で高みの見物を決め込んでいた。

 しかし空いた左腕を戦場に入れないでいるフォントのデミトレーナーへ向けると、ビームの弾丸をばらまく。その着弾を見届けると、あらかじめ決められているであろう離脱ポイントへと向かうように撤退していった。

 

「うわ、あ、ああああ!?」

 

 ビームの雨のような連射を受けて、フォントの訓練用である大型デミトレーナーはビームライフルを撃ち抜かれ、援護攻撃はままならぬ状態となった。さらに地面へと着弾したビームが土煙を激しく上げてデミトレーナーの体を隠す。

 しかし土煙が晴れると、奇跡的に無傷の大型デミトレーナーが姿を現すのだった。

 

「ん? 外した、のか? 俺が? へ、へへ! 面白いじゃねぇか!」

 

「はず、した……? どうし、て? なんで?」

 

 滞空したまま離脱するデスフィズのパイロットと、デミトレーナーに乗るフォントが疑問を感じたのはほぼ同時。しかし、フォントはすぐにその理由に気づいた。

 

「大型デミトレーナークラスのモビルスーツなんて、もう戦場には出ない……。あのモビルスーツのコンピューターがサイズと攻撃対象の補正をする時に、類似のモビルスーツを当てはめてミスをしたんだ。た、助かった……」

 

 たった数メートルの違いだが、フォントはそのおかげで生きながらえていた。

 

 そしてザンスカールの正式量産型のリグ・シャッコー数機といえど。エアリアルのビット兵器のビームの雨と、白いモビルスーツの的確かつテクニカルな射撃、及び瞬時に射撃から切り替えられる斬撃には対処できない。

 

 さらに急に全速力で飛び込んできてボディに叩きつけられる、ゲシュペンストの左腕のプラズマステーク。強くぶつかるそれにバランスを崩され、その隙を残りの2機に処理される。

 

 リグ・シャッコーの残る部隊がこれは適うまいと撤退したのは、決闘の場にカスパール達が飛び込んでから間もなくのことであった。

 

 

 

「本当に行ってしまうのか? フォント……」

 

「……アーケミーやグエル先輩たちに、よろしく頼むよ!」

 

 それだけ言い残して、大型のデミトレーナーと白いモビルスーツは、戦術試験区域の端まで全速力で離脱していった。そこで褐色肌の男の仲間が、退却のサポートをするのだろう。

 防衛に出てくるはずのフロント管理社のモビルスーツはというと、ザンスカールの電子ウィルス兵器や工作員に格納庫をしてやられたらしく、見事に出撃できないでいた。

 

 

 

【アスティカシア高等専門学校 取調室】

 

 窓は無く閉塞感があり、真っ白なタイルと、その割れ目の黒い線だけが彩る部屋。そこでカスパールはまるで犯罪者のように尋問を受けていた。

 普通なら厳しく尋問されるであろうが、ザンスカールのモビルスーツ部隊を撤退させる手伝いをしたということで、その問い詰めは若干気遣いがあった。

 

「では、君はフォント・ボーの身の安全を確保するために、一時的にその男に協力したのかというのかね? その男の名前は?」

 

「言ってませんでした。そもそも聞いてませんし……。監視カメラの映像があれば、自分があの男と共謀を図る時間なんてなかったと無いとわかると思います」

 

「しかしねぇ……テロリストかもしれない危険な男に、うちの学園の生徒を引き渡したというのだから……」

 

「だったらあの人はグエル先輩やラウダ先輩を見殺しにしているでしょう? 本当にテロリストなら、そういう人道的なことはしないと思います」

 

「よく喋るなぁ……」

 

 とりあえず、言いよどまないことをカスパールは心がけていた、次から次へと喋っていかないと、詰まった時にこれは怪しいと重点的に突かれるからだ。

 もっともカスパールは状況を深くまでは理解していないので、綺麗な腹に手を突っ込まれてグリグリ探られる感触を味わっている。

 

 

 幾度かの問答を乗り越えて取調の時間が終わったと思ったら、次の来客が入ってきた。戦闘から引き続き話し続けているため、もううんざりだと疲れ果てていた。

 

「もう疲れましたよ、ちゃんと答えるのでいったん休憩は……」

 

「じゃあ、俺が話す番にするかい?」

 

 厳しかったり疑い深かったりする取調官とは違い優しい声音の、まるで絵本の王子様とでもいうかのような態度の長身の男子生徒が入ってきた。

 いつもはあまり会うことができない人物の登場に、カスパールは目を見開いて驚く。

 

「シャディク先輩!?」

 

「や、だいぶお疲れのようだね。そう構えなくていい。今は俺が話す番にしようよ」

 

 鈍い金髪碧眼の、決闘委員会の一員である『シャディク・ゼネリ』。グエルと同じようにグラスレー寮の寮長であり、決闘委員会の仕事も同時にこなしてみせる、アスティカシアのできる男とは彼のこと。

 噂によれば彼を慕っている女性は何人もおり、決闘にあまり顔を出すことはないが優れたチームワークを見せるらしい。

 

 もっとも今それらの情報はカスパールにとってどうでもよくて、つい先に口を開いて妹は無事なのか聞いてしまった。

 

「妹は? アーケミーやグエル先輩たちはどうなんです?」

 

「うん、みんな無事だよ。ラウダは頭を強く打ったくらいで、命に別状はない。問題がある生徒は、今ここにいる君を含めて、同じように捕らわれちゃった水星ちゃん、そして謎の男の所に行ってしまったフォントかな」

 

「水星ちゃん?」

 

「ああ、ごめんごめん。こっちで勝手に突けたあだ名さ。改めて、スレッタ・マーキュリーはグエルからホルダーの座を勝ち取り、君と一緒に軟禁状態だ。でも、彼女の方には僕と同じようにエランが慰めに向かったかな」

 

「ホルダーの座を勝ち取って……軟禁状態?」

 

 あの無茶苦茶になった決闘の場で、最後まで無事でいた参加者はスレッタ・マーキュリーである。であれば、グエルが所有するホルダーの座がスレッタに渡ってもおかしくはなかった。

 が、なぜ急に軟禁されてしまったのかはカスパールには理解できなかった。可能性があれば、今回の事件に関係していたとか、何か良からぬことのためにこの学校に潜入したという線だが。

 

「彼女にはGUND-ARM(ガンドアーム)の所持の疑いがかけられいている。あのエアリアルという機体がそうらしくてね」

 

「ガンド、アーム? ガンダムではなく?」

 

「単純に『ガンダム』の名を冠するだけだったらよかったんだけどね。あまり詳しくは言えないけど、ちょっと違うってところかな」

 

「は、はぁ……そういう根深いところには疎いもので」

 

 ガンドアームという名にカスパールは首を傾げる。ガンダムであれば、数年前の地球圏の国家同士の戦争に介入したソレスタルビーイングの機体だったり、数十年前から地球連邦で活躍したとされるアスノ家の専用機体であった……と記憶している。

 

 そういえば、フォントを連れさらった男の機体もガンダムであったように見えた。ただし、目が二つあって角がついていればガンダムと呼ばれがちなので、思い違いの可能性もあるが。

 

「ふっ。しかし君の妹の凄さにはまいるよ。先の戦いが終わるなり僕の所に転がり込んで、兄はどうなっているのかとか、5股は本当なのかとか聞いてきて――」

 

「ウチのバカが大変申し訳ないです! そんなことあるわけないですよね! まさかシャディク先輩がそんな!」

 

「本当だよ。――とか言ったらどうなるんだろうね?」

 

「絶対に言わないでくださいね? え、いや待って、そういうのってあるの!?」

 

「肝に銘じておくよ。危ないところだったかもしれない」

 

「本当かどうかわからない、縁起でもないからかい方やめてくれません?」

 

「さて――」

 

 和やかな時間は終わりだと、急にシャディクの態度が改まる。妹の疑問については彼なりのアイスブレイクのつもりだったのだろう。

 

「時にカスパール・ヴァントシルム。卓越した技術や能力を持つ者は、その能力を他者のために活かすべき……そう思わないかい?」

 

「ま、まぁそうだとは……」

 

「同意を得られて嬉しいよ。だが、仮にその者が能力を活かせない環境に追いやられたとしよう。どうすればいいと思う?」

 

「企業とかの話であれば、異動を行うとか。適材適所と言います、し?」

 

「ではカスパール君。俺は君をどうすればいいだろうか?」

 

「えっ?」

 

 シャディクは両肘をついて顔の前で指を組み、喉をごくりと鳴らすカスパールをじっと見る。

 

「カスパール・ヴァントシルム。君を無期の停学処分としてほしい……と学校側に告げたい」

 

「はぁ!?」

 

 シャディクは組んだ指の影で、唇を少しばかりの笑みの形へと変えた。

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