実験室のフラスコ(バナナヨーグルト味)   作:フォトンうさぎ

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第3話:異邦の竜-①

【アスティカシア高等専門学校 決闘委員会ラウンジ】

 

「なーんーでーすーのー……? これはああああああ!!」

 

「まぁまぁ。落ち着いてほしいな、アーケミー」

 

「これが落ち着いてぇ!? られますかぁ!!」

 

 金髪碧眼の長身の委員、シャディクから渡されたタブレットの内容を見て、アーケミー・ヴァントシルムはふわふわの白髪を振り乱して中指を立てそうになった。そうになったということは、もう握りこぶしをシャディクに向けていて中指を立てる一歩手前ということである。

 

「兄様がしばし停学処分!? そして学園内外の奉仕活動を実施!? そもそもなぜこんなに拘束時間が長引いてるんですの!? だいたいホルダーを獲得したソウルバディであるスレッタさんもなぜ――」

 

「いいんじゃないのぉ? ここで綺麗さっぱり(みそぎ)を行うということでぇ」

 

 今にも噴火しそうなアーケミーを、ソファで足を組んで座ったセセリア・ドートがけらけらと煽る。ぎろっと睨まれるが、彼女は「こわいこわーい」とどこ吹く風のようだった。

 般若の表情のアーケミーをどうどうとシャディクがなだめる。まるでマグマに水をほんの少しずつ注ぐようだったが、それでも事情を説明するにつれアーケミーは沈静していく。

 

「これは重要な話だが……君の兄は、フロントの平和を揺るがす秘密に触れてしまった可能性がある」

 

「――!? いきなり何の話を?」

 

「情報通の君のことだ。この処分がどんな意味を持つかわかるだろう? 僕たちも君の兄の安全は確保したいと考えていてね。自由と安全を確保する代わりに、外部との接触が上手くできなくなるんだ」

 

「秘密に触れる……人目に付かぬ奉仕活動……。ま、まさか……そんなことを勝手に……」

 

 うつむいてふるふると拳を震わせるアーケミー。これは一発くらい殴られることも覚悟しておかないとね、とシャディクはいつ殴られてもいいように体に少し力を入れる。

 

「兄様は……なんかこう、悪の組織と戦う華麗なる潜入工作員とか、孤独なソルジャーとか! そういうのを目指したということでしょうか!?」

 

「勝手にこちらで決めてすまな――えっ、うん」

 

「くっ……! なんかずるいですわ、そういうの! これは誰にも喋るわけにはいきませんわね……。なるほど、なるほど。ですが、あまり危ない死地には送らないでください! そういうの、とっても不安になるので……」

 

 状況を勝手に理解しきったアーケミーは、タブレットをシャディクにつき返してラウンジを出ていった。少々呆気にとられたシャディクだったが、返されたタブレットを操作して専用の回線で別室に待機しているカスパールに連絡を入れる。

 

「と、いうわけで君の妹はあのように無事だよ」

 

『本当にバカな妹ですみません!』

 

「まぁ、結果オーライということでいいじゃないか。さて、君には前の戦闘で周辺に浮かぶ、あの戦闘マシンのデブリ回収をやってもらおうかな」

 

『マリナ皇女を受け入れた時に攻めてきた奴らのですね?』

 

「うん。安全が確保でき次第、その宙域ではグエルの新しい機体である『ダリルバルデ』のテストを行うことになっている」

 

『その片付けってことですね……。できればサンプルとなる残骸も見つけてくれと』

 

 こくりとシャディクは頷く。

 アスティカシア高等専門学校を運営するベネリットグループの重役の息子であるシャディクが、学園に持ち掛けた話はこう。『彼とテロリストがもし接触したのであれば、彼と再び接触しに来る可能性は高い。それであれば学園の重要な部分には置いておかず、常に監視しつつ宙域でテロリストの情報を掴む撒き餌とした方が良い。接触していなくなっても厄介払い』と。

 

 そもそも学園側は一介の重役の関係者でもない生徒が何をするものぞと見くびっていたので、もしテロリスト側に回収されても、厄介払いになるならとその話を受け入れた。

 

 しかし、シャディクはカスパールにその話を丸ごとその通りになど伝えていない。単純に罰として長い停学。そして裏で奉仕活動を実施してもらうと言っただけである。

 

 奉仕活動をすれば罰が軽減されるなど当たり前の話のようであり、守秘義務としてしばらく学校に通えないことも重い罰と考えることもできた。

 

 だがカスパールも感が鈍すぎるわけではない。戦闘が発生した宙域に送られるとなれば、もしかすると危険な扱われ方を繰り返されるのではないかと考え、ならば一か八かの決闘で覆せないかと決闘の申請をしようとした。

 

 結果は『停学中の生徒の決闘申し込みは通せない』。以上であった。

 

 

 

 

【アスティカシア高等専門学校 学食】

 

「うっわ、マジか。ここまで厳しい停学とか初めて見た」

 

「マジですわ、ペトラ」

 

「えー? カスパールの解答けっこう参考になるのにさぁー」

 

「兄様の解答を見ていいのは私だけですわ、フェルシー。それとフォントのことも心配ですわ……」

 

「まったく。まだ決まったわけではないというのに」

 

 学食で学校のニュースを軽く読んでいくペトラとフェルシー。そして腕組をしてふんぞり返るアーケミーと、面白おかしく煽るような学級新聞にいら立ちを隠せないラウダ。事実がどうであれ、命を救われた恩人のことのゴシップをばらまかれれば、憤ってしまうだろう。

 

 ラウダにとってはフォントも兄のことを助けてくれるサポーターであるし、カスパールのこともジェターク寮の仲間として見ている。それがテロリストと接触だのなんだの書かれているのだからそれはもう面白くない。

 

「そうですわ。しかしこれが報道ですので、困ったことに……。あっ、スレッタさーん、席に困ってるならこっちに来ませんか? ……何を見ているのでしょう?」

 

 アーケミーが急にジェターク寮の宿敵の名を呼び、ペトラとフェルシーが食べ物をのどに詰まらせる。ラウダも食事がぴたりと止まり、命を助けられた恩はあるがそれはそれとしてその行為は許さないぞとアーケミーをぎろりと睨む。

 しかし彼女はそんな厄介なしがらみは知らないと、スレッタに声をかけるために一旦席を立つ。

 

 立ち尽くすスレッタは、特徴的な赤毛のせいもあって非常に目立っていた。なお、スレッタも非常に厄介な出来事を乗り越えてこの学食にいることを、アーケミー達はまだ知らない。

 

「スレッタさん、ごきげんよう。席に困っているんですの? それと、ホルダーの獲得おめでとうございます」

 

「ど、どうもアーケミーさん……。えっと、その……」

 

「どうされたのです?」

 

「お礼を言いたい人がいるんですけど、勇気が出なくて……」

 

「お礼?」

 

 スレッタはトレーを持ったまま、もじもじとしながらあるテーブル席をちらっと見る。そこには、地球人であるアーシアンの生徒たちが談笑していた。一人の少女はボリューミィなまとまった髪が目立つ。まるで頭に大きなボールがついているようである。

 どうやらスレッタはその中の一人にお礼を言いたいようだが、一人で行くのに勇気が出ていないのであった。引っ込み思案では、あの談笑の中に入っていくのも一苦労だろう。

 

「ふむ……? では一緒に行きましょうか?」

 

「え、え? いや、その……えっと……」

 

「それそれ行きましょう! 大丈夫ですわ、きっとお礼なら快く――」

 

 アーケミーは平気です平気ですとスレッタの背中を押す。そっとだがいきなり押されて、スレッタは少しだけふらついてからそのまま押されていった。

 

 

 

 

「スペーシアンが何の用だ!」

 

「ひぃ!?」

 

「ちょっとチュチュ」

 

「な、何のご用でしょうか……」

 

 席にたどり着くなり、いきなりボリューミィなピンク髪の少女に怒鳴られる二人。それを隣の落ち着きのある少女がなだめ、向かいに座る弱気そうな男子が今度はスペーシアンに何をされるのかと身構える。

 

「私のご友人が、このお方にお礼を言いたいようでして……」

 

「お礼参り!?」

 

 弱気そうな男子が、いったい何を早とちりしたのやら悲鳴に似た声を上げる。

 

 宇宙に住む人々であるスペーシアンと、荒廃したがもう一度立ち直りつつあるアーシアンの溝は深い。かつてコロニーという居住用の巨大建造物を落とされたり、時には宇宙で国の独立を邪魔されたりと、掘り返せばその戦いの歴史にはきりがない。

 争いばかりで大きな3つの区域に別れていた地球はようやく近年に一つにまとまったが、相変わらず地球と宇宙の中は悪すぎるのである。

 

「スペーシアンのお礼なんて――」

 

「チュチュ、いいから。えっと、スレッタさんだよね?」

 

「えっと、はい。ニカさん、この前の決闘でエアリアルの元まで行く時、ホバーバイクを貸していただけて……ありがとうございましたっ」

 

「うん、どういたしまして。もう学校には慣れた?」

 

「い、いえ、まだその……」

 

 よかったら後で道案内してあげようかという言葉を、ニカ・ナナウラという少女は紡げなかった。急に横からアーケミーをどんと押しのけて二人のガラの悪い少女が話に割り込んで来たからだ。

 

「ちょっとうっさいんだけどー?」

 

「ここみんなの学食なんでぇー。アーシアンは出ていけよ」

 

「てめぇら、なにいきなり来てんだ!」

 

 チュチュが今にも喧嘩しそうな勢いで立ち上がるが、ニカに袖を引っ張られて何もできず、ぎりぎりと歯を食いしばる。しかしその剣幕を見ても少女達はしょせん相手はアーシアンだと舐め切り、ニヤニヤとした笑みを浮かべている。

 

「ちょっと、なんですのいきなり!」

 

「あっ、ごめーん。兄が失踪した人だっけぇ? 魔弾兄さんと一緒に失踪したと思ったわぁ」

 

「ちょっと失踪じゃないって、退学だよ退学。間違えたら失礼じゃん」

 

 

 ブチッ

 

 

「あっ、そーだった。退学だよね退学。ホルダーに対して臆病風吹いて、全然決闘挑まない腰抜けの扱いなんてまぁどーでもいいけどぉ」

 

「いや、妹に対する金魚のフンっぷりは嫌でも印象に残るわ。で、今度はその妹がアーシアンにフンになってもらおうってわけ?」

 

 

 ブチッ

 

 

「あっ、そーだぁ。プッ……! アーシアンたちぃ、それゴミだから捨てといて」

 

「ハハッ。じゃあアタシも。プッ……! 妹に新しいゴミ付けといたわ」

 

 ニカの食事の上に吐き捨てられるガム。そして、アーケミーの額目掛けて吐き捨てられるガム。

 

「て、てめぇら、よくも――」

 

 チュチュが我慢できずにその一歩を踏み出そうとしたその時。

 

 

 ブチッ

 

 

「上等ですわやったろうじゃねぇかこの畜生どもォ! アァ!? このゴミを紙に包んでお前の口に返してやりますわオラッ! ダストシュートだゴラァ!」

 

「テメッ、なにすん――離せ! モガガ!?」

 

「テメー! 調子こいてる妹だけでどうにかなると思って、ンガガ!?」

 

 恐るべき速さで額と食事についたガムを噛みでくるみ、ガラの悪い少女達の口に入れ返そうとキレるアーケミー。しかしキレたようでいて、その視線は今にも逆に呆気にとられるチュチュと、呆然とするニカにちらちらと向けられる。

 

「チュチュ! マルタン! 行こう!?」

 

「で、でもニカ姉――」

 

「止めなくていいの!?」

 

「いいから! スレッタさんも!」

 

「えっ、え!?」

 

「このアマ、異常に力がつえーぞ!? なんだこのバカ力!? 人間じゃ、イデデ!? イデーよこの力!?」

 

「バケモンみたいな力してるって!? フォーク持ってこいフォーク!」

 

「お前ら何をやっているんだ!!」

 

 腹の底まで響いてくるような怒号が飛び、学食がしんと静まり返る。恐ろしいとまで感じるような怒鳴り声を発したのは、いつものホルダー専用の白い制服ではなく、通常の緑色に戻った制服を着たグエル・ジェタークだった。

 

「やっば……!」

 

 ガラの悪い少女達はさすがにグエル相手には分が悪いのか、アーケミーの馬鹿力から解放されると共にそそくさと学食から逃げるように去っていった。

 

「アーケミー、こればかりは説明してもらうぞ。恩はあってもこういうのは寮長として見過ごせないからな」

 

「むっすー。私悪くないので」

 

「説明、しろ」

 

「……はい」

 

 その後、事情をきちんと説明してこっ酷く怒られたアーケミーだったが、表情はやるべきことはやったと言わんばかりにさわやかなものだったという。なお、ラウダは「水星女は僕たちに不幸を呼ぶかもしれない」と静かに呟いていたという。

 

 

 

【アスティカシア高等専門学校 地球寮】

 

「あの人、私達をあの場から逃がしてくれたけど大丈夫かな」

 

「ミシミシ鳴ってたね、あの人たちの掴まれた場所」

 

「アイツが勝手に喧嘩始めたんだし、礼なんて今度会っても言わねーからな」

 

「あ、あのぉ……」

 

 古びた大きなガレージに見える地球寮。そこにニカ、マルタン、チュチュ、スレッタは集まっていた。さすがにあの喧嘩はスペーシアン同士のものであるし、もうあそこにいない地球寮には目が向けられることは無いだろう。

 

「なに? スレッタさん」

 

「わ、私、あの、ここに来てよかったんでしょうか」

 

「嫌なら出てけよ」

 

「チュチュ、駄目だよそういうこと。スレッタさんは巻き込まれたようなものだし。ここにいていいよ。地球寮特製のヤギのミルクがあるんだけど、飲む?」

 

「ヤギ……?」

 

「初めてだとクセがあるように思うけど、とっても美味しいから! 今持ってくるね」

 

 ニカは浮足立ってだだっ広い開放的なガレージの奥に向かう。その背中はいつもより軽そうで、彼女を姉のように慕うチュチュは少しばかりの安心を覚えた。

 

「なんだよ……ニカねえ、ちょっと嬉しそうじゃん」

 

「えっと、スレッタさん。今は他のみんなは外してるから、好きな席座っていいよ」

 

 立ち話もなんだしと寮長であるマルタンは内心焦りながら、いつも地球寮のみんなで囲っているテーブルとその周りの席を指差す。しかし、チュチュだけはその助け舟に不機嫌そうである。

 

「じゃ、じゃあ、失礼します……。あの、アーケミーさんは、戻ってきていないんですか?」

 

「アーケミー? 前の決闘でスレッタさんと一緒だった、アーケミー・ヴァントシルムさん? 彼女はジェターク寮の人だから……」

 

「ここにはいねぇよ。全然違う寮だっつーの」

 

「えっと、じゃあ、あの人と同じ機体に乗ってた男の人も?」

 

「カスパール・ヴァントシルムは、えぇと……」

 

「あいつ停学だってさ」

 

「ててて、停学!? なんで!?」

 

「知るわけねぇじゃん。なんか最近アスティカシアの周りでも内部でもおかしいことが起きてるし、裏事情なんてたくさんあるだろうし。学校のニュースじゃ行方不明って言ってる」

 

「ゆ、行方不明じゃないです! 私その人あの決闘の後でちょっとだけ見たんですけど……その、話しかける暇もなくって――」

 

「それ、本当ですの!?」

 

 ガレージの入口から大きい声が響く。その声を発した人物は、グエル・ジェターク……がつかむロープの先の手錠に両腕を固定されたアーケミー・ヴァントシルムだった。その隣には、なぜかミオリネ・レンブランが気になるようにちらちらと彼女を見ている。

 

「あなたの方が『本当?』みたいな格好してますけどぉ!?」

 

 次にマルタンのツッコミが響いてから、その場は一度しんと静まり返った。だが、その場をつんざくように今度はチュチュが怒鳴る。その怒号を聞き、ミルクを持ち運んでいた途中のニカが小走りでやってくる。

 

「なんだよ! スペーシアン達がそろって今度は何の用だよ!」

 

「喧嘩を起こしたアーケミー・ヴァントシルムが正式に謝罪したいと言うから連れてきた」

 

「ぐすっ、えぐっ……! 兄様、無事でほんとうにごめんさいぃ……!」

 

「混ざってんぞ」

 

「混ざってるから」

 

 グエルとミオリネのツッコミが不協和音。お互いに顔を見やってから、ぷいっと地球寮の面子に向き直る。次に言葉を発したのはミオリネで、スレッタに対して冷たく言い放つ。

 

「探したわよ、スレッタ。今度のグエルとの再戦、絶対に勝って」

 

「いや、です……」

 

「嫌ってなによ。今度の勝負でコイツに勝たないと、アンタはエアリアルを没収されて処分よ!? 退学にもなるし、コイツがホルダーに返り咲いて私はコイツと婚約しなきゃいけなくなる!」

 

「でも……」

 

「いい? これは取引よ。私はあのダブスタクソオヤジに一回ガツンと言って、アンタに決闘のチャンスをあげた! それにこの決闘はもう決定事項なのよ」

 

 それは地球寮やアーケミーには知らされていなかった決闘であり、なおかつその裏側だった。事情を詳しく知る者はミオリネとグエルとスレッタだけだろうが、スレッタが非常に不利な取引を押し付けられているのは明確であった。

 

 スレッタはGUND-ARM(ガンドアーム)と呼ばれる禁止された技術を所持している疑いをかけられている。エアリアルをそのガンドアームと見られているのである。

 スレッタはエアリアルの処分と退学を、ベネリット・グループの長であるデリング・レンブランに言い渡されたが、そこにミオリネが待ったをかけた。スレッタを助ける代わりに、自分の婚約者でいることを契約させる取引。

 

 しかしその取引は、スレッタのできれば戦いたくないという気持ちを無視している。

 

「よく、ないです……。私、やりたいことリスト埋めたくて……ミオリネさんともお友達になったから、他の方とも、お友達になって……」

 

「それも決闘に勝たなきゃ、できなくなるのよ」

 

「でも……」

 

 

 パキッ

 

 

「何の音だ? ……お前、それオモチャじゃないぞ」

 

 急に後ろから金属が割れるような音を聞き取り、グエルは振り返る。同時にミオリネも振り返ると、そこには手錠の鎖の部分を綺麗に真っ二つにして両手を自由にしたアーケミーがいた。そしてしゅるしゅるとロープを解き、スレッタに向かって歩いていく。

 

「友達が困っているのをっ見たら、助けるのが友達ですわ」

 

 嫌な予感がする……とグエルはまたくらっと来る目眩を感じた。どこかで、それもつい最近見たことあるなという光景がフラッシュバックする。

 ああその光景はやめてくれと願うグエルだったが、アーケミーはスレッタの首に腕を回した。

 

「いいでしょう、その決闘私も参加しますわ! スレッタさんとタッグで挑みます! グエル先輩の相方は決闘委員のシャディク・ゼネリかエラン・ケレスを希望! 私が賭けるものは停学! 勝ったら兄の停学を解除してもらいます!」

 

「……アーケミー、一つ言っておく。その対決だとスレッタ・マーキュリーは何も得していないぞ」

 

「……エッ?」

 

 もうこれ以上の面倒事は勘弁してくれと、グエルは酷く気だるくなってしまう。しかし、スレッタは自分のために力を貸してくれる人がいるのだと心が温かくなった。

 

「ありがとうございます、アーケミーさん……勇気が出ました。わかりました! 今回もタッグによる決闘を、お願いします!」

 

「……アレ?」

 

「アホ?」

 

 目が点になっているアーケミーを見て、今度こそグエルとミオリネは同時に綺麗にハモった。

 

 

 

 

【アスティカシア高等専門学校 周辺宙域】

 

「……僕か」

 

 デブリを回収する輸送機の中、カスパールの監視役を任せられたエラン・ケレスは、急に飛び込んできた決闘の通知を無感動で見つめる。同時に通知を受け取ったカスパールも端末を見て、なんというバカな妹だと憤慨してから苦笑する。

 

「エラン先輩、どういうことですかこれ。あの二人に何かした覚えとかないです?」

 

 カスパールは無重力の中で読書しながら浮かぶエランに問いかけるが、エランは返事の代わりにページをペらりとめくる。ナチュラルに無視。そんな問いかけなどなかった、必要なこと以外は話すつもりはないと無言で表現される。

 

「エラン先輩、突然誰かに呼ばれたような感じがするって経験あります? 例えば、今の突然の通知のようにとか……」

 

 いや、元々返事を返されないのは分かっていたと、カスパールはため息をつく。

 

「そろそろ宙域に到着するので、ゲシュペンスト立ち上げててきます」

 

「不思議な存在だね、君の妹は」

 

「えっ?」

 

 今、あの『氷の君』が返答をしたのかと、くるりとカスパールは振り返る。しかしそこには本に視線を向けたエランがいるだけで、どうも返事を返してくれたというような感じはしない。

 

「……掴めないところがあるけど、自慢の家族です」

 

 決して妹の目の前では言わないことを言い残し、カスパールは無重力を活かしてゲシュペンストが鎮座する部分へと跳躍するように移動する。本のページをまためくるエランが、静かな空間に残される。

 

「家族、か」

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