000 Prologue
そこに存在する全てといっても良いほどのモノが赤と黒に染められていく。 炎が地を這い全てを燃やし尽くそうと異臭を放ちながら生者へと迫り――そして黒炎となり灰に変えられ天に登って逝った。
夜空に登る黒煙は決して美しくない生者の末路。
「お前達は生存者を早く助け出すんだ!」
銀の髪を靡かせ女性は叫ぶも崩れていく建物の轟音に飲み込まれ誰の耳にも届かず消えていく。 それでも彼女は叫ぶが様々な音が交わり唯一聞こえたのは彼女の近くにいた者達だけだっただろう。
今まで感じたこともない自身が住む場所を蹂躙される現状に誰もが恐怖と憎悪を表し、この惨状を生み出した者を探し続ける。 しかし報告が上がって来ないということは未だ見つかっていないということであり、その時間が徐々に見つけ出す相手が首謀者から今もなお増え続けている被害者へと変わっていくのは当然の事だ。
《
《島の被害甚大! 動力部に壊滅的なダメージを受け全システム停止!!》
更に増える絶望的な報告に彼女は頭を痛めた。
動力部が破壊され島のシステムが全て停止――それは彼女達、人とは違う存在が世界から隠れるために作り上げたステルスシステムまでもが停止したということだ。 これで外から島を確認することも侵入することも容易くなってしまう。
人間が彼女達を快く思っていない事は過去に殺されかけた事もあるため知らないわけでもない。 だからこそ作られた島の
この混乱に乗じて攻めてくる――そう思うと全身から嫌な汗が噴き出した気がした。
《B-2区画で火災発生。 首謀者の可能性アリ……消火班は警備の者と現場に急行してください》
もはや一刻の猶予もない。
最悪、この島に住む彼女達――命を持った人ならざるものが殲滅される可能性がある。
「くっ……お前達は
現状を打開できる可能性を持つ唯一の希望が今にも擦り切れそうな状態であろうことは、彼女にとって見なくても手に取るように理解できた。 ならば彼女にできることは、この騒動を早々に沈静化し以前と変わりないと思える状態まで島を戻す事だけだ。
そうしなければ彼女達は遅かれ早かれ滅ぼされる。
未だ狼狽える付き人達を睨み彼女が口にしたことを思い出させると、怯んだかのように一歩下がり頷く。 すると付き人達は黒い何かを、その身に纏わせ姿を変える。
中世の騎士が身に纏うような鎧ではないものの、洗練された形をしたソレは鎧といってもいいのだろう。 ソレは黒に限りなく近い色をしていたが電球を付けたかのように、その色を変えていった。
その場に似ても似つかない色鮮やかなソレ等は各々の意思で彼女から離れ命令を忠実に行い始めていく。
「医療班はまだか!? 王妃は我々とは違うのだぞ!!」
そう口にしても肝心の王妃が何処にいるのか彼女は知らない。
《生きている者を多く助け出せ! 後は各自の判断に任せる!!》
「ええい……軍の無能共が!」
確かに力なき者を守るのが軍の役目であり行っていることは何も間違ってはいないのだが――それでは効率が悪いのだ。
周囲を見渡し黒煙で覆われた空に一番近い塔を見つけるやいなや掌から何かを、その頂上付近に撃ち出し――そしてソレが頑丈に固定されていることを確認すると彼女は吸い寄せられるかのように身体を宙に浮かせ飛び上がった。
後方で建物が崩れる音がしたが気にしている余裕はない。
ほんの数秒で彼女の身体は塔の頂上に移動していた。
「っ……こんな、こんな事が……」
そこから見える光景は彼女にとって生涯忘れることができない程、想像を絶する悲惨な光景。 目に映る島の全てが赤と黒に塗り潰されている。
記憶に残っている緑豊かな島の面影は、もはやどこにも残ってはいなかった。
燃え移ったかのように近くの島へ炎は、その手を伸ばし所々で爆発と黒煙を生み出し絶望を広げていく。 止められるのだろうかという弱気な部分が彼女を蝕んでいくが首を横に振って自分が止めるのだ――止める為の引き金を引くのだと言い聞かせる。
《……ゲン……! そちらに……が!!》
雑音が交じる無線に意識を呼び戻され身構えた。 気のせいでなければ彼女が耳にした声は何かを警告しようとしていたはずだ。
しかし彼女の目に映る限り――島が燃えていること以外、何も不自然な場所はない。 だが彼女は何かを感じ取っていた。
「なっ!?」
何かが迫って来る感覚に彼女は跳躍し塔から離れると次の瞬間には、その塔が根元から頂上まで無数の光条によって貫かれる。 彼女を塔の裏から確実に葬るため、くまなく光条が伸びたのだと直感的に気がつく。
でなければ彼女が感じた感覚――
この光は彼女を含めた島に住む命を狩るために伸ばされたものだと、そして光を伸ばした者が島の惨状を引き起こした首謀者であるという事に気がつくのは、そう時間はかからなかった。
いつの間にか足に纏った鎧のようなソレは未だ彼女を空に押し上げ光条から逃れ続ける。
「ノワール様!!」
「来るな!!」
遠くの空から銃器を構えた者が近づいてくるが、その行為を彼女は止めた。 止めたはずだ――。
しかし彼女が叫んだ時には、その身体は幾重もの光条によって貫かれ赤い華を残し悲惨な惨状の一部として消えていく。
建物が崩れる轟音によって掻き消され聞こえなかったのだろうか、それとも――だが、いくら考えても他人の思考を読み取ることはできない。 しかし首謀者が何者かは少しだけ理解できた。
《援護を……早く!!》
《た、助け……!?》
彼女は苦虫を噛み潰したかのような顔で素早く周囲を見渡す。
「同族殺し、が……!」
首謀者が彼女と同じ存在であることは先の光景で判明している。
同族であるならば島のシステムを理解していても何もおかしくはない。 システムによって生かされてる事も――機能しないことで起きる欠点すらも――。
「横か!」
また突き刺すような感覚に自然と身体が反応し、彼女は更に上昇する。
その時、燃え盛る島を背景に何かが彼女へ銃口を向けているのに気がついた。 今まで黒煙がソレと似た色をしていたため迷彩として働き気がつかなかったのだろうが、これで首謀者が同族であることは確定した。
しかし見覚えのあるソレは彼女の気のせいでなければ、首謀者は何を思ってこの惨状を起こしたのだろう。
赤子の鳴く声すら響かない空が、この世に存在を許さないと否定しているかのように全てを黒煙と変えていく。 誰もが悲惨だと思うほどに、その光景は見るに堪えない。
既に誰も生きていないのではないか――そんな静けさが余計に建物の崩壊や燃え盛る音を大きく響かせていた。
燃え尽きた建物の下からは苦痛から逃れようと手を必死に伸ばすも逃れられなかった者達の変わり果てた姿が見え隠れする。 昨夜までは笑っていられたのだろう、苦労しながらも愛を育んでいたのだろう。
しかし、その者達は既に何も出来ない肉塊であり死体だ。 生きていたという証拠を奪われ灰となって地へ、空に消えていく。
材木が重なり大きな炎の渦を作る光景は、あたかも島の惨状を祝福しているかのようだった。
何もかもがなくなっていく――救いもない、ただ悲惨な光景。
それは彼女が危惧した滅びの末路。
「……どうして」
そんな中でも未だ形を失わずに生き続けている姿がある。
着ている服は煤焦げ島の惨状に巻き込まれたのは言うまでもないが、その身体は傷一つない健康的なものだ。 銀の長い髪が爆風によって揺れ、周囲の炎や血を映し出すかのような紅い瞳が目の前に横たわる女性へ注がれ続け涙を流す。
愛する者の死――。
違う種族であり寿命という概念が無いに等しい存在であるため、いずれ二人の間に永遠の別れが来ることは理解しているつもりだったが、それが思い描いていた理想とは掛け離れている結果に絶望し――彼女の死が追い打ちをかける。
何故、彼女が殺されなければいけないのだ。 ただ、それだけが頭の中を駆け巡った。
「なんで……」
視界が揺れ彼女の胸が今も規則正しく動いているように思えたが、その一部から赤い華をドレスに咲かせている時点で有り得ないことだ。
もしかしたら、ふとした瞬間に何時もと変わらない笑顔で声をかけてくれるかも知れない――長い薄紫の髪を揺らしながら話しかけてくれるかも知れない。 そう願いながら彼女を抱きしめ続ける。
だが本当は彼女が助からないことを頭の片隅では理解していた。 彼女の死を認めたくない、そんな未練がましい思いが脳内を支配してい目を背けていることなんて――。
「なんで私を置いていくの……!」
そんな悲しい声に応えるかのように風が炎を押し寄せ、そこに何も存在しなかったと彼女達を消そうとする。
冷たくなったはずの亡骸が暖かく感じ、まるで生きているのではないかと錯覚を覚えるが、それも未練がましい思いが目を背けさせているだけで、いくら目を背けても返ってくるのは現実という壁だ。
全てが地獄の炎によって踏みにじられ辺りをむせ返るような異種が彩っていく。
「……もう一度だけでいい。 もう一度……会いたいよ……」
その涙が二度と開くことのない彼女の瞼に落ち、そのまま頬を伝って彼女が流した涙のように消える。 汚れた地獄の中で、その光景は美しく儚く感じ取れただろう。
しかし現実は無情にも全てを燃やし潰していった――。
《Re:Birth 01/White Knight Incident》
【挿絵表示】
※あとがき
初めましての方は「初めまして」――お久しぶりの方には「お久しぶりです」――Twitterをしており尚且つ篠ノ之束(aoi_tabane)をフォローしている方は……そうですね、「先程ぶり」とでも言えばいいのでしょうか?
葵 束です。
ここでは初めての方が多いと思うので、とりあえず「初めまして」なんでしょうね。
にじファン時代から葵 束という安直なペンネームで長々と書いている大馬鹿者です。 当時は今作の大本となった「世界とISと名もなき者へ(以降:無印」を拙い文でしたが閉鎖まで投稿させていただいておりました。
本作は無印を元に書き直した新作ということで様々な設定の修正、登場人物等の追加や経歴の変更を繰り返すことで醜いですが形を保っている状況です。 また挿絵を一話につき一枚と無謀な事を思いついてはいますが正直なところイラストが上手いとは思えないので非表示設定を再度ご確認ください。
また用語設定は各話の後書き枠に書いておりますが、それらを纏めたものをブログに置いてありますので探しにくいようでしたらカテゴリー内の“Re:Lily Project”をどうぞ。
本作品におきましても前作同様に長い目で見て頂けると助かり、御指摘等の感想を宜しくお願いいたします。