世界とISと名もなき者へ Re:   作:葵 束

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《戦闘機の基礎》

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013 Thought

《第二搬入口爆発! 侵入者迎撃用に仕掛けられた爆発物が起動した模様!!》

 

 傍受している無線を回してもらいながら束は暗く狭い通路を、その身一つで奥へと進んでいく。 屋内ということもあり速度が最大限出せないものの“白騎士”のような装甲を纏わず飛んでいく姿は魔法使いのようにも見えた。

 だが右手には細長い杖のような物を手にしており何かしらの作用が働き束は飛んでいるようだ――流石、稀代の天才と言われるだけはある。

 ――これは……?

 そんな束の後ろ姿を束は見ていた。

 同じ空間に同じ人間が二人もいるというのは本来なら有り得ない――ならば今、束が目にしている光景は夢である事になるのだろう。

 世界には自分と似た人間は三人いると言われているが、それは容姿の事であって完全に自身と同じ存在ということではないはずだ。 限りなく低い確率ではあるが夢でないにしても束には何故、どのようにしてこのような光景を見ているのか理解もできなければ全く覚えていない。

 

《お義母様、その通路を進むと自動砲台の射程圏内に入ります。 一度後退し長距離兵装を持たせた部隊を……》

『そんなの待ってられないよ! ――ちゃんが、すぐそこにいる……そこにいるんだ!!』

 

 突如、今まで聞いたこともない少女に母と言われ呆然する束とは違い、何かに焦りながら通信に対応している束は複数も表示されたモニターを確認しながら通路を曲がっていく。 一体何を使用しているのか理解はできないが見覚えのあるソレは“白騎士”に搭載したシステムに見えた。

 徐々に脳裏にソレらが何なのかが“白騎士”を製造する前に見た夢と同じように過ぎっていく。

 しかし夢というには見覚えのある気がする感覚が、その光景を夢ではない何かと認識させる。 大事にしまわれた引き出しを開きソレを思い出すかのように確認していると言ったほうが近い、そのように束には感じられた。

 

『邪魔! そこを……どけっ!!』

 

 杖のようなソレを前に向けると周囲に淡い光を放つ塊が複数生まれ立ちふさがる障害物に飛んでいき、光の塊はその装甲を貫通し爆発――薄暗い通路を爆炎で照らす。 そのせいか束が身に纏った白い防護服が美しく目立つ。

 ――凄い……。

 どうにも束の目には自分が着ている服に似た何かにしか見えないが、ソレが“フリーダム”のシステムを応用した機体であることを徐々に理解してく。

 また唐突に壁から展開された殺傷兵器等を束は身体を捻り射線から外れることで避けると、杖のようなモノの先端から光を伸ばし通り抜けざま殺傷兵器を斬り払い壊していく。 まるで“フリーダム”が見せたラケルタビームサーベルによる殺陣を思い出させ、今見ているソレが紛れもなく“フリーダム”に影響されていることを確信する。

 

《お義母様!》

 

 そしてようやく今見ている光景は“白騎士”の時と同じ現象であることを認識し、その手に持っている杖状の物体が今後製造するであろう“白騎士”と“フリーダム”を参考にして作られた機体である事に気が付く。

 まるで別人を見ているかのように、その束の動きは戦闘に対し洗練されており所々で槍術のような武術が垣間見られた。

 ――これが多目的面制圧兵装搭載型試験実証機……。

 知らないはずなのに知っている、その不思議な感覚に驚きを隠せない。

 

『数だけいたって!!』

 

 前方の暗闇から強い横雨のように飛来する実弾を機体周囲に散布し引き寄せることで展開された、当初の目的とは使用目的が異なるフィールドが弾く。 そのために束の動きは止まることはなく先程と同様に通り抜けざま先端に展開された光の刃――ビームサーベルが迎撃機能を破壊した。

 流石に止めることができない判断したのか目の前で防護隔壁が起動し道を塞いでいくが、それでも束は止まることはなく徐々に加速する。

 

『……貫く!』

 

 静かに、それでいて力強く呟くと顔を引き締めながら衝撃に備え――今までの飛行速度が嘘のように速度を上昇させ、まるで長距離空対空ミサイルのように飛んでいく。

 刃先は伸び束を守るかのように先端部後方の排熱口からは防御機構を強化するためか光を撒き散らし――そのまま防御隔壁に刃先を押し付け強引に貫いた。

 速度が衰えることもなく何度も繰り返し防御隔壁を貫き続けていくが、その身体や機体には目立つ傷が見当たらない。

 自分自身なのだろうが、その光景に感心していると唐突に急制動をかけ上昇し不規則に滞空位置を変えていき次の瞬間、束が先程まで滞空していた場所を緑色の光条が通り過ぎる。

 いつの間にか出た広い空間を最大限に使い次々と幾重にも伸びる光条を避け続け――やがて壁に着地するかのように足をつけると跳躍し先端に展開される光の刃を振るうも刃は空を斬った。

 

『Quod est ad adherebit ad array donec movere cur impulerit differents? Cladis origo Tametsi faded lutum per differents. Quid, vos volo a uidissent array of populus?』

 

 またも聞きなれない言語に束は顔を顰めるが、問いかけられたであろう束は返答する意思を見せず光条を避けながら急旋回し再度、その刃を突き刺そうとする。

 僅かに“フリーダム”を思わせる漆黒の機体は左腕に装備された楯らしき防御機構で刃先を受け流し、対する束は致命打を与えられないと瞬間的に察したのか持ち手を前面に押し出しつつ加速の勢いをぶつけ競り合う。

 

『Intellegere non possum. Asperitas, si aperta ad presence're circa clades accidat. An plures sunt non maximus res est différents?』

 

 圧倒的な威圧感に後ろで見ている束ですら危険を感じる。

 力押しでの突破が不可能だと考えたのか競り合うのをやめ後退し、天井付近まで飛び上がると障害物を破壊したかのように光の塊を生み出し砲撃し始めた。

 

『……いる。 数え切れないほど……沢山いる』

『Si quid, differents take incomprehensibilis moribus?』

『理解してもらうつもりもされるつもりもない! ただ私にとって一番大切で大事な人は何時も、どんな事があってもそばにいてくれた!! 一緒にいたい、一緒にいると楽しい、一緒にいると嬉しい――そんな好きの気持ちを、くだらない理由で諦められるはずがない!!』

 

 それは紛れもなく愛の言葉で――そう真っ直ぐ口にする束を本当に自分自身なのであるか疑ってしまう。 今の自分には無理だろうと思いながら、何故かリリィの事を想いながら同じことを口にする自分自身を簡単に想像できる。

 

『私がリリィちゃんを想う気持ちに嘘偽りなんかないんだ!!』

 

 これが予知夢の一種であるのなら、束は何時か来るであろう未来で同じことを口にするのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ね、束! 起きて束!!」

 

 遠くから叫ぶかのようなリリィの声に束の意識は覚醒する。 手で揺さぶられているのか身体が強く揺さぶられ、その手が硬いこともあり痛みが生じた。 そんなに強く揺さぶらないで欲しいが、リリィの声が心地よく痛みが痛みと感じない。

 しかし耳に届く異質な音に目を覚まさないわけにもいかなかった。

 ゆっくりと目を開けると、そこには思い描いていたリリィの顔ではなく“フリーダム”の頭部が束の顔を覗き込んでおり思考は急激に覚醒していく。

 

「よかった……」

 

 一体何が起きたのか理解ができないが軽く辺りを見渡すと、旅客機の座席等が銃撃を受けたかのようにボロボロに崩れていた。

 ――そうだ、私たち……。

 スーツを着た外国人に話しかけられリリィの対応によって運良く飛行機に乗れたのだ。 全便欠航しているのは日本だけで、他の国は徐々に規制を解除し運行を許可しているらしい。

 話が上手く行き過ぎすぎるかもしれないが乗れるのなら乗ってしまおうというリリィの思惑に束は同調し日本から飛び立ったわけだが、何故リリィは“フリーダム”を展開しているのだろう。

 これではまるで飛行機が襲撃を受けたみたいではないか。

 

「一体何が……?」

「……カーテンが全部しまっていたせいもあって私もわかんない。 だけど、あの激しい揺れに爆発音――そして銃弾の雨は、どう考えても攻撃を受けたんだと思う」

 

 混乱している頭ではリリィの言葉を理解ができなかったが、おそらく何者かの襲撃を受けたという認識で問題はないのだろう。 しかし一体何の目的があって襲撃される必要性があったのだろうか。

 考えられるのは二つ。

 一つ目は先の事件で発射された弾道ミサイル同様に何者かが無差別に行った襲撃。 二つ目は篠ノ之束、もしくはスカーレット・リリィに対する殺害目的による襲撃。 しかし一つ目の行動理由は二つ目の行動理由と酷似しており実質、何者かが篠ノ之束及びスカーレット・リリィに対し殺意を持った襲撃行為――ということとなる。

 つまるところ束かリリィを殺害しようという何者かの思惑が、この惨状を引き起こしたと見て間違いはない。

 

「私は相転移装甲のおかげで大丈夫だったけど、束は……ソレのおかげで大丈夫そうだね」

 

 ソレと言われ胸元から妙な光を放ち存在を誇示している試験機――それが緊急展開したシールドバリアシステムによって防がれたようだ。 “白騎士”とは別のコアに直結させ携帯できるサイズにスケールダウンさせた束お手製の防衛手段である。

 “白騎士”にも搭載した“Passenger Protection System”――登場者保護システムとして搭載されている一つで、センサーによって周囲から一定の速度で向かってくる実体を持つ物だけを防ぐよう設計されており、将来的にはアメリカとイスラエルが共同開発している戦術高エネルギーレーザーをも防ぐようにしたいと思っているものの、今の束にとってデータが足りなく未だ実体物のみの設計となっていた。

 ――あれ、でもコレ動くっけ?

 しかしソレは“白騎士”とは違いコアのみを直結させた代物で――実を言えば篠ノ之神社で“ジン”に襲撃され“フリーダム”に守られながら展開した際、エネルギーを全て使用してしまい残量がない状態になっていた。

 

「うん……そうだね。 コレのおかげだね」

 

 だが着ているスーツは多少破けていたりするも束はリリィに守られることもなく生きている。 しかし“Passenger Protection System”が使えないとなると一体何に束は守られたのか――なんて考える必要もなく、束には心当たりがあるソレをポケットの中で握り締めた。

 物心ついた時から近くに存在していた赤い宝石をしている何かが、おそらく束を守ったのだろう。 調べても理解ができないというよりも解析ができないソレは先の夢で束が持っていたようにも思え、自然とソレが守ってくれたのだろうと思える。

 

「銃撃はやんだけど、あの爆発でBowing(コレ)は飛べないだろうし……そもそも緊急着水しちゃってるしね……」

 

 どうやらその衝撃で束は前の椅子に頭を打ち付け気絶したということらしい。 間抜けそうな話ではあるものの、当然といえば当然の結果だ。

 旅客機はエンジンなどのトラブルによって近くに滑走路等がない海上では緊急着水をしても良いという対応となっており、実際2009年1月15日にニューヨーク市マンハッタン区付近のハドソン川に、ニューヨーク発シャーロット経由シアトル行きのUS Airways(エアウェイズ)1549便が不時着水している。

 原因は両エンジン同時のバードストライクによって機能を停止したことによる飛行不可。 速度及び高度維持が困難となったため近くの空港の滑走路ではなく着水を選んだという事故は、まだ束の記憶にも新しい。

 

「浸水が始まってるから早く外に出るよ。 どうせ日本から、それなりの距離だし“フリーダム”を使っても気がつかれないはず」

「わかった……んだけど、どこから出るの?」

 

 既に機体後部は完全に浸水しており脱出シューターは水の中で、浸水速度から着水の衝撃によって主翼が無くなっている可能性もあった。

 

「あと私……深い海が苦手なんだけど」

「はいはい。 “白騎士”を作っておきながら、そんな弱音吐かないの」

 

 そう流しながら“フリーダム”は近くにある旅客機の装甲をラケルタビームサーベルで切り裂き束を安全な場所に避難させると、そのまま浸水した機内に戻り脱出シューターを海水の中から引きずり出す。 旅客機から安全に避難できるよう備えられている物であるが、緊急着水の際は救命ボートとして機能するので束にとっては喜ばしい物であっただろう。

 既に救命ボートになりかけていたため滑りながら降りると、リリィも“フリーダム”の展開を停止し束の横に降りる。

 

「これならいいでしょ」

 

 呆れながらも気遣うリリィに束は頷くしかできなかった。

 

「というか“白騎士”は無いにしてもコアがあるのなら滞空システムも作れたんじゃないの? PIC Systemだけあれば……」

「コアがあっても出来ないことはあるよ……。 コレだって“白騎士”で行ってた同期実験用の試作コアだし」

「……そんなこともやってたんだ」

 

 リリィと出会う前に行っていた実験の一つで、元々はプロトモデルの“白騎士”に搭載していたコアが微弱な変化を見せ始め機体に干渉し始めたことが原因で、機体保護のため一時的にコアを入れ替えたことが発端だった。

 機体への干渉は収まったものの今度はコア同士の遠距離間通信が起きてしまい何かしらに利用できないと考え始めた束は、同じレベルの変化が見られるまでコアを“白騎士”に搭載し確認を取ると――そのまま搭載したままプロトモデルの“白騎士”に起きているコアの干渉を止めることなく記録を続け、その結果――コアが登場者の最適になるよう機体のプログラムを書き換えていたことが判明。

 それを正確に調べていくと量子化する際に順位付けして展開速度等を僅かながらであるが早めており機体を変質させていたことが明らかとなったのだ。

 おそらくであるがコアには量子変換するだけではなく、もっと別の本質があるのではないかというのが今現在、束が問題として調べなければいけない事となっていた。

 

「ところでリリィちゃん」

「……言わなくていいよ、気が付いてるから」

 

 遠くから近づく影、そして上空で鳴り止まない音にリリィは頭が痛くなるような表情で顔を上げる。

 まるで銃撃音のように断続して聞こえる音は馴染みがないかもしれないが、テレビのニュース番組等で聞かないことはない。 だがプロペラが回転する音の重さが違うように聞こえた。

 ――直に聴く音とテレビじゃ違うってことかな……。

 そう思いながら束は見慣れない形をしたヘリコプターを眺め続ける。

 

「ちょっと、古臭い気がするけど……あれ、こっちに落ちてこないよね?」

「あのね、束……。 確かにUH-1は1959年に採用された半世紀近くも前のヘリだけど、まだまだ使ってる国はあるし骨董品ってわけじゃないから……」

 

 ベトナム戦争等で活躍した“ヒューイ”という愛称を持つアメリカ合衆国のベル・エアクラフト社が開発したヘリコプターは後継機種となるUH-60に置換えが進む中、日本の陸上自衛隊を含め多くの国で未だ使われている機体だ。

 それは何回もの改修や改良設計によって発展し使い続けられることから、そう容易に墜落する事は無く――そもそも1962年に改良型として作られたUH-1Bですら総積載量は1,451kgもあり束が思っているほど耐久性能は低くない。 

 ――ん、あのマーク……ドイツの!?

 リリィと出会いドイツ連邦国防省連邦防衛軍を調べた時に見たロゴマークを見つけ束は背筋が凍っていく気がした。

 

「……大丈夫?」

 

 そんな束に気がついたのかリリィは優しく問いかけるが、束の心境を理解していれば慰めにもならないだろう。 なにせ先の事件で束は“白騎士”を扱いFlabellum隊と交戦したのだ。

 既にFlabellum隊がドイツ空軍所属の部隊であること理解しているため、上空に飛んでいるヘリコプターも同じに見えた。

 

There's two of them! Because safely, or help now(そこの二人! 無事か、今助けるからな!!)!!》

 

 旅客機が墜落してから時間は短く救助が来るには早く、またドイツが救助に来るべき場所ではない。 ならばヘリコプターはFlabellum隊と同じところから飛んできたと考えるのが妥当である。

 リリィ自身、相手を知っているからこそ少し気楽かもしれないが、束にとっては軍人とは初めて感じた恐怖の対象なのである――まして、それが恐怖心を植えつけられた相手となるならなおさらだ。

 上空で動きを止めるとヘリコプターからロープが下ろされ一人が救命ボートに下りてきた。

 

Are there any injuries?(怪我はありませんか?)

 

 見るからに鍛えているであろう軍人に束はリリィの影に隠れるように下がる。

 

You have what?(どうしました?)

……I'm sorry.(……ごめんなさい。) She, one such rising fear.(彼女、怖がりなもので。)

 

 別に怖がりではないが今の心境を口にするというのなら不安に当たるため、やはり怖いのだろう。 表情には出さないが身体は正直に怖いと表していたようだ。

 

Please raise the helicopter her first.(彼女を先にヘリに上げてください。) I do not care later.(私は後で構いません。)

No, please raise this child before.(いえ、この子を先に上げてください。)

「……何を言ってるのさ? 束が先に上がるの」

「いや、リリィちゃんが先に決まってるでしょ?」

 

 何かを疑っているようだが、そんな気持ちは欠片もない。

 救助に来た男性も少し苦笑いでリリィと束の顔を交互に見ているが、何を思っているかまでは理解できないだろう。 お互いを思いやっているように聞こえるだろうが、束は知り合いのいない軍人だけの小さな空間にいたくないだけであって先にリリィを上がらせようとしているのだ。

 

Here I will let you decide the person who came to the rescue(ここは救助しに来た人に決めてもらおう。). I want help to earlier which way(先に助けたいのはどっち!?)!?」

「Ihr, bevor ich auch, weil es militärisch.」

 

 今まで英語を口にしていたリリィが突如、束の理解できないドイツ語を男性に対し口にしたため二人の顔がリリィへと向けられた。

 

「Large'm sagen, was zum Teufel. Denn Sie können……」

「Scarlet Eye angeblich tot in vor ein paar Tagen sein.」

 

 その言葉に呆然としていた男性の表情が一瞬で驚愕に変わる。

 何を言っているか束には理解ができないがスカーレットと口にしたことから、おそらく自身の素性を明かしたのだろう。

 スカーレット・アイのTACネームで知られる管制官、スカーレット・リリィは紅い瞳をしており少女である――そんな噂が軍内部で存在しなかったわけではない。 そして、その人物は数日前に原因不明の事故によって死亡したという噂もあった。

 なにより先程から束は何度もリリィと口にしているため、男性は目の前にいる少女は本物ではないのかと思い始めていく。

 

「はい、束が先に行くことが決定したよ」

「ズルい! 今リリィちゃん絶対なにか言ったよね!! 絶対、自分が有利になるようなこと言ったよね!?」

She was decided to go ahead.(彼女が先に行くことが決まりました。)

 

 わざわざ理解できるように英語で口にするリリィを睨みながら、渋々と束はヘリコプターに救助された。

 ――リリィちゃんの意地悪……。

 近くにいるのは軍人だが戦闘機に乗っていない――その点では恐怖心を感じることはないのだが、同じ人間だとすると今にも逃げ出したくなる。

 そんなことを思っている合間にもリリィは救助されヘリコプターの中に入り束の隣に座った。

 

「ほらほら、怖くなかったでしょ?」

「……そうだけどさ」

「Es wäre ignoriert wurden, wenn Sie bewusst, Scarlett sind.」

 

 若干茶化しながら問いかけるリリィを見て頬を膨らませて拗ねるが、そんな暇はヘリコプター内で待機していたクラウスによって壊された。

 

「Oh, es ist beschädigt.」

「Das ist normal. Außerdem ist es vor allem ein Safe.」

 

 そのやりとりが懐かしいのかクラウスの表情が少しだけ柔らかくなった気がする。

 何を話しているか理解はできないが雰囲気からして悪い方向に向かってはいないのだろう。

 

「Ihr als das? Aber es scheint, gewesen vertraut wahrscheinlich aus früheren sprechen können?」

「Es ist ein Lebensretter, die mir geholfen. Es wurde jedoch brachte, weil es keinen Ort mehr, wo er lebte rückläufig Erweichung Raketen.」

 

 呆れながらリリィの肩を叩くとクラウスは束の方を向くと頭を深く下げた。

 

「スカーレットを助けていただき感謝します」

「……あ、え……日本語?」

「一応、スカーレットのためにと喋れるようにはなっていたんですよ」

「……初めて知ったんだけど」

「いつもお前が合わせてくれてたからな。 下手な日本語ですれ違いが起きても困るだろう?」

 

 今までドイツ語でしか喋っていなかった相手が急に聴き慣れた日本語を口にし束は呆然としてしまう。

 様々な国籍の人と話すためには母国語以上に英会話ができないと軍人は困り――そして束は得意でもない英会話に内心焦っていたのだ。 この予想外の展開は、その気持ちを少しだけ沈ませるのには十分だった。

 

「私がリリィちゃんを助けたのは偶然です。 そんな感謝されるほどのことじゃ……」

「これでも俺達の子供みたいな上官ですから失うわけにはいかないんですよ。 ……しかしスカーレット。 お前、よくあんな怪しい旅客機に乗ったな?」

「ん、怪しい?」

 

 頭を撫でようとするクラウスの手を防ぎながらリリィは外に向けていた視線を戻す。

 束自身も薄々は怪しいと感じていたが他の人から見ても怪しかったらしく、どのような理由で搭乗していたのか怪しまれた。

 

「未だ旅客機の離陸許可は、どの国からも出ていないんだ。 それにアレは日本の長崎空港発ソウル仁川(インチョン)国際空港行きだろう?」

「……待って。 聞きたくないけど待って。 なんか、まるで別の場所にいるみたいに聞こえるけど……ここ、どこら辺なの?」

「フィリピン海」

 

 その言葉をリリィが何か気がついたのか遮り問いかけるが、帰ってきた答えに束も呆れてしまう。 一体、何処に向かう予定の旅客機に搭乗したのだろか。

 ――まさかね……。

 乾いた笑みを浮かべながらリリィの方に視線を動かすと、束と同じように頬を引きつらせていた。

 同じ事を思っているのだろう――あの旅客機は“白騎士”の開発者である束を捉えるために何者かが送り込んだのではないかと、そう考えれば難なく搭乗できた理由にもつながる。 そうなると本来のフライトスケジュールで繋がっていた大韓民国に目が行くのだが、現在地がフィリピン海という時点で大きく空路が逸れているため可能性は低いだろう。

 もしくは旅客機を操縦することができる第三者が行ったのかもしれないのだが真相は既に海に沈んでいた。

 

「なんにせよ旅客機の墜落で各国を刺激してしまったんだ。 藪をつついて蛇を出すのはゴメンさ……」

 

 フィリピン海付近といえば特に問題がないように思えるが中華人民共和国の主張している第一列島線と呼ばれる軍事戦略上の概念――簡単に言えば領有権が存在する。 これは東シナ海の尖閣諸島を始めとする南シナ海、果てはマレーシアの国土付近までを領有権としており、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、フィリピン、台湾、そして日本と激しく警戒し対立をしている場所なのだ。

 また中華人民共和国は南シナ海を開発する様子を見せており西沙(せいさ)諸島を実効支配するための拠点作り、又周辺の埋め立てや滑走路の配置等を水面下で勧めているとの情報もある場所である。

 そんな場所に平穏はない。

 何処の誰が動かした旅客機かは知らないが第一列島線付近で航空機が墜落したということは、先の事件と自然に関連付けられ中華人民共和国を始めフィリピンや日本も警戒態勢――もしくは臨戦態勢に入っているだろう。 そんなところをドイツ軍籍の正規空母が航行しているというのは話をつけていても目を付けられるのは当然のことなのだ。

 下手をすれば旅客機撃墜の実行犯と思われ包囲、撃沈命令が起きていてもおかしくはない。 “Vorpal”は正規空母であって航空機のように動けるわけでも、まして空を飛べるわけでもなく、ただ洋上に浮かぶ的といっても差し支えはないだろう。

 

「そうだね……ん、あれはシャルル・ド・ゴール? いや、それにしては甲板が大きすぎる気が……ミニッツ級なわけないし遠くからじゃ分からないね」

 

 クラウスの心配をよそにリリィは遠くに見える“Vorpal”を見つけ目を細め何か考え始める。

 

「結構、危険な状態なんだよね?」

「……緊張感がないな。 スカーレットらしいといえばらしいんだが……似たようなものか。 そういえば、まだ自己紹介をしていなかったな――クラウス・ノアだ」

「あ、えと……ハルです」

 

 篠ノ之束と名乗ったら後々、厄介事にしかならないと即座に悟った束は適当に名乗り――何故かハルという名前にリリィは吹きそうになっていた。

 

「……仲、いいですね」

「ん、羨ましいか?」

 

 頷くことで肯定する。

 自分の知らないリリィを知っているということに対して嫉妬しているのだろう、そう思い至るのには時間はかからなかった。

 

「別に仕事上の都合で割と話すからね……。 仲がいいとかそういうのじゃないと思うけど」

 

 そう話し合っている合間にもヘリコプターは“Vorpal”の飛行甲板へ静かに降り立っていた。




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✔戦術高エネルギーレーザー 【技術】
 アメリカとイスラエルが共同開発している対空レーザー兵器。
 1996年7月18日の協定により開発が開始され二年後の1998年には発射試験を行い、2004年に行われたテストでは複数の迫撃砲弾の撃墜にも成功している。 弾薬というものが存在せず“フッ化重水素レーザーによる波長3.8μmの中赤外線域化学レーザー”であるため大気圏内での減衰が少なく発射コストも低い。
 2010年に行われたデモンストレーションでは、約3.2Km先を時速480Kmで飛行する無人機四機を数秒で焼き払ったといわれている。

✔US Airways 【企業】
 アメリカ合衆国アリゾナ州テンピにある航空会社。
 国内で四番目に大きい航空会社で知られており保有器材数は360、北米、中央アメリカ、西インド諸島、並びにヨーロッパの241都市で運用されている。
 1979年にアレゲニー航空がUSエアウェイズに社名を変え、アメリカウエスト航空に2005年吸収される形で合併した。

✔コア同期実験 【技術】
 “白騎士”に使用したコアを解析するために行われた実験。
 未解析であるコアは“白騎士”を稼働させる事に微細な変化を機体に促すため、それらを解析するためプロトモデルに搭載し実験を行った。 また“白騎士”に使われているコアとの相互リンクが確認された後「機体に現れる変化」を重要視した実験に切り替わっている。

✔UH-1 【機体】
 アメリカ軍で採用されているベル・エアクラフト社が開発したヘリコプター。
 1959年に採用されベトナム戦争等で活躍し現在は後継機種のUH-60に置換えが進んでいるなか未だ多くの国が使用しており、ニューヨーク市警察にも配備されているらしく改修を受注したとされている。 
 日本では富士重工業がライセンス生産を行っており、1962年から陸上自衛隊向けに製造。



《サーニクス・オルソン》

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