「イージス・ハルフォーフだ。 ダニエル・ダッシブ中将との面会予定がある、取り次いでもらえないか」
「はい、ではこちらに所属と認識番号等を願います」
「……もう一枚頼む」
受付で紙を二枚受け取ると二人は迷うことなく必要事項を書き提出する。
「……はい、ハルフォーフ大佐にスカーレット少佐ですね。 失礼ですが少佐の方は免許証等の身分が証明できるものをお持ちですか?」
「何か問題でも?」
「いえ、その……実に言いにくいことなのですが。 ハルフォーフ大佐の娘様ではないですよね?」
その言葉でリリィとイージスは何が言いたいのか理解した。
お互い顔を見合わせ確認するとリリィは財布を取り出し運転免許証を差し出す。
それもそうだろう――そもそもスカーレット・リリィという人物は存在しない作られた席で、まして子供のような姿で軍人であるというのは違和感でしかない。 疑うのは当たり前のことだ。
「これでいいね」
戸籍同様に偽造した物であるが正式に国から発行されているものであるため怪しまれることはない。 ただ問題があるとすれば偽造したリリィの戸籍で作られているため、年齢が二十二歳と無理な設定にされていることだろう。
――まぁ、モルキオ病なんてあるぐらいだし大丈夫だとは思うけど……。
身体の発育が遅延する遺伝性の病気の事である。 それ以外にも世界には成長が止まったまま成人を超えてもなお子供の姿で居続ける人間が少なくはない。
「確認しました、申し訳ありません少佐。 ……中将、ハルフォーフ大佐とスカーレット少佐がお見えになりましたが、お通ししてもよろしいでしょうか?」
内線で確認を取り即座に許可が下りた。
ここにいる誰よりも階級が高いというのに、こうもあっさりと許可が下りたことにリリィは若干呆れてしまう。 面会の予定を入れていたとは言え場合によっては空軍総監の席に座っていたはずの人物が、たった二人を待っているという状況は妙なものがある。
――別に何かあったという感じはしないね……。
廊下を歩きながら観察するも特に問題が起きているというわけではなく、ごく普通に仕事をしている人達がいるだけだ。 すれ違うたびにリリィへ視線が集まるという事はあるものの、それは大きな問題とは思えない。
先日起きた事件で忙しいのではないかと思っていたのだが、見渡す限りソレに関する仕事をしている人間はいないだろう。
――この様子じゃ“ジン”に関する事は一部の人しか知らないと思ったほうがいいのかな……。
なんとなく呼び出された理由の見当がつき、疑問となっていた事を聞く良い機会だとドアの前で止まる。
「第五空軍師団所属イージス・ハルフォーフ、並びに第一空軍師団所属スカーレット・リリィ両名、出頭いたしました!」
「……入れ」
「失礼します!」
ドアを開けると薄暗い室内で自身の手元だけを照らし書類を読む男の目が二人に向けられる。
「久しぶりだな大佐、少佐も元気そうでなによりだ」
「中将もお変りないようで」
ダニエル・ダッシブ――空軍指揮幕僚監部において最高幹部である空軍総監の地位に立つことが許された空軍中将は、そんな二人を見て今まで持っていた書類を机の上に置き立ち上がった。
何を読んでいたのか気になったが、それよりも室内の暗さに気になりながら二人は机の前まで移動しダニエルの反応を待つ。
「そうだな……何時も通り楽にして構わない。 今回呼び出した話は少し長くなりそうだからな」
そう言いながら机の上に纏められていたファイルケースを持ち、二人の後ろにある机の上に置き椅子に座った。
リリィ達は左官であるのに対しダニエルは一つ上の将官、この建物にいる誰よりも責任がある椅子に座っているのだ。 イージスが昇進したところで立場が並ぶ訳もなく、その権力は簡単に言ってしまえば――“Flabellum”隊の設立から国の書類を
当然の事だが地位を剥奪や停止させることや、その者の業務を止めることすら簡単な事だ。 複隊手続きを終えたリリィを第一空軍師団の席に戻させず事務整理しか行えないようにしたのも本当に簡単な事なのだろう。
そんなダニエルに呼び出されたのがリリィとイージスだった。
「急に呼び出してすまないな。 早急に済ませなければいけない案件が幾つか出来てな……ま、気楽に聞いてくれ」
「……いままで気楽に聞けた案件何かありましたか?」
少しばかり嫌な予感がしリリィは少しだけ不貞腐れた声を上げる。
「そう言うな少佐。 確かに簡単に片付くようなら、こんな呼び出し方はしないさ……」
ファイルケースの中から数枚の写真を取り出し確認すると、そこでダニエルは二人に座ることを勧めた。
一体何を見ているのか訝しみながらリリィは目の前にいるダニエルを見つめるが、いくら見たところでモノが透けるわけはない。
「今日呼び出したのは先日の件だ。 ハルフォーフ大佐と“Linie”隊が交戦した人型兵器について方針が決まったため、その報告が一つ……」
束の話では今回の襲撃で“ジン”の姿を確認できず、“フリーダム”のデータベースから検索した結果、機体名“シグー”であることが判明していた。
“ジン”をベースとしたのかは定かではないがデータベースでは後継機としての位置に置かれており、スラスターの増設と高出力化によって機動性、運動性能が大幅に上昇している。 同口径の重突撃機銃と近接格闘武装として重斬刀を装備しているのは変わらないが、7mmバルカンシステム内装防盾を基本装備している点で“ジン”には不可能であった防御という手段や弾幕を張ることによる迎撃が可能とされているようだ。
「提出された報告書には目を通したが幕僚監部では早急に対応するべきだと異声が多く、そのために“Linie”隊と“Flabellum”隊の数名に出向いてもらったわけだ」
「……それにしては“Linie”隊の姿が見当たりませんが」
室内へ入った時にはダニエルしかおらず、今ここにいるのは三人だけ――ふと気になりイージスは疑問を素直に口へ出す。
「既にミック中尉達からは話を聞き終えている。 実に興味深く、それらが作り話であるのならどれだけ気が楽か……ああそうだ。 これは数日前に我が国の領空内を飛行していた所属不明気を航空偵察隊が捉えた時の写真なのだが、報告書に書いてもらった人型兵器なのではないか確認してくれないか」
人型兵器と聞きリリィは断りを入れるもダニエルの返答を待たず即座にファイルへ手を伸ばし閲覧し始める。
纏められた複数枚の内、一番上にあったものを数枚めくると確かに報告書と共に収められている写真は、はっきりと写ってはいないものの“ジン”に似た雰囲気を持つ何を捉えていた。
――これは……。
そこ記されていた日付にリリィは気がつき目を細める。
「丁度、大佐達がキール軍港に帰ってきた日だな。 それ以外の写真にも似たような不明機が撮れている」
少し驚いたイージスに対してダニエルは言葉を続けた。
「そいつを撮った者が言うには突然そこに現れたと言ってるんだ」
「突然?」
「そうだ……。 何もなかった空間に移動した形跡もなく、ただそこに最初から待機していたかのようにな」
こう言ってはなんだが、何度も領空侵犯をされている事に仕事はしているのかと問いただされている気分になる。
当然の事だが国民を守るために存在しているのがドイツ連邦国防省連邦防衛軍だが、こうも国民を危険に晒しているような結果は体勢の見直しを考えなくてはならないだろう。
しかし突然現れた現象は今の技術で実現することは不可能だが、リリィには一つだけ心当たりがあった。
――Mirage Colloid……
可視光線や赤外線を含む電磁波を歪め、レーダー派を吸収するガス状物質を展開し磁場によって機体周囲に引き付けることで完全に見えない状態になることを可能としたステルスシステムである。
ガス状物質を散布することにより可視光線等は機体を避けるように周りを通過し、解除時には見えない
第五世代ジェット戦闘機のようなステルス性で探知されず接近されたというのなら話は別なのだが、もし“ミラージュコロイド”を使用され接近された場合では特定が難しい。 はっきり言ってしまえば早期対応は不可能に近いのだ。
「記録はされていたが実害はなく曖昧であったため存在しないモノとして問題になることはなかった。 だが先日の一件で国防省では人型兵器を
“ボギー”――敵機の可能性がある所属不明機を示す単語だ。
「呼び出した二つ目の用件だ。 スカーレット・リリィ少佐、本日を持って第一空軍師団から第五空軍師団へ異動し、そこで発足する未確認兵器対策部隊に編入される航空隊を指揮してもらう」
「……“AWACS”は第一空軍師団、それもガイレンキルヒェンにしかありませんが、どう指揮を取れば?」
「あるじゃないか、少佐が“マークスホルスト”で製造しているのが……」
未だ飛ぶことすらままならない機体を使うという事にリリィは目を見開く。 捕らぬ狸の皮算用とはまさにこの事だろう――とはいえ相手は空軍中将、権限一つで開発を打ち切り実機として使用する可能性もある。
「そう構えるな。 基本的にはガイレンキルヒェンの“AWACS”に航空管制は頼むが、もしかしたら自由に動くことのできる管制機が必要になるかもしれない……。 そのために第一空軍師団から席を移させたのだ。 当分は“マークスホルスト”で機体の方を仕上げてくれ」
それはリリィに対し早急に完成させろという通告だった。
「拒否は認められていない。 これは決定事項であり、そのために少佐へ大きすぎる権限を一つ任せたのだ。 ……話を戻そう」
そう言いながらダニエルは別のファイルから複数枚の写真を取り出し机の上に置く。 その全てに“ジン”と類似した人型の機体が写っており、その数に――また多様な種類にリリィは写真へ顔を近づける。
様々な装備が追加されているが見間違うはずもなく、“ジン”を
特徴的なのは両肩に追加装備され、それぞれが別方向に向けられた何かは一件意味がないようなものに思えるが、カラーリングが視認性を著しく低下――つまり目立ちにくい迷彩色である事から、レーダー探知系の装備なのだろう。 索敵による探索か望遠による長距離狙撃か、そこまではリリィでも理解はできない。
「これらについて交戦した大佐の意見を聞きたい」
「残念ですが報告書として提出した以上の事は何も……。 なにより私は……」
「別に同じことでも構わん」
「……それでは、私見も混じってしまいますが先日交戦した兵器について報告させていただきます」
何のための報告書だと言いたそうな顔を堪えながらイージスは姿勢を正す。 だが結局のところ先日の一戦では高等訓練飛行中だったため交戦したわけではなく、報告書は“Flabellum”隊としてのモノであるためイージス個人の報告ではないのだ。
「まず特筆すべき点として軍用機では行うことの出来ない機動で戦闘行動を行えるという事でしょう。 スカーレット少佐の報告ではT-38を使用していたとは言え巡航速度が“タイフーン”よりも早く、また複雑な空中戦闘機動を行わずとも脚部に取り付けられた推力装置によって急制動から方向転換までを可能とし撃墜目前というところまで追い詰められました。 ただ同じ距離を飛行するだけならば、おそらく“ラプター”等の第五世代ジェット戦闘機には遠く及ばないと感じ取れます」
確かに空気抵抗等の関係により人型は同じ距離を軍用機よりも早く飛ぶことはできない。 しかし、それを含めても巡航速度は“タイフーン”より優れている時点で脅威でしかない。
空を飛ぶために空気抵抗を極限まで低くした乗り物が、その正反対にいるであろう兵器に劣っているのだ。 恐怖を感じるのは仕方がないことだろう。
「確実な検証をしたわけではありませんが“Linie”隊のようにエレメントを組み対応する、私のように
「人型である点はどう見ている。 我々にとって驚異となりうるか?」
「……手足ですが先程も申し上げたように背面と脚部の二箇所に主な推力装置が複数装備されているため比較的安易に方向を変えることが可能でしょう。 また人型ということもあり撃墜は困難かと……」
「その点は私から説明させていただきます」
おそらくイージスも四肢の利点について気が付いているのだろうがリリィの専門でもある話だ。 頷くのを見てから少し置き補足し始めた。
「四肢とは人体の一部であり、それらに命令を送ることによって歩く、走る、掴む、蹴る、殴る等の行動を取ることが可能です。 もちろん人間はソレらを無意識に行っているため、動けと念じて動くわけでもありません。 ですがその無意識の内に人間は四肢によって身体のバランスを保とうとします」
「バランスを?」
「はい。 例えば右肩に重い荷物を背負うとしますが地球には重力が有り荷物はソレに従って下に落ちていきますが、右肩によって支えられ落ちることはありません。 しかしながら右肩だけに力を入れたところで荷物は次第に落ちていきます」
当然のことだが右肩だけに力を入れても荷物は落ちていく。 身体全体を使いバランスを取ることで荷物を落とさないように背負うことや歩くことが出来るのだ。
それを人間は無意識の内に行っており、意外と四肢の利点は歩くことや指先に向けられやすい。
「それと同じく軍用機に片方だけ搭載制限寸前まで装備をつけると補正することが難しく離陸することもままならなくなります。 また離陸できたとして常に重力によって機体は自然と回転してしまい正常な飛行を行うことは難しい。 その点、人型では人間と同じようにバランスを取ることができ、足があることで墜落することもありませんし手があることによって殴る、持つ、握る等の動作が可能という事によって兵装がなくなっても継続して戦闘行動を取れることも意味します」
「つまり戦闘能力が高いと?」
「……そもそも軍用機と人型兵器では比較になりません。 設計思想から違いますので」
制空権確保や対地攻撃等を空から行う事を目的として作られた軍用機に対し、様々な環境に対応できる人間という存在の利点を兵器とした人型兵器。 その設計思想が根本的に違うのは難しく考えなくとも理解できるだろう。
「それに加え人型でも空中戦闘機動は効果的で軍用機よりも無駄な時間を短縮でき、また手足を動かすことによって空中等でバランスを細かく変え機体制御……姿勢制御の方が当てはまるでしょうが、それを行なえる人型というのは航空戦においても有効でしょう」
「とはいえ人型ならば有利であるとも限りません」
唐突にイージスが割り込みリリィは顔を向けるも話すことは大抵話し終えたので背を少し下げ譲る。
「先日の人型兵器は我々の持つ銃器や刃物をスケールアップさせ装備しており間違いなく人型は航空戦闘でも有効と示しました」
「何か問題でもあるのか?」
「……失礼ながら先日の機体は世間で話題となっている“白騎士事件”時に現れた二機に比べ行動パターンが単調に思え、武装も構造上比較的扱いやすい物だけという点も気になります。 その結果、不明機の二機を我々は撃墜しております」
そのことについてはリリィも気になっていたことだ。
“Linie”隊と交戦していた未確認機の動きを見ていたが確かに動きに規則性があったようにも思える。 篠ノ之神社に現れた“ジン”同様に人間味がない行動は、やはり人が乗っているわけではないのだろう。
撃墜したとは言え破片や残留物すら残っていないせいで判断は難しい。
「それに対し天使は明らかな戦術を把握しており、米軍や“マークスホルスト”社が開発を進めているEMLを小型化して搭載しているようです。 この差は明らかなもので人型には何らかの負荷がかかるのではないのではないか、というような話が天使と比較した結果で出ました。 全くの妄想ですが先日の不明機は単純なプログラムでしか動かせなかったのではないかと私は思っています」
人の動きは無意識で行っている――先ほどリリィはそう言ったが、それを実際に書き記すと膨大な数となるのは間違いない。 歩こうと足を動かせば脳はバランスを保つため上半身を動かすよう命令し、身体は常に複数の部位を同時に動かす。
バランスを取るための姿勢制御を基軸にプログラムを作れば、それは間違いなく処理することができない膨大なプログラムとなるだろう。 処理できずに停止したりオーバーヒートしたりしては人型である以前に兵器として扱うことに問題がある。
それを回避するためには、どこまでプログラムを軽くし処理することができるかにかかってしまう。
もちろん多額の費用で処理能力自体を上げる手もあるが、そこまでして人型に拘る必要もない。 ソレを必要とするのは自軍の被害を出さず敵を殲滅する作戦ぐらいだ。
「なるほど興味深い……」
だが今の話が正しいという根拠もない。
なにより撃墜したら破片も残さず消えるという不明な点も残っている。 確かに想像での結論だ。
「今の内容について少佐の話を聞いてみたい」
「……私でなくともシステム集団の方が詳しい事が分かるのでは?」
「君に聞いてみたいのだよ……スカーレット・リリィではない篠ノ之百合の意見を。 誰よりも早く
時間が止まったような感覚がリリィを襲った。
ダニエルが束の事を知っているのか理解できず、ただ呆然と見つめ返すことしかできない。 頭の中では何故と繰り返し言葉の意味を読み取るも難しい事ではなく、リリィが束を匿っているということをダニエルは知っているのだ。
混乱する頭で相手の意図を把握するために喋ろうとするも上手く口が動かない。
「一体、何を……」
唯一口にできた言葉が全く意味を成さない時間稼ぎの一言だった。
「ハルフォーフ家で少佐と共に過ごしているハルという女性、それがあの“白騎士事件”の代名詞である“白騎士”を開発した篠ノ之束であり、それを知っていて少佐は彼女を匿うために日本から連れ出した。 あの青い翼を持つ天使をつかって……違うか?」
それはリリィが隠し続けなければならない爆弾の在り処を的確に暴く一言だ。
――一体どこで……。
束の存在については足が付くとは思っていたが、まさかリリィが“フリーダム”を保有しているということは気がつかれることはないと思っていた。 だが現実は違う――今、目の前でダニエルはリリィが“フリーダム”を使用し束を匿うために日本から連れ出したと口にしたのだ。
「何故という顔をしているな……」
当たり前だと口にすることなくリリィは表情を一転させダニエルを睨みつける。
「ハルが……騎士、だと」
「大佐も薄々感づいていたのではないか。 丁度いい……これが“白騎士”を開発した篠ノ之束の写真で、これがハルと呼ばれる女性の写真だ」
あの時の“白騎士”は束が乗っていたことにイージスは驚愕するも、予想はしていたのか落ち着いて今聞いた情報を整理していく。 そこに追加というふうにダニエルは二枚の写真を机に広げた。
一枚はリリィと出会う前の写真だろう――もう一枚は、耐Gスーツを着ていてイージスが端に写っていることから先日撮られたモノだ。
服装の違いはあるものの、そこには誰もが見間違える事ができないほど同じ人物が写っている。
「そんな彼女だが現在行方不明ということで極秘裡に捜索依頼を受けている」
「……どういうことですか」
「順を追って説明しよう」
そう言うとダニエルは立ち上がり元いた自分の席まで歩き、窓の外を眺めながら喋り続ける。
「事の発端である篠ノ之束が“白騎士”を開発して密かに情報を公開したのが約二ヶ月ほど前。 そこから“白騎士事件”時まで何があったのか正確なことは私にはわからないが、事件後に行方不明となっている。 日本政府は天使が攫ったという情報と共に各国へ捜索依頼を出しているのだよ」
予想していた事とは言え早すぎる展開にリリィは状況を打開しようと考えるも、もはや束の存在を知られていた時点でドイツに居る利点は消えた。 それほどまでに束の存在は追い込まれている。
どう現状を好転させられるか次第に考えは移り変わっていくも、その光景がリリィには全く見えない。
「他にも現地に居る諜報員からの報告もある。 そして私は先日の事件で提出された書類の中で彼女を見つけた……運が良かったとしか言いようがない」
「……もしハルが、その“白騎士”とやらの製作者だとして、中将は何をする気なのですか」
リリィにとって唯一の問題を口に出す。
「何もせんよ。 世界中から石を投げられるのはゴメンだ……」
それもそうだと納得しつつもリリィは警戒を緩めない。
間違いなくダニエルが口にした通り“白騎士”と同系列の機体がドイツに現れれば人々は束がドイツに居ると思うだろう。 それは国際社会で不利にしかならないのだ。
だからこそ束の存在を公にはできず“白騎士”を作らせることもできないはずだろう。
「スカーレット、答えてくれないか……。 ハルは何者なんだ!?」
「……言わなかったんじゃない……言えなかったんだ」
それは束と“フリーダム”の存在を肯定する言葉だ。
――最近こんなのばっかりだ……。
仕方ないと内心溜息を付きながらも、束によって予想外の事態が起こる事に少しだけリリィは楽しんでいた。
「……確かにハルは篠ノ之束と言う名前だ。 そして天使と呼んでる機体……“フリーダム”を使って“Flabellum”隊の前に現れたのは私だ」
「なぜ今まで言わなかった……というのは愚問か」
その圧倒的すぎる性能は今の世界を混乱させるだけの存在でもある。 リリィが自身に課した非開示の責務は親しい人物に銃口を向けてでさえ守らなくてはならない。
だが、そうやって守り続けた結果がコレだ。
「アレは強大な力だよ。 一目見てしまえば自制の効かない人間の手により悪用され、世界は混迷への一途を辿り……そして罪もない人々の血を焦がす。 それを防ぐための手段として私が使われないよう保有しているだけ……」
「それが少佐が言えなかった理由か……。 そこまで強大なのか?」
「“
生唾を飲む音だけが聞こえる。
核分裂動力――原子炉でも使われ現在最も多く存在する核動力であり、平常運転でも放射線被曝の危険や周辺の放射化等が起こり暴走の危険性もある物だ。
原子力空母や潜水艦にも搭載されており存在しており兵器としては見たことがないというものではない。 ただ戦闘機よりも小さい兵器に動力として搭載するということは前例がないだろう。
「そういうことです……。 仮に情報を取りたいと仰るのなら私は今すぐに展開し、ここから立ち去ります」
呆然とした顔から一転してダニエルは納得し肩の力を抜く。
「そんな技術いらん。 市民に何言われるかわかったものじゃない……」
「というか核分裂って、お前は大丈夫なのか!?」
思った通りの反応で少しだけ安堵の息を漏らす。
流石にデータを取りたいと言いだしたら迷うことなく展開していたが、まるで目の前に不発弾が置かれたかのような反応と我が子を心配するような言動に変わってないなと思うしかない。
「しかし天使の正体が少佐だということはいいとして、これからどうする気かね。 もう一人の彼女もそうだ」
「この写真の機体を製造している場所を徹底的に消していこうと思っています。 平和には必要のない存在ですから……」
「……お前らしいな」
「自分じゃよくわからない。 その為にはハルの……篠ノ之束の存在が必須です。 パイロットの適性は高い方ですし試作機のテストパイロットにと選ぼうと思ったのですが、なんとか私の近くに置いておくことはできないでしょうか」
まるで束を自分だけのモノであるかのような発言に、その場の空気が凍りつく。 少ししてからリリィは自身が口にしたことに気がつき小さく咳払いをして訂正をするも、何かを感じ取ったのか二人は気色の悪い笑みを浮かべリリィを見つめていた。
嫌な笑みだと思いながらも何も言わず頭を下げる。
「……しかしハルって凄いヤツだったんだな」
「どのような人物なのだ?」
「いつもニコニコ笑ってる中将好みのボッキュッボンな女性ですよ。 素直に美人だと言える程に顔もいいですし」
セクハラまがいな発言にダニエルは唇の橋を釣り上げ微かに笑う。
「よし今から面接しに行くとしよう。 この目で見ておきたい」
「言っておきますが、あれで十三歳ですから手を出したら犯罪ですよ……」
今度は室内の空気が止まった気がした。
用語設定
Sort:本文登場順
✔ダニエル・ダッシブ 【人名】
ドイツ連邦国防省連邦防衛軍において五大指揮幕僚監部に席を置く空軍中将。
第五空軍師団を指揮する人物で“
✔
ドイツ連邦国防省連邦防衛軍 第二空軍師団 第75戦闘航空団の愛称。
ネルフェニッヒ航空基地で新しく“
主な任務は敵勢航空機を対処し制空権を確保する防空任務。
✔
レーダー派を吸収するガス状物質を展開し磁場によって機体に引き付けることで索敵システムを無効化、また可視光線や赤外線を含む電磁波を歪め視認不可能な状態を作り上げるステルスシステム。
高い隠密性を持つが反対に消音効果は無く、移動時の噴射熱でガスが剥離してしまう欠点もある。
《ケイ・ダズグランツェ》
【挿絵表示】