世界とISと名もなき者へ Re:   作:葵 束

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《戦闘機の基礎》

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017 Development

 暗い格納庫内で“白騎士”にも搭載したシステムを使い束はプログラムを打ち込んでいき、その姿をモニターの光だけが照らす。

 開発段階で更に構造上、機体と切り離すことができるコクピット部に仮付けのシートを付け外部に漏れないよう専用プログラムを直に書き込んでいく。 当然バックアップとして束の持つシステムにも手が止まる毎に上書き保存されている。

 別に束が常時持ち歩いているシステムであれば場所は問わないのだが、朝から“Flabellum(フラベルム)”隊の数名と模擬戦闘訓練を行い、そのまま“Marks Horst(マークスホルスト)”に趣いたのだ。 それに別の用事で出かけているリリィとの待ち合わせ場所でもあり束が一人になれる場所でもあった。

 ――ようやく半分っと……。

 “白騎士”とは違い戦闘機である事に楽観視していた作業だったのだがリリィが設計したモノが普通なわけがなく今現在、束が打ち込んだプログラムは三百万行を超えている。 それでも作業が半分すら終わっていないという事は“白騎士”を超える膨大なプログラムとなるのだろうと束は再認識し、今日何度目かわからないため息をついた。

 なお従来機ならばプログラムサイズが三百万行でも十分に戦闘機としての機能は発揮できる。 JAS-39“Gripen(グリペン)”のE型及びF型に搭載されているプログラムサイズは三百万行を少し超えたぐらいだ。

 途中ではあるが従来機のプログラムサイズと比較しても多いというのは明らかである。

 

「それにしても、これなら“白騎士”と同じレベルのシステム構成で作ったほうが良い気がするなぁ~。 むしろ(いち)から作ったほうが早い気が……」

 

 少し前に航空機搭載型試作レールガンユニットの接続作業を終えた今なら言える――まだCFA-44(あっち)の方が手をつけやすかった、と。

 ――これが失敗したからこそCFA-44が生まれたんだろうけど、いくら何でも41番機がコレじゃ失敗するのは当然だろうね……。

 リリィが大真面目に設計をしてもソレは失敗した――だが“白騎士”と“フリーダム”という参考が手元にある今、新しい機体の設計をしたらと想像するが強引に頭の外へ追い出す。

 CFA-41――それが今手をつけている機体の形式番号である。

 型式番号が示すとおりCFA-44の三つ前に製造された機体を“Marks Horst(マークスホルスト)”社の格納庫から引っ張り出し、改修するための基軸にすることで短期間での実戦配備を実現させようとしていた。

 計画が凍結された無人偵察機開発計画で試験的に造られたのだが、無人機であるということもあって当然のように人が乗ることが前提とされていない。 そのためコクピットにあたる部分は存在しないといっても良い状態なのでコクピット部の分離式は改修された結果の一つである。

 また人が乗ることを前提とされていなかったときに作られた機体であるため、このまま飛ぶと保護機能が働いていない前進翼機の最大機動を搭乗者は常に受け続け気を失ってしまう。 そのため現状では人が扱える機体ではないのだ。

 システムを数段階下げるか制限をかけてしまえば有人機として動かせることはできるだろうが、そこまでして運用するべき機体かと問われたら別にそうでもない。

 これは次世代機開発でリリィが出した案の一つであり、ある種の回答。 結局、扱える者がいない機体は置物でしかないため改修案は通らず42番機へと流された。

 性能をデーター上で比較をすると運動性能や多様性はCFA-41が高いのだが、先述の通り人が乗ることを前提とされていない――そんな使えない機体をダニエルは使えるようにし実戦配備しろといったのだ。

 

「“白騎士”と同じシステムを使ったら問題が簡単に解決できちゃうんだけど、やっぱダメだろうしねぇ……。 どーすればいいんだろ」

「物騒な考えを思考から破棄してくれたのは嬉しいけど、その許可が実は降りてるんだよね」

 

 どこからか聞こえるリリィの声に束は顔を上げるが目に入る範囲の何処にも姿が見えない。 室内が暗いという事もあるのだが格納庫の作業員出入り口は一ヶ所、そこが開けば静かな空間に響き束が気づかないということはないはず。

 ふと後ろから何かを感じ振り返るとリリィの顔が近くにあり心臓が止まりそうなほど驚くが、先程聞こえた言葉を忘れる程の衝撃ではない。

 

 

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「……えと、どういうこと?」

 

 使用許可が下りるということは既に束の存在が軍内部に漏れているということなのだが、リリィから焦った様子は見受けられず普段通り。

 一体何が起きたのだろうか思いながら詳しい話を聞くため問いかける。 リリィが何の意味もなく束という世界を揺るがす爆弾の在り処を目立たせるわけがないのだ。

 

「束も聞いてたよね、ロシアが開発してる“Morgan(モルガン)”っていう新型機と新型弾頭の話。 それがどうにも“白騎士”以上にヤバめな代物っぽくてね……」

「うん、それは理解できるんだけど……それとこれとどういう関係? リリィちゃんだって私の居場所がバレれば箒ちゃん達が危ないって知ってるでしょ」

 

 ロシア連邦が第五世代ステルス戦闘機“PAK FA(パクファ)”とは別に開発している機体“Morgan(モルガン)”の話は少し前に、リリィとイージス達が話していたのを聞いている。 しかしながら束の言ったとおり“Morgan(モルガン)”の存在が“白騎士”のシステムを使用しても良いという理由にはならない――むしろ外装を偽ったところで“白騎士”のシステムは目立ちやすいのではないか。

 それは人質という存在によって束の行動が制限されてしまうという事にも繋がっている。 誰よりも強大な兵器という存在を嫌うリリィがそのことを忘れるはずがなく率先して製造するという事はあり得なかった。

 束は不安に思いながらも次の言葉を待つ。

 

「つい最近“Morgan(モルガン)”の情報が一部だけ公開されはじめ、情報解析集団が分析をした結果……ADFX-01は驚異にはなりえないことが判明した」

 

 そう言いながらリリィは最近実用化した電子端末の表面を撫で“Morgan(モルガン)”の情報を見せる。

 

「じゃぁ、いいんじゃないの?」

「実はそういうわけにもいかないんだよ。 ……束は“Morgan(モルガン)”の設計はローズ・サミナードだけど製造が“Phantom Aufgabe(ファントムタスク)”社というのは知ってるんだっけ?」

「……いや、まずソコが関わってることを今知った」

 

 “Phantom Aufgabe(ファントムタスク)”――主に業種が異なる複数の会社が相乗効果を期待し合併を繰り返すことで成立する複合企業(コングロマリット)の一つで、世界最大級とも言われている複合企業“CCCNO(シースリーエヌオー)”に劣らぬ巨大な企業体。 1918年にミュンヘンで結成された秘密結社“トゥーレ協会”が母体となったとも言われており、多くの合併を繰り返すことによって元々どのような企業だったのかでさえ真相は藪の中だ。

 そんな複合企業が軍需産業に手を伸ばしていることに束は少し驚くも納得していた。

 

「どうにも設計……開発主任のローズ・サミナードが失踪したようで企業側から捜索願が届けられたんだけど、住んでいたところから“レディオアクティブ・デトネイター”というコードの付けられた書類が発見されたらしい。 内容は手榴弾サイズの小型戦術核爆弾に関するもの」

 

 戦術核という単語にリリィが何を伝えたいのか理解してしまう。

 通常兵器の延長線上に存在している核兵器を小型化する考えは冷戦以前からアメリカ合衆国が勧めていた事もあり然程驚きはしない。 一発で何十万人をも殺すことができる大量殺戮兵器――それが日本に落とされた原子爆弾よりも技術力と性能が向上し手榴弾サイズまで小さくなったという。

 この世で最も存在が許されないモノが強力な兵器として生まれ変わろうとしているという事に、以前見た広島の写真を思い出し束は顔を歪ませた。

 

「核兵器を作って一体何の意味が……!」

「相互確証破壊理論って聞いたことない?」

 

 核兵器を保有した二国間の片方が相手国に対し核兵器を使用した場合、その国は国土のいたるところに分散され保管してある核兵器によって報復を行う。 それによって『一方が核兵器を先制的に使えば、最終的に双方が必ず核兵器により完全に破壊し合うことを互いに確証する』――所謂、しっぺ返し戦略による自国の被害を出さないため核兵器を保有していても使用しないという核戦略の一つだ。

 今年に入り戦術核の保有数はアメリカ合衆国とロシア連邦の合計保有数は3,000を下回っているが未だ残り続けている理由は簡単。 片方の国が核兵器を全て放棄してしまえば一方的な戦争が起きてしまうので、その抑止力として残されている。

 それが核兵器の減らない答えでもあった。

 

「既に試作品が数基完成してるらしいけど問題はそこじゃない。 それらを製造し保管している場所がロシア政府すらも把握できてないという点だ」

 

 リリィの発言が余計に束の理解を阻んでいく。

 戦術核といえば国家機密に値する兵器の一つであり扱いも国が管理している。 アメリカ合衆国は大統領が司令部を離れた時でも即座に核兵器を使用できるよう発射コードと専用のケースが存在しており、国が把握していないということは有り得ない。

 それとも把握はしているが知られたくはないため隠しているという事もありえそうだが、リリィが知っていれば『把握していない』と断言はしないだろう。

 情報が少なすぎて束には判断できなかった。

 

「おそらく小型ゆえに話に上がっていた新型弾頭に組み込まれてる可能性が高い。 幕僚監部は各部隊への厳戒態勢とスクランブル待機を発令している」

「リリィちゃんはどう思ってるの?」

「戦術核について? それとも幕僚監部の判断について?」

「核兵器の方」

「……何とも言えないね。 日本が受けた原爆は世界に悲惨な光景を刻みつけ核兵器は悪だという印象を植え付けたけど、この平和は核兵器という悪しき力が抑止力として成り立っている。 戦争と平和、その二つを成すために存在してるのが軍事兵器だから私は否定もしないし肯定もしないよ」

 

 確かに間違ってはないと束は思う。 もし同じことを聞かれたら今のリリィと似たような事が回答になるはずだ――『存在するものに善悪もない』と。 そこに存在しているモノを人が何の目的で、どういう使い方をするかが結論となる。

 所詮、人間が便利だと扱う道具は元を辿れば戦争の中で培われた技術だ。 ならば兵器(どうぐ)自体に善悪は無い。

 

「話を戻すよ。 “レディオアクティブ・デトネイター”が存在しないモノにしてもローズ・サミナードが核兵器に関与している可能性は限りなく高く、ロシア政府は“Phantom Aufgabe(ファントムタスク)”社の業務中止命令を出し徹底的に調べるつもりらしい。 会社側は何も知らないらしく今は大人しいくしてる」

 

 リリィが知り得る情報以上は公開されていないのだろう。

 

「もし開発されていたら“フリーダム”を使ってでも止めなくちゃいけないわけ。 でも……そうしたら何が起こるかわかるでしょ?」

「だから“白騎士”のシステムを使っていいって?」

「まぁ、本当は二つ目の方が本命なんだけど」

 

 そう言うと電子端末を操作し別の画像ファイルを表示する。

 ――これは!?

 “ジン”や“シグー”等、束が今まで目にした機体の他にも多種多様な人型兵器の画像が大量に収められていた。

 

「私個人の本音はコイツら対策のために“白騎士”のシステムを41番機に流用できるのならしたいんだ。 どうやら日本で私達を追い回してきた“ジン”達が態々(わざわざ)追っかけてきたっぽいからね……ロシア云々は後付け理由」

「最初からそういえばいいじゃん……」

「……最初はストレートに言ったほうが良いかなって思ったんだけど、危険度が高い方から説明する癖みたいなのがね……」

 

 管制指揮官には危険度が高い方を先に口にする癖が本当にあるのだろうかと気になってしまうが、“ジン”等に対して適当な事はできない。

 

「これら人型兵器は私達二人がドイツに到着したと同日に防空圏内で多数確認されている……この間の戦闘もそうだ。 それにより幕僚監部は第五空軍師団の一部を解体し特殊対策部隊を設立することを決定。 “Flabellum(フラベルム)”隊も解体され特務隊“Schwarzer(シュヴァルツェア)”に再編されることになった」

「……えと、まさかCFA-44とCFA-41(コレ)をソレに実戦投入する気なの!?」

 

 頷くことで肯定されると束は驚愕と同時に呆れてしまう。

 CFA-44は航空機搭載型試作レールガンユニットの接続作業は終えていても最終試験等を終えておらず、実戦に扱えるかと聞かれたら使えない状態なのだ。 飛べないことはない――だが今の状態では囮か棺桶でしかなく使用するには早すぎる。

 それにCFA-41は部分ごとに分解した状態で搭載機器もリリィによって手をつけないよう指示が出されていた。

 

「どう動いても“ジン”は私達を追ってくるよ。 それなら国家権力を利用して対策を考える時間を作らないと、あっという間に世界は戦争に飲まれる」

 

 “ジン”が執拗に束を狙うのは前回の行動から考えるに予想ができた。 そう考えると人里から離れ隠れていても長くは持たない――いづれ見つかってしまう。

 その痕跡は次第に大きくなり世界各国が篠ノ之束に関するモノだと気がつけば、やがて“ジン”と世界をリリィ一人で相手取らないといけなくなる。 束は攫われた存在であるため“フリーダム”を援護することもできない――それだけは回避しなければいけないのだ。

 物量作戦を実行されたら押し切られる。

 なんとしても篠ノ之束という痕跡を追う“ジン”を別の理由で排除し、その大本を叩かない限り平和への道は無い。 そのためには残された対抗手段は一つしかなかった。

 

「束は“ジン”と世界が結託し兵器を作らせようと迫り、やがて千冬や箒を傷つける世界に住みたい?」

「……私は、箒ちゃん達や無関係の人達を巻き込みたくない」

 

 だからCFA-41に“白騎士”のシステムを使用し“フリーダム”という束を攫った象徴を世間に隠したまま“ジン”に対抗しようという結果がリリィに残された唯一の策。

 千冬達に近づけない束が、その者達を守るためには傷つけられる前に“ジン”を作り操る者を仕留めなくてはいけない。

 

「あの場に残った唯一の“白騎士”搭乗者である千冬が狙われてそうだけど……」

 

 確かに“白騎士”に繋がる手がかりは全てといっても良いほど千冬が握っている。

 織斑家には束が作った地下格納スペースが存在しており、そこで“白騎士”は作られたのだ。 更に“()()()()()となった機体も保管されており、“白騎士”を求める者には宝の山。

 千冬さえ押さえてしまえば“白騎士”へ限りなく近づく事ができるのだ。

 ――“白騎士”は内部壊して置いてきたけど、プロトタイプ見られると直されそうかなぁ~?

 今まで頭の片隅に追いやっていた試験機の存在が限りなく千冬を危険な目に会わせているのではないかと心配になる。 だが、それでも今はまだ安全が保証されているはずだと小さく安堵の息を漏らした。

 

「とりあえず“フリーダム”が使えない状態で“ジン”を撃破するには軍隊を利用し、且つ兵器の中に“白騎士”のシステムを搭載した機体を入れ戦うことにより黒幕の正体に近づこうってことだね?」

「……まぁ、ざっくり言うとそんな感じ」

 

 一体多数ならば“Flabellum(フラベルム)”隊でも戦えるのだろうが複数機を一斉に相手する場合は避けたい。

 

「了解了解~。 とりあえずコクピット後部のシステムに関してはリリィちゃんが一番詳しいから任せるとして、本当にやっていいんだね?」

「いいけど、どういうシステム入れるかだけは聞かせて」

「ん、そうだねぇ~。 まずはシステムコンソールは“白騎士”にも使った空間モニターを最大限に使用することにして無駄を省くでしょ、でキャノピー部は空間モニターを外部には漏らさないよう加工するとして……加速度を“PIC System”で無くせばリリィちゃんも身体に負担なく指揮できるし私も無茶な機動だって簡単に……あ、機体の負担や空中分解を回避するためにもフレーム自体を特殊な物にしないと。 そうなると……」

「ま、まったまった!」

 

 束に任せたら従来機が可愛く見えてしまう程の調整がされてしまいそうでリリィは少し恐ろしくなる。 やはり“白騎士”のシステムを使用するのは間違いだっただろうか、そんなことを思いつつ束の顔前に茶封筒を出し抑えた。

 確かに身体に掛かる負担や空中分解等は軍用機を作るにあたり重要な問題点だ。

 

「何さ聞いといて……。 言っとくけど機体表面にステルスコーティングとか主翼自体をカナード翼のように稼働させることでエアブレーキ部を縮小する事とか前々からやってみたいって思ってた事が沢山あるんだから!」

「……全部、試す気?」

「もちのろん♪」

 

 茶封筒を摘み視界を確保すると束は最近見せなかった笑顔でリリィに親指を立てる。

 ――予備のコアがあれば拡張領域を付けてゲームみたいに無限ミサイルなんて……やったんだろうねぇ……。

 流石に対空ミサイルを無制限に持てたら強力な兵器なのだろうが、同時に篠ノ之束という存在が露見してしまう。

 

「わかった……。 そこは後で話すことにして中将から束にって」

 

 どうやら茶封筒の中身は束に向けられたものらしい。

 もしかしなくともリリィの用事とは茶封筒(コレ)を受け取るためだったのだろう。 渡されたということは見ても良いという事だろうと中から数枚の書類を引き抜いた。

 

「え~っと、『Als technischer…… Offizier der Senior……』? ん、技術士官の……大尉、待遇? ……ごめ~ん、リリィちゃんコレ読んで」

 

 まだドイツ語に慣れていないのだろう――初めて英語を訳そうとする学生のような読み方にリリィは少しだけ笑ってしまう。

 専門的な用語は未だ理解できておらず階級や役職を言われても何となくでしか理解ができない。 そんな束のためなのか書類と一緒に入っていたメモ用紙に『詳しいことはスカーレットに』と丁寧な日本語で書かれおり――投げやりだとも思えるが、それが一番だと感じた。

 

「えと、上級大尉の技術士官として貴殿を第五空軍師団 第81特務飛行隊“Schwarzer(シュヴァルツェア)”へ配属を命じる。 詳細は……私に一任されてるね」

 

 内容を読み上げ呆然としながらもリリィは何度も文章に目を通す。

 

「とりあえず階級は置いておいて技術士官って何となくわかるよね?」

「あー、多分だけど。 戦う兵士じゃなくて整備とかする戦場の自動車整備士みたいなの? カーレースでタイヤ交換を数秒で終わらせるような人たちみたいなヤツ」

 

 また妙な例えにリリィは脳内で束の口にした光景を想像すると、あながち間違ってもないような例えであったため否定することなく話を進めることにした。 実際には後方支援を行い機体整備から銃器の配備等を職務とする役職だ。 

 ――でも上級大尉って確かリリィちゃんの一つ下だったような……?

 ふと気になり首を傾げるがリリィからしてみれば妥当である階級と思えた。

 ダニエルに『なんとか私の近くに置いておくことはできないでしょうか』と口にした結果が書類に書かれている『貴殿の勤務内容について、その都度スカーレット・リリィ少佐に確認を取る』という回答。 つまり束の勤務内容はリリィに依存しており、リリィの補佐官と例えられなくもない。

 

「ふむ、後で中将に確認取るけど私直属の部下と判断すべき……なんだろうね」

「ふ~ん、なら何も問題ないや。 リリィちゃんと一緒~♥」

 

 楽観的に大丈夫と口にするが束の情報を漏らさせないように細心の注意を払わなくてはいけないのはリリィなのだ。 これは束の意志とは関係なしに連れ去った事への恨みなのだろうか――束がソレを狙っていなくとも、そう感じてしまう。

 

「でもさ、私が軍に入っても良いものなの? こういうのって書類選考とか面接とかテストとか……」

「書類選考は私が選んだ時点で通過、テストはイージスにやってもらった高等飛行訓練で減点なし。 面接に至っては少し前にCFA-44の調整中に中将がやった」

 

 つまり気がつかなかっただけで、そういう審査は密かに行われていたらしい――だがCFA-44の調整をした時にしたと言うが記憶が確かなら世間ではそれを雑談と言う。 それを面接というリリィに束は不安になってしまった。

 

「あれを面接っていう?」

「言わないね」

 

 何かに納得したのか読み終えた書類を束に返す。

 

「しかし一人で半分近くのプログラム作ったとか、すごいね……。 私だったら数ヶ月はかかるのに」

 

 元々、無人偵察機として開発されていたものだからこそ基本的な部分は引き継げたということもあるのだが、それでもCFA系統の機体は特殊なプログラムのため常人には開発できない。 それを数日で半分近くも作り上げるということは間違いなく束が天才であるという証拠なのだろう。

 例えばCFA-44は第五世代ステルス戦闘機として製造されているため機体内部に兵装を搭載し必要に応じてウエポンベイから取り出す事で使用するのだが、それも簡単なことではない。 アメリカ空軍で既に配備されているF-22“Raptor(ラプター)”と同じように三ヶ所のウエポンベイを有しているものの、使用時に展開した兵装を更に展開するというプログラムは無いといっても良いはずだ。

 またウエポンベイには航空機搭載型試作レールガンユニットを搭載するために対空ミサイルを搭載する部分が存在せず、主翼下に専用の短射程空対空ミサイル用半格納型パイロンを設置している。 これも従来の戦闘機とは違いステルス性を高めるため使用時に空対空ミサイルの発射位置を移動させる方式を取っており、一部流用できるとはいえ他のシステムとの統合性を考えるとプログラムが長くなる原因でもあった。

 そのプログラムは“Marks Horst(マークスホルスト)”社に任せていたのだがリリィが帰ってくるまで半分も完成はしてはいない。

 

「だったら複雑なギミックを付けなかったり簡単にすればよかったじゃん」

「そうなると第五世代ステルス戦闘機以前の機体になるからね。 それだと予算も下りないし何より発展がない。 ……ほら今日は新築パーティだからキリのいいとこまで仕上げて新しい家に早く帰るよ。 今日のためにクラリッサも帰ってくることだし」

「いいけど、これの再設計したのリリィちゃんだって聞いたし手伝ってよ? こんな量産できそうもない機体を開発した責任をだねぇ~」

「はいはい。 けど私も別のプログラム作ってるから後でね……。 あ、ちゃんと指定した部分は組み込んどいてよ?」

 

 たとえ量産体制が作れたとしても“白騎士”のシステムが搭載されていなければ、それは人が乗ることを前提としない機体だ。

 そんな機体に乗るという軍人は存在せず、いたとしても誰よりも早く体を壊すことは目に見えている。 早々に地上勤務へ移されるか辞めていくだろう。

 訓練を受けていない人間は戦闘機の加速度によって耐えられる限界が6Gであり、熟練の曲芸飛行士は耐Gスーツを着ていれば10Gまで耐えられるとされている。 それを越える加速度を登場者に与えるCFA-41は間違いなく搭乗者を壊す機体だ。

 

「……あ、そういえばクラウス達と午前中に会ったけどさ、物凄く驚いてたよ。 『一週間前に初めて軍用機に触れたはずの初心者(ルーキー)が、今じゃ“Flabellum(フラベルム)”隊と模擬訓練できるまでに成長した』って」

「んー、まだまだ一人じゃ飛ばせてくれないけどね~」

 

 未だ練習機で後ろに教官が乗っているとは言え“Flabellum(フラベルム)”隊といえばドイツ連邦国防省連邦防衛軍でも優秀と言っても過言ではない人間の集まりだ。 新兵に近い人間が一週間で“Flabellum(フラベルム)”隊と模擬訓練を行えるようになるという話は前代未聞。

 束の担当教官は“Flabellum(フラベルム) 8”のウェア・ズィ・ハルトマン中尉であり、飛行中の不信な行動は見られなかったと聞いていた――そうなると束が物凄く勉強したという事になるのだが、どのような勉強をすれば“Flabellum(フラベルム)”隊の全員が目を見張るほどの模擬戦闘訓練ができるのだろうか。

 

「あ~、なるほどね。 リリィちゃんは何か種があると思うわけだ」

 

 リリィの意図に気がついたのか束は嬉しそうに声を上げるとスーツのポケットから一つの機械を取り出し見せる。

 

「それは?」

「ふふふ、リリィちゃんだけ特別に種明かし~♪ これは“白騎士”を開発する過程で生まれた副産物、仮想空間を作り上げる機械だよ!」

 

 データー上へ新しく構築する現実には全く存在しない世界。 それを作り上げる機械だと言われリリィは困惑した。

 当然だ――そんな眉唾物を信じるほうがどうかしている。

 しかしながら相手は世界で最初となる“白騎士”を一人で作り上げた篠ノ之束だ。 もしかしたら本当に仮想空間が作れるのではないかと思えてしまう。

 

「正確にはプログラムされた情報を脳内信号に送ることによって人が認識している光景を誤認させるシステムだね。 ぶっちゃけ睡眠学習機」

「……ああ、仮想世界って言うからSFっぽいの想像したけど……そういうことね」

 

 納得できたのかリリィの声から力が抜けていく。

 人間の網膜が視覚野に伝える外界の情報は3%で残りの97%は脳内情報として追加補正されている。 ほぼ補完された情報を人間は自身が目にしたものとして認識しており、それを外部からの電気信号で変化させてしまえば現実とは別のプログラムされた世界が目に映るという仕組みのようだ。

 それこそ戦闘機に関わるプログラムを丸々入力しておき寝ている間に何度も繰り返すことで、現実と遜色ない世界での訓練が何の危険もなく一人で続けられる。 “白騎士”の開発過程で生まれたということは既に地表等の情報は入力されている――ならばプログラムを追加してしまうことにより個人が所有できる戦闘機シミュレーターが完成してもおかしくはない。

 

「上達が早いわけだ。 “白騎士”より現実的だね」

 

 軍需産業や新しいゲームにも十分通用できる画期的な物だとリリィは感心する。

 “白騎士”よりも先に世間へ公表していれば世界は別の対応を束にしていたのだろう。 だが現実は公開されることなく今まで隠されてきた物――つまり千冬でさえ知らない機械なのだ。

 

「失敬だねぇ……。 “白騎士”だって歴とした現実だよ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は一体何の本を読んでいるんだ、クラリッサ」

 

 周囲の輪に溶け込むことなく一人で本を読んでいる少女――クラリッサ・ハルフォーフは本に落としていた目を声がした方へ向けた。

 肩まで伸ばしている髪は深い藍色。 周囲に居る同い年の子供達と比べると少し浮いており、それを後押しするかのように妙な落ち着きをクラリッサは見せている。

 

「ローズ・サミナード著、“Albus rex ki Aequatoria”七章“Quis enim luctus(災いは誰のために)”翻訳版」

「あん、ローズ・サミナードっていうと……最近よく売れてるっていうやつか? いつもの漫画はどうしたんだ、日本の漫画は」

「お前が原因で私が怒られたの忘れたのか?」

「おー、そうだったな。 わりーわりー」

「もっと謝れ。 とりあえず今日は読んでても文句言われないヤツだ」

 

 そう言いながらクラリッサは読んでいた本を一旦閉じて前の席に座る少女――セシル・フラドールの相手になる。

 お互い小さい頃から付き合っている友人であり、この室内唯一の浮いた者同士なのだ。 だからこそ雑な謝り方でも許せるし、その性格がむしろセシルの魅力なのだとクラリッサは思っていた。

 短く切りそろえた金の髪は本人の性格と絶妙に合わさり周囲の男子と混じって遊んでいても違和感は無く、そういう点では周囲に上手く溶け込めている。 それでも一人の時はクラリッサ同様に妙な落ち着きを感じさせ浮いているのだ。

 その原因は親の職業にある。

 互いに代々続く軍人家系で父親は現役のドイツ連邦国防省連邦防衛軍に席を置く軍人――周囲の子供達とは育てや教えられ方が違う。

 

「読むか?」

「いや、私には文字だけの本は苦痛でしかねぇ……」

 

 差し出された本を心底嫌そうな顔で押し返す――だが興味があるのか視線は本に向けられたままだ。

 ――嘘を付け。

 セシルが馬鹿を演じてるだけなのは小さい頃から知っているし、小説や参考書を一人で読んでいるのを父親から聞いている。 小さな嘘だが、それこそセシルが馬鹿を演じ続けられる源なのだ。

 そんな友人の思惑を否定することはできないし、そもそも否定する必要もない。

 

「そうだ、私にもわかりやすく内容を教えてくれよ。 そうすれば読みたくなるかもしれん」

 

 そうすれば馬鹿を演じ続けながらも小説を堂々と読むことができる――クラリッサにはセシルの言葉がそのように聞こえた。

 仕方がないと覚えている限りの内容を脳内で整理していく。

 

「……そうだな。 人間にも恐れられた人語を解する存在の王が、たった一人の人間を守るために戦う話と言うのが妥当だろう」

「……えと、なんだ……。 人語を解する存在とは、またメルヘンチックな内容だな……」

「王は人間の女性を后としたことによって一部の同族に弱点を与えてしまい、それは水面下で反乱を起こし人間を殺すための術式を組み始める。 王はそれに気がつき同族と戦い人間を……唯一愛した妃を守るため、術式を組み上げた同族を殺すことを決意した。 それが“Albus rex ki Aequatoria”七章の内容」

 

 人語を解するという事は人間ではないということだ――現にクラリッサは人ではないかのように『存在』という単語を口にしている。 おかげでセシルの脳内は異類婚姻譚である“美女と野獣”を連想してしまい、ありふれた内容だと勝手に落胆してしまう。

 さらに内容を聞くとファンタジーといっても良い内容で、なぜ売れているのか理解しがたい。

 

「どう考えてもファンタジー作品にしか思えん……。 魔法が飛び交って学校とか舞台なヤツだろソレ」

「確かにファンタジーだろうが魔法も学校も作品には存在しない。 むしろ黒魔術みたいな感じか? 王を狙う者達は七つの封印を解く。 その結果、王国に火の雨が降り注ぎ翌日には王国の一部が巨大な炎によって燃え盛り周囲の海を干上がらせ地獄へと変えはじめた」

「……ん? まて、その話はどこかで聞いたことあるぞ」

 

 昔、母親に聞かされた話の内容に似た覚えがあったセシルは必死に記憶の引き出しを開けていく――だがその合間にもクラリッサは荷物を纏めて帰宅する準備を終えていた。

 

「……ん、今日は帰るのか?」

「今日はリリィ姉さんが家を建てたパーティがあるからな」




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Phantom Aufgabe(ファントムタスク) 【組織】
 第二次世界大戦中に設立された世界有数の巨大複合企業体。
 組織体系は秘匿されているが運営方針を決める幹部会と傭兵部隊からなる実働部隊の二つに分けられており、企業体としての役割は幹部会を本部とした物となっている。 
 元は1918年にミュンヘンで結成された秘密結社“トゥーレ協会”が母体となっており国家社会主義ドイツ労働者党の一つとも言えるだろう。

CCCNO(シースリーエヌオー) 【組織】
 日本に本社を置く世界最大規模の巨大複合企業体。
 家電から軍需産業まで幅広く行っており、正規空母等の艦船すら製造することができる程に施設も充実している。 ドイツの“Marks Horst(マークスホルスト)”社も傘下企業の一つとされているため、“Flabellum(フラベルム)”隊との共同揮発は“CCCNO(シースリーエヌオー)”との共同開発という事にもとなる。
 代表は篠ノ之百合奈。

✔クラリッサ・ハルフォーフ 【人名】
 両親の特徴を色濃く受け継いだ紛れもないハルフォーフ家の一人娘。
 スカーレット・リリィがきっかけとなり日本のサブカルチャーに興味を持ちはじめ、アニメや漫画等の高い技術を持つ作品に感化されていく。 そのため日本語は喋ったり書く事もできる。
 運動神経は高く、相手を罠に掛けることもする。

✔セシル・フラドール 【人名】
 クラリッサによって日本のサブカルチャーに侵されてしまった一人。
 若干の男口調で金の髪を短くしていることから後ろ姿だけでは性別を判断しにくく、素性を知らなければ男として扱われることもある。
 密かに女らしさがないことがコンプレックス。



《ウェア・ズィ・ハルトマン》

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