“白騎士事件”によって各国が受けた打撃は無視できるほど小さくなく――かと言って物理的な被害が出たというわけではない。 弾道ミサイルから防衛のために蓄えられていた対地ミサイル等が今回の事件によって地上から、その姿を半数近くも消したことは各国にとって平和という安全権を脅かす結果へと繋がっていた。
また放たれた対地ミサイルの幾つかは本来の目標を誤り目標に届く前に海や人が居たであろう地表へ落ち威力を発揮している。
「……全く、厄介なモノを残して篠ノ之博士は連れ去られたものだ。 一体何処にいるんだね」
その呟きに正しい答えを出せるものはいない。
当然だ――その場にいる誰もが現状の危機を一切感じておらず問題を正確に認識していない。 彼らにとってソレは普段通り行う仕事と同じ――早く帰りたい、責任を取りたくない、お金が欲しい等の目先の利益や保身を求めている人間達なのだから危機感というものはないのだろう。
そもそもリリィは彼らのような人間を上手く使うために束を目の前で攫っていったわけだ。 まさか日本から遠く離れたドイツの地で監禁されるこもとなく普通に暮らしているとは、その場にいる全員想像することは出来ない。
「情報が少なすぎるのですから、そう簡単に尻尾は掴ませてはくれませんよ。 せいぜい手元に残っている“白騎士”の資料を上が有効活用して我々の仕事を早期に終わらせてくれる事を願うだけです」
「……“
“フリーダム”の名称を知るはずもない日本政府は“白騎士事件”時に混乱する中“
「そろそろ三ヶ月を過ぎようとしていますが未だ何の情報も手がかりもありません。 国を超えてしまえば我々の手は届きませんので篠ノ之博士の捜索は各国の政府機関に任せる他ないのは御存知でしたよね。 既に各政府機関は捜索隊を編成し篠ノ之博士を探し始めてるのですが……」
「わかってる……。 冗談だ冗談」
「……日を増すごとに篠ノ之博士や“白騎士”に関する情報をコチラに聞く回数が増えてきています。 政府がダメなら私達に、という訳でしょうが我々に何の権限もありはしませんからね」
「だが、そうなると奴ら篠ノ之博士を見つけても技術を聞き出すため……いや独占するために不当な行動に出るかもしれんぞ」
「ええ、早く見つかってくれると私達も助かるんですけど」
“白騎士事件”日本対策本部――それが彼らが集められた理由であり行っている業務の内容。
日本政府は何としてでも“白騎士”を開発した束を確保し研究機関を立ち上げ世界に圧倒的な差をつけたいのだ。 それほどまでに“白騎士”という存在は魅力的で強大だということなのだろう。
既に篠ノ之神社敷地内で“白騎士”自体は回収しているのだが、何十もの弾道ミサイルを叩き落としたため内部機材は大半が破損しており稼働すること自体不可能だ。
“白騎士”とは飛行システムを始めとする技術を検証するために製造された試験実証機である面が大きく、束にとっては車と同様の
世界中の誰もが“白騎士”という姿を知っており、今更証拠が大量に残されているモノを存在しないとは言えなかった。
「そういえば一つだけ。 解析を依頼していた“
「ほう、それは気にな……やはり“白騎士”では不可能か」
「はい。 この解析結果によりますとF-15Jの被弾箇所は一点集中した高熱によって切り取られたとされており、政府が保管している報告書には“白騎士”の動力が車体に使用されるバッテリーを高出力化したものであることが明確にされております。 “白騎士”の連続稼働時間は通常起動で八十三時間、滞空機能を展開し連続稼働を行った場合で七時間……戦闘に割けるだけの電力は“白騎士事件”でパワーダウンした点を計算した専門機関と解析を行っている三社から不可能という報告を受けています」
被弾したF-15J“
そうなると“フリーダム”の存在は一瞬で手がかりさえない不明な何かとして処理しなくてはならない。 使用された武器の流通経路を辿れば束に近づけると思ったのだが、それすらも今まで見たこともない何かであったため、まずは何が武器として使われたのかを解析しなくてはならないのだ。
結果、全くの不明。 考えられるとしたら束と似たような個人が“フリーダム”の武器すらも開発し――しかしそのような個人が多くいる訳もなく彼らにも心当たりがない。
「また戦闘空域内から微量でありますが放射性物質の反応が検知されています。 人体には影響がない範囲で既に流れておりますので国民への生活に関しては特に問題はなく……」
「核弾頭でも混じっていたというのか!?」
「それにしては反応が薄すぎますので、おそらく“
日本へ向けられ放たれた2,000発以上ものミサイル群に有害物質等が収められていなかったかという調査は当初彼らが行った仕事の一つだ。
当然のことだが全てを調べるには時間が圧倒的に足りないため基本は各国に照会し、複数に区域を分け後に調査することで広範囲を調べる方式を取っている。 しかしながら日本以外も混乱しているようで三ヶ月近くたった今でも半分近くは判明していない弾頭ばかりなのは、それだけ“白騎士事件”が世界規模で大きな事件だったという事を物語っていた。
そして今回の調査で大気成分から検出された微量な放射性物質は弾頭に搭載されるには少なく、放射性物質を内蔵する何かしらの物体が区域内に存在していた可能性が限りなく高い。 ソレが戦闘区域内から確認されたのだ――“フリーダム”が核動力で稼働しているということは想像に難くないだろう。
「なるほどな。 考えようによってはソレが一番有り得る話か……織斑千冬はなんと言っている?」
既に篠ノ之家への聴取は終えており束が自宅ではなく織斑家で寝泊まりしていることは把握済みで、また“白騎士”搭乗経験があることを千冬は口にしている。 身内へすら口にしなかった“白騎士”の存在を唯一知って、尚且つ搭乗し稼働試験を手伝ったならば何か知っていてもおかしくはない。
有益な情報が出てくることを期待してしまう。
「残念ですが何も。 以前聞いたとおり“白騎士”の稼働試験を請け負い篠ノ之博士を守るため“
「そうか……」
「それと家主に許可を得て織斑家を捜索したところ台所付近に銃痕が二箇所、物置となっている一室から何かを隠蔽したような細工を発見しました。 詳細は鑑定が終わりましたら届くとのことです」
一瞬だけ肩を落とすも続く言葉に希望を見出し少し満足そうに頷く。
この三ヶ月間、目に見えた成果が見つからなかったのだ――小さな手がかりだけでも十分に大きな成果だと思えてしまう。
「“PIC System”の方はなにか進展があったかね? 無いようならば解析を急がせるように言っておいてくれ」
“白騎士”に搭載されていたシステムは資料には慣性制御装置と書かれており、誰に言われるまでもなく技術者は解析を急いでいた。
今まで誰も考えつかない――ついたとしても技術的に不可能な装置を目の前にし解析しない技術者は数える程しかいないはずだ。
「しかし三社とも解析に難航しており、これ以上の成果を早急に求めるのは難しいかと……」
リリィですら頭の抱えてしまうほどの慣性を限りなくなくすという装置は誰の目から見ても束という人間を天才の領域を超えた人種として捉えさせてしまい、それが彼らを急かし密かに束すらも追い詰める。
当然のことだが未知の領域に位置するモノを、たった三ヶ月程度の解析で最終的な結果を求め期待する方が悪い。 日本国内で軍用機や航空機に関わる二社と電気機器において国内トップシェアを誇る一社が日夜寝る間も惜しまず共同で“白騎士”を解析しているのだ――それでも判明していない方が圧倒的に多く難航していた。
日本政府には各国が“白騎士”へ近づけないよう頼んではいるが、それでも情報開示を迫る声は後を絶たない。 既に国内で解析するには限界であるとの声も多くなっており、他国の技術者を招こうにも軍事転用を目論む国が存在しないわけでもなく介入させるには危険性が大きく判断が難しい。
情報の流出を抑えるため国内企業のみで解析するにしても最悪、技術の独占と言われかねないところまで来ていた。
「……一応だが
「よろしいのですか? “白騎士”の解析に他国の技術者を招くことになりますが……」
「他国とは言え二社とも日本に拠点を持つ一流企業だ。 下手に解析を遅らすよりも、まだ良いと思うが……」
苦渋の決断といっても良いだろう。
確かに二社とも日本国内に存在しており
「大変です! 篠ノ之博士の所在が判明しました!!」
そんな中、その一言に室内で作業していた者は手を止め声の主を凝視した。
その日の作業を終え“
一体何が目的で購入したばかりの家に招待もされていない人物が居座っているのか理解できない。 当然買ったばかりの家であるため最低限の家具は設置してあるとしても金目の物は少ないどころか存在しないのだ――強盗に入るにしても意味が無かった。
「リリィちゃん……。 一応聞くけどさ、ちゃんと買ったんだよね?」
「間違いなくね」
しかし断言するリリィとは裏腹に家の中では十人に届こうかという程の人影が外に映し出されており、まるで他人の家ではないかという錯覚に陥ってしまう。
――でも住所も間違えてないし、下見に来たときと場所は同じだし?
島国の日本とは違い海外――特に都市部を離れた物件は割と余裕を持って作られており、そのため辺りに目印となるものが少なく場所を間違えたのかと思えなくもない。 過去にリリィはオーストラリアのケアンズへ行った事があるのだが、道路の曲がり角が約700メートル以上もの間隔であることに混乱しかけた。
今回も似たような状況ではあるのだが既に下見へ来ているため場所に間違いはない。
人影が窃盗犯かとも思えなくもないのだが、それにしては外が薄暗い中で堂々と明かりをつけているため可能性か限りなく低く入ることが躊躇われてしまう。 そんなリリィを目にしているからこそ束も迂闊には入れないでいた。
「しかし人が買った家で寛ぐなんて良いご身分だねぇ~?」
「そうだね……と言いたかったけど、束。 何かどこかで見たことがある車だと思わない、あれ」
そう言いながらリリィは車庫に止められている複数台の車に気がつき指差すと静かに近寄りナンバープレートを確認し肩を落とす。
「あ〜、そう言われると何度か乗せて貰ったことがあるような……」
「乗せて貰ったことがあるような、というよりは乗せてもらったことがあるだよね。 クラウスの車だし」
「おっ、今日の主役が帰ってきたぞー」
庭に繋がるガラス戸から顔を覗かせ片手にジョッキを持ったまま人影の一つが声を周囲に響かせた。
少しばかり酔っているのだろうか声が近所迷惑にも思えるが人口密集地というわけでもないのでリリィは叫んだことについて何も言わないことにする――というよりも彼に叫ぶなと命じるほうが難しいだけだ。
「そう言いながら何故家主より先にくつろいでいるのか説明してもらえないかな、テルクミウス少尉? ついでに、その手に持ったビールジョッキも……」
「いやな、お前らが遅くて遅くて」
“
操縦技術は鋭く器用なのだが大雑把な性格をしており、また上官に躊躇いなく手を出せる希少な存在――上官を上官だと思っていないだけなのだが、そんな彼だからこそ仕方がないと思えなくもない。 一度だけ上官を殴り倒し降格、第五空軍師団へ移動させられたというのに全く反省もしていなければ成長もしてはいないのがハイアだ。
『頭で考えるより先に手が出る』という言葉を体現したような人間であるため何を言っても意味がない。
――はぁ、束が驚いちゃってるよ……。
庭から家の中を見た束は日本では見ることも考えることもなかった室内の光景に何度も目を擦り呆然と立ち尽くしている。
「……か、海外ってすごいねぇ~」
「いや、あの……。 海外とかの以前に立派な不法侵入だから、こいつら……」
「俺達も少佐の帰宅時間を考え少し遅くに来る予定だったんだけど、ハルフォーフ大佐が『
リリィの声に気がついたのか台所から先日の戦闘で“シグー”を撃墜し束とイージスを護衛したウェアが料理を運びながら近づく。 出来上がったばっかりなのか運んでいる料理からは食欲をそそる匂いが漂っており、おそらくエプロンをしていることからウェアが作った料理なのだろう。
一体何処からエプロンを持ってきたと問いかけたくもなるが、きっと自宅から持ってきたという回答しか帰ってこないと思われる。 流石隊内きっての何でも出来る男――エプロン姿も無駄に似合っていて笑うに笑えない。
「言われてみると確かに料理のことは何も考えてなかったね……。 最悪、私が作るか宅配で頼むかでいいと思ったんだけど」
「そうだと思ったよ、予想通りだ。 ほらスカーレット少佐も一つ」
静かに目を動かし敷地内に招かれている人間を見ていくと、その大半が料理とは無縁そうな人間でありリリィはイージスとウェアの判断に感謝した。
過去に“
「一応聞いておくけど、キッチンには料理できるの意外は誰も入れてないよね……」
「そこは大丈夫だろう。 クラウスと嫁に手伝ってもらっている」
「……ナターリエさんに?」
「おい、酒はまだかー!?」
「ちった、お前らも手伝え!」
料理の方は安心できると安堵した直後、ハイアと共に飲んでいたのであろう“
既に酔っているのだろうか普段以上に荒っぽい言動は束を一瞬だけ怯ませる。
暴力的な思考で傲慢な態度――考えようによっては実力主義を主張し実行しているのだろうが、日本人からしてみればかかわり合いになりたいとも思えない人種だろう。 もちろん好き好んで暴力的な人間に近づきたい人間もいない。
「何を言っても無駄ですよ隊長。 食器が割れて無駄になりますから」
「お前らやめろ! ケイアも分かっていてロイを煽るな……そっちの方がスカーレットの迷惑になる」
遠回しに『ロイが手伝うと食器が割れて迷惑だ』と隊唯一の女性パイロットであるケイア・ラズフィートが口にすると、その場の空気が一瞬で険悪なモノへと変わるが即座にイージスが間に入ることで乱闘騒ぎは免れた。
ロイは舌打ちをし椅子に座りなおすと残っていたアルコールを一気に飲み干す。
「全く……」
「そういえばイージス、カーニアやサーニクス達の姿が見当たらないようだけど欠席? こういう騒げる席ならいるはずだけど……」
ふと気がつき、見える範囲にいない残りの隊員の所在をリリィは問いかける。 ロイほど好戦的でもなければ重度の悪戯好きというわけでもないので不安の欠片もないのだが、いつもいるはずの姿が無いという違和感は何かしらの危険が迫っている気になってしまう。
「ああ、あいつらなら今頃車走らせてココに向かってんだろ?」
「ジャンケンに負けてパシリにされてるんだ。 ほら隊長の娘さんを迎えに行く……」
「おい、喋ってるのは良いが早く次を取りに来てくれないと皿を床に置くことになる。 それとスカーレット、帰ってきたなら手伝ってくれ」
台所からクラウスの困った声が外にいる二人の耳に届き顔を見合わせ苦笑すると玄関前に置いた荷物を取り家に入ろうとし、視界に見覚えのない車――いや正確に言えば軍で使用される車体番号をつけた車なのであるが来たときには止まっておらず、“
「夜分遅くというわけでもないが失礼するよ、スカーレット少佐」
「……スプリング大佐」
リリィが気がついたためかドアを開け中から怪しげな仮面をつけた男と、それに続くよう少女が降り二人に近づく。 少女はトライワイトと同じように銀の髪で遠くから見たら親子のようにも見えなくはないが、その顔に見覚えが有る。
――Gene verstärkt Prüfkörper Experiment/C-0037……
かつてイージスが写真としてリリィに見せた書類、そこに書き込まれていた少女が目の前にいた。
「そう睨むな少佐。 私は彼女を上からの指示で渡しに来ただけだ、ほら」
「検体番号C-0037」
背を押され後ろから前に出された少女はリリィ達に敬礼し、まるで機械のように名前とも言えない自分という
――確かに大量の被験者を管理するには名前よりも番号のほうが良いって理解できるけど、これは……これは……!
明らかに人の命を度外視した生体部品になるよう育てたとしか感じることができず、さらに少女の紅い瞳を見ていると、まるで自分が同じようになっていたかもしれないという気にもさせられる。
「……え、リリィ……ちゃん? あれ、え?」
似てはいないのだが少女の特徴的な部分だけを捉えて見ると、その紅い瞳や銀の髪を持つ者は多くはなく――紛れもなく束が呟いてしまうほどリリィに酷似していた。 “遺伝子強化試験体実験”で生み出された子供であるため元となった人間は間違いなく居るのだろうが、リリィが記憶している限りでは遺伝子に関わる何かを提供したことは一切ない。
ならば自身の特徴が多数合致する少女は一体何者なのか。
「では失礼するよ」
「おい、この子は!?」
それほどまでに混乱していたのか少女を置いて背を向ける上官に対しリリィは荒々しく問いかける。
「元々は“
「……待て、『“
「後は君の自由だ。 無理だというのならハルフォーフ大佐に任せてしまうのも回答だろう。 元々は彼に預けられる予定だったのだからな」
しかし明確な返答はなくトライワイトは車に乗り込み帰っていく。
――どうしろっていうの……。
残された少女はリリィを見つめ従順な犬のように命令を待ち続けている。 一体どのような教育を受けたのだろうかと口にしたくなるが問いかけても気分がいい返答があるとは思えない。
手荷物も持っておらず着ている服は最低限の軍から支給されているシャツにズボン――それも昨日今日に仕立て上げられたかのような物で着慣れた様子は見受けられず少女に全く合っていないどころか、服を着ているというよりも服に着られている。
“遺伝子強化試験体実験”が何年、何十年前から行われているかリリィは知らないが最低でも3,037人は実験の被験者となっており、その実験内容がイージスから聞いたとおりならば、例え衛生環境が劣悪な場所で生活したとしても健康状態に左右されることはない強靭な肉体を持っているため衣服に関しては最悪布切れでも構わないという判断になってもおかしくはなかった。
もしリリィ達が市街地にいなければ、想像できない服装で連れてこられたのだろう。 荷物がないということは少女には私物――おそらく服すら持っていないということになるはずだ。
徐々に判断材料が揃っていくのなら問いかけるまでもなく、どのような環境で育ってきたかもリリィには容易に想像がついた。
「えと、悪いけど私は君をC-0037というふうには呼びたくはないんだけど……」
そんな番号で割り振られたモノを名前だと思いたくない――その思いは束も同じようで、言葉を肯定するように何度も頷く。
命令を待っているかのような少女を困らせたかったのだが眉一つ動かさない。
「ねぇ、他に名前は無いの? お父さん達のお名前とかは?
「名前はC-0037だけ。 親はいない」
「……もしかしてキミの他にも似たような子とかいたりする?」
「C-0001からC-0050までの事……で、しょうか?」
束に“遺伝子強化試験体実験”のことを伏せていたが、おそらく今の問答で大体のことは理解してしまったのだろう。 リリィに向けられる目が次第に細くなっていく。
書類の年齢通りならば少女は箒と同い年になるはずだ――黙っているとは思えない。
「リリィちゃん、少しいいかな~?」
肩を引かれ少女から少しだけ離れる。
「一体どういうこと? あの子が大量生産された消耗品だっていうの……」
「……私に聞かないでよ、むしろどうしたいのか聞きたいのは私のほうだから」
「……本当にどういうこと?」
「あとで説明するけど、とりあえず……名前をつけてあげない?」
「賛成」
ヒソヒソと少女に聞こえない程度の声で話し合う。
「名前なら候補が一つあるぞ。 男の子が生まれた時に付けようと思ってた最高のヤツが」
「……良く、そこから会話が聞き取れたね。 あと女の子だから却下」
玄関のドアから首だけ外に出し今まで会話を聞いていたイージスは頬をかきながらリリィに耳打ちするが、当然良い名前とは言えず首をかしげる。
――流石にラウは女性向けではないと思う。
だが何も案がないよりはマシだ。
「私は、ありきたりなアリアしか浮かばなかったよ。 あとは精々……イリアとか?」
確かにアリアは女性向けだと思えるだろう。
クラシック音楽の中でも有名な管弦楽組曲第三番より第二曲“アリア”は音楽に疎い人間でも一度は聞いたことがあるはずで、曲名的にはピアノ伴奏付きヴァイオリン独奏のために編曲された“
――確かにアリアって名前は女性に多いけど……。
だがリリィにとってアリアという名前は蛇座の恒星にある名称の一つ――
「繰り返す、か……。 ラウ……ラウ、ラ?」
それでもアリアを案として取り入れたのは人の名前を考えるのが苦手だったからなのだろう。
――ラウラって確か月桂樹の意味を持つラテン語……あ、ペトラルカの作品にラウラと呼ばれる女性に捧げられた一連の恋愛抒情詩郡があったね……。
イージスが口にしたラウという名前を元にアリア同様、先頭と後尾を同じ文字とするとこで響きを良くしてみると、月桂樹というギリシャ神話の中で聖樹として神聖視された樹木の名前が形作られる。
偶然に形作られた名前だが先の二つよりは良い意味を持っており響きも女性らしく思えた。
「
試しにドイツ語圏では少なくはないボーデヴィヒ姓を少し弄って付け口にしてみる。
「……やばい。 リリィちゃんのセンスが光ってる!」
「ああ、これほどまでにスカーレットが光ってるのは初めてだ……」
どうやら口にした名前は二人にも聞こえており好評のようなのだが、その反応に今までセンスがないと言われている気がして文句を言いたくなった。
だが堪え少女に対し聞いてみる。
「ラウラ・ボーデヴィッヒって、どうかな? 名前が無いと私達、なんて呼べば良いか迷っちゃうから」
「ラウラ……ボーデヴィッヒ……」
自身の名前はC-0037であると言いたげの目であったが、それでもラウラという名前に少女は何度も呟きながら迷う。
「気に入らないのなら別の考えるけど……」
「……いえ了解しました。 これよりラウラ・ボーデヴィッヒと名乗ることにします、お義父様」
「思いは時を越える、か……」
用語設定
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✔ハイア・テルクミウス 【人名】
ドイツ連邦国防省連邦防衛軍、第五空軍師団“ Flabellum隊”所属のパイロット。
頭で考えるより先に手が出るタイプであり隊内で唯一、彼だけが感覚だけで多数の敵機を撃墜している。 過去に機体の損失で厳重注意されたさい、その性格が災いし上官を殴り降格――“
Call Slignは“
✔ロイ・グランツ 【人名】
ドイツ連邦国防省連邦防衛軍、第五空軍師団“ Flabellum隊”所属のパイロット。
機体の性能を限界以上に使用するため損耗が激しく、その関係で“
Call Slignは“
✔ケイア・ラズフィート 【人名】
ドイツ連邦国防省連邦防衛軍、第五空軍師団“ Flabellum隊”所属のパイロット。
隊唯一の女性パイロットで出撃数こそ劣るものの、その動きは飛行教官である“
Call Slignは“
✔ラウラ・ボーデヴィッヒ 【人名】
遺伝子強化実験による被検体番号C-0037。
“
ハルフォーフ家に預けられる予定だったが、トライワイト・スプリングのよってスカーレット・リリィに引き渡され娘として受け入れられた。
《無印終了時に上げようとして失敗した》
【挿絵表示】