世界とISと名もなき者へ Re:   作:葵 束

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前章までのあらすじ

 二十一世紀――技術は日々進歩し続け世界は様々な姿を見せていた。

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 そんな中、少女のような容姿をしたスカーレット・リリィはドイツの地で帰る手段を無くし、親の知り合いという事で転がり込んでいたハルフォーフ家に断りもなく戦死と偽装日本へ帰ってくる。
 誰にも気がつかれることなく日本の地へ降り立ったリリィは、そこで“フリーダム”と呼ばれる人型機動兵器を誤って起動してしまう。 混乱したまま自動的に表示され続ける情報に目を通していくうち核動力搭載型試作機という文字を目にしてしまい、リリィは“フリーダム”を保有することで核の情報を漏れないようにし、また他にも存在するであろう同型機を極秘裡に排除することを決意する。
 そんな様子を遠くから見ていた女性――篠ノ之束はリリィに興味を抱き提案を持ちかけ織斑家で寝食を共にする。 一瞬も気を抜くことができない生活を続けるなかリリィは徐々に篠ノ之束という存在を理解していく。
 そんなとき日本に向け多数の弾道ミサイルが迫り、リリィは“フリーダム”を起動させ核動力に物を言わせた砲撃で撃ち落とし、束は武装していない“白騎士”を展開――予備装甲を近接格闘武器に見立てることで自身が守りたい物のために戦場を駆けた。

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 全ての驚異を退け安堵の息を漏らす束を“フリーダム”は抱え、航空自衛隊の包囲から逃れるため一度日本の領海外へ離脱する。 あのままでは所属不明機として攻撃を受ける、だからこのまま日本から出るべきだ――そんなリリィの言葉に束は頷くことができず“白騎士”を起動させ自らの命を顧みない帰路へとつく。
 しかしそこで見たものは“白騎士”を兵器として求める者達の姿。 何もできず家族と友人を守るため犠牲になろうとしたとき、“フリーダム”が邪魔をするかのように束の自由を奪い誘拐するかのように攫う。
 どうにかして日本の外に出なくては見つかるのは時間の問題だと考えたリリィは、なんとか束を連れ領海外まで抜け出し――共に弾道ミサイルを迎撃したドイツ連邦軍に救助される形でドイツの地に足を踏み入れた。 “白騎士”という存在が世界の表舞台に現れるも、二人は誰にも正体を気がつかれることなく静かに過ごす――だが“シグー”と呼ばれる“ジン”に酷似した所属不明機が束を狙い現れた事によって事態は急変する。
 束を守るための力が必要と考えたリリィは、ドイツ連邦軍の力を利用しようと一部を打ち明け“白騎士”とは違う剣を作ろうと考える――しかし束の正体と“フリーダム”の存在は既に幕僚監部の一人であるダニエル・ダッシブに気がつかれていた。 ダニエルは所属不明の人型機動兵器に対抗するため、空軍の部隊を一部解体し未確認兵器対策部隊――第81特務飛行隊“ Schwarzer(シュヴァルツェア)”を立ち上げることをリリィに打ち明ける。 そこで束に技術士官としてドイツ空軍に籍を置きリリィと共に動いてくれるのなら情報を都合の良いように隠蔽するという提案を持ちかけ、リリィはソレを受け入れハルという束を隠す偽りの戸籍を作り上げることに成功した。
 しかし問題は雪崩のように二人に襲いかかる。

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 ローズ・サミナードと呼ばれる人物によって小型戦術核が設計され、“CCCNO(シースリーエヌオー)”社が関与した“ 遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)”という人の命を軽んじた計画がラウラ・ボーデヴィッヒと名付けた少女から知らされ――また、もう一人の篠ノ之束が表舞台に現れたことにより世界に着々と戦火の兆しが見え始めていた――。


Re:Birth 03
020 Bundle


 その空は血のように赤かった。

 何もかもを人の生き血で塗りたくったかのような赤い空は、まるで何万――いや何十億人もの人間が死に絶えた事を意味しているようでリリィは直視することができない。 しかし顔を背けても海は空を写し赤い色は消えず本来あるべき色さえ塗りつぶしている。

 遠くに見える山も焼け続け余計に赤を強調させ、世界が地獄に変わったとしか思えない光景。

 そんな空で激しい戦闘を繰り広げる機体がいた。

 

『篠ノ之ォォッ!!』

『っ――過去にとらわれた亡霊が! しつこい!!』

 

 “フリーダム”に限りなく似た青い翼を持つ天使と黒い装甲を鎧のように纏う金色の機体――それらが光の線を引きながら何度も重なり合い火花を散らす。

 全てを守りきる天使に全てを壊していく黒い影。 遠くから見ることしかできないリリィは、その姿が羨ましくも憎かった。

 自分には手が届かないであろう強さを空に描き、同時にリリィが守りたいものを全て壊し続ける。

 

『くっ――!』

 

 天使と金色の機体が重なりかけた瞬間、その光景が一瞬だけズレた。

 そのズレは今まで横並びと言っても良いほどの速さで飛び続け交錯し続けた光を、一方が執拗に付け狙う形へと変わり激しさを増す。

 完全に後ろを取られないようにと機体を左右に振り天使から伸びる光条を全て避ける金色の機体。 やがて背部の装備を巧みに使い後転の要領で天使の後ろに回るも、天使はソレを見越していたかのように進行方向へビームサーベルを伸ばしていた。

 間一髪で避け今度は金色の機体が天使を追う形となる。 

 

『取った!!』

 

 だが次の瞬間、天使はその大きな翼で機体を沈ませ加速するとバレルロールを加え上昇していく。 金色の機体が放った光条は天使に当たることなく空を突き進む。

 後を追うように加速し何度も天使を狙い撃つも、その全てが(ことごと)く躱され気が付けば併走する形に戻っていた。

 ――また、こんな景色……。

 見たこともないはずなのに見覚えがある赤く染まった景色が、今まで何度も夢の中で全てを燃やし尽くした光景と同じ事に少しして気がつく。

 

『私にミラージュコロイド(ステルス)は通用しないと、まだわからないか!』

 

 いつの間にか展開された煙幕に紛れ金色の機体は徐々に姿を消していき目視できない状態へとなる。

 ミラージュコロイドが使用されたとリリィは感覚的に理解できた。

 見えない敵は追えるはずもない――だが、そんな常識を無視し天使はビームライフルの一射で金色の機体を引きずり出す。

 

『ちっ、篠ノ之が相手じゃ五秒も持たないか――時間稼ぎにもなりやしない……』

 

 確かにミラージュコロイドステルスは目視することが難しく使用者の優位性は大きいが欠点もある。

 システムの本質である特殊な微粒子は溶解するため水中での使用は出来ず、また磁場によって機体へ引きつけているためスラスターの噴射等で剥離してしまう。 そのうえ機体が完全に消えようが質量等は消えることがない。

 つまり海面より一定の高度を取っており消失時から機体は極端な動きをせず重力に従い下降しているのだ。 そこまで理解できれば消失した機体の居場所は計算式によって絞られる。

 それを僅か数秒で正確に特定した天使は、もはや人間の域を超えているだろう。

 

「“フリーダム”……」

 

 決して見間違える事のない青い翼を持つ天使はリリィの記憶に残る姿と細部が異なっていた。

 基本的な能動性空力弾性翼は十枚から八枚へ――腰部に装備されているはずのクスィフィアスレール砲も何故か後ろ腰へ回されており、本来あるべきはずの場所にはルプスビームライフルの改修型であろう射撃武器が左右一つづつ固定(マウント)されている。 腹部にも砲口が備えられていることから“フリーダム”の後継機であろう。

 ――十一機目の核動力搭載機、か……。

 敵対しているであろう二機は螺旋状に飛び回っては射撃し赤い空に奇怪な線を高速で引いていき、その姿をリリィに見せつけた。

 

『今日で終わりだ、クローディヌ・サミナード。 オマエに打てる手は残ってはいない』

 

 後ろ腰から引き抜いたビームサーベルを構え天使は静かに宣言する。

 その声には怒りと憎しみが感じられなかったがリリィには、それらが含まれているように思え一体どのような関係性があったのか不思議に思えた。

 

『んだとっ……!?』

 

 天使がビームサーベルを抜いた事に気がついた金色の機体は、背部装備で空気抵抗による制動をかけ距離を離そうとするも遅く、既に天使は間合いの中――当然斬られるわけには行かないとビームサーベルに合わせ右腕に装備された装甲部で打ち合い競り合う形へと持っていく。

 強引に押し切ろうとする天使に対し金色の機体は耐え抜き背部装備を大きく動かし前方へ向けた瞬間、天使はソレを踏み台にし一回転。 今度は天使が距離を取るかのように頭部機関砲を放ちながら隙きを伺い始める。

 互いの距離が開き鏡のように加速し始め再度衝突しはじめた。

 機体性能は圧倒的に天使の方が高く終始戦闘を推し進めているも、対峙する金色の機体も見て分かるほどの執念で性能差を補っている。 いや執念というよりも恨みや憎しみを力にしているのだろう。

 

『――手がないから終わりだと過信したな……相変わらずで助かるなぁ!』

『なっ――まさか!?』

 

 その言葉と共に遠くの大地が赤く染まり空に独特な積乱雲を生み出す。

 大気中の熱エネルギーが局所的かつ急激な開放に伴う上昇気流。 それにより生まれる積乱雲――キノコ雲というやつだ。

 ――やっぱ、この空が赤いのは……。

 行われている戦闘を何が何でも止めなくてはいけない。 しかし身体が動くことはなく、着々と死に向かい歩み続けていると感じ取れるほどリリィは消耗していた。

 

『相変わらずなのは同じだろう。 お前の手は工夫を凝らしたように見えて基本的に、あの頃から進歩もしていない――だから私に奇襲を仕掛けたつもりになる』

 

 天使が足を止めたのを好機としミラージュコロイドを起動し後ろから奇襲を仕掛けるが、その一撃を天使は振り返ることなく()で止める。

 その状態から逆手に持ったビームサーベルで金色の機体を斬り裂こうと振り抜くも、掴まれていた装備を咄嗟に外す事で剣撃から逃れた。

 

『消え失せろ!』

 

 腹部から強烈な光が放たれ金色の機体を直撃――せずビームが歪曲し空を切る。

 ありえないものを見たと言わんばかりに天使の動きが驚愕に染まった。

 

『ミラージュコロイドステルスが通用しないのなら、システムはこういう使い方だって出来る』

『――ミラージュコロイドに使用される磁場を利用して粒子を反発させ歪曲させた? いやエネルギー偏向装甲(ゲシュマイディッヒパンツァー)を使用できたとしても、アレはシステム上、装甲下に……!』

『おせぇ!!』

 

 腰から細長い近接格闘武器を金色の機体は手にし天使に迫る。

 

『オメェの欠点は戦闘中にでも物事を考える癖だ! その時、必ず反応速度が大幅に低下する!!』

 

 奪い取り手に持ったままの装備を使い天使は攻撃を捌くも、その内の一撃が備え付けられていた弾頭に当たり二機を巻き込んだ大爆発を空中に咲かせた。

 爆発した装備に大半の武装が集約されているようにも見えたが、それに対し躊躇うことなく攻撃を加え爆発させるあたり天使を殺すためなら何でもするのだろう。 世界から非難されようとも、確実にヤレるというのなら核兵器すら持ち出す。

 天使が相手にしている人物は、そういう存在なのだ。

 爆炎から落下するかのように飛び出した金色の機体は、爆発によって粉砕され使い物にならない破片の中で形を保っている大きなソレを掴み取ると、その勢いのまま旋回し未だ爆煙の中にいる天使に向け振り下ろす。

 

『篠ノ之ォォッ!!』

『――変わってない……!』

 

 振り下ろされたところで天使は間違いなく相転移装甲を採用した機体であるため、決定打にはならないだろう。

 そんな天使は爆煙の外から仕掛ける金色の機体を捕捉していたのか白羽取りの要領で斬撃を止めた。

 

『こういう仕込みは得意分野だったな。 徹甲弾の爆発に耐えることが出来、尚且つ破損することなく武器として使用可能な何かがあるとは予測していた』

『虫酸が走るな……キサマに私を理解されるなんて!』

『理解もするさ――お前は、あの頃から執拗に()の命だけを狙ってきてたんだ。 そのためだけにお前という人間の思考を理解してしまったのは仕方がないことだろう……』

 

 束の命を狙う――それは紛れもなくリリィの敵だ。

 だが、それを長年守ってきたかのように喋る天使は何者なのだろう。 “フリーダム”であるのは、満身創痍になり戦闘を海上に漂いながら見続けている自分自身のはず。

 もし天使がリリィだとしたら、ここに漂う自分は一体何者なのだろうか。

 

『無駄な事だと知っていながら今もなお束を狙い続ける亡霊。 お前の終わり(ゴール)は、もうどこにもない――二度目だ……消え失せろ!!』

 

 実態剣を止められているため動くに動けず金色の機体は天使の正面――つまりレールガンの射線にいる。

 

『まだだ、まだ終わっちゃいない!』

 

 手は実体剣を握ったまま機体を大きく後ろに跳ね上げ、そして捩じ込むように捻らせながら天使を蹴り飛ばす。

 間違いなく弾道は金色の機体に直撃してなければおかしな状態だったが無傷。 操縦者の技量が無くては出来ない動きを金色の機体は簡単にやってのけた。

 蹴り飛ばされた天使は体勢を立て直しながらも爆発の中、空高く投げたビームライフルを手に収め構える。

 

『――いくら足掻こうが束が死ぬことはありえない』

『忘れてるのか? お前の大事な篠ノ之束が生き残ることができても――今を生きる()()()()が生き残れないことを!!』

 

 その言葉に何を仕掛けるのか気が付いた天使はビームライフルを交互に撃つことで、その操作を妨害。 それだけでは足りないと接近しながら二つを連結させ片手で射撃を加えながら固定(マウント)していたビームサーベルを引き抜く。

 明らかに金色の機体は口にすることで、こうなると予測して実行したのだろう。

 

『カウント、ゼロだ。 物理的衝撃を技術で防げたところで、環境汚染を技術で処理できない事を教えてやる!』

『クローディヌ・サミナードォォッ!!』

 

 雄叫びを上げながら天使は先程までとは違う直線的な機動で金色の機体に迫りビームサーベルを振り下ろすも、真正面からの斬撃に当たる程間抜けな相手ではないことはリリィは理解している。

 逆上させることで天使は搦手という選択を取れなくなる――そのことを金色の機体は理解していたのだ。

 

『さぁ、“白騎士事件”の再演だ……!』

 

 核による放射能汚染を世界に広げ束を間接的に殺そうと画策する金色の機体は、先程とは違い天使を優位に抑え付けていた。

 罪もない何十億人の命を核弾頭によって滅ぼし、自身の命を賭け金に束を殺すため戦い続ける姿はまさに復讐鬼と呼ぶにふさわしい。 それほどまでの殺意を抱くクローディヌ・サミナードという人物を知らないリリィには、そのように見えたのだ。

 

『大地は死に絶える……キサマら()()()によって――また(ヽヽ)……。 本来あるべき正しき姿(ゼロ)にな!』

『――なら!!』

 

 もはや天使を排除する必要はなくなった。

 元々、金色の機体にとって目標は束一人だけで、それを阻む天使が邪魔だったからこそ戦闘になったのだ。 だが武装の半数近くは破壊され決定的な決め手がない。

 だからこその初期化(ゼロ)なのだろう。

 

『篠ノ之束を殺し、私は全てを終える。 自己満足だろうがこれで顔向けができる――咎はソコでだ。 ようやく……ようやく終わる――キサマらのせいで、私は……私達は!!』

 

 天使が飛来する弾頭を破壊できないほど邪魔をすればいいため、同様に獣のような直線的な軌道を描き何度も噛み付く。 機体に傷が付き腕等が無くなっても構わない動物的本能による殺し合い。

 それに恐怖を覚えるも呆れしか感じられなかった。

 

「……ほんと、お前達のせいで私の人生は滅茶苦茶だよ」

 

 何が滅茶苦茶なのかは覚えてはいない――だが空を翔る二機に運命を押し付けられ翻弄され続けたのは理解できる。 最悪とは思わないが普通でもない人生に、リリィは夢という場所での死を受け入れ流れに従う。

 流れ弾が直撃しそうなほど近くに落ち海水が巻き上げられシャワーのように降りかかる。

 それを避ける余裕も防ぐ力も今のリリィには無かった。

 

「リリィちゃん! リリィちゃん!! 返事をして、お願いだから!!」

「……束」

 

 

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「無理しちゃダメ! 急いで回収を!!」

 

 このような戦場に彼女のような存在は役に立たないだろう――戦士ではなくモノを生み出す想像者が戦いの舞台に上がることは無い。 だが束の声は朦朧としかけてる意識でも確りとリリィに届いた。

 何故、この場に束がいるのだろうか理解ができないが早く遠ざけなくては。

 

「だめ……。 もう私は……動けない――それより、も……早く、安全な場所に……!」

 

 しかし、この大地の何処に安全な場所があるというのだろうか。 既に目に見える形で地は焼かれている――既に人が住め無い土地の方が圧倒的に多いはずだ。

 何処に逃げても死は確実に迫ってくる。

 今も地球という星は死に向かいラストスパートへ入っているのだ。

 

「いや! 私はリリィちゃんと一緒じゃないと逃げない! リリィちゃんが逃げない限り――私も逃げないから!!」

 

 既に四肢が動かず左腕を犠牲にし大量の血液を海に流しながらも、なんとか短い時間を生きながらえている状態である。 そんなリリィを救う価値が一体どこにあるというのだろうかと問いかけたかった。

 おそらく束も理解はしているのだろう。 それでもリリィの死を受け入れられず救おうという気持ちは、紛れもなく信頼され愛されている証拠だ。

 

「もう、私は――死んでるよ……。 早く、逃げて……もうすぐココに、ミサイルが――“MIRV(マーヴ)”が来る……私に構わず、早く……!」

「――それじゃぁ、一体あの時の約束は誰と果たせばいいの!!」

 

 当然の事だが夢の中であるためリリィには約束した記憶はない。

 

「私は、あの約束があったから今まで頑張ってこられた! 辛くてもリリィちゃんと一緒ならって、そう夢見て頑張ってきたんだよ!! なのに、私にソレを諦めろって言うの? リリィちゃんが……あの時約束してくれたアノ言葉は嘘だって言うの!?」

「束……」

「『――い――――な――、それでも―――を―――ら―――よう』って言ってくれたとき、私がどれだけ嬉しかったか分かってないでしょ!? リリィちゃんが言ってくれたから嬉しかった――なのに……リリィちゃんは、私に大切な人が居ない世界で生きろって言うの!?」

 

 一部の声が上手く聞き取れずリリィは自身が何を口にしたのか理解することはできなかった。

 だが鮮明に聞こえた部分だけでも束の思いは痛いほど理解できる。 ならば束の生死を決めるのは誰も知らない運命ではない――満身創痍で動くことすら困難なリリィ自身なのだ。

 

「そう、だね……。 そうだった」

「だから、リリィちゃん!」

「――だから、こそ……束だけは生きて」

 

 視界も徐々に黒く塗りつぶされ束の泣き顔も消えていく。

 最後の光景にしては若干寂しいような気もするが、束がいてくれてよかったと思える程に心は落ち着いている。 束を()()ために、動くはずもない身体を動かす方法が思いつくほどに先程までの憎しみや呆れは消えていた。

 思いだけでも――力だけでも――。

 

「私には力も――まして”災厄”のような特別なモノもない……。 でも、それでも――私は()()()()()()なんだ!」

 

 黒い何か最後に見えていた視界を覆い尽くした瞬間、リリィの意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ――! ……今のは……夢?」

 

 先程まで見ていた夢が現実ではないということに安堵し起き上がると、隣のベッドでラウラと共に眠る束を見つめる。

 出会ってから半年程経過したが夢のような叫びにも似た声を聞いたことは未だ無い。 それなのに何度か聞いたことがある気がしてきてしまうほど、あの夢はリリィの中に何かを残していった。

 頭では夢であると理解しているはずなのに何故か遠い昔に見た覚えのある光景だ――そう思い即座に否定。 あり得るはずもない結果を頭から振り払うように動かし小さく溜息をつく。

 ――サミナード……。

 ADFX-01 “Morgan(モルガン)”や“レディオアクティブ・デトネイター”と呼ばれる小型戦術核に関わったローズ・サミナードに何か関係あるのではないだろうかと、頭は起きたばかりで鈍いが徐々に回転し始める。

 あそこまで夢の中だとは言え束に強い憎悪を向け迫っていたのだ。 無関係であるはずなのに関係があるような気がしてならない。

 

「リリィ、ちゃん……」

 

 起こしてしまったのだろうかと沈んでいた目を上げると、どうやら寝言らしく幸せそうに眠っていた。

 ――可愛い寝顔だことで……。

 そんな表情に考えていることが馬鹿らしく思え自然とリリィから笑みが漏れる。

 可能性が低い未来を考えるよりも先に目の前にある問題に対処しなくてはならないと気持ちを切り替えていく。

 

「貴方は一体何者なんだ――束……?」

 

 三ヶ月前、リリィと束を驚愕させ混乱させるには十分な情報が世界中へ向け発信され、それ以降二人は常に何かを警戒していた。

 もう一人の篠ノ之束という存在。 全く同じ容姿や声をし“白騎士”に対する回答も束が驚く程に正確で、紛れもない“白騎士”の開発者という位置に収まった人物は一体何ものだというのだろうか。

 本人は『“CCCNO(シースリーエヌオー)”に助けられた』と公表しているが、それすらも怪しい。 姉妹も箒だけなのは確認しているため血縁者であるという可能性もない――だが紛れもなくテレビの向こうに写っていたのは、目の前にいる篠ノ之束という人物だ。

 もし彼女が本物だとしたら束は一体何だというのだ。

 たった数日ではあったが織斑家で過ごし共に“白騎士”を改修した彼女は一体何ものだというのだろう。

 考えられる可能性は一つ――“CCCNO(シースリーエヌオー)”社は“白騎士”に関する情報を全て入手しており、人工子宮から束に限りなく似た“遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)”を使って表舞台に立たせ何かを始めようとしている可能性だ。

 ――日本に戻ったとき無理にでもクソ親父に会って、出来るだけ情報を抜いとくんだった……。

 そうして眠ることなくリリィは日本にいる束に頭を悩ませ続けた。

 

 




《Re:Birth 03/Earth of collapse》


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※あとがき
 初めましての方は「初めまして」――お久しぶりの方には「お久しぶりです」――Twitterをしており尚且つ篠ノ之束(aoi_tabane)をフォローしている方は……そうですね、「先程ぶり」とでも言えばいいのでしょうか?
 葵 束です。

 ようやく第三章に突入しました。
 第一章では“白騎士事件”を中心に、第二章ではスカーレット・リリィという人物を中心に世界の状況を書いてみましたが、第三章では世界の混乱によって起きた戦争という内容で書いていきたいと思っています。
 また作品の中で重要な意味を持つ“災厄”という単語が、ここに来てようやく出てきました。 重要といえばクローディヌ・サミナードも重要なんですが、どちらかといえば今まで散々出てきてもおかしくはない状態だったのに出てこなかった“災厄”の方が重要ですね。
 過去作をご存知の方はリリィが見た夢に何か心当たりがあるでしょう。 そこから「もしかしたら……このリリィちゃんは」と予測することが出来るかもしれません――おそらくTwitter等で口にしてるかもしれませんが……。

 御指摘等の感想を宜しくお願いいたします。
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