「――あれ、ラウラ? おかえり?」
ブリーフィングが終了し“
元々少数人数でローテションを組んでいたのだ。 そこから五人が抜けるとなると残った数名に多大なる負担を与えてしまうため防空部隊から人員を割く場合は他から補充することが義務付けられている。 しかしながら補充要員を必要とするのは大規模作戦等において人員が欠如する場合がほとんどで、大抵の場合は撃墜され必要としている場所が空いてしまったからこそ行われることが多い。
何らかの形で死亡した、もしくは飛行するのに重大な問題を抱え込んでしまった場合に行われる手続きであるためドイツ再統一以降、大きな戦争に参加していないドイツ連邦国防省連邦防衛軍にとって補充要員の申請は数十年という長い期間をおいて久方ぶりに行われた。
そして各部署に自身が行っていた仕事の引き継ぎを行っていた道中で偶然にも検査を終えたラウラと出くわしたのだ。
今朝、誰もが眠りの中にいるであろう時間帯に家の前でクラクションを三回鳴らすという非常識も
まさかと思いリビングから外を見るとクラクションを鳴らしたであろう車は急発進――家の中にいないラウラを連れ見慣れない車は洋画の若者みたく走り去って行く。
事前に検査のことを聞かされていたため、また室内に何者かが侵入したという形跡もないことからラウラが自発的に外に出た可能性が浮かび上がり、あの非常識な車が遺伝子強化試験体実験に関係する迎えということに少ししてリリィは気が付くことができた。 だが本当に迎えだったのだろうか――極秘計画とは言え、あのような明け方とは言え人目について欲しいと言わんばかりの行動は想像していたモノより荒々しく誘拐犯に非常に似ていた気がする。
しかし当人が無事に帰ってきたため一安心。 遺伝子強化試験体ということもあり定期的な検査が必要というのは理解できるものの、半日近くも――いや最後にリリィが目にしたのは就寝時であるため実質十六時間以上もの間行方不明だったのだ。 不安になるのは仕方がないことであろう。
だがラウラの後ろに居る研究機関の職員だろうか――第五空軍師団では見たこともない人物と共にいることがリリィに新たな不安を与えた。 半日近くも検査に時間を費やしたということは、それだけ遺伝子強化試験体は危険な状態にさらされているのではないのだろうか――もしくはラウラだけに何かしらの異常を発見したのかと考えられる。
「何も言わないということはボーデヴィッヒ少尉の身体に異常は見受けられなかった、と受け取るがそこらへんの報告は一切しないんだな」
そんなリリィの不安を知ってか知らずか男は任務を終えたと言わんばかりに
建物の中にまで入ってきたのだ、勤務する軍人に目を向けられているのだから今更リリィに出会ったところでなんの問題はないはずなのに目の前にいる男はラウラに声をかけた瞬間、その足を止め来た道を戻ろうと顔を背けた――その行動がリリィには何か後ろめたい事を隠しそれから逃げようとしているように思え反射的に言葉を投げかけていた。
そこで止まれ、話を聞かせろ、お前達は一体何をしている――そのような感情をラウラの身を案じる言葉に乗せ男の反応を待つ。
ここでようやく尻尾を出したのだから逃すわけにはいかないと、男を逃がさないため興味を惹かざる負えない会話を脳内で複数作り上げる。 恐らく遺伝子強化試験体実験については機密事項に当たるため話題に出してしまえば警戒心を与え男は強引にでもリリィの前から姿を消すであろう。 それに計画を企てた者達にわざわざ探ってると知らせ手がかりが遠のかせたとなっては馬鹿な話で笑って済ますこともできない。
ラウラ・ボーデヴィッヒという少女の命を預かる身、一体何を検査しどのような状態なのか――という
「せめて何の理由で連れて行ったのかぐらいは返答を貰いたいところだが」
「――私は送迎の任を上から仰せつかったまでです。 何があったのかなどの詳細を問われましてもお答えすることは……」
「つまり今朝、ボーデヴィッヒ少尉を迎えに来たのもキサマということか」
自分は遺伝子強化試験体実験において簡単に切り捨てることができる関係者であるから詳しいことは知らないし返答もできない――リリィが思っていた通り有益となり得る情報を外部に漏らさないよう末端の職員を使うであろうという可能性は男の返答で肯定される。
また送迎という言葉を自然と口に出したことから今朝の非常識な車の運転手が目の前にいる男であることも自白。 表面のみであるが計画についての情報が着実に増えていく。
遺伝子強化試験体実験にドイツという国と軍組織が密接に関わっていることはラウラの存在が“
送迎の必要があるとは言え見ず知らずの誰かに遺伝子強化試験体の送迎をさせることは金銭等で情報漏洩、サンプルの確保という拉致が起こりうる可能性がある。 だからこそ計画に参加する末端の人物に送迎の任が下されるのは当然の事なのだろうが横ではなく上からの指示ということは、遺伝子を研究するという目的で作られた横繋がりの小さな組織では無く企業等に見受けられる複数の部署――そしてそれらを統括する存在がある事は確実だろう。
そして目の前にいる男は自分が口にした言葉にどれだけの情報が内包されているか理解していないため日頃から会話をしていない生活を送っている可能性がある。 こればかりは男と同じような返答を誰もがするだろうが失言しないように会話を進行させる社会人にとって必須のスキルが欠如している気がした。
――お答えできませんの一点張りだと思ったんだけど、送迎の任を……だなんてカッコつけるから
リリィに対しての返答も恐らく何を聞かれても自分は知らないと言え――という形で決められていたのだろうが蓋を開けてみれば僅かながらでも情報を漏らしていく。 理解されても問題がない情報、もしくは
末端とは言え非人道的な実験を行う組織に所属しているのが子供のような大人ということに、目の前にいる男はどうやって遺伝子強化試験体実験という計画に関われるようになったのであろうかと疑問が尽きない。 だが男の経歴を調べれば遺伝子強化試験体実験がどのように研究員を確保し、また組織の人員数すら掴める可能性があった。
「おかげで変な時間に目が覚めたんだが、ああやって人を呼ぶのが流行っているのか?」
そんなことはありえない――流行っていたら今頃クラクションの音が鳴り止まない街になっている。 呼び鈴を押すのがめんどくさい、カッコつけたい等の理由から実行した行動であろう。 でなければラウラに対して迎えに来た合図しか考えられない。
自身よりも小さい子供のように思えるリリィから常識を説かれ目の前にいる男が黙っているハズがない。 リリィにとって中途半端に常識をつけた子供のように感じられる相手だからこそ、子供にいいように言われることに対して苛立ちや何かしらの反応を見せるであろう。
しかし帰ってきたのはリリィを蔑むような目と舌打ち。 予想通りといえば予想通りなのだが男の性格という情報しか落ちてこなかったことに内心落胆してしまう。 どうやら自制心はあるようだとリリィは考えを改める。
それでも舌打ちをしたということはリリィが口にする言葉は男にとって癇に障るという証明――この程度で感情を露にする相手が遺伝子強化試験体実験に深く関わってるとも思い難い。 なら知っていることは少なさそうだと開きかけていた口を閉じた。
いくら慎重に言葉を選んだとしても自身が実行、体験した出来事は意識せずとも何かしらの形で表に出てしまうものだ。 自分自身の感情をコントロールできない人間が遺伝子強化試験体実験に深く関わっているはずもない――言葉通りの末端であることは事実であろう。
去っていく男を今度は止めることもなく見送る。
今回判明したのは遺伝子強化試験体実験の大まかな組織図に職員の環境、そして使用された車のナンバープレートだけだった。 日本やロンドンと同じように自動車ナンバー自動読取装置――俗称“N System”がドイツのいたる所に設備されているのならシステムへハッキングすることで足取りを容易に調べられる事は可能だろうが、残念なことに設置数は少なく期待することはできなかった。
「――ただ今帰りました」
「はい、おかえり。 一体どこに行っての?」
ラウラに尋ねてみるも困惑した表情を浮かべたことから自身が何処に連れて行かれたのかも理解できていないらしい。 それとも情報が漏れるのを恐れて何度か進路を変えたのだろうか――もしそうであるのならリリィが遺伝子強化試験体実験について調べているということが筒抜けということとなる。
相手はドイツ連邦国防省連邦防衛軍どころか国自体を味方に付け、更には世界最大級の巨大複合企業“
“フリーダム”を手にした時は強大な力に圧倒され秘匿しなくてはと思っていたと同時に、遺伝子強化試験体実験が行われている施設を直接破壊することができると考えてもいたのだ。 しかし今のリリィには束やラウラ等の守らなくてはならない存在が居る――自身一人であれば何の障害もなく実行できたのだろうが今の環境では家族という他人に迷惑がかかる。
それに施設を破壊したところで遺伝子強化試験体実験が完全に止まるわけではない。 もっと根本的な何かを――計画を立てた人物と資金を提供しているモノ全てを止めなくてはいけなかった。
「なんか身体に違和感とかない? 頭痛いとか……」
そんな疑問にラウラは何を言っているのか理解できないと言わんばかりに首をかしげ、身体のいたる所を確認し始めていく。 二人目の篠ノ之束が登場したことによって目の前にいるラウラが入れ替えられた別人ではないのか――そんな荒唐無稽な事を考えてしまったが、明らかに見慣れた行動に本物だと、そして何事もなく帰ってきたのだと安堵の息が漏れる。
同時に二人が数日家を空けるとどのように伝えればよいか考えてしまう。
「――見つけたぞ。 こんなところにいたのか少佐」
あまり聞き覚えのない声だが特徴的な人を見下した感じの口調にリリィは驚きつつも声の主――アルベードへ身体を向ける。 一体何故第五空軍師団に机のないアルベードが目の前にいるのだろうか、何故リリィを探していたような口ぶりなのか混乱し思考が一瞬だけ止まった。
だがそんなことは些細な問題だ。 一番の問題は束の存在が発見されてしまうという可能性――それだけがリリィの思考を揺るがす。 過去に何度も偵察機開発でリリィに噛み付いてきた時点で“白騎士”の開発者が軍内部に存在していると知った瞬間何をしでかすか予想がつく。 だからこそ束を六ヶ月もの間アルベードにすら気がつかれぬよう匿い続けたのだが――まさか匿っている第五空軍師団に乗り込んでくるとは予想外だ。
後ろにいるラウラは初めて見る人物なのか階級章に気がつき敬礼する。
「……一体何のようでしょうか、中佐」
「“シンファクシ”級潜水空母の最終点検時に確認された作業表と今回の事件を実行した
差し出されたメモリースティックと資料を受け取ると軽く中身を確認――確かに整備状況に加え奪取される前に確認した時点の搭載火器の残数も書き込まれていた。 これを元に先の戦闘で使用された弾薬数をCFA-41“
有益な情報の提供に少しだけアルベードの行動に感心するも、おそらくドイツ連邦国防省連邦防衛軍から奪取された兵器を使用したことによって他国の国民がどうなろうと知ったことではないのだろう――ただ軍全体の総意として纏められた資料を渡しただけに過ぎないはずだ。 もしくは日本という都市機能が停止しドイツが世界各国からの標的となることを避けるために行動したのだろうか。
――多分両方だろうね……。
資料を閉じ抱えるとリリィは素早く敬礼をし感謝を口にするも当の本人は嫌そうな表情でリリィを見下ろすだけ。
「貴様は何も思わないのだな――生まれた国が火の海になるのかもしれないというのに、
「――心配してくださるのですか? おそらく大丈夫ですよ――あの国は“白騎士”を保有し世界最先端の技術を持つ“
大層信頼しているようだな――とアルベードは口にするもリリィは一度も父親を信頼や尊敬したことはなかった。
確かにリリィは幾度も助けられたことがあるが、あれはリリィという存在を自身が思ったよう利用するためだけに手を差し伸べているだけに過ぎない。 本来の目的を相手に悟らせず援助する姿に、いつ裏切られるのかと疑わなかった日は一切ないのだ。 そんな相手を信頼しているとは冗談だとしても背筋が凍えてしまう。
信頼できるのは自分だけ、それ以外は利害関係で行動を共にしているに過ぎない。 それに愛国心という高尚なモノを身につけた覚えは今まで一度たりともなかった。
「私は肉親だからと贔屓目で見ているわけではありません。 あの複合企業は新たな技術を生み出してから生産するまでの時間が驚くほどに短い――そんなのが“白騎士”の開発者である篠ノ之束博士を取り込んだのだとしたら……いや、取り込まなくても“白騎士”という人体装着型の防衛兵器というシステムに着目した時点で何もしないワケがないんですよ」
「――つまりあの国は“
「可能性は十分にありえます。 既に我が軍も“
ドイツ連邦国防省連邦防衛軍に復隊したリリィの耳にもイージス達を通して当然“
「ところで中佐が実行犯をユーロトラッシュと言うことは、もしかしなくても国内に住む貧民層でも利用されましたか?」
ユーロトラッシュとはヨーロッパ系の人物に対して使われる差別用語なのだが、“シンファクシ”を奪取するにあたり怪しまれず警察機構の目を掻い潜って準備を整えることができるのはEU国籍を持つ者だけ。 シェンゲン協定によって様々な国から人々は訪れる中、人の目に怪しまれず動けるアルベードが定義するユーロトラッシュ――それはドイツ国民の事だ。
アルベードは同じドイツ生まれの国民を差別するとき同じ国の血が流れていないという意味で、ドイツ人を指す差別用語を口にせず、あえて特定の出身者に対して使用される事の無いヨーロッパ系の人々を指す
つまり実行犯は同じ国に住む守るべき国民である。 だが一国民が何の理由もなく自分の命を守っている軍隊に対し牙を剥くとは普通に考えれば有り得ないことであろう――ならば軍隊という機構に対してではなく即物的なモノで実行したと考えるべきだ。 貧民層が生活の為に金銭で雇われたという可能性は十分にありえる。
「
やはり懐に潜り込まれていたようだ――それも
切っ掛けとなった五年前のテロ事件後に日本人学生グループがフランクフルト国際空港で不当に拘束されたという出来事がある。 国外からの旅行者ということで厳しい目が向けられていた所に互いの疑念が変に重なってしまい日本人三十五名が拘束される事態に発展した――これもテロ事件によって過剰なまでに反応してしまったという結果であるのだろうが、それほどまでにテロという恐怖が消えないという事実でもある。
当然、この出来事は日本から見たドイツという国の印象を悪くする出来事になったのだが、これと同じことが国内で起きるのではないかと思うと治安が悪くなるのは仕方がないことなのであろう。 なにせドイツで生まれた者なら連邦警察局等に気がつかれ無い事を今回証明してしまったのだ。 これから国内でシェンゲン協定を利用したテロが活発になることは目に見えていた。
「なんだか軍人というよりも警察っていう感じがしますね……いつもそんなことをやってるんですか?」
「苦にはならない、と言いたいところだが流石に手が足りないせいで腹ただしい。 警察組織が軟弱だから治安が悪くなっているというのに、奴らは目に見えている問題になりそうなことにしか手を出したがらない――あんなのだからこそ麻薬なんかが裏で出回るというのに、肌の色が違うやつにしか目を向けず国の治安をということが頭にない」
「いっそのこと警察組織に入ったほうがいいのでは? 天職だと思いますよ」
「はっ、何を馬鹿なことを言ってる。 上が口を出さなきゃ動けない阿呆共と同じことをしろというのか――
それすらも時間の無駄だが――と言いつつラウラの方に目を向け品定めするかのように見続け、やがて興味が無くなったのか通り抜けるようにリリィの前から姿を消していく。
ドイツは日本とは違って平均的な勤務時間が短く平日であっても街中は常に人で溢れかえっている。 そんな街中では犯罪という影が薄くなりやすいため警察機構の出番は多くリリィにはアルベードにとって天職だと思えたのだが、どうやら警察組織が気に食わないらしい。 言いたいことは理解できたのだが誰もがアルベードのような愛国心で動いているわけではない――本人もそれは理解しているだろう。
――相変わらずめんどくさい人だ……。
束に出会わないようにと願いながら小さく溜息をつき受け取った“シンファクシ”に関する情報を纏めた書類を捲っていく。 搭載機の詳細な情報まで纏められていた事を確認するとリリィはメモリースティックのデーターを確認するため引き継ぎを終わらせようと歩き出す。
「あの、今の恐い人は――凄く、お……少佐を罵ってましたが」
「ん、ラウラは会うのは初めて? あの人はアルベード・テルラハって言って航空偵察隊の中佐だよ。 私にはいつもあんな感じだし、顔を合わせたら
「悪い人ではない、ですか……?」
あれだけ暴言にも似た挑発を何度も繰り返されては、その言葉に含まれている本心を理解できない子供にとって印象は最悪であろう。 しかしラウラがアルベードに恐怖を覚えるとなると遺伝子強化試験体実験が行われている施設では比較的安全な教育が行われていると考えて良いのだろうか。
なんにせよラウラは恐怖という感情を与えられぬまま育てられたという事に安心する。
「ああいう人は育った場所にはいなかったの?」
「誰かを怒鳴ったり殴ったりする研究員は見たことがあります――私は見られるだけでした。 それでも中佐のような人は見たことがありません。 目だけで恐いと思う人は……」
つまりラウラは施設では感じることがなかった威圧感をアルベードから感じたということだろう。 確かに一目で軍人であろうと思えるほど体格の良さから放たれる視線は、何を考えているのか表情から読み取ることができないことを加え十分に相手を押さえつける程――言われてみれば初めて顔を合わせたときリリィもアルベードに何をするか理解できないという不安を覚えたものだ。 今では少し子供っぽい部分があると知っているためか、それほど怖いと思ったことはなく、むしろ自身が思うように物事が進まないと子供っぽく腹を立てる所を何度も目にしているせいか怖いというよりも面倒という思いの方が強い。
それでもリリィは彼を信頼できなかった。 目的のために平気で権力を振りかざして詰め寄る相手だ――相手の思考を推察し行動を把握するという人並外れた頭脳を問答無用で自軍にすら向けることを躊躇わず、ドイツという国のためなら間違いなく魅力的と映る“白騎士”の技術に迫るであろう。
下手をすれば“
篠ノ之束という存在を匿い続けている犯罪者として。
「――私は嫌いです、あの人」
初めてラウラの口から他人を嫌悪する言葉を耳にしリリィは少なからず喜びを感じた。 戸惑う姿はこの六ヶ月もの間、束という原因を生み出す存在と共に暮らしているからこそ何度も目にしてきたがリリィが知る中でラウラが初めて決定的な感情を顕にしたのだ。
人間の感情はアメリカ合衆国の心理学者によって基礎的な六つの感情――怒り、恐れ、幸福感、悲しみ、驚き、そして嫌悪が存在すると証明された。 これは現代と孤立し石器時代の文化で暮らす人々が他の異なる文化の人物を写した写真から意図を読み取ることが可能であるかという調査で作られている。
つまり人間の感情は生まれや育ちが違えども基本的な六つの感情を生物学的基盤として持つということだ。 1990年代になると新たに十一もの分類が追加されたが、今回ラウラが顕にした嫌悪は感情を構成する最も重要な――困惑や喜びとは違う、生物として確かな感情があるという証明であった。
遺伝子強化試験体実験によって生み出された存在は肉親に育てられなかったためか、それとも兵器として生み出されたためか感情が欠如、もしくは存在しないのではないかとラウラを観察し続け思っていたのだが――どうやら遺伝子強化試験体実験では意図的に感情を抑制するよう
遺伝子強化試験体実験で生み出された存在が紛れもなく人間であるという事実が、重くのしかかっていた何かから少しだけ解放されたという錯覚を感じるほどの出来事だということにリリィは知らぬ間に頬を緩ませていた。
「……少佐?」
不思議そうに尋ねるラウラを他所にリリィは立ち止まることなく最後の部署へ入る。 使用している部署を記すプレートには第506戦術飛行隊――“
ドアを開け室内を見渡し束と話し合うイージスを見つけると、ラウラを先に入室させてからリリィは二人に近づく。
「――忙しそうだね」
「そりゃ仕方がないさ……。 急に五人もの欠員が出たんだ――ローテーションを補充要員のために調整したり、引き継ぎの最終伝達が全て隊を率いる俺に持ってこられるんだから困ったものさ。 そっちは引継ぎは終わったのか? 特に人型兵器に対して知識を持つ管制指揮管なんか一人の例外を除いて居ないだろう」
「第一空軍師団の方には連絡入れて早急に幕僚監部へ計画書を通して欲しい旨を伝えたから、おそらく明日の朝一には向こうに正規の書類が届いているとは思うけど……。 まぁ、最悪何かあったらイージスが何とかしてね」
勘弁してくれと溜息と共に机に倒れる。 流石に五人も抜けた穴をカバーする技術は持っていても、そこから更に航空管制指揮を行うほど器用ではない――そもそもリリィが口にする最悪とは“
レーダーに映ることもなく目の前に現れ攻撃態勢に映る。 “
「でもまぁ、私の考えてる通りなら私達の任務中に人型兵器が国内に現れる可能性は限りなく低いんだけど」
その言葉の意味が理解できなかったのかイージスと束は口を開けたまま動きを止める。
それもそうだろう。 未確認人型兵器は無差別に現れているだけでその目的も不明のまま、その存在すら正体不明。 空軍局が必死になりながらも情報をかき集めているが機体性能を把握するだけで精一杯――ほぼ進展はないというのにリリィは行動を推測することができると口にしたのだ。 一体何故と顔にわかりやすく書いてあった。
イージスを含めた者達が理解できないのは仕方がない――そうと分からないように誘導してきたし、必要以上の情報をリリィは与えなかったのだから。
「――もしかして私とリリィちゃんが原因? 私達二人がいなければ
束なら少し考えれば同じ結論を導き出すであろうと思っていたが、やはりリリィが思った通り気がついたらしい。
リリィと出会う前に束は未確認人型兵器に襲われている、そして未確認人型兵器には“フリーダム”と同様のシステムや技術が使われている。 またリリィは束を餌にして未確認人型兵器である“ジン”を誘き寄せ開発元を突き止める事を当初の目的として近づいたのだ――目的を推測することは簡単であった。 思惑通り未確認人型兵器が現れたと言うことは、その目的は驚くほど単純――目の前にいる篠ノ之束という存在を狙っているという可能性が六ヶ月前より非常に高いわけだ。
“白騎士事件”の後にキール軍港に寄港した“
だが予測でしかないため確実性は一切ない。
「任務中とは一体……」
「あ、そうそう――イージス。 私達が留守にしてる間、悪いんだけどラウラのこと頼んでいいかな?」
「なっ!? どういうことですか――私はっ!!」
ラウラは遺伝子強化試験体ということもあり、その行動は軍の決定によって決められた範囲でしか自由に動くことはできない。 今もなお一部の者しか遺伝子強化試験体実験という計画を知らないのだからこそ、その産物であるラウラが別の組織に研究用として捉えられないようにと作られた規則である――ラウラにとって檻のように感じ取れるだろうが逆に考えれば、その身を守るために作られたようなものだろう。 檻がある限りラウラは安全に過ごすことが出来るが自由は多くない。
安全に生きていける状態なのだから多少の不便は我慢して欲しいと言われるだろうし、リリィも
だが当の本人にとっては家族である二人から置いていかれるという思いからだろうか、必死に私も連れて行って欲しい、一人にはなりたくないと声を上げリリィの口から出た言葉に対しぶつかっていく。 おそらく束も同じことを考えているのだろう――親という肉親から離れ織斑家で過ごした経験があるから、家に一人ぼっちだった箒の寂しいという感情を強く感じ取れるようになり、一夏という比較対象と触れ合うことで何を望んでいるのか大まかな検討が付くようになった。 ラウラを引き取り寝かしつけた夜、そう小さく零した言葉からリリィは束も同じことを考えてるのだろうと思っただけだ。
本当の事を言ってしまえば二人共ラウラを連れて行けるのなら八人目として日本に連れて行った。 しかしラウラを連れて行くとなると日本政府から、何故子供が共にいるのか――という質問にも似た抗議文が送られてくることは間違いない。 また遺伝子強化試験体実験によって生み出されドイツ連邦国防省連邦防衛軍に在籍している軍人であると知られてしまえば他国からの厳しい目に晒され政府、幕僚監部等の上に立つものが軒並み辞任、辞職、退任させられるであろう。 そうなれば一時的とは言え治安を維持することが大変困難な事となり――下手をすれば遺伝子強化試験体実験という計画を阻止できるだろうが、何の関係もない市民の生活が脅かされる事態に発展しかねない。
連れていけたとしてもドイツ連邦国防省連邦防衛軍とは関係の無い――
もしかしたら観光目的の休暇という明確な理由さえつけてしまえば監視付きではあろうが三人で外出する許可を出せたのかもしれない。 遺伝子強化試験体実験という計画がある限りラウラは定められた区域から出ることは叶わないため、実現するためには数年かかるであろうが――接し方がわからなくても家族として共に暮らし、最近ようやく表情が柔らかくなりつつあるラウラを連れて様々なモノを見せてあげたい。 施設では見られないようなものを見せてあげたかった。
しかしリリィ達が向かう理由は軍務のためである。 あの時は破壊することによって何か別の目的が達成されるのではと考え“シンファクシ”を撃破することに躊躇いが生じ素早い状況報告ができなかったが、疑心暗鬼に陥らなければ敵勢艦載機に時間が取られることもなく、またラウラを乗せたまま航空戦になることを心のどこかで恐れていなかったのかもしれない――もっと自分がしっかりしていれば、このような事態になる事もなかっただろうとリリィは後悔し続けた。
“シンファクシ”を逃したのは自分だと言わんばかりの表情にリリィは視線を逸らしてしまう。
「連れて行けばいいじゃないか?」
「――あんまり言いたくないんだけどラウラは遺伝子強化試験体なんだよ。 そりゃ私達だって連れて行けるのならって考えたけど、任務がねぇ……幕僚監部からラウラの作戦行動を認められてなくてね。 この作戦内容をラウラに伝えることは認められてないし……。 お土産買ってくるから、お留守番――出来るよね?」
余り口に出したくはないため言うのは控えたがラウラは軍の
「……分かりました。 早く、帰ってきてください」
まるで仕事の都合で家を留守にしがちだった親のようだとリリィはラウラに過去の自分を重ねてしまう。
親も存在せず兵器として育てられ温もりも知らなかった
「スカーレット達が帰って来るまではウチがラウラの家だ。 丁度、スカーレットが使っていた家具が残ってるしな」
リリィがハルフォーフ家で居候していた時に購入したものだろう――問題なく引き継ぎを終えると翌日の準備のためにアルベードから手渡されたメモリースティックをPCに差し込み内容を確認しはじめる。
把握できていなかった情報が徐々に開かれていく――“シンファクシ”という巨体は綿密な設計によって製造されているため、これ以上の改修は不可能であるという見解は別項目に分けられている設計資料を確認しリリィも考えており、画面に映る数値以上の性能は引き出せないであろう。 また別項目を開きエッカーンフェルンデ周辺にあるドイツ連邦国防省連邦防衛軍が保有する全ての施設から報告も無く消失した弾薬、艦載機を算出し運び込まれたであろう戦力を表示する。 そこから更に前回の戦闘でCFA-41“
――いや、修理を受けたのなら中身が丸々変わってる可能性も……中身?
そこまで考えてリリィは“シンファクシ”の中身は本当に乗せられているのだろうかということに疑問を思えた。 もしも既に下ろされており別の目的に使用されているのだとしたら“シンファクシ”は囮なのではないかと身震いしてしまうも、ならば一体奴らの目的はなんなのかという新たな疑問が生まれ加速していた思考を止める。 憶測で考えても向こうの狙いが正確に理解できるわけでもない。
「――スカーレットも忙しいんだ。 分かってやってくれ……」
「はい……。 ところで少佐達が向かわれるという任務は、どのようなものでしょうか? 私は……私も上から全ての
純粋に気になっただけなのであろうと思えた言葉は放たれるにつれ重くなっていく。 今回の作戦概要を秘匿する義務が我々“
空軍指揮幕僚監部からの通達で秘匿義務を命じられているが、ラウラも同様に空軍――いや全軍指揮幕僚監部からの指示で今は動いていると思われる。 これが正規の事務手続きを通した書類を持ち聴取を受けるというのならリリィは素直に従うのだが、相手は生まれてから五年立つか立たないかという幼子。 そのような事実が本当にあるのか疑わしいく感じてしまう。
それよりも目の前にいるラウラ・ボーデヴィッヒという存在は本当に自身が知る彼女なのだろうか――やはり今朝の検査で頭を打ったのか、それとも別人と入れ替わったのかというレベルで疑わしく感じる。 今まで見てきた口数が少なく妙に子供らしいラウラ・ボーデヴィッヒは何処に行ったのだろうか、そう思えるほど今の彼女から子供らしさはない。
いや、もしかしたら何かを秘密にされ置いていかれることを恐れているからこそ知りたがっているのかもしれない。 家族としての距離を離さないよう必死に問いかけているのかもしれない――命令なんか建前で隠し事をされたくないという子供らしい理由なのだろうか。
だが空中管制指揮管としての
「いくら上層部からの指示であっても今回の任務には守秘義務が課せられている。 ここではラウラ・ボーデヴィッヒとう個人は何の権限も持たない少尉――そして作戦においては部外者だ」
「……スカーレット?」
「ちょ、ちょいリリィちゃん?」
「少尉の言う通り君が行わなくてはいけない任務は情報収集だ。 戦場を直で見ることで知識を蓄え経験を積むのが上の目的だろう――だがそこに身内であるからという甘えは存在しないといえるか? 私なら大丈夫、私なら怒らない、少しぐらいの我侭を聞き入れてくれる、なら秘匿されるべき情報も教えてもらえるのではないか……そう思っていないか?」
徐々に語気が荒くなっていくのが感じ取れる――相手はラウラだというのに、まるで空中管制指揮管として大人を相手している時と同じように口から言葉が漏れてしまう。 こんな風にラウラを怯えさせてどうする。 相手はまだ子供なのだ、間違いだって犯すのは当然のことなのに何故自分は出来て当然だとラウラを叱り飛ばす勢いで威圧しているのだろう。
理解できない。 何故自分はラウラに対して憤りを感じているのだろう。 子供の我侭だというのに――そうさせたのは自分も関係しているというのに、何故抑えることができない。 これではただの八つ当たりではないか。
――いや、これは八つ当たりなんだ……。
子供らしく振る舞えるようになってきてくれたのはリリィとしては嬉しいことだ――しかし遺伝子強化試験体実験という見えない壁が常にラウラの周りに存在している。 それに気がつかぬまま身内だからと我侭に振舞われ、今までラウラのためにと悩んでいた事が幾ら考えたところで遺伝子強化試験体は計画のために存在するのだからこそ考えても無駄だと嘲笑われている気がして腹が立ち八つ当たりをしているだけだ。 決してラウラという人間に腹を立てているわけではなく、その向こうにそうなるよう仕向けた計画に対して腹を立てているのだと気がつくと自分が嫌になる。
最初からそうだ。 イージスから聞かされ憎しみ、計画を否定し、家族として迎え入れた――あの時から遺伝子強化試験体実験という計画に腹を立てていたではないか。 今までラウラがそのような素振りを見せなかったからこそ家族として接してこれていたのに、急にラウラの後ろに姿を見せた遺伝子強化試験体実験という計画の影が腹ただしくて八つ当たりしているだけなのだ。 どのような目的があるか知らないが思惑通りに行くと思うなと、そう感情的になっているだけだった。
これではラウラが可哀想ではないか。
「……ボーデヴィッヒ少尉、君は疲れているんだ。 私もまた疲れているんだと思う。 今日はこれ以上フライトプランが行われることはない――明日に備えて上がってくれ……」
「わかり、ました……。 失礼します……」
子供のように頭の中を掻き乱され八つ当たりしてしまった――いや、リリィはまだ子供なのだから何もおかしなことはない。 ただリリィの立場が異様なだけだ。
泣くことはなかったが今にも涙を流しそうなほど堪えていたラウラは束と共に部屋から出ていく。 ドアが閉まり空中管制指揮管としての顔を保たなくて良いと判断するやいなや、リリィは両肘を机につき手で顔を覆い、やってしまった――と言わんばかりに溜息を付いた。 感情をコントロールしてこそ冷静に状況を判断することができるというのに、空中管制指揮管として最低なほど感情的になってしまってしまったのだ。 ラウラに対しても罪悪感で一杯だというのに、最悪だ――とリリィは落ち込む。
「――お前にも、ダメなところがあるんだな……」
「ああホント、ラウラを引き取って正解だったか分かんなくなるほどダメなことを思い知らされたよ……。 私もまだまだ子供だ……」
子供が何を言うのだろうと少しして気がつき、また自己嫌悪に陥っていく。
“
背後では快適なまでに整った環境だからこそ安心して眠り続ける彼女の姿がある。 確かに自宅に帰る時間も取れなくなり、ならいっそのこと本社に部屋を作ればいいのではないだろうかと馬鹿なことを考えたら各支部の役員に呆れた顔で馬鹿にされ、渋々一室だけにトイレ及びバスルーム等を作り上げ即座に仮眠が取れるよう質の良いベッドも用意したのだが、気が付けば使用する暇もなく各国から情報を送られ続けており、今では“白騎士事件”の中心人物と言われている彼女がスペースを占領していた。 まるで“白騎士”及び篠ノ之束博士の身柄を無条件で要求されている事を知らず、特殊炸裂弾頭による命の危機も感じていない――そんな安心しきった姿でシーツに包まり惰眠を貪り続けているのだ。
“白騎士”を作り上げた篠ノ之束に変わって表舞台に立った彼女は“
――秘匿回線からのメッセージ……見つけたんだ。
送信者は“
「……あれ、まだ起きてたの~?」
空間投影モニターの応用でキーボードやマウス等の全てが電子化されているためタイピング音は聞こえないよう調整されているが、流石にモニターから発せられる光までは抑えることはできない。 それでも彼女に迷惑がかからないよう発光度合いは極力抑えたつもりなのだが――流石に暗くした室内では、いくら抑えたとしても光は漏れてしまうため仕方がないのだろう。
目を擦りながら起き上がろうとする彼女は自身を隠す一枚の布すら持たず起き上がり大きく欠伸をした後に身体を伸ばす。 完成された身体は生まれたままの姿で百合奈という異性の前に
「まだ寝てていいよ? 到着予定時間は問題がなければ明日のハズだし……」
「ん~、でも別にあんまり眠くもないんだよねぇ~。 それよりお話しよ♪ どうせ見てるのだって予想通りの事ばっかでつまんないでしょ」
「はいはい――それなら何か飲み物でも持ってくるよ。 それまでに下着だけでも付けて、ね」
この時間になれば社内に残っているものはいないだろうが誰かに見られて妙な噂を率先して流すことはない――そう言いながら百合奈は冷蔵庫を開けるも、夜に飲むようなものではないものばかりしか目に入らず静かに閉める。 戸棚にまだ残っていたかと不安になりながらもミルクココアを見つけケトルの電源を入れながら彼女が好きな濃さになるようマグカップに粉末を落としホットココアとして持っていくも、彼女は一切服を着る気配を見せないままベッドに腰掛け百合奈を待っていた。 そういう性格であるのだから仕方がないと言ってしまえばそれまでなのだが、やはり女性であるのだから恥じらいというものは必要ではないのだろうかと思いつつ持っていたマグカップを手渡す。
両手で受け取り膝の上に乗っけると暇そうに身体を左右へ揺らし、特に何も思いつかなかったのかやがて止まる。 本当に暇なのだろう――確かに彼女がしたいことといえば大半は実行してしまい何か思いつくまでは暇が続くのはどうしようもない事だ。
「こうしてると
彼女の会話は決まって楽しかった昔話から始まる。 それ以外の記憶は余り楽しいとは言えないモノなのだと聞いたことがあったが、それでも少しは楽しかったのか良い思い出となってはいるらしい。
「あ、そうだそうだ。 さっき百合ちゃんの作った雪風ちゃんがあったから見てきたんだけど、やっぱ面白いぐらいに似てるよねぇ~」
「……百合が作った雪風? あれってそんな名前だったっけ?」
そんなものが運び込まれたであろうかと首をかしげながら思い出すも、雪風と名前がつけられた物は一切存在しない。 おそらくだが彼女は百合奈が既に知っている前提で話している。 一体彼女は何を見たのだろうか――と考え、ドイツから空輸で運ばれた物の一つに
百合が作ったもので運び込まれたものは
「オリジナルがそうらしいよ~? 気になったからちょちょいと繋げてみたら、面白いことにコアの意識としてプログラムが生きてるんだもん。 久々に私の方から話しかけてみたんだけど無視されちゃった」
そんな警戒した所が初めて会った時の私に似ていると言うが、それは唐突に不明な通信をしたからこそ雪風という人工頭脳が驚き警戒したのだと百合奈は思った。 誰だって知らない電話番号が自身を呼んでいるとなれば、その着信に警戒はする――それと同じ事が雪風の身に起きたのだ。
――たしか百合の作った人工頭脳って、今回の作戦に参加するリストに記載されてるCFA-41“
その雪風が不明な接続を仕掛けてきた相手の近くに降りると知ったら、コントロールを奪ってでも彼女を排除しに行動を移さないか考えてしまう。 心配するだけ無駄なことではあるが、それでも余計な面倒事は避けたいのが人間だ。 そんな面倒事を力尽くで通してきたのは百合奈であるが、それでは自分が満足していても他の誰かは不満が溜まってしまう。
どのような相手であっても相手を上手く動かしてこそ世界最大規模の複合企業のトップに立つことができる。 百合奈本人としては世界最大規模になるまで“
多くの者が目に留めることもない大きさであれば多少の面倒事があっても問題はなかったのだが、流石に今の現状で問題を起こして揉み消すのには骨が折れる。
「早く来ないかなぁ、楽しみだなぁ~♪」
心の底から彼女はリリィと束が自身の元に来ることを楽しみにしている――だが彼女という存在は気軽に人前へ出ることは叶わない。 だが百合奈が禁止したところで実行してしまうのは目に見えているのなら、せめてフォローしやすい手元に置いておくのが最善であろう。 政府が各国の動向が怪しいと言った所で考えを変えることはないのだから、明日にも彼女は二人に出会うのは確実だ。
問題が起きなければ良いなと思いつつ百合奈は今後のことを考え始めた。
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✔“
機器同士の間に特殊ネットワークを形成する衛生システム。
複数設置された小型の補助衛生――そして主軸となる五基からなる特殊ネットワーク形成システムは、その全てが起動していることにより効果範囲内の全てで端末に負荷をかけることなくシステムを使用することができる。 同じネットワーク郡に属する端末へタイムラグ無しに通信をすることも可能としており、幅広い使用法が出来ることから軍事利用を避けるため“
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《クローディヌ・サミナード》
【挿絵表示】